見守る、寄り添うから一歩進んで。幼稚園や学校で話したいのに話せない「場面緘黙」の子どもの支援がわかる本「子どもの場面緘黙サポートガイド」。著者インタビューも
ライター:発達ナビBOOKガイド
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合同出版
家庭ではしゃべることができるのに、幼稚園や学校などの集団の中ではことばを発することができない、「場面緘黙(ばめんかんもく)」。支援が必要なのに、まだあまり知られていないことから取り残されている子どもたちがいます。「イラストでわかる 子どもの場面緘黙サポートガイド~アセスメントと早期対応のための50の指針」を紹介します。
場面緘黙には支援が必要
家庭ではしゃべることができるのに、幼稚園や学校などの集団の中ではことばを発することができない、「場面緘黙(ばめんかんもく)」。山口県下関市かねはら小児科院長の金原洋治さんと、長野大学社会福祉学部准教授の高木潤野さんの共著、「イラストでわかる 子どもの場面緘黙サポートガイド~アセスメントと早期対応のための50の指針」は、そんな場面緘黙の子どもたちの理解を深め、具体的にどう支援・指導したらいいかを書いた本です。
緘黙という漢字は、かんもくと読み、口を閉じてしゃべらないことを意味します。場面緘黙とは文字通り、場面によって緘黙になること。話す力があるのに、学校などでは話せなくなってしまう状態で、小学生で500人に1人くらいいると考えられているそうです。例えば、家族の前では普通に話せるのに、学校では話せない、声を発することができないのが、場面緘黙の子どもです。
イラストでわかる 子どもの場面緘黙サポートガイド~アセスメントと早期対応のための50の指針
合同出版
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場面緘黙の原因はさまざまです。本の中にある、「なぜ話せないのでしょうか?」という項目では、4つの理由が挙げられることが多いとして例が紹介されています。
(1)声を聞かれるのが怖かった
(2)話そうと思うとノドがギュッとしまった感じになっていた
(3)人の反応や他者からの否定的評価が怖かった
(4)もともと家以外の場所で話すのが苦手で、何を話せばよいかわからなかった
(P15)より
本人が抱えている不安要素と、環境によるストレスやきっかけがあって、場面緘黙は発症するのだそうです。
話したくても話せない、声が出ない。でも周りからは、どうして話せないの?と言われてしまう。ほんとうは特別な支援が必要なのに、まだあまり知られていないということが、問題なのです。
話したくても話せない、声が出ない。でも周りからは、どうして話せないの?と言われてしまう。ほんとうは特別な支援が必要なのに、まだあまり知られていないということが、問題なのです。
まず、場面緘黙について知ってもらうことからスタート
ほかのさまざまな障害や症状と同様に、場面緘黙もまずは「知ってもらう」ことがとても重要です。この本には、主に学校の先生や指導者向けに、場面緘黙の支援のしかたが書かれていますが、保護者が知っておきたい情報もたくさんあります。
たとえば、場面緘黙の子どもをサポートするときに大切なこととして、「最初にするべき2つのこと」と、「してはいけない4つのこと」が紹介されています。
するべき2つのことは、
(1)保護者との連携
(2)「アセスメント」(一人ひとりに合った対策を考えること)
家庭ではふつうに話せていても、学校での様子からだけではそういう姿を想像することができません。ですので、家庭での様子を学校の先生に伝えることがとても大切です。また、家では普通に話せているので問題に気づけておらず、学校の面談などで「話していません」と言われて保護者が初めて知る、ということもあります。そのときに、学校側が場面緘黙についてよく知っていれば、効果的に連携しながら対応していくことができます。
保護者は我が子のことを一番よく知っている、我が子の「専門家」です。だから、保護者と学校とが連携して、支援していくことが大切になります。学校は家庭での子どもの様子を知る必要があるからです。その上で、一人ひとりの対応(アセスメント)を考えていくことになります。
してはいけない4つのことは、
(1)放置する
(2)話すことを強制する
(3)恐怖を与える
(4)個別性を無視して対応する
これらは、学校での指導方法についてですが、家庭でも気をつけなくてはいけないこともあるでしょう。「学校でちゃんとお話しなさい!」と叱ることは、話せない子どもを追い込んでしまうことになってしまうからです。
子どもが一番困っているということを、保護者も先生も理解して、そして連携してサポートすることが大切なのです。
