自閉症の息子、運動会で「あいつが入ると負ける」と言われて――インクルーシブ教育について改めて考えたこと
ライター:立石美津子
「定型発達の子どもにとって、障害のある子と共にいる時間は“思いやりや優しさを育てる”ことになる」と学校側から言われたことがあります。でも、子ども達からは運動会で足を引っ張る息子が参加することになったとき「あいつがいると負ける!」と言われました…。
足は速いが競う気持ちがない
『発達障害に生まれて』(松永正訓著/中央公論新社)ノンフィクションのモデルとなった立石美津子です。
小学校5年生の運動会での出来事です。その頃、自閉症の息子は特別支援学級に在籍していました。
競技種目には、リレーなど通常学級の子ども達と混ざって行う競技もありました。息子は逃げ足がとても速いです。スーパーに連れていけば、忍者が瞬間移動するかのように一瞬にして、どこかへ消えて行方不明になります。
でも、競う気持ちがあまりない息子は、リレーの場面でも、どんなにお尻を叩いても背中を押しても、全力疾走はしないで小走りするという感じでした。
競技種目には、リレーなど通常学級の子ども達と混ざって行う競技もありました。息子は逃げ足がとても速いです。スーパーに連れていけば、忍者が瞬間移動するかのように一瞬にして、どこかへ消えて行方不明になります。
でも、競う気持ちがあまりない息子は、リレーの場面でも、どんなにお尻を叩いても背中を押しても、全力疾走はしないで小走りするという感じでした。
耳にした同級生からの言葉
さて、いよいよ出番が近づいてきました。私は写真を撮ろうと入場門に近寄りました。すると、通常学級の子どもが「ちぇっ、あいつが入ってきたぜ。俺達、負けるな」と囁きあっていたのです。
普段の学校生活の中では、休み時間に誘いに来て仲良くしてくれる子ども達でした。けれども、年に一度の「ここ一番を決めるぞ!」という運動会では「優勝したいと思うのは当然だなあ」と私は思いました。
私が「○○(息子の名前)が足を引っ張ってしまうことになりごめんね…」と謝ると、子ども達はばつが悪そうな顔をしました。それがよけいに嫌でした。
騎馬戦の時も参加メンバーには加わっていながら、この写真のように“ただそこに突っ立っているだけ”で他の子を持ち上げようとはしていませんでした。
私が「○○(息子の名前)が足を引っ張ってしまうことになりごめんね…」と謝ると、子ども達はばつが悪そうな顔をしました。それがよけいに嫌でした。
騎馬戦の時も参加メンバーには加わっていながら、この写真のように“ただそこに突っ立っているだけ”で他の子を持ち上げようとはしていませんでした。
担任の先生にお願いした
翌年の競技決めのとき、担任に運動会で耳にしたことを話し、「うちの子は個人で勝ち負けが決まる徒競走などの個人競技のみに参加させてください。団体競技で足を引っ張って、いじめにつながっても嫌なので」とお願いしました。
けれども先生は「通常学級の子ども達との交わりは立石君にとってもよい経験になりますし、他の児童にも思いやりの心が育ちますから」と言われてしまいました。「実際には通常学級の子は嫌がってるじゃないか!」とは言い返せませんでした。
結局、毎年参加することになり、私は運動会が近くなると気分がブルーになりました。「せめて、リレーのバトンを渡す係として参加するなど、走者として走る以外の参加の方法を探ってくれたなら、こんな気持ちにならなかったのではないか」と思いました。
けれども先生は「通常学級の子ども達との交わりは立石君にとってもよい経験になりますし、他の児童にも思いやりの心が育ちますから」と言われてしまいました。「実際には通常学級の子は嫌がってるじゃないか!」とは言い返せませんでした。
結局、毎年参加することになり、私は運動会が近くなると気分がブルーになりました。「せめて、リレーのバトンを渡す係として参加するなど、走者として走る以外の参加の方法を探ってくれたなら、こんな気持ちにならなかったのではないか」と思いました。