学校への漠然とした不安や生きづらさを抱える子どもたちに、3人の専門家が寄り添うーー『明日、学校へ行きたくない 言葉にならない思いを抱える君へ』

ライター:発達ナビBOOKガイド
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学校への漠然とした不安や生きづらさを抱える子どもたちに、3人の専門家が寄り添うーー『明日、学校へ行きたくない 言葉にならない思いを抱える君へ』のタイトル画像

学校に行くのがなんとなくつらい、陰口を言われるのがつらい、なんでふつうのことができないんだろう…子どものころ、こんな風に感じたことがある人はいないでしょうか。『明日、学校へ行きたくない 言葉にならない思いを抱える君へ』は生きづらさを抱える子ども、かつてそうだった大人たちの心の声を丁寧に拾い上げ、茂木健一郎さん・信田さよ子さん・山崎聡一郎さんの3人の専門家が一緒に考えます。きっと、本の中に同じ悩みを抱えた誰かに出会えるはずです。

つらい思いを抱えている人に、じっくりと寄り添うためにできた本

みなさんは「9月1日問題」を知っていますか。子どもの自死がいちばん多いのは、夏休み明けの9月1日であることが2015年の法務省の統計から明らかになりました。最近では、2学期の開始時期が学校ごとに異なっており、ばらつきはあるものの、やはり夏休み明け前後には痛ましいニュースが増える傾向にあります。

「9月1日問題」が社会に広く知られるようになり、子どもたちの命を守るためにさまざまな取り組みが行われるようになってきました。ニコニコ生放送番組『明日、学校へ行きたくない』はその取り組みのひとつで、『明日、学校へ行きたくない 言葉にならない思いを抱える君へ』は、この番組をもとに書籍化された本です。
明日、学校へ行きたくない 言葉にならない思いを抱える君へ
茂木健一郎、信田さよ子、山崎聡一郎
角川書店
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本書では、生きづらさを抱えている子どもたちやその保護者、そしてかつてそうだった大人たちからの投稿をもとに、3人の専門家が一緒に考え、語る形で進んでいきます。
3人の専門家の紹介
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3人の専門家は、「こども六法」を出版している教育研究者の山崎聡一郎さん、公認心理師でカウンセラーとして多くの人の悩みや不安を聞いている信田さよ子さん、脳科学者として個性が尊重される学びのあり方について社会に発信している茂木健一郎さん

本を読み進めると、気づくことがあります。それは、寄せられた投稿に対して、3人ともすぐに解決方法を提示するなどアドバイスはせず、いろいろな角度から悩みを解剖していること。

どうしてでしょうか。

本書を企画した山崎さんは、「まず生の声をていねいに聞いていきたい」と考えたからだといいます。「いじめがつらい」「学校に行きたくない」「自分は誰からも必要とされていない気がする」「学校を休んだら将来が心配」…子どもたちは、さまざまな悩みを抱えて生きています。もしかしたら、いじめにあって学校を休んではいるけれど、学校には行きたい子だっているかもしれませんよね。

「学校へ行きたくない」のであれば、「休んだらいいんじゃない」というアドバイスに落ち着くのではなく、ひとりひとりの声に真摯に耳を傾けていく必要があるのではないかと山崎さんは訴えます。もしかしたら、いいアドバイスはできないかもしれない…でも、投稿してくれた「あなた」と大人も一緒に悩んで寄り添いたい、読んで少しでもホッとしてもらいたい、そう願ってできあがった本です。

本書の目次を一部要約してご紹介します。寄せられた体験談をもとに3人の専門家が対話を重ねます。各章にはコラムがあり、それぞれの専門に基づいてテーマを深く掘り下げて解説しています。
1章 明日、学校へ行きたくない
【体験談】勉強も学校もトラウマ/スクールカーストが怖い/人が怒られているのを見ているのがつらい/陰口がいやなだけで学校には行きたい
【コラム】不登校について考える/カウンセリングの役割/脳と不登校/明日、学校へ行きたくない君へ
【特別対談】『不登校新聞』石井編集長×山崎先生 不登校という生き方

2章 どこにも居場所がない
【体験談】学校ではいじめ、家ではDVを受けてきた/制服のスカートを履くのが苦痛だった/夢も目標もなくまわりの目がこわい
【コラム】脳と居場所について/これからの世の中に必要な関係性/助けを求められる場所/どこにも居場所がないと思っている君へ

3章 将来に希望をもちたい
【体験談】姉妹でフリースクールに通っている/学校に行くのはつらいけれど、進学できなくなるのが不安/子どもが発達障害を抱えている
【コラム】生きていくための道しるべ/「九月一日」に注意する理由/学校と社会の未来/生きていくために大切なこと/将来に希望をもちたい君へ