たとえば、場面緘黙の子どもをサポートするときに大切なこととして、「最初にするべき2つのこと」と、「してはいけない4つのこと」が紹介されています。
するべき2つのことは、
(1)保護者との連携
(2)「アセスメント」(一人ひとりに合った対策を考えること)
家庭ではふつうに話せていても、学校での様子からだけではそういう姿を想像することができません。ですので、家庭での様子を学校の先生に伝えることがとても大切です。また、家では普通に話せているので問題に気づけておらず、学校の面談などで「話していません」と言われて保護者が初めて知る、ということもあります。そのときに、学校側が場面緘黙についてよく知っていれば、効果的に連携しながら対応していくことができます。
保護者は我が子のことを一番よく知っている、我が子の「専門家」です。だから、保護者と学校とが連携して、支援していくことが大切になります。学校は家庭での子どもの様子を知る必要があるからです。その上で、一人ひとりの対応(アセスメント)を考えていくことになります。
してはいけない4つのことは、
(1)放置する
(2)話すことを強制する
(3)恐怖を与える
(4)個別性を無視して対応する
これらは、学校での指導方法についてですが、家庭でも気をつけなくてはいけないこともあるでしょう。「学校でちゃんとお話しなさい!」と叱ることは、話せない子どもを追い込んでしまうことになってしまうからです。
子どもが一番困っているということを、保護者も先生も理解して、そして連携してサポートすることが大切なのです。
個別性に注目して対応を考えるための、たくさんの事例
「してはいけない4つのこと」の4番目「個別性を無視して対応する」とは、「場面緘黙の子は○○すれば治る」というように、ほかの子に当てはまってうまくいった前例があるからこのやり方がいいのだ、と決めつけてかかることです。
話せない理由は子どもそれぞれに違うので、その子自身をよく観察しないとうまくいきません。個別性に注目して対応を考えることが大切なのです。そのために、この本には、たくさんの場面ごとの事例と、支援のしかたが具体的に紹介されています。
たとえば声を出すための活動として、言うことが決まっている方が話しやすいならば、あいさつの言葉や係活動のセリフ、教科書の音読や九九の暗唱などからスタートする方法もあります。
たとえば声を出すための活動として、言うことが決まっている方が話しやすいならば、あいさつの言葉や係活動のセリフ、教科書の音読や九九の暗唱などからスタートする方法もあります。
仲のいいお友だちがいるけれど、ほかの子がいると話せなくなってしまう子どもの場合、その子に家に遊びに来てもらうようにして、徐々に話ができるようにしていく、というステップをふむ方法もあります。
このように、子ども自身が話せるようになるための方法が第2章「場面緘黙の子どもを支援する視点とやり方」で紹介され、第3章「環境調整・かかわり方の工夫・合理的配慮」では環境の整え方や配慮についてたくさんの具体的なサポート方法が書かれています。第4章「特別支援教育制度をどう活用するか 関係機関とどう連携するか」では、特別支援教育の制度の活用のしかたもガイドされています。
場面緘黙の子どもが、声を発することができるようになるまでのまさに「オールガイド」がこの本です。
場面緘黙の子どもが、声を発することができるようになるまでのまさに「オールガイド」がこの本です。
著者に聞く「子どもの場面緘黙」
ここからは、著者の金原洋治さん(山口県下関市かねはら小児科院長)と、高木潤野さん(長野大学社会福祉学部准教授)に、この本について教えていただきます。
編集部(以下――):まず、お二人が場面緘黙について研究を始めたのは、どのようなきっかけがありましたか?
金原洋治さん(以下、金原):開業して2年目の2000年に、「親と子どもの心の相談室」(2004年より「発達支援室ベースキャンプ」)を開設しました。臨床心理士や作業療法士にも協力してもらい、運営しています。ここでの相談が増えるにしたがって、場面緘黙の子どもにも多く出会うようになりました。ことばの教室(通級指導教室)に紹介することが多かったのですが、発達や心の問題が関係しているケースを多く経験し、小児科医が関わる必要を感じるようになりました。
高木潤野さん(以下、高木):学校で働き始めてからずっと、言語・コミュニケーション障害に関わる仕事を行ってきたので、場面緘黙の子たちと会う機会も多くありました。でも、文献などを調べたところ、場面緘黙についての情報が少なく、研究も十分に行われていないということがわかりました。そこで、2010年に長野大学に着任してから、場面緘黙の研究に本格的に着手しました。
――今はまだ、場面緘黙はあまり知られていないことが課題、と本にも書かれていますが、今後、どのように知られていくようになるといいと思われますか?
