発達障害がある子の高校受験――中学卒業後の進路選びを考える【編集長インタビュー企画】

ライター:発達ナビ編集部
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義務教育が終わり、高校進学では進路の選択肢もぐんと広がります。それと同時に社会へ出る準備も現実的なものに。公立と私立で障害への配慮は違う?志望校の選び方は?技術的なことを勉強する学校は就職に有利?など、皆さんの抱える高校進学のお悩みに、LITALICOライフの講師がお答えします。今回は、1000人以上の受験指導の実績を持つ高橋基さんと一緒にお届けします

発達障害がある子の、中学卒業後の進路は?

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中学卒業後の進路について、どの道を選べばいいのか――発達ナビユーザーの中にも、悩んでいる親子は多くいるのではないでしょうか。

公立高校や私立高校を受験するのか。特別支援学校や、通信制高校、高等専修学校、フリースクールなどを考えているというご家庭もあるでしょう。高校卒業後に大学に進学をするのか、将来の就労や自立まで見据えて手に職をつけるのかといったことも検討する場合も。

そこで今回は、LITALICOライフのコンサルタントで発達障害のある子の高校受験に関する保護者向け勉強会講師も務める、高橋基さんと発達ナビ編集長が対談。高橋さんには、高校受験塾での教室長経験もあります。そうした経験も踏まえながら、お話をしていただきました。

特性のある子に合う学校の探し方とは

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発達ナビ編集部 編集長牟田暁子(以下、――):今回は、発達障害のあるお子さんの高校受験について、いろいろとお尋ねしていきたいと思います。

高校進学は、その先に大学に進学するか、就職するかでも、選ぶ学校が変わってきます。発達ナビのユーザーの皆さんからは、お子さんの特性のこともあり、どういう学校を選べばいいか、迷うという声も寄せられています。


高橋基さん(以下、高橋):特性のある生徒へのサポート体制が整っている高校は、徐々に増えてきています。特に力を入れている学校は、ホームページやパンフレットに書いていることもあります。

――:例えば、どんなサポートが期待できるのでしょう?

高橋:自閉症で聴覚過敏のあるお子さんならイヤーマフの使用が許可されていたり、学習補助の仕組みがあったり。ただ、学校によって対応はまちまちで、個別ケースに対応している場合が多いので、一度学校に足を運んで、特別支援教育に対する考え方を確認しておくことが大事です。

もし受験のときに、別室での受験や特別なアイテムの使用など、合理的配慮を可能性として考えるのであれば、公立私立を問わず、願書を提出する前に申し出ることをおすすめします。仮に配慮してくれたとしても、相談をもちかけたときに難色を示されたなら、その学校とは価値観が合っていないのかもしれません。

――:これまで事例のないことでも、フレキシブルに対応してくれる可能性が少しでもあるなら、相談の価値はありますね。足を運ぶことで、学校の雰囲気も感じることもできますね。

高橋:ただ、発達障害のある子の受け入れに特化した学校はたくさんあるというわけではありません。特に地方では選択肢が少ないのが現状です。高校選びでお子さんの発達へのフォローがあることを軸にして探すと見つからなくなって、「どうしたらいいの!」と焦ってしまうケースもあります。

――:「うちの子のこともを手厚くフォローしてくれる学校は?」と探してしまう気持ちは親御さんなら抱くのではないでしょうか。

高橋:親御さんにとっては、お子さんの特徴や個性はすごく強調されて見えている状態なので、ついフォローに重きをおきがちになります。そんなときは、視点を変えることも必要になります。

フォローよりも価値観が合う高校を選ぶという考え方もあります。仮に特性へのフォローがなくても、お子さんが好きなことができたり、ご家庭が求めていることを経験させてくれたりする高校なら、それはそれで満足度の高い選択になります。

――:特性のフォローに縛られすぎると、選択肢がすごく少なくなってしまって、子どもの学ぶ場が見つかる可能性を狭めてしまうことがあるかもしれないということですね。

高橋:お子さんの強み、好きなこと、向いていることは何か。そこからスタートする。好きなジャンルに強い高校、理系か文系か、スポーツが強い、興味のある部活など、そういう観点で親子で話し合いながら探すといいですね。発達特性から進路を選ぶのではなく、純粋にお子さんがやりたいことに軸足をおいてみるのがいいのではないかと思います。

お子さんの強みを伸ばしてあげたいのか、弱いところをフォローしてあげたいのか、発達障害のお子さんの学校選びには大きく2つの軸足があり、どちらも正しい。どちらかで考えて煮詰まってしまったときは、視点を変えると道が開けると思います。

受験の際には「内申点」「出席日数」にも留意

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――:公立高校に進みたい場合は、内申点が影響してきますね。テストの点数以外に、授業態度や提出物、生活態度など、学力以外の部分も評価対象になるため、心配される方も多いと思います。

高橋:公立高校は基本的に、当日のテストの得点と通知表を点数化した内申点を加味しますので、特性のあるお子さんは不利な面もあります。私立高校の場合は、内申点は関係ありません。ただ、例外として、推薦や併願優遇などの各種優遇制度がある場合は、それを利用できるか否かは内申点次第というケースが多いです。

――:そうなんですね。私立高校の場合でほかにも気をつけることはありますか?

