知っておくと安心!学校、職場、恋愛のトラブル対策にーー発達障害の人に寄り添う弁護士がまとめた『事例で学ぶ発達障害の法律トラブルQ&A』

ライター:発達ナビBOOKガイド
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ぶどう社
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法律や弁護士というと、難しくて日常生活と離れた別の場所にあるもの、と感じるかもしれません。でも実は、法律も弁護士も、私たちの生活を守ってくれる存在なのだということが分かるのが本書『事例で学ぶ発達障害の法律トラブルQ&A』(ぶどう社)です。著者は弁護士であり産業カウンセラーでもある鳥飼康二さん。本を通じてどんな思いを伝えたかったのか、インタビューしました。

発達障害の人が出会うかもしれない法律トラブルとその解決法を書いた本

発達障害のある人が生活していく中で、当人同士では解決できないトラブルが起こったとき、法律に照らし合わせて解決するとどうなるか。本書では、34の事例と、Q&Aの形で法律について分かりやすく書かれています。「多動が原因で交通事故にあってしまったら?」「合理的配慮を学校に求める」など、いずれも普段の生活にありそうな、他人事ではない事例が並びます。
事例で学ぶ発達障害の法律トラブルQ&A
鳥飼 康二 (著)
ぶどう社
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目次を一部ご紹介します。
 序章 法律&裁判
 1部 職場のトラブル
採用&労働条件 仕事でのトラブル 労災 解雇
 2部 日常生活のトラブル 金銭のトラブル 恋愛のトラブル 発達障害の子どもをもつ親御さんのトラブル 
 終章 犯罪と発達障害

登場する事例は、子どもの発達障害ばかりでなく、大人の事例が多く取り上げられています。事例はすべて、鳥飼さんの経験や公刊された裁判例から、発達障害のある人に起こりやすいケースとして書かれた架空のストーリー。それぞれの事例に対して、「法律の解説」と「解決のヒント」が書かれています。

たとえば1部の採用&労働条件のなかで、「試用期間満了後に本採用を拒否されてしまったら」という事例があります。
試用期間満了後に本採用を拒否されてしまったら?
『事例で学ぶ発達障害の法律トラブルQ&A』(P40)
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事例
目黒さん(ASDと診断)は、SEとして10年間の経験があります。E社は即戦力としてSE経験者を採用していたところ、目黒さんはASDであることを告げず、E社にSEとして途中採用されました。(P40)
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4892402419/
その後、この目黒さんは試用期間の間に、取引先から「コミュニケーションがとれない」といったクレームがあったり、社内ルールを守らない先輩を強い口調で注意したりとトラブルが多発。正式採用されないことになりました。

この事例について、会社側は本来、発達障害があるうえで採用した場合でも、知らないうえで採用してトラブルがあった場合でも、「合理的配慮」の提供義務は適用されるので、単純にトラブルを理由にしての本採用を拒否することは難しいという解説がされています。

この合理的配慮という言葉について、序章の「法律&裁判」の中では法的な説明がされています。
「合理的配慮」という言葉を聞きましたがどのような内容でしょうか?
『事例で学ぶ発達障害の法律トラブルQ&A』(P14)
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「合理的配慮」とは、障害者差別解消法の中で「必要かつ合理的な配慮」、障害者雇用促進法の中で「障害の特性に配慮した必要な措置」と表現されているものの総称です。(P14)
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4892402419/
そこから、「障害者雇用促進法」という法律の中で、私たちが知っておきたいことについても書かれています。

また、2部の生活トラブルでは、「恋愛トラブル」も紹介されています。
好きなのにストーカーと呼ばれてしまう
『事例で学ぶ発達障害の法律トラブルQ&A』(P132)
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事例
青山さん(男性、ASDと診断)は、勤務先の先輩社員の広尾さん(女性)を好きになり、告白。でも広尾さんは「あなたはいい人だから嫌いではないけれども…お友だちでいましょう」と返事します。青山さんは「嫌いではないということは、好きってことだ♪」と思い込み、ある日、プレゼントをしたところ、広尾さんがありがとうと答えたので、思わず肩を抱きしめてしまいます。困ってしまった広尾さんは上司に相談、そこで上司から「君がやっていることはストーカーだぞ!」と注意されてしまいます。(132ページ)
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4892402419/
この事例に対して、平成12年に制定された「ストーカー規制法」という法律を解説。解決のヒントとして、ストーカーにならないための方法として、認知行動療法などによって、自分の感情をうまくコントロールする方法があることを紹介しています。

発達障害の人の場合、仕事場でのトラブルがまず心配されそうですが、そのほかの生活の場で起こりそうなことが、いくつも紹介され、また解説されています。

この本を、「まだ子どもだから関係ない、のではなく、将来起こりうるかもしれないこととしても読んでほしい」と著者の鳥飼さんは話します。

著者が発達障害の人に寄り添う弁護士になった経緯とは?

