家庭や施設で使えるアイディア満載『発達障害の人の会話力がぐんぐん伸びる アイスブレイク&ワークショップ』――ゲーム感覚で楽しみながらコミュニケーションの力を育もう!
ライター:発達ナビBOOKガイド
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講談社
発達障害の当事者会「イイトコサガシ」では、当事者のコミュニケーション力向上のために小グループで行う「ワークショップ」を続けています。この「ワークショップ」はこれまで支援機関、学校、企業、親の会などで10年以上、1000回以上行われてきました。このワークショップの内容とやり方を、「イイトコサガシ」代表の冠地情さんが解説し、漫画家のかなしろにゃんこ。さんのルポ漫画や、詳しいイラスト図解で分かりやすく紹介したのが、書籍『発達障害の人の会話力がぐんぐん伸びる アイスブレイク&ワークショップ』です。
苦手なコミュニケーションを楽しみながら練習しよう
コミュニケーションは自然と学んでいくものだと考えられがちです。でも実際には、理解してもらえないつらさがあったり、ときには自分や相手が傷つくことがあったり、失敗してしまうことだってあります。
発達障害がある人は、人づきあいを不得手と感じていることがよくあります。不得手と感じていることから人と関わる場面を避けてしまい、経験を重ねる機会が不足し、さらに生きづらくなる――そんな悪循環も起こりやすくなります。
「失敗をおそれるな」といった精神論ではなく、どうしたらスムーズにいくのか、試行錯誤をくり返して学ぶ機会が必要です。ですが、リアルな人間関係の中には失敗できない場面も多々あるため、コミュニケーションの練習はできません。
そこでワークショップという形で「試してみよう!」と提案しているのが、この本の著者、冠地さんです。
発達障害がある人は、人づきあいを不得手と感じていることがよくあります。不得手と感じていることから人と関わる場面を避けてしまい、経験を重ねる機会が不足し、さらに生きづらくなる――そんな悪循環も起こりやすくなります。
「失敗をおそれるな」といった精神論ではなく、どうしたらスムーズにいくのか、試行錯誤をくり返して学ぶ機会が必要です。ですが、リアルな人間関係の中には失敗できない場面も多々あるため、コミュニケーションの練習はできません。
そこでワークショップという形で「試してみよう!」と提案しているのが、この本の著者、冠地さんです。
発達障害の人の会話力がぐんぐん伸びる アイスブレイク&ワークショップ (こころライブラリー)
講談社
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ワークショップってそもそも何?どんなことをするの?
ワークショップとは参加型の体験講座のこと。演劇の世界でも使われている表現の研究方法です。冠地さんはさらに具体的に、主催者であるファシリテーターと参加者がルールに沿ってコミュニケーションする「お試し」の場、と説明しています。大体5~6人の小グループで行うのが普通だそうです。
レクリエーションと違うのは、「主催者側が用意したプログラムに参加し楽しむだけでなく、その場にいる全員で試行錯誤しながら創り上げる」という点。この創り上げていく作業そのものも、コミュニケーション力を引き上げることにつながるのだそうです。
レクリエーションと違うのは、「主催者側が用意したプログラムに参加し楽しむだけでなく、その場にいる全員で試行錯誤しながら創り上げる」という点。この創り上げていく作業そのものも、コミュニケーション力を引き上げることにつながるのだそうです。
イイトコサガシのワークショップとは?
