セリフ集をもって学校へ!オウム返しだったASD息子との「言いたいことを伝える」ための会話練習とは?
ライター:丸山さとこ
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今ではとてもおしゃべりなコウですが、言葉での要求ができるようになるまでは時間と練習が必要でした。
クレーン現象で親を動かしていた彼が“言葉”で親を動かそうとした時、彼の口から現れたのは“やって欲しいことをする時の親のセリフ”でした。
監修: 井上雅彦
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授
LITALICO研究所 スペシャルアドバイザー
ABA(応用行動分析学)をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のためのさまざまなプログラムを開発している。
LITALICO研究所 スペシャルアドバイザー
今はおしゃべりなコウだけど…?
今ではとてもおしゃべりなコウですが、意思の疎通ができるほど話すようになったのはやや遅く、4~5歳頃でした。公園などで遊んでいると、遊びに誘おうとしてくれた子が「この子どうしてしゃべらないの?」と不思議そうに聞いてきたりしたものです。
そんなコウでしたが、私はしゃべらないことをあまり気にしていませんでした。しゃべらなくても何となく意思の疎通はできていましたし、時々は“オウム返し”で要求を伝えてくることもあったからです。
そんなコウでしたが、私はしゃべらないことをあまり気にしていませんでした。しゃべらなくても何となく意思の疎通はできていましたし、時々は“オウム返し”で要求を伝えてくることもあったからです。
あまりしゃべらなかった幼少期
たまに現れては消える言葉たち
コウは4~5歳までの間も全く発語がなかった訳ではなく、1歳を過ぎてからはいくつか単語を口にすることもありました。ですが、定着せずに流れて行ってしまう感じでした。
私はそれを“離乳食や遊びにブームがあるようなもの”と捉えていました。発語はしないものの言葉が分からないわけではなく、知っている単語であれば「〇〇持ってきて」と言うと(気が向けば)持ってきてくれるコウ。
そんな彼の様子から、私は「忘れた訳ではないし、声は出るし、また気が向けば話すだろう」と考えていました。(3歳児検診の時も発語が増えないようであれば、相談しようと思っていました)
私はそれを“離乳食や遊びにブームがあるようなもの”と捉えていました。発語はしないものの言葉が分からないわけではなく、知っている単語であれば「〇〇持ってきて」と言うと(気が向けば)持ってきてくれるコウ。
そんな彼の様子から、私は「忘れた訳ではないし、声は出るし、また気が向けば話すだろう」と考えていました。(3歳児検診の時も発語が増えないようであれば、相談しようと思っていました)
要求をする時は“クレーン現象”で
3歳頃までは殆ど“何かを要求をする”ということがなかったコウです。勝手に動く彼の様子から「あっちに行きたいのかな?」「あれをしたいのかな?」と彼の要求を汲んで対応する感じでした。
多くの親が子どもにするように、「ベッドに登りたいの?」「さわりたいね」「ブロック欲しい?」と彼の要求を口に出してはいましたが、彼はそれに頷くことはなく行きたい方に行き、欲しいものに手を伸ばし、ただただ自分がしたいようにしていました。
その後、コウは成長に伴い“クレーン現象”を行うことで要求を叶えようとするようになりましたが、それはまだ“要求を伝える行為”ではありませんでした。
多くの親が子どもにするように、「ベッドに登りたいの?」「さわりたいね」「ブロック欲しい?」と彼の要求を口に出してはいましたが、彼はそれに頷くことはなく行きたい方に行き、欲しいものに手を伸ばし、ただただ自分がしたいようにしていました。
その後、コウは成長に伴い“クレーン現象”を行うことで要求を叶えようとするようになりましたが、それはまだ“要求を伝える行為”ではありませんでした。
オウム返しなら“話せる”?
コウはシャイな子?
3歳になると「おはよう・こんにちは・バイバイ・3さい」などの言葉を覚えたコウは、道で挨拶するくらいなら「シャイな子なのかな」と思えるような雰囲気の子どもでした。
実際のところは“恥ずかしがって話さない”のではなく、単純に“話さない”だけです。家でも要求語は少ない状態でした。
実際のところは“恥ずかしがって話さない”のではなく、単純に“話さない”だけです。家でも要求語は少ない状態でした。
「いくつ?」と聞かれると「いくつ?」と返すコウ
「こんにちは」に対して「こんにちは」を返すような挨拶に比べ、「いくつ?」「3歳」のような、“相手が発した言葉と違う言葉を返すタイプのやりとり”は苦手なようでした。
「いくつ?」と聞かれれば「いくつ?」と返してしまう状態だったコウは、“セリフを言う側の体に触れる”という夫の働きかけによって「3さい」と返せるようになりました。
「いくつ?」と聞かれれば「いくつ?」と返してしまう状態だったコウは、“セリフを言う側の体に触れる”という夫の働きかけによって「3さい」と返せるようになりました。
「いくつ?」に答えられるようになってからも「何歳?」には答えられなかったりしたので、そのような“返せない会話パターンに”気付いては随時教えて、登録語数を増やしているような感じでした。
新たなパターンは”プラカードしゃべり”!
