自分を抑えられない子どもをどう支援する?児童自立支援施設での実践から――『感情や行動をコントロールできない子どもの理解と支援:児童自立支援施設の実践モデル』が発売

ライター:発達ナビBOOKガイド
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児童自立支援施設にいる子どもたちは、「感情や行動をコントロールできない」ことが多く、自立して生きていけるようになるための支援が必要です。その支援は、誰が行っても一定な質になることが重要と考え、そのためにできることを理論と実践から解説したのが、大原天青著『感情や行動をコントロールできない子どもの理解と支援』です。この本は、児童福祉施設職員や心理職、ソーシャルワーカー、学校教員など、子どもと関わる支援者に読んでほしい1冊です。

子どもを自立させるには、まず子ども自身が自分を理解することの支援から

本書の著者、大原天青(おおはらたかはる)氏の専門はソーシャルワーク・福祉心理学・非行臨床。実際に、児童自立支援施設で子どもを自立に導く支援活動をし、その経験をもとに、さまざまな研修に参加して得た知識をまた現場に還元し続けています。

この本で大原氏は、児童自立支援施設にいる子どもたち――その多くは、感情や行動を自分自身でうまくコントロールすることができないという課題を持っていると考えられています――を支援するときに必要な、子どもの心理を読み解く理論やアプローチ方法を解説しています。
感情や行動をコントロールできない子どもの理解と支援: 児童自立支援施設の実践モデル
大原天青
金子書房
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ところで、児童自立支援施設とはどんな場所でしょうか。
1 児童福祉法(昭和22年法律第164号) 第44条 児童自立支援施設は,不良行為をなし,又はなすおそれのある児童及び家庭環境その他の環境上の理由により生活指導等を要する児童を入所させ,又は保護者の下から通わせて,個々の児童の状況に応じて必要な指導を行い,その自立を支援し,あわせて退所した者について相談その他の援助を行うことを目的とする施設とする。(はじめに より)
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4760824294/
子どもが児童自立支援施設に入所することになる大きな要因のひとつに、「感情や行動をコントロールできない」ことがあると考えられています。感情を抑えられなくて暴力をふるってしまう、誘惑に勝てなくて万引きをしてしまう…。その背景に抱えている問題は、子ども一人ひとり違います。家庭や育った環境の問題の場合もあれば、発達障害など子ども自身の生理的な特性の問題の場合もあり、また両方ということもあります。
児童自立支援施設に入所してくる子どもの多くは,幼少期から逆境的な体験(身体的虐待,心理的虐待,ネグレクト,両親の離婚や収監,依存症等)があり,ADHD等の生物学的要因を併せもっている。発達過程の中で徐々に情緒や行動上の問題を示すようになり,地域社会の枠組みでは適応することが困難になった子どもたちである。様々な背景を抱え,必死で生きてきた子どもたちの思いを感じながらも,一方で行動化に対してはどのような理由があろうと認めることができないという強い姿勢を示す必要性を迫られる実践現場である。(はじめに より)
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子どもたちの支援をするときに必要な、子どもの心理を読み解く理論やアプローチ方法を、仮想事例を用いて分かりやすく解説しているのがこの本です。

第1章「よりよい対人援助のための考え方と方法」には総括を置き、第2章「情緒や行動上の問題を示す子どものアセスメント」、第3章「情緒や行動上の問題を示す子どもへの個別面接」、第4章「生活場面面接の理論と実際」といった前半部分では、子ども本人との向き合い方について書かれています。

子どもを自立できるように導くということは、強い力で説き伏せて更生させるといったことではありません。子どもが自分自身を理解できるように導いていくことから始まります。