イイトコサガシのワークショップは「試しただけで大成功!」
このワークショップには、大事なルールがあります。それは参加者が互いに「いいところ」を探すこと。
イイトコサガシのワークショップは、コミュニケーションを「試す」場です。参加しただけで拍手!なのです。それは、ワークショップに参加してみよう、と、挑戦した瞬間に、その人の内面にはすでに変化が起こっているからです。「試しただけで大成功!」と冠地さんは言っています。
「成功・失敗は関係なし、上手い・下手もありません!」
ワークショップに参加するときに、「言われたことを忘れてしまったらどうしよう」と不安になる人がいるかもしれません。でも、日常生活では問題とされるそんな「忘れグセ」も、ワークショップではむしろ生かせるのです。なぜなら、
忘れるのを不安がる参加者には、まず「忘れたらぜひ質問してください」と伝えてみてください。ワークショップは「試す」場です。失敗はむしろ大歓迎!「尋ねる」という行為はそれ自体がコミュニケーションですし、「質問力」をつけるきっかけにもなります。(P104)
と、むしろ肯定的に捉えてもらえるからです。
また、何も思い浮かばなくて、言葉に詰まっても大丈夫。ワークショップの場では「助け船お願いします」と言ってサポートを求めることが、むしろ推奨されています。助けを求めるのが苦手な当事者にとっては、これも「支援を求める」というスキルの獲得につながるからです。
また、何も思い浮かばなくて、言葉に詰まっても大丈夫。ワークショップの場では「助け船お願いします」と言ってサポートを求めることが、むしろ推奨されています。助けを求めるのが苦手な当事者にとっては、これも「支援を求める」というスキルの獲得につながるからです。
成功した・失敗した、上手くいった・いかないは二の次。とにかく「試してみた!」ということに価値があるワークショップ。それは、その場にいること、そして、ほかの人と関わろうとすること自体がコミュニケーションだ、ということに通じているのかもしれません。
コミュニケーションの「苦手」を乗り越える、ゲーム感覚の練習
本の中では、たくさんのワークショップについて、その具体的な進め方が紹介されています。たとえば気持ちを表現する「心を表す」というワークショップを取り上げてみましょう。その名の通り、物理的な距離で自分の今の心を表現してみよう!というワークショップです。
進め方は、まず、基準点となる場所にペットボトルなどの目印になるものを置きます。次にファシリテーターが、参加者に今の気持ちを尋ねます。
たとえば、「甘いものが食べたい気持ちは?」とファシリテーターが尋ねたら、参加者は食べたい人ほどペットボトルに近づき、食べたくない人は遠ざかります。こうして、目に見えない「気持ち」が、目印からの距離というかたちで表現できるわけです。人の気持ちと自分の気持ちを分かりやすく比較できるワークショップです。
進め方は、まず、基準点となる場所にペットボトルなどの目印になるものを置きます。次にファシリテーターが、参加者に今の気持ちを尋ねます。
たとえば、「甘いものが食べたい気持ちは?」とファシリテーターが尋ねたら、参加者は食べたい人ほどペットボトルに近づき、食べたくない人は遠ざかります。こうして、目に見えない「気持ち」が、目印からの距離というかたちで表現できるわけです。人の気持ちと自分の気持ちを分かりやすく比較できるワークショップです。
もっと直接的なかたちで会話に関係するワークショップも見てみましょう。
冠地さんは本書で、会話には「土壇場」があると言っています。黙っていてはいけないとき、瞬時に何か返さなければいけないときがありますが、そんな場面への対応力をつけるワークショップが紹介されています。
それが「なんでもリレー」です。このゲームで、会話の続け方が分かるようになるそうです。
やり方は次の通り。まず、5~6人で輪になって座ります。次に、パンパンと2回手をたたきながら、ひとりずつ名前を言って順にリレーしていきます。時計回りでも反時計回りでもいいのですが、テンポよくリズミカルにリレーをつなげていくのがポイント。これを1~3周行います。
冠地さんは本書で、会話には「土壇場」があると言っています。黙っていてはいけないとき、瞬時に何か返さなければいけないときがありますが、そんな場面への対応力をつけるワークショップが紹介されています。
それが「なんでもリレー」です。このゲームで、会話の続け方が分かるようになるそうです。
やり方は次の通り。まず、5~6人で輪になって座ります。次に、パンパンと2回手をたたきながら、ひとりずつ名前を言って順にリレーしていきます。時計回りでも反時計回りでもいいのですが、テンポよくリズミカルにリレーをつなげていくのがポイント。これを1~3周行います。
名前でリレーしたら、次は「自分の好きなもの」を言ってリレーします。もし言葉に詰まったら、自分の名前を言えばOK。とにかく発言を途切れさせないようにします。