巻末 おすすめの本紹介/学校へ行かなかった私から/エピローグ漫画/未来に生きる君たちへ/大人の読者に向けて/困りごとや悩み事がある君へ/おわりに

それでは、さっそく本書の内容を少しだけご紹介しましょう。

学校へ行きたくない君へ

悩みのページ
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第一章は、学校に悩みを抱えている人たちからの投稿です。

投稿した20代前半の女性は、学校でクラスの担任の先生が厳しく、他の子が怒られているのを見るのがつらくて学校を休みがちになってしまったそう。

今も職場で誰かが怒られているとビクビクしてしまうものの、席を外せます。でも学校では、席を外すことができませんよね。自分と似たタイプの子どもは、かつての自分と同じようにつらい思いを抱えているのではないかと感じているそうです。
悩みについて3人の専門家がいっしょに考えるページ
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この声をうけて、信田さんは「面前DV」という言葉を紹介します。面前DVとは、子どもの見ている前でDV(ドメスティック・バイオレンス:配偶者や親密な関係にある人・あった人から、振るわれる暴力のこと)が起きて、子どもが心理的な虐待を受けることです。

学校の先生の怒鳴り声も同じことが当てはまり、“人が人を支配したり傷つけたりしているのを見るということは、自分がされるのと同じくらい傷つく”ことを、大人は知る必要があります。

一方、茂木さんは、感受性は人によって違うため、その違いをお互いに認め合わないといけないのではないかと指摘します。BGMがかかっているのが気にならない人もいるし、つらい人もいます。人によって感じ方が違うから、無菌状態にするのは難しいですよね。

ただ、ここで気をつけなければいけないのは、「感じ方の違い」です。信田さんによると、“ある子にとってはいじめであることが、ある子にとってはいじめでないという話になりがち”であるからです。加害者側が「感じ方の違い」について、いじめを肯定する理論としてうまく使うことが多いため、加害者側の意見になってはいないかをしっかりと考えることが重要です。

子どもの感受性が繊細であるために、学校の先生の怒る姿がつらいことに対して、山崎さんは
感じ方や受け取り方が人によって異なるということを理解した上で、自分の言動によって他の人がどう感じるかを意識することも大切ですよね。とくに子どもの感受性については、大人がきちんと気にかける必要があると思います。(43ページ)
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4041100437/
また山崎さんは、“受け取り方のちがいで、ネット炎上がおこるというケースもあります”として、SNSのやりとりの難しさについても言及し、“「そこはそう考える人もいるんだ」というあきらめ方をして、バランスをとっていくのも人間関係かなと思います。それを身につけなければいけないとは言いたくないですけれどね。”と、解決策のひとつを提案しています。

共感し、励ましてくれる仲間に本の中で会える

専門家と一緒に考えるページの下に「みんなの声」が載っていることに気づいた人もいるかもしれません。この「声」は、生放送中に3人の対談に寄せられたコメントです。

「怒られるのを見るの苦手わかる」「怒る声ってやだ」「先生怒りそうな感じがわかると怖い」「自分は咳払いだけでもびくびくする」「学校には行きたいと思えてるだけ強い」「行かないのも勇気だよ」「ネットにつながってる時点で閉じこもってないから安心しろ」「これから良いことあると良いな」

「みんなの声」は、相談している投稿者と同じような悩みを抱えている人、かつて抱えていた人からの共感と励ましと優しさで、あふれています。悩みを抱えている人は、ひとりではないんです。3人の専門家とともに「みんなの声」もまた、悩んでいる誰かのためにそっと寄り添ってくれる気がして、とても勇気づけられますね。

どこにも居場所がないと思っている君へ

山崎さんのコラム「助けを求められる場所」
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第2章は「居場所」がテーマです。

“「だれも自分のことなんて必要としていないんじゃないか」
「自分なんて生きている価値がないんじゃないか」“

と思ったことはないでしょうか。

山崎さんはコラムの中で、子どものころも、そして今もまだこの悩みを抱え続けていると言います。そして、自分だけに限らず、人類に共通する悩みだとも指摘します。

何度も死のうと考えたり、遺言状を書いたりもした山崎さん。自分のつらい思いをSNSで吐き出したところ、多くの友人や恩人たちが、飲み会や遊びに誘ってくれたそうです。
大切なのは、助けをだれかに求めることではなくて、周囲の「助けよう」という気持ちを受け入れられるようになることではないかな、と思っています。そのときに自分の中でつっかかっているものを外すことができれば、公園の草木や雲の流れさえ、自分の存在を肯定してくれているような気がしています。(91ページ)
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4041100437/
この感覚に気づくためには、自分がつらいと感じる学校や家から離れて、静かに過ごす環境を見つけて、自分を助けてくれる友人の声を受け入れられるようになるまで、“じっくりと、ひとりになって「ただ生きているだけ」の時間が必要”だそう。