お茶が欲しい時は「お茶飲む?」
そんなコウでしたが、3歳になって数か月が経った頃、要求を言葉で伝えるようになりました。今までであればクレーンで伝えてきた要求を、言葉で表すようになったのです。
冷蔵庫の前まで引っ張っていった親の手を動かすことで『お茶が欲しい』と伝えていたコウが、「おちゃのむ?(お茶飲む?)」と言えるようになったのは大きなことでした。
ですが、よくよく考えてみると「お茶飲む?」は、親がコウにたずねる時の言葉です。コウの側が要求として「お茶飲む?」と言うのは、何だか妙な感じです。
冷蔵庫の前まで引っ張っていった親の手を動かすことで『お茶が欲しい』と伝えていたコウが、「おちゃのむ?(お茶飲む?)」と言えるようになったのは大きなことでした。
ですが、よくよく考えてみると「お茶飲む?」は、親がコウにたずねる時の言葉です。コウの側が要求として「お茶飲む?」と言うのは、何だか妙な感じです。
成長したことで現れた“新しいパターンのオウム返し”
コウは言葉を使って“人に向かって要求すること”そのものはできるようになりましたが、改めて観察してみるとそれは「話しかけている」というよりは、オウム返しを使って望ましい状況を再現しているだけのようでした。
お茶を飲みたかったら「おちゃのむ?」、手を洗いたかったら「て、キレイキレイしようね」、出かけたかったら「おでかけしよっか!」…コウが言う言葉は、すべて親が問いかけたり促したりする時の言葉でした。
「いくつ?」に対する「いくつ?」のような“その場ですぐに返ってくるオウム返し”ともまた違う、新たなパターンのオウム返しといった感じのセリフの丸覚えは、さながらプラカードをあげることで意思を伝えるかのようでした。
お茶を飲みたかったら「おちゃのむ?」、手を洗いたかったら「て、キレイキレイしようね」、出かけたかったら「おでかけしよっか!」…コウが言う言葉は、すべて親が問いかけたり促したりする時の言葉でした。
「いくつ?」に対する「いくつ?」のような“その場ですぐに返ってくるオウム返し”ともまた違う、新たなパターンのオウム返しといった感じのセリフの丸覚えは、さながらプラカードをあげることで意思を伝えるかのようでした。
大切なのは“言いたいこと”が伝わること
プラカードを豊かにしよう
プラカードのような要求の仕方は、大分クセが強いな!とは思いましたが、クレーン現象を使った要求の伝え方よりは、コウにとって便利でスマートな方法のはずです。
「プラカードでも伝わればいいか!」と考えた私は、より質の良いプラカードをコウと一緒に作ることにしました。コウが「質問」のセリフを使って要求した時に「要望」のセリフを教えることで、彼が使う言葉を「質問」から「要望」に変えたのです。
「お茶飲む?」では、私には通じても他の人には通じにくいので、「お茶飲みたい」や「お茶欲しい」にします。「おでかけしよっか!」では提案や促しに聞こえるので、「おでかけしたい」と要求の形にします。
コウは小学生になってからも“セリフが頭に入っていないこと”は言えないところがあったので、クラスメイトや先生に伝えたいことがある時は、その都度家でプラカード(セリフ)を用意して行きました。
「プラカードでも伝わればいいか!」と考えた私は、より質の良いプラカードをコウと一緒に作ることにしました。コウが「質問」のセリフを使って要求した時に「要望」のセリフを教えることで、彼が使う言葉を「質問」から「要望」に変えたのです。
「お茶飲む?」では、私には通じても他の人には通じにくいので、「お茶飲みたい」や「お茶欲しい」にします。「おでかけしよっか!」では提案や促しに聞こえるので、「おでかけしたい」と要求の形にします。
コウは小学生になってからも“セリフが頭に入っていないこと”は言えないところがあったので、クラスメイトや先生に伝えたいことがある時は、その都度家でプラカード(セリフ)を用意して行きました。
そしてペラペラしゃべる現在のコウへ
そんなコウも今では毎日ペラペラと喋って過ごしています。要求も伝えますし、3年生頃からは「今日学校でね、こんなことがあってね」と家に帰る度に外であったことを話してくれます。
時々言葉に詰まって「えっと…Aちゃんがこう言って、それでB君がね、えっと…あのね、学校でね、えっと…?」と迷走しながらの状況説明になることもありますが、投げ出さずに一生懸命話す姿を見ていると、「本当によく話すようになったなぁ…」としみじみします。
1日中話しかけられて「ちょっと静かにして!?」と言いたくなる時もありますが、思春期にもなれば逆に「たまには話してくれないかな」とさみしくなるのかもしれないなと思い、コウのおしゃべりをありがたく聞いている今の私です。
時々言葉に詰まって「えっと…Aちゃんがこう言って、それでB君がね、えっと…あのね、学校でね、えっと…?」と迷走しながらの状況説明になることもありますが、投げ出さずに一生懸命話す姿を見ていると、「本当によく話すようになったなぁ…」としみじみします。
1日中話しかけられて「ちょっと静かにして!?」と言いたくなる時もありますが、思春期にもなれば逆に「たまには話してくれないかな」とさみしくなるのかもしれないなと思い、コウのおしゃべりをありがたく聞いている今の私です。
専門家コメント 井上雅彦先生(公認心理師)
丸山さんが記事で書いておられるように「クレーン」も「オウム返し」もその時期の子どもにとって、もっとも便利な要求を伝えるための道具です。これらの行動を否定せず、少しずつバージョンアップして、会話につなげていくのはコミュニケーション支援の基本でもあります。要求を達成するための道具としてのコミュニケーションだけでなく、コミュニケーション自体を楽しむことができるようになるのはそのあとになります。ここまでの長いステップを丸山さんが実践されたことは、常に子どもさんの視点に立って行動の意味を考えるというスタンスがあったからではないでしょうか。(監修:公認心理師 井上雅彦先生)
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