高木:場面緘黙への理解は広がりつつありますが、専門家や研究者が少ないことが大きな課題だと考えています。せっかく医療機関や地域の相談機関などにつながっても、適切な支援や治療などが受けられない、というケースは少なくありません。特に研究者の少なさは顕著です。
そこで、親の会や当事者団体、支援者団体などのネットワーク作りが大事だと思い、そういったことをサポートする活動もこれまで行ってきました。こういった団体が多くできれば研究も行いやすくなります。またそれぞれが地域に働きかけていけば、支援の必要性が理解されやすくなります。研究が増え、地域からのニーズも増えれば、専門的な知識のある臨床家も増えていくはずと考えています。
――この本では、たくさんの場面ごとの事例と支援のしかたが紹介されていますね。
金原:まず私が、医療機関に受診された場面緘黙の方々のなかでよく見られる症例を組み合わせた形で症例を提示し、診療の実際や症例の解説を書きました。その後、教育現場での細やかなサポート法について高木先生に解説していただく流れでまとめていきました。
各項目、見開き1〜2ページにおさめてイラストを多用し、どこからでも読める構成にしています。ご多忙な現場の先生にも手をとっていただきやすいようにという思いからです。また後半には学校でのアセスメント方法を掲載し、気づいてもらうための資料について、かんもくネットさんに協力していただきました。
――読者のみなさんに、この本をどのように活用してほしいですか?
金原:場面緘黙の子どもは、ほかの発達障害などと比べて、担任として受け持った経験が少ない先生が多いと思います。その1つの要因として、場面緘黙の子どもは困ったことをアピールできず、人知れず困り感を抱きながら学校に通っていることが挙げられます。場面緘黙に気づかれにくく、気づいてもどのようにして関わったらいいかがわかりにくいのです。本で紹介しているさまざまなタイプの子どもの教育場面でのサポート法を参考にしていただき、学校全体で支援の方法を共有して欲しいと思っています。
また、あまり知られていませんが、場面緘黙は特別支援教育の対象です。困り感を自分でアピールできず、人知れず困っている場面緘黙がある人たちの存在を、この本を通して多くの方に知って、そして理解していただけるとうれしいです。
――高木さんは、この本だけでなく、動画でも場面緘黙についての情報発信をしていらっしゃいますね。
高木:場面緘黙の子どもたちに直接メッセージを伝えたいと考えて、YouTubeで「はなせるTV」というチャンネルを開設しました。小学生の場面緘黙の症状のある女の子が協力してくれたので、子どもにも見てもらいやすい動画をと思い、発信中です。
編集部(以下――):まず、お二人が場面緘黙について研究を始めたのは、どのようなきっかけがありましたか?
金原洋治さん(以下、金原):開業して2年目の2000年に、「親と子どもの心の相談室」(2004年より「発達支援室ベースキャンプ」)を開設しました。臨床心理士や作業療法士にも協力してもらい、運営しています。ここでの相談が増えるにしたがって、場面緘黙の子どもにも多く出会うようになりました。ことばの教室(通級指導教室)に紹介することが多かったのですが、発達や心の問題が関係しているケースを多く経験し、小児科医が関わる必要を感じるようになりました。
高木潤野さん(以下、高木):学校で働き始めてからずっと、言語・コミュニケーション障害に関わる仕事を行ってきたので、場面緘黙の子たちと会う機会も多くありました。でも、文献などを調べたところ、場面緘黙についての情報が少なく、研究も十分に行われていないということがわかりました。そこで、2010年に長野大学に着任してから、場面緘黙の研究に本格的に着手しました。
――今はまだ、場面緘黙はあまり知られていないことが課題、と本にも書かれていますが、今後、どのように知られていくようになるといいと思われますか?
高木:場面緘黙への理解は広がりつつありますが、専門家や研究者が少ないことが大きな課題だと考えています。せっかく医療機関や地域の相談機関などにつながっても、適切な支援や治療などが受けられない、というケースは少なくありません。特に研究者の少なさは顕著です。
そこで、親の会や当事者団体、支援者団体などのネットワーク作りが大事だと思い、そういったことをサポートする活動もこれまで行ってきました。こういった団体が多くできれば研究も行いやすくなります。またそれぞれが地域に働きかけていけば、支援の必要性が理解されやすくなります。研究が増え、地域からのニーズも増えれば、専門的な知識のある臨床家も増えていくはずと考えています。
――この本では、たくさんの場面ごとの事例と支援のしかたが紹介されていますね。
金原:まず私が、医療機関に受診された場面緘黙の方々のなかでよく見られる症例を組み合わせた形で症例を提示し、診療の実際や症例の解説を書きました。その後、教育現場での細やかなサポート法について高木先生に解説していただく流れでまとめていきました。
各項目、見開き1〜2ページにおさめてイラストを多用し、どこからでも読める構成にしています。ご多忙な現場の先生にも手をとっていただきやすいようにという思いからです。また後半には学校でのアセスメント方法を掲載し、気づいてもらうための資料について、かんもくネットさんに協力していただきました。
――読者のみなさんに、この本をどのように活用してほしいですか?
