上がる法定雇用率と低いままの理解度。「僕はダメ人間」自己否定し転職を繰り返す発達障害の青年を見て感じたこと

ライター:立石美津子
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以前、発達障害がある人の就労について取り上げたテレビ番組がありました。そこに映し出されたのは、「とりあえず、これやっておいて」「適当に並べておいて」と上司に指示されて、戸惑う青年の姿でした。この青年は、親はもちろんのこと、自身が発達障害であることを知らずに成人したと説明がありました。そして、就労先でうまく行かず、自らを否定し転職を繰り返す日々を送っていました。

お客さんからも店長からも理解されない青年

『発達障害に生まれて』(松永正訓著/中央公論新社)ノンフィクションのモデルとなった立石美津子です。

以前、とあるテレビのドキュメンタリー番組で、発達障害のある青年の仕事や暮らしについて取り上げられていました。青年は発達障害の診断を受けておらず、自らも親も気がついていない状態でスーパーに就職し、退職に追い込まれてしまいました。

スーパーで働いていた青年は、客から「この商品はどこにありますか?」と聞かれ、素直に「分かりません」と答えてしまいました。「商品を探してほしい」という客の意図がくみ取れなかったのです。
客は店長に「店員の態度がなってない!」とクレームを言い、彼は店長から「どうして商品を案内しないんだ!気遣いが足りない!分からなかったら、なぜ分かるスタッフを探さないんだ!」と叱られていました。

青年は次第に「僕はダメ人間だ」と自己否定して、転職を繰り返すようになりました。その後、自閉症スペクトラムの診断を受け、「営業職や接客ではなく、コミュニケーション能力があまり求められない職場を探している」といった内容の放送でした。

本人も家族も気づかないまま

今、成人している人が幼少期を過ごした時代は、今のように“発達障害”について情報がなく特別支援教育も今ほど充実していなかったのではないかと思います。

特に知的障害を伴わないグレーゾーンの人たちのなかには、家族はもちろんのこと、自身も自分に発達障害があることを知らないまま日常生活、学校生活を送っていた人が相当数いるのではないでしょうか。

通常学級に通っていても、親や先生から発達に凸凹があることを理解されて、療育に通ったり、通級指導教室に行ったり、また特別支援学級や特別支援学校に通い特別支援教育を受けている場合「できないときはどうやってSOSを出せばいいのか」などの練習も学校教育のなかで受けることができます。

けれども、障害があることを知らずにいたら、これらを学習することもなく社会に出ていくことになります。社会に出て働くとなると、要求されることはそれまでより更に厳しくなります。

法定雇用率は上がっても

今は従業員数が45.5人以上の民間企業には法定雇用率が課され、障害者を2.2パーセント雇わなくてはならない決まりになっています(※)。将来、さらにその割合が上がると言われています。

ただ、障害がある人を採用したものの、その後の対応に苦慮している企業もあると聞きます。「とりあえずこれやっといて」 「朝イチで資料作成して」「資料は多めに作っておいて」これらの曖昧な指示が分からない人がいることを、どれだけの企業、そこで働くスタッフが知っているでしょうか?

インクルーシブ教育、ダイバーシティ(多様性)、障害者差別解消法、合理的配慮など、昔に比べて障害のある人が生きやすい社会に確実になってきていると思います。けれども、車椅子の人を入店拒否しないお店は増えても、見た目では分かりにくい発達障害の人に対しての理解はまだまだ浅いようにも感じます。

※2020年2月現在
障害者の法定雇用率の引き上げについて | 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaisha/04.html
次ページ「近所のスーパーでも」

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