高橋:私立(全日制)の場合は、出席日数の開示が必要となるので、中学3年間まったく出席していないとなると、厳しくなってきます。一般的な私立高校を選択肢に残しておきたければ、フリースクールなどに通って出席日数を確保するようにアドバイスしています。

――:編集部:フリースクールの出席はカウントされるのですね。

高橋:在籍している中学校の校長先生の判断となりますが、フリースクールで出席証明書を出してもらえれば、認められる可能性は高いです。
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公立、私立高校だけではない。中学卒業後の進路の選択肢

――:出席日数が足りない場合は、公立も私立も厳しいということですね。

高橋:その場合、通信制の高校やサポート校という選択肢もあります。

――:例えば、感覚過敏で通学が厳しい場合など、通信制の高校はありがたいですね。

高橋:ほかにも特徴的な学校をご紹介しますね。高等専門学校(高専)と高等専修学校です。名前が似ているため混同しがちですが、内容はかなり違います。高等専門学校は5年制のエンジニア養成学校で、修了すると短大卒扱いになります。大学への進学を希望する場合は、大学3年から編入可能。専門分野は機械系、電気系、情報系など、いろいろと分かれますが、就職率はほぼ100%です。国立は難易度が高いので、学力的に厳しい場合は私立の高専も視野に入れるとよいですね。

高等専修学校は、高校生から通える専門学校と考えるとわかりやすいです。職業教育に特化した学校で、工業、農業、医療、衛生、教育・福祉、商業実務、服飾・家政、文化・教養の8分野があり、それぞれの中でさらに細かく学科が分かれています。高校卒業資格は基本的には取れないですが、専門資格がとれる学科もあり、将来の仕事に直結する学びの場です。最近は、高校卒業資格もとれる学校も増えてきました。

――:発達ナビのライターさんの中にも、高専でプログラミングを学び、現在はエンジニアとして働き、管理職もつとめている方がいます。得意な分野がはっきりとわかっているお子さんなら、それを極めて職業につなげるというのもひとつの選択ですね。

好きなことや強みを探す時間=高校、でもいい

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――:ただ、強みが見つからない、何を伸ばしたらいいかわからないということもあります。親御さんは、特性があってもなくても、強みがあれば伸ばしてあげたいと思うし、将来やりたいことがあるのなら、応援したいと思いますよね。でも、「将来の夢がない」「特に得意なことがない」と言うお子さんもいます。私の息子も高校生ですが、将来の展望など描けていないです。中学生の段階で将来の仕事まで描くというのはなかなか難しいかもしれません。

高橋:特性がある子は、こういうことが得意、こんな才能が!とクローズアップされているのを見ると、焦ってしまう気持ちもわかります。でも、みんながみんな際立った能力をもっているわけではない。それは、特性がある子もそうじゃないお子さんも同じ。自分の強みややりたいことを見つけていく時間、それが中学や高校時代だと思えばいいんです。

――:どんなことを学びたいかは現状ではっきりしなくても、好きなことが見つかったときのために、幅広く対応できるようにとなると、大学進学も視野に入れた高校選びをするご家庭も多くなりそうです。

高橋:本人に大学に行けるだけの学力がある、または、これから身につけられそうなら、その選択はありだと思います。

もし、学力的、または経済的に大学進学を選択しないとなると、中高の6年間のうちに、おおまかな人生の方向性を決めることになります。(中卒ではなく)高校卒業までを希望する親御さんが多いので、そういった場合は、先ほどお話しした高等専修学校や、いろいろな職業体験ができる高校をご案内したりしています。

――:職業体験は面白そうですね。実際に専門学校で学ぶ前に、いろんな仕事を体験できると将来どんな仕事が向いていそうかも気づけそうですね。

高橋:そのほかにも、とある通信制の高校では、入学試験が面接と書類選考のみというところもあります。学力に不安のあるお子さんでも、前向きな選択肢として考えられますから、本人にとっても親御さんにとっても安心材料になります。

将来から逆算し、お子さんにとってベストな環境を考えてみて

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――:高校進学は、選択肢がかなり広がります。わが子にはどんな環境が合っているのか、どういう分野なら活躍できるのか、そこがわからないと、どの選択肢を選べばいいかに迷ってしまいますね。