ここでリレーを一度中断。誰でもいいので任意の参加者が、ほかの人が言った「好きなもの」について質問します。質問された人は30秒で答えます。このとき、ファシリテーターがタイマーで時間を計ります。タイマーが鳴ったら話の途中でも終了。この質疑応答を、人を変えて何度か繰り返したら終了です。
このワークショップのいいところは、話が苦手な人でも参加しやすいということ。好きなものについてだったらネタが豊富にあるはずなので、ふつうのおしゃべりよりはハードルが低いはずです。また、制限時間が明確なので、話し過ぎてしまうということもありません。
こうして「会話のルール」が理解できていきます。「自分が好きだといったことを相手が覚えていると、とてもうれしい」「相手の好きなことに興味を持ち、的確に質問できれば話は盛り上がる」といったことを実感できます。あとはそれを、実際の会話で使えばいいのです。
ここでリレーを一度中断。誰でもいいので任意の参加者が、ほかの人が言った「好きなもの」について質問します。質問された人は30秒で答えます。このとき、ファシリテーターがタイマーで時間を計ります。タイマーが鳴ったら話の途中でも終了。この質疑応答を、人を変えて何度か繰り返したら終了です。
このワークショップのいいところは、話が苦手な人でも参加しやすいということ。好きなものについてだったらネタが豊富にあるはずなので、ふつうのおしゃべりよりはハードルが低いはずです。また、制限時間が明確なので、話し過ぎてしまうということもありません。
こうして「会話のルール」が理解できていきます。「自分が好きだといったことを相手が覚えていると、とてもうれしい」「相手の好きなことに興味を持ち、的確に質問できれば話は盛り上がる」といったことを実感できます。あとはそれを、実際の会話で使えばいいのです。
「会話を続けるにはどうすればいいか」を具体的に知ることができる
コミュニケーションをうまく続けるためには、自分の言いたいことを口にするだけでなく、同時に相手の言うことも聞いておく必要があります。
この「なんでもリレー」では、“まず名前を言うだけ→好きなものを言う→好きなものについて話す→そのことへの質問をする”といった段階を踏みながら、「言う」「聞く」の同時並行、つまりマルチタスクに取り組んでいるわけです。段階を踏むことで、誰でも慣れていけるように工夫がされているのです。
さらにこのリレーには、マルチタスクを強化した応用編の「連想リレー」まで紹介されています。この応用編を通じて、「混乱している中でもとっさに反応する」感覚に慣れていけるそうです。
応用編では、隣の人の言った言葉から連想できる言葉を発言します。それだけでなく、自分の前の人が発言したら立ち、発言し終わったら座る、という動きまで加わります。
この「なんでもリレー」では、“まず名前を言うだけ→好きなものを言う→好きなものについて話す→そのことへの質問をする”といった段階を踏みながら、「言う」「聞く」の同時並行、つまりマルチタスクに取り組んでいるわけです。段階を踏むことで、誰でも慣れていけるように工夫がされているのです。
さらにこのリレーには、マルチタスクを強化した応用編の「連想リレー」まで紹介されています。この応用編を通じて、「混乱している中でもとっさに反応する」感覚に慣れていけるそうです。
応用編では、隣の人の言った言葉から連想できる言葉を発言します。それだけでなく、自分の前の人が発言したら立ち、発言し終わったら座る、という動きまで加わります。
そして何度かリレーしたら、参加者が別の人に「なぜその言葉が出てきたのですか?」と質問して、問われた人が30秒で答える…ということを行うのです。
「聞く」「言う」だけでなく、そこに「立つ」という動作が加わることで、さらに複雑なマルチタスクになります。実際の生活の中のコミュニケーションでは、作業のなかで不意に話しかけられたり、会話が始まったりすることも少なくありません。負荷のかかった状態でも相手の話を聞き、自分の意見をまとめる、という経験を積めるようになっています。
「聞く」「言う」だけでなく、そこに「立つ」という動作が加わることで、さらに複雑なマルチタスクになります。実際の生活の中のコミュニケーションでは、作業のなかで不意に話しかけられたり、会話が始まったりすることも少なくありません。負荷のかかった状態でも相手の話を聞き、自分の意見をまとめる、という経験を積めるようになっています。
コミュニケーションは、ただの情報交換ではないということを知る
発達障害のある人は、コミュニケーションを単なる「情報の交換」だと誤解している場合があります。でも、そうではないですよね!僕たちはもちろん、会話のなかで情報を伝えようとしますが、同時に、自分の気持ちや感情をも、相手に届けようとしているはずです。(P191)
コミュニケーションが苦手な人というと、引っ込み思案で自分の意見がなかなか言えないという場合もありますが、一方で、自分の言いたいことばかりを言ってしまうということもあります。
単なる「情報の交換」ではないコミュニケーションができるようになる…、そのための経験を積めるのが、イイトコサガシのワークショップです。