本の著者・鳥飼康二さん
本の著者・鳥飼康二さん
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鳥飼さんは、弁護士であると同時に産業カウンセラーとして活動する中で、発達障害のある人が関わる法律トラブルに出会ったときに、職場、家庭などさまざまな場面で抱える生きづらさがあることに気づきました。

編集部(以下――)そもそもなぜ、このような発達障害の人の法律トラブルの事例についての本を執筆しようと思われたのでしょうか。

鳥飼さん:私は、弁護士としての業務の中で、発達障害の方の案件は、積極的に受けるようにしています。職場のトラブルだけでなく、私生活のトラブルの案件も多くあります。そして、産業カウンセラーの研修会では「発達障害の方はさまざまな法律トラブルに遭遇します」と聞いたのに、発達障害の方向けの法律関連の本が書店にはない、ということが、本を書いたきっかけでした。

――どうして発達障害の方のトラブルを積極的に扱うようになったのですか?

鳥飼さん:「あとがき」にも書いたのですが、私自身もこだわりがあったり、大きい音が苦手など感覚が敏感だったりといったことがあります。同じような人が困っているなら助けたい、何かしたいと思うようになったのです。とはいえ、私ひとりの力では、そんなに大きなことはできないと思い、まずは自分にできることからと考えて、発達障害の人の案件を受けるようになりました。共感というよりも、仲間意識から、できることをしたいと思ったのです。

だから、法律相談を受ける中で、私がもっとも許せないのは、このようなケースです。
「発達障害は治る」と言われて水を買った
『事例で学ぶ発達障害の法律トラブルQ&A』(P144)
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事例「発達障害は治ると言われて水を買った」(P144)
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4892402419/
ASDとADHDを併発している子どもを育てる親御さんが、『発達障害は治ります』という民間療法にだまされたという事例です。ネット広告を見て、月5万円で特別な水を届けてもらう契約をしてしまい、半年たっても効果は出なかった、という話です。これは薬事法違反にあたります。また消費者法改正によって、実証困難な事柄で不安をあおり契約させた場合には、契約を取り消すことができる、という制度も最近できました。

こうした科学的根拠のない商品で、不安につけこむ事例が、私はもっとも許せません。私は理系出身なので、科学を軽く扱われることも、とても嫌です。本には、怪しい民間療法の見分け方も書いていますが、藁にもすがる思いの人の弱みにつけこんだ悪徳商法などは特に、未然に防いで法律トラブルにまで発展させたくないのです。

法律で解決できるのは、悩みの氷山の一角

――産業カウンセラーの資格を持った弁護士という存在は、非常に珍しいのではないでしょうか。

鳥飼さん:たしかに、産業カウンセラーで弁護士という人はそう多くはないでしょう。感情面の複雑なところまで考えるよりも、弁護士として法律だけを扱うほうが負担は少ないですが、それでは悩みの根本解決にはなりません。

トラブルが起きたとき、その人が抱える悩みのうち、法律的な問題は氷山の一角です。水面下にあるものを理解しないと解決できません。たとえば、お金の貸し借りのトラブルは法律問題ですが、「なぜ」貸し借りが発生したのか、その背景が問題となります。個人同士なら、返してほしいのに口に出して「返して」って言えない、などといった問題が見えてきます。話をたどっていくと、子どものころからの問題にまで行き当たることもあります。そうした感情的なことまで焦点を当てないと、表面的な解決だけで終わってしまいます。

法律上の問題は解決できても、悩みの解決として、それだけでいいのか?という思いがあったんです。たしかに、負担は大きくて大変ですが、やっぱり放っておけないという気持ちがあります。
本の著者・鳥飼康二さん
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「受け止め方」を変える提案をすることもある

鳥飼さん:もう一つの例を挙げてみましょう。会社でハラスメントを受けたという相談を聞く中で、第三者からすると、そんなに強烈なことを言われているわけでもなさそうな場合があります。でも、本人の受け止め方としては違います。たとえば、上司と廊下ですれ違っても挨拶してくれなかったときに「無視された、嫌われている」と思うか、「上司は考え事をしていたのかも」と思うかでは、心のストレスが全然違いますよね。ネガティブにとらえてしまう受け止め方のクセによって、ストレスを生んでしまうこともあるわけです。