金原:場面緘黙の子どもは、ほかの発達障害などと比べて、担任として受け持った経験が少ない先生が多いと思います。その1つの要因として、場面緘黙の子どもは困ったことをアピールできず、人知れず困り感を抱きながら学校に通っていることが挙げられます。場面緘黙に気づかれにくく、気づいてもどのようにして関わったらいいかがわかりにくいのです。本で紹介しているさまざまなタイプの子どもの教育場面でのサポート法を参考にしていただき、学校全体で支援の方法を共有して欲しいと思っています。
また、あまり知られていませんが、場面緘黙は特別支援教育の対象です。困り感を自分でアピールできず、人知れず困っている場面緘黙がある人たちの存在を、この本を通して多くの方に知って、そして理解していただけるとうれしいです。
――高木さんは、この本だけでなく、動画でも場面緘黙についての情報発信をしていらっしゃいますね。
高木:場面緘黙の子どもたちに直接メッセージを伝えたいと考えて、YouTubeで「はなせるTV」というチャンネルを開設しました。小学生の場面緘黙の症状のある女の子が協力してくれたので、子どもにも見てもらいやすい動画をと思い、発信中です。
高木:私のところに相談しに来ることができるのは、保護者の理解や行動力があるなど環境面で恵まれている子たちが大半です。ですが、一人っきりで問題を抱えながら、誰にも相談できない、誰からも助けてもらえないで困っている子もいます。そうした子たちに、「はなせるTV」を通して少しでも希望や安心感をもってもらえることができたら嬉しいです。
――場面緘黙について、学校の先生だけでなく、子どもたち自身にも知ってもらうことができそうですね。まず正しく知ること、その次にどうしたらいいでしょうか。
高木:この本でたくさんの事例とともに紹介したように、場面緘黙の研究からわかった、具体的な支援の方法やテクニックがあります。カウンセラーや教師が具体的な実践方法を理解することで、「見守る」「寄り添う」だけで終わらないさらに進んだ対応ができるようになると考えています。
――保護者としては、どのようにこの本を活かすことができるでしょうか?
高木:この本では、「何をしたらいいのか」をなるべくわかりやすく書いたつもりです。でも、学校の先生はとても忙しいです。「1冊全部読んでください」と言われても、なかなかそういう時間がとれません。
保護者の方が先生と相談されるときは、あてはまりそうな事例を、本を開いて見せながら話していただければと思います。例えば小学6年生の子の保護者が中学校進学前に行う準備としては、118ページからの「環境の変化を活かす」の項目が参考になると思います。もちろん、本の全体を読んでもらえれば理解は深まりますが、まずは必要なところを読んでもらうだけでも、かなり参考にしていただけると思います。
高木:この本でたくさんの事例とともに紹介したように、場面緘黙の研究からわかった、具体的な支援の方法やテクニックがあります。カウンセラーや教師が具体的な実践方法を理解することで、「見守る」「寄り添う」だけで終わらないさらに進んだ対応ができるようになると考えています。
――保護者としては、どのようにこの本を活かすことができるでしょうか?
高木:この本では、「何をしたらいいのか」をなるべくわかりやすく書いたつもりです。でも、学校の先生はとても忙しいです。「1冊全部読んでください」と言われても、なかなかそういう時間がとれません。
保護者の方が先生と相談されるときは、あてはまりそうな事例を、本を開いて見せながら話していただければと思います。例えば小学6年生の子の保護者が中学校進学前に行う準備としては、118ページからの「環境の変化を活かす」の項目が参考になると思います。もちろん、本の全体を読んでもらえれば理解は深まりますが、まずは必要なところを読んでもらうだけでも、かなり参考にしていただけると思います。
子どもが学校で、どうしたら話せるようになるかの支援がわかる本
学校の先生向けに書かれた本ですが、保護者にとっても、学校と連携して子どものサポートをするために役立つことがたくさんある本です。理解して見守るというだけでなく、実際にどういう方法で子どもと向き合ったらいいか、場面ごとのサポート方法が書かれている『イラストでわかる 子どもの場面緘黙サポートガイド~アセスメントと早期対応のための50の指針』。場面緘黙の子どもが、話したいのに話せないつらさから楽になるために役立つ一冊です。
取材・文/関川香織
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