ちなみにこの記事ではちょっと複雑なものも紹介しましたが、本書にはアイスブレイクとして使える簡単なワークショップもいろいろ載っています。アイスブレイクとは、氷(=アイス)のように固く冷たい空気をほぐす(=ブレイクする)こと。新学年が始まったばかりの教室や、初対面の人ばかりが集まる場などで行うと、場の緊張を緩めることができるかもしれません。
単なる「情報の交換」ではないコミュニケーションができるようになる…、そのための経験を積めるのが、イイトコサガシのワークショップです。
ちなみにこの記事ではちょっと複雑なものも紹介しましたが、本書にはアイスブレイクとして使える簡単なワークショップもいろいろ載っています。アイスブレイクとは、氷(=アイス)のように固く冷たい空気をほぐす(=ブレイクする)こと。新学年が始まったばかりの教室や、初対面の人ばかりが集まる場などで行うと、場の緊張を緩めることができるかもしれません。
保護者や支援者が、ファシリテーターの役割から学べること
本書では、個々のワークショップのやり方だけが掲載されているわけではありません。その場をリードしていくファシリテーターのために、事前準備のノウハウがたくさん掲載されています。
場の整え方、参加者に信頼してもらえる言葉遣いや態度など、上手に運営するためのコツが具体的に書かれています。どれも難しいことではなく、むしろふだんから、家庭での話し合いのときにも参考になる内容となっています。たとえば、ファシリテーターの心構えとしてこんなことが挙げられています。
1.ファシリテーター自身がイイトコサガシを実践しましょう
2.ワークショップ中は参加者の退出を自由にしましょう
3.参加者が発表するたびに拍手の時間をとりましょう
4.ファシリテーターが参加者一人ひとりとアイコンタクトをとりましょう
5.ファシリテーターがワークショップに全力で取り組んで楽しんじゃいましょう
また、「参加者が安心できる話し方をしよう」というコラム(P60)では、じっくり説明をすること、答えを引き出したいときさまざまな角度からヒントを出すこと、といった方針と同時に、言葉は短く区切ってゆっくり話す、といった具体的な話し方も書かれています。
こうしたファシリテーターの心構えはそのまま、子どもと接するときの親や支援者・指導者の態度としても必要なのではないか、と感じられます。
最後に、この本の魅力をまとめてみましょう。
●スモールステップでコミュニケーションの力を育む手だてが分かる
●ワークショップを主催しようとする人だけでなく、自分自身やお子さんのコミュニケーションをより豊かに育みたいという人のヒントにもなる
●かなしろにゃんこ。さんの漫画で、まるで実際にワークショップに参加しているような感覚で読み進めることができる
ワークショップを開催したいという人だけでなく、さまざまな場面で豊かなコミュニケーションを身につけたい、生み出したいという人に、本書は一助となりそうです。
場の整え方、参加者に信頼してもらえる言葉遣いや態度など、上手に運営するためのコツが具体的に書かれています。どれも難しいことではなく、むしろふだんから、家庭での話し合いのときにも参考になる内容となっています。たとえば、ファシリテーターの心構えとしてこんなことが挙げられています。
1.ファシリテーター自身がイイトコサガシを実践しましょう
2.ワークショップ中は参加者の退出を自由にしましょう
3.参加者が発表するたびに拍手の時間をとりましょう
4.ファシリテーターが参加者一人ひとりとアイコンタクトをとりましょう
5.ファシリテーターがワークショップに全力で取り組んで楽しんじゃいましょう
また、「参加者が安心できる話し方をしよう」というコラム(P60)では、じっくり説明をすること、答えを引き出したいときさまざまな角度からヒントを出すこと、といった方針と同時に、言葉は短く区切ってゆっくり話す、といった具体的な話し方も書かれています。
こうしたファシリテーターの心構えはそのまま、子どもと接するときの親や支援者・指導者の態度としても必要なのではないか、と感じられます。
最後に、この本の魅力をまとめてみましょう。
●スモールステップでコミュニケーションの力を育む手だてが分かる
●ワークショップを主催しようとする人だけでなく、自分自身やお子さんのコミュニケーションをより豊かに育みたいという人のヒントにもなる
●かなしろにゃんこ。さんの漫画で、まるで実際にワークショップに参加しているような感覚で読み進めることができる
ワークショップを開催したいという人だけでなく、さまざまな場面で豊かなコミュニケーションを身につけたい、生み出したいという人に、本書は一助となりそうです。
発達障害の人の会話力がぐんぐん伸びる アイスブレイク&ワークショップ
発達障害の人の会話力がぐんぐん伸びる アイスブレイク&ワークショップ (こころライブラリー)
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取材・文/関川香織(K2U)
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