そこでパワハラについての裁判をして、少しの金額の慰謝料をもらい受けたとしても、またいつか同じようなことが起こるでしょう。その人の受け止め方のクセみたいなものを、どこかの段階で手当てしないと、何度もいやな思いを繰り返してしまいます。

もしかしたら、「パワハラを受けている被害者は自分なのに、どうしてこっちが態度を変えなくちゃいけないのか」と思う人もいるかもしれません。しかし、何かあるたびに裁判を起こしてちょっとずつ慰謝料をとって、それを繰り返すだけでその人の人生が終わってしまうことだってあり得ます。

それでいいか悪いかの評価は、本人にしかできませんが、物事の受け止め方を少し変えたら、そういうストレスを少なくして暮らせるのでは?と思うのです。認知行動療法の観点からの解決法をとったほうがいい、ということにもなるわけで、私はそういうアドバイスができるようにと、勉強しています。それと同時に、本格的な認知行動療法が必要な場合は専門家をご紹介することもあります。

こうした場合は、弁護士の範疇を超えているかもしれませんね。相談に来る方は法律問題として解決してほしいわけですから、「そういうことは頼んでいません」という方もいます。そういうときは、入り口は法律問題だけれども、ちなみにこんな方法も、という形で提案をすることもあります。総合的なお悩み支援ができれば、と考えています。

支援のラインナップとして、弁護士も加えてほしい

――弁護士は、裁判になったときに味方になってくれるというだけでなく、法律トラブルになる前にも相談に乗ってくれるのですね。

鳥飼さん:どうにもならないくらい事情が複雑になってしまったケースに出遭うと、もっと早く相談してほしかったと思うこともよくあります。たとえばハラスメントやいじめといった問題では、早く相談してもらえたら、証拠を確保する方法を伝えられるでしょう。しかし、もう何度もハラスメントに合って、ボロボロになった段階になってしまうと、録音するといった証拠はとりにくくなるし、相手も警戒して言動を控えるようになってしまいます。

ほんとうは自分たちが正しいはずなのに、学校や会社で居づらくなってしまいそうなとき、裁判を起こすか起こさないかは別としても、弁護士がいることで相手と対峙するときの援護にもなります。ひとりでトラブルに立ち向かうのはつらいと思えば、後ろ盾として弁護士を使ってほしい。実際に、そういう話し合いの場に同席してほしい、という依頼もあるのです。

――それでも、弁護士に依頼するのは、敷居が高いと感じる人が少なくありません。

鳥飼さん:弁護士の見つけ方については、本にも書いているのでお読みいただくとして、何かトラブルが起きてから、弁護士を探すのは大変でしょう。深刻な事態になるまえに相談できる場所として、お医者さんと同じように「かかりつけ」の弁護士がいると安心です。ふだんから、かかりつけ弁護士に年に1回でも話をしていれば、何かあったときに気軽に相談しやすいはず。こちらも、相談したい方の事情を理解しておくことができます。

もし、トラブルを繰り返し起こした人に発達障害があったとしたら、それはその人がきちんとした支援を受けていなかったからということもあるでしょう。そのことが問題なんです。障害があるからトラブルに結びつくのではなくて、きちんとした支援ができない社会の仕組みや環境のほうに問題があると考えたほうがいいのです。

法律事務所は、行っただけで『怒られそう』という方もいますし、たしかに威圧的なところもあります。でも、中には私みたいな怖くない人もいます(笑)。ぜひ、弁護士も、支援のラインナップのひとつに加えてほしいと思います。
本の著者・鳥飼康二さん
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法律のことが分かるこの本を、お守りがわりに

トラブルが起こる可能性はあっても、何も起きていない段階で、いきなり弁護士に相談するのは、ハードルが高いかもしれません。そんなとき、この本が、トラブルを防ぐ予習をさせてくれるでしょう。

本書に登場する発達障害の子どもに関する事例は、物を壊した場合、ケガをさせてしまった場合、事故に遭った場合、いじめなどの6つのケース。その他に登場するのは大人になってからのケースです。それらは「今だけでなく、先々まで心配なことは尽きないのね...」と、読む人を落ち込ませるような内容ではなく、「こう備えたらいいのか」と分かり、転ばぬ先の杖になってくれることでしょう。保護者自身にも、今の仕事や生活のうえで、役立つポイントがあるかもしれません。

法律は、どこか遠い場所にあるものではなく、私たちの身近な生活を守るために存在しています。そのことに気付かせ、生活のお守りになってくれるのが、この本『事例で学ぶ発達障害の法律トラブルQ&A』です。

『事例で学ぶ発達障害の法律トラブルQ&A』

事例で学ぶ発達障害の法律トラブルQ&A
鳥飼 康二 (著)
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取材・文/関川香織
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