その方法はいくつもありますが、たとえばその一つに、自分の感情を理解するために感情の名称を教えることがあります。
感情を表現する言葉を十分に理解していない場合は,感情のリストを用いて1つひとつ教えていくことが必要になる。それができれば,日々の具体的な出来事の流れを確認していき,それぞれの段階でどのような気持ちになったのかを整理していくことができる。このように,自分の心の状態に名前(感情名)をつけていくことができるようになったら,他者の感情についてもどのような状態だったか感情名を考えていくことも必要になる。こうした繰り返しによって,自分の感情面の理解と統制の力を高めていくことができる。(P.79より)
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4760824294/
ただ、子どもたちは、面接以前の状態であることが少なくありません。挨拶や返事ができない、声をかけても「死ね」「ウザイ」といった言葉しか出ない場合、どう対応したらいいでしょう。本の中では話しかけ方やタイミングについても解説されていますが、言葉がけや態度のテクニックといったことだけでなく、何よりも子どもが、安心して対話できるようにしていくことがベースとなります。

施設の中での生活場面や対話の中で、支援者との関係性を築いていきますが、まず子どもにとって話しづらいと思われることについては、「子ども自身にとってプラスになること」を伝えて、積極性を引き出していきます。
〈A君に何が必要か事前に関連する資料を読んだんだけど…。本当にそうかな?〉
などと,率直にずれを伝えて,こちらが一定の情報を入手していることや正直に話すことが自分にとってプラスになることを伝えて,この後の面接への取り組みに積極的な姿勢を引き出すようにする。(P.39~40より)

出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4760824294/
対話するためのはじめの一歩は、外側から誘導することではなく、子どもの内側から変化を起こすことであり、そのために必要な具体的なアプローチ方法もこの本では紹介されています。

面接では、行動化が激しい子どもの「内的な枠組み」を形成

人の行動をコントロールするものには、2つの枠組みがあります。校則や法律といった「外的な枠組み」と、自分自身で「これは自分が困ることになる」と思う「内的な枠組み」です。

「外的な枠組み」を厳しくすることで、行動はコントロールできると考えられがちですが、本人が、「自分なんかどうなってもかまわない」と思っている場合は、「こういう行動をしたら自分自身が最終的に困る」ということが分かりません。自発的に行動をコントロールする「内的枠組み」を育てること、自分を大切にできるようになることが、自立への非常に大事なカギとなります。
『感情や行動をコントロールできない子どもの理解と支援: 児童自立支援施設の実践モデル』より
『感情や行動をコントロールできない子どもの理解と支援: 児童自立支援施設の実践モデル』より
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個別面接のタイミング:外的枠組みと内的枠組みのバランスの図
『感情や行動をコントロールできない子どもの理解と支援: 児童自立支援施設の実践モデル』より
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また、子どもの自立を支えていく個別面接では、過去の経験と今、今と未来の姿をつないで自己を強化していきます。児童自立支援施設で生活する中で起こったトラブルなど「現在」のできごとをキーに、過去と未来を結ぶこともあります。

たとえば施設内でほかの子どもとけんかになり、相手をたたいてしまったような場合、子どもの興奮状態が収まってから個別面接を行います。個別に面接し、なぜたたこうと思ったのか、その原因になった気持ちの読みときから始まり、そう思ってしまう根本にあるのはこれまでの経験にあることや、本人には「ムカついた」という表現しかできないところを、「相手にはじめに無視されたことがいやだった」ということまで分析し、「ほんとうに無視されたのかどうか」の検証も行う、というように丁寧に対話を重ねていきます。
現在の出来事を活用した自己と他者の対話の図
『感情や行動をコントロールできない子どもの理解と支援: 児童自立支援施設の実践モデル』より
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感情や行動をコントロールできない子どもの多くは、自分自身についてうまく言語化できず、混沌としています。その混沌した状態は、まるでからまった糸のようです。

仮想事例に登場する面接での対話を読んでいると、個別面接や生活場面面接によって、からまった糸がほぐされ、もう一度、編み直されていくことが分かります。内面が整理されて、自分自身を再構築することで、過去の体験が自分にどういう影響を与えたかが分かり、自分がどういう人間なのかを理解し、これからどうしていきたいか、という意志も生まれます。

家族や地域の環境との関わり方を考える

こうして自立する力を徐々に蓄えた子どもにとって、児童自立支援施設を出たあとの生活が、次の課題です。子どもたちの生活の基盤となる場所が、施設に入る前と変わらなければ、どんなにその子どもの内的枠組みが整ったとしても、また元の状況に戻ってしまうことが予測されるからです。