自分を否定されない場所をさがそう

それでは、つらいときに「助けを求められる場所」は、どんなところなのでしょうか。山崎さんは、助けを求められる場所を“自分が否定されずにすむ場所”だといいます。
助けを求められる場所は、“学校や家庭にあれば幸せだし、友だちのそばかもしれないし、公園のような空間かもしれない。具体的に手を打ってくれる人かもしれないし、一言も発しない動物かもしれない。現実世界かもしれないし、オンラインの世界かもしれない。そこに助けを求めることは、恥ずかしいことでも何でもなく、生きるために必要なことなのです。(91ページ)
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4041100437/

将来に希望を持ちたい君へ

第3章のテーマは、希望です。

学校を休みがちだったり、不登校だったり、フリースクールに通っていたり…学校の外にいる人にとって、学校というコースの外には、希望を持てないかもしれません。この章では、将来に希望をもてないと感じている人たちからの相談を一緒に考えていきます。

軽度発達障害のある小学生をもつお母さんからの相談では、子どもは“「学校ではいじめられるし、怒られるし行きたくない」”と言っているそうで、お母さんは“笑顔で過ごした子ども時代をできるだけ増やしてあげたい”と願っています。
これに対して、3人の専門家がそれぞれの意見を述べています。

その中で茂木さんは、
能力ということに関していえば、そもそも発達障害は劣っているということではなくて、ほかの人と能力のメリハリが違うと言うことだと思うんですよ。ディスレクシアの人の中には、人の話を聞いて理解して言葉でコミュニケーションをとる力が発達している人が多い
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4041100437/
として、

“そういうことを認知科学では「望ましい困難(Desirable difficulties)」といって、見方を変えれば、発達障害のお子さんは望ましい困難をもっているともいえる”と考えを述べています。

本書では、対談中に出てくる専門的な言葉について、専門家がそれぞれわかりやすく解説し「最新の情報」を知るのにとても役立ちます。それでは「望ましい困難」とはどんなことなのでしょうか。

“学習をする上で、なんらかの難しさがあるとき、それを乗り越えるとかえって深く強い学びをすることができるときに、障害になっていること”を「望ましい困難」といいます。

脳に通常より強い負荷がかかるため、神経回路網の学習がより進むのだろうと考えられています。難しさを乗り越えようと頑張るなかで、簡単に問題を解決するよりも深く、独創的なひらめきが生まれることさえあるのです。

しかし一般的には、難しさは好ましいものと認識されていないために、“お父さん、お母さんには子どもの応援団になってほしい”、そして“「うちの子、だめなんだ」じゃなくて、ものすごくいい個性があるんですと信じてほしい“と茂木さんは訴えます。

まとめ

「わかる オレもそうだった」「子どもだって疲れるよね」などさまざまな子どもたちの声
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茂木さんが“子どもが子どもでいるだけで肯定される社会になってほしい。それがぼくの願いです”と言うように、生きづらさを抱えている子どもたちが笑顔で過ごせるような社会にしていかなければいけませんよね。本書は当事者が読むだけでなく、当事者たちがどんな風に感じているのかを理解するための第一歩にとても役立つ本ではないでしょうか。

山崎さんは、本書の終わりに「明日、学校へ行きたくない」あなたに向けて、こんなことを言っています。
人生は生きているだけで素晴らしいもの。起きて、ご飯を食べて、深呼吸をして、また眠る。近所の散歩を取り入れて身体を動かすともっと素敵です。「何とかしなきゃ」とあせる必要も、「何もしてない自分なんて」と嘆く必要もありません。高く跳ぶためには一度しゃがまないといけません。「今なら跳べる!」と思えるときが来るまで、しっかりしゃがんで力を蓄えることが大切なのです。(142ページ)
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4041100437/
あなたがあなたなりの人生を歩む助けになったらいいな、と思います。まずは自分のために、自分がいちばんいいと思う選択をして、自分の人生を自分のものにしてください。(143ページ)
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4041100437/
学校へ行きたくない、生きづらい、なんとなく毎日がつらい…うまく言葉にできないけれど、心の中にモヤモヤとしたものを持っている誰かのそばで、本書はそっと寄り添い、つながり、ほっとできる居場所になってくれるはずです。

文/赤沼美里
明日、学校へ行きたくない 言葉にならない思いを抱える君へ
茂木 健一郎 (著), 信田 さよ子 (著), 山崎 聡一郎 (著)
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