高橋:私はLITALICOライフで個別面談も担当していますが、高校進学だけでなく、その先にお子さんがどういうふうに生きたいのか、どうだったら幸せなのかといった将来像を親御さんと共に整理することからスタートします。

まず、お子さんに将来どうなってほしいのかと尋ねると、たいていの親御さんは具体的にこういう仕事をしてほしいというよりは、自分の力で生きていけて、本人が幸せならいいと考えておられる方がほとんどです。

さらに、どう働いているか、その姿を想像してもらいます。典型的な日本のサラリーマンなのか、専門的な仕事につくのか。それによって、社会に出る手前のステップは?と。大学進学か専門学校に行くか、大きくはこの2つになるのですが、いずれの場合もその前には高校がある。そこで初めて、どんなタイプの高校がいいのかという話になります。将来の姿から逆算すると、全体を俯瞰して考えることができます。

――:なるほど、イメージが沸きますね。ただ、子どもと話しても、やりたいことや当人の描くビジョンが見えてこなくて、悩む親御さんも多いです。

高橋:実は、親御さんは基本的にお子さんの進路相談には向いていないんです。高校受験前というのは、思春期の時期ですしね。親御さんが悪いわけではなくて、お子さん以上に真剣になってしまうので、こじれたりケンカになったり…となるわけです。できれば第三者と話すといいですね。親御さんもお子さんも第三者と話すとお互いに考えがまとまりますから。

私の個別面談には親子でいらっしゃることもあるんですが、時には親御さんに少し席を外してもらって、お子さんの話を聞くこともあります。お子さんも第三者が相手だと、本音を話しやすいようで、それを私が親御さんに伝えて、お子さんの意思を尊重しながら方向性を整理し、ベストな環境を考え、それに合った高校の情報などをご提示します。

――:確かに、専門家を頼る手もありですね。親の思いが強すぎて客観的になれないというのは、そうだなと思いますし、思春期の子どもと冷静に向き合うことはむずかしいですから。

どういう進路を選んだら、どのくらい費用がかかって…といった、お金に関係することも相談できるのですか?


高橋:もちろんです。お子さんのためなら、どれだけコストをかけてもいい!という方は多いのですが、自分たちの老後の資金がなくなって、後々お子さんにしわ寄せがいくと本末転倒。進路を考えるときにお金の問題は切り離せないし、お金の問題と老後資金のことはセットで考えるべきと、みなさんにお伝えしています。

貯蓄か運用か、収入がどう変わるのか、パートを始める・始めない、老後は住まいを賃貸に変更するなど、ライフプランと合わせて、進路を検討しましょう。LITALICOライフの個別相談は、「特に何もなかったらこうなる」という可能性について一緒に考える相談相手なんですよ、とお話しています。一般的なファイナンシャルプランナーは「万が一」のほうを重視して考えますが、それとは逆の視点ですね。

――:進路もライフプランも総合して相談にのってもらえるのは心強いですね。

高校受験をテーマにした勉強会を開催中

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――:高校進学を含め、先の将来を見据えるとなると、迷うことも多いです。もちろんお子さんと話し合うことが大事ですが、まずは親御さん自身も情報収集できると提示できる選択肢の幅が広がりそうです。高橋さんが講師を務めていらっしゃるLITALICOライフの勉強会はどんなことを学ぶことができるのでしょうか?

高橋:発達障害のあるお子さんをもつ保護者の方向けで、高校受験について知っておきたいことがまとめてわかるダイジェスト版の勉強会です。まず、ここで概要をつかんで、ご家庭内で話し合う糸口にしていただければと思います。

――:高橋基さん、高校受験についての情報や考え方、とても参考になりました。

LITALICOライフの無料勉強会に参加するには?

LITALICOライフでは、「高校受験」をテーマにした保護者向けの勉強会を開催しております。私立と公立の違い、高校の進路の選択肢、志望校選びのポイント、具体的な学費や準備することなど、発達障害のある子の高校受験のポイントがギュッと詰まった内容です(所要時間は1.5時間)。希望者には個別に進路相談なども実施しております。
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お話を伺ったコンサルタント

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高橋 基(たかはし もとい)
塾講師、および教室長として、学習塾に7年勤める。専門は主に高校受験で、1000人以上の受験指導の実績をもつ。フラットな人柄で聞き上手。相手の気持ちに寄り添うことを信条とし、進路支援に携わる。

LITALICOライフについて

LITALICOライフはお子さまとご家族が「自分らしい人生」を歩んでいくために障害分野とファイナンス、その両方の専門家としてライフイベントやライフプランの見直しを相談できるパートナーです。社会資源やサービス・お金の知識といった幅広い内容を身につけることができる勉強会や、専門領域をもつコンサルタントとの個別面談・プランニングを提供しています。
取材・文/安井万季子
撮影/田村健児
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