まず家族との面談が必要になります。家族には子どもについてより理解を深めてもらい、関係性をよくしていくための働きかけが必要です。ただ、これまでの入所施設の家族支援の方法は、マニュアルがなく支援者の独自のやり方に任されていたといいます。個別の独自なやり方ではなく、一定した理論やツールを用いた支援によって、「支援の一定の質」を保つことができるようになっていきます。

子どもと地域との関わりを結ぶ「BBSのともだち活動」

もう一つ、子どもの生活に大きく関わるのが地域の問題です。子どもを受け入れる地域の状況によっては、子どもは安定した生活を保ち続けることが難しくなります。問題を解決する手段として、児童相談所をはじめとする公的機関や、民間ボランティアなどがありますが、その一つとして、第6章「地域資源を活用した支援の展開について」では、BBSのともだち活動が紹介されています。
BBSとは,少年の自立支援のための青年ボランティアであり,その目的を,「非行少年や社会不適応少年のいない犯罪や非行のない明るい社会の実現」として いる。その活動は「ともだち活動」を基本に,「非行防止活動」,「研鑽活動」の3つを主な柱としている(BBS基本原則:日本BBS連盟,2004)。(P.199より)
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4760824294/
BBSは、Big Brothers and Sistersの略、つまり地域の兄・姉たちということ。「ともだち活動」では、BBSが子どもと近い年齢の「友だち」となり、ピアサポートに近い形で、地域の中で子どもを支援します。

日本ではまだ、あまりよく知られていない「ともだち活動」ですが、その意義と役割については、8つの点から説明されています。
①少年への精神的・生活上のサポート ②新しい興味・関心の提供 ③適切な人間関係の形成 ④社会性の形成 ⑤学習面での支援 ⑥余暇の使い方 ⑦垂直関係から水平関係 ⑧地域から離れた関係。

「非行交友を断ち切ることができないのは,反社会的ではない健全な友人関係を築くことへの不安があることが関係している」と著者は書いています。BBSによる「ともだち活動」では、年上の友だちは身近なロールモデルとなり、子どもたちが健全で適切な人間関係を安心して築くことができるようにしていきます。

こうした地域リソースも、全国どこに住んでいても享受できることが必要です。

「一定の質を保った支援が提供できる体制」を整備するためにできること

著者は、第6章までに述べられてきた、個々の子どもとその周りの環境を整えることを「ミクロ領域」とする一方で、最後の第7章「ミクロ実践からマクロ実践へ」では、社会のシステムや法制度といった「マクロな視点」で、行動化する子どもたちをどう支えたらいいかを考えます。

個別の支援だけでは対応しきれない状況を、社会福祉によってシステムや法制度を整えることによって、「全国のどこで事件が起こっても一定の質を保った支援が提供できる体制」を整備していくという考え方です。
法制度の基づく実践と実践から法制度をつくるフロー図
『感情や行動をコントロールできない子どもの理解と支援: 児童自立支援施設の実践モデル』より
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ミクロ領域とマクロ領域、どちらか一方だけでは、「一定の質を保った支援が提供できる体制」は成り立ちません。情緒や行動上の問題を示す子どもや家族を支える社会資源を整えるために、個々のケースから分かることを研究し、また社会資源によって個々が支えられるといった循環が必要になるのです。

理論やアプローチ方法を知ることは、「感動や行動をコントロールできない子ども」の自立支援を円滑にするというだけでなく、支援の質をレベルアップさせます。『感情や行動をコントロールできない子どもの理解と支援』には、いまの支援の方法を、より質の高いものにするために知っておきたい研究成果と実践法が詰まっています。 

感情や行動をコントロールできない子どもの理解と支援: 児童自立支援施設の実践モデル

感情や行動をコントロールできない子どもの理解と支援: 児童自立支援施設の実践モデル
大原天青
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文/関川香織(K2U)
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