【監督インタビュー】「撮りたかったのは、支えあう人々の物語」 ダウン症の娘と年老いた父親の家族の形を描く『わたしはダフネ』7月公開。撮影現場でのエピソードも

2021/06/27 更新

ダウン症がある30代の女性と、その家族の姿を描いたイタリア映画「わたしはダフネ」は、障害がある子どもを親が一身に支えるのではない、互いを信じあえるようになったとき、一方通行ではなく支えあう家族の形が生まれていくさまが描かれた作品です。
自分をしっかりと持ち、毎日の暮らしの中に喜びと誇りを見出すダウン症のダフネの姿に勇気づけられる作品です。今回は、この映画の監督であるフェデリコ・ボンディさんにインタビューを行いました。

発達ナビ編集部
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母親を失い、イキイキとしていたダフネの生活に変化が訪れる

【監督インタビュー】「撮りたかったのは、支えあう人々の物語」 ダウン症の娘と年老いた父親の家族の形を描く『わたしはダフネ』7月公開。撮影現場でのエピソードもの画像
ダウン症のあるダフネと、父親ルイジ (c) 2019, Vivo film - tutti i diritti riservati 配給:ザジフィルムズ
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ダウン症がある30代の女性と、その家族の姿を描いたイタリア映画「わたしはダフネ」。

信頼する母親が突然亡くなり、茫然自失とする父親と二人きりになったところから物語が描かれます。自分をしっかりと持ち、毎日の暮らしの中に喜びと誇りを見出すダウン症のダフネと、お酒ばかり飲みお店をなかなかあけることができないでいる年老いた父。

障害がある子どもを親が一身に支えるのではない、互いを信じあえるようになったとき、一方通行ではなく支えあう家族の形が生まれていくさまが描かれた作品です。
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フェデリコ・ボンディ監督へ発達ナビ編集長がインタビュー

今回、この映画の監督である、フェデリコ・ボンディさんに、LITALICO発達ナビ編集長・牟田がインタビューを行いました。

このコラムでは、そのインタビューの様子をご紹介します。
フェデリコ・ボンディ監督
フェデリコ・ボンディ監督 (c) 2019, Vivo film - tutti i diritti riservati 配給:ザジフィルムズ
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編集部 牟田(以下、――):映画を描くきっかけになったのは、バス停でバスを待つ親子の姿を見かけたことだったそうですね。

フェデリコ・ボンディ監督(以下、監督):ええ、偶然目にした光景がこの映画を作るきっかけとなりました。渋滞中に、車の窓から外を見ると、バス停で年をとった父親と、背の低い30代くらいのダウン症のある女性が、手を握り合っていたのです。父親は目がうつろでした。そのとき私がまず思ったのは「母親はどこに?」ということ、そして「どちらがどちらをささえているのだろう?」ということでした。手を握り合っていたことがとても印象的で、「握り合う手のような映画を撮りたい」と思ったのです。

――:お互いを支え合うということをテーマにした映画を作りたいと思ったということでしょうか。

監督:支え合う人々の物語を撮りたいと思ったのです。でもこれは、私にとっては未知の分野でした。そこで、住まいのあるフィレンツェの協会を尋ね、そこに所属している(ダウン症がある人の)保護者と対話を重ねました。一人では脚本を書くことすら難しかったと思っています。そして、いろんなご家庭を訪問する中で、保護者の皆さんとの話しは、どんな心理学者と話すことよりも豊かだと感じました。

――:ダウン症のある女性とその父親が手を握り合っていた。一般的には、父親のほうが障害のあるわが子を支えると考えがちだと思いますが、そのようにさまざまなご家庭を訪ねて気づいたことはあったのでしょうか?

監督:ダウン症がある人とそのご家族と話をするようになってすぐに分かったのは「ダウン症の有無にかかわらず、誰一人同じではない」ということです。定型発達と言われる人も一人ひとり違うように、ダウン症がある人も一人ひとり違うということです。

そもそも、私はダウン症についての映画を撮ろうと考えていたわけではありません。インクルージョンはとても大切なテーマではありますが、私がまず描きたいと思ったのは、一人ひとりがもつ資質についての物語です。そして、回復の物語です。主人公であるダフネは母を亡くします。年老いた父親を支えなくてはいけないし、自身の痛みとも向き合わなくてはいけない。そこからどのような反応をしていくのかを描きたいと思いました。
スーパーの同僚と話をするダフネ
スーパーの同僚と話をするダフネ (c) 2019, Vivo film - tutti i diritti riservati 配給:ザジフィルムズ
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――:主人公であるダフネを演じているカロリーナは、ダウン症があり、主人公と同じようにスーパーで働いています。そしてポジティブな女性ですよね。

監督:彼女は自信がありすぎるくらいありますよ!ベルリン映画祭でのインタビューで何と言ったと思います?「この作品は大傑作です!こんな素晴らしい映画はほかにありません!」そして私に向かって「あなたもよくやったわよね。この傑作が生まれたのにはあなたの貢献もあると思う」と(笑)

――:スーパーで、同僚の女性が「この仕事はつなぎだから。食べていくためにやっている」というようなことを言うシーンがありました。ですが、仕事に誇りを持つダフネと話すうちに、自分のやっていることって素敵なのかもと気づかされる描写でした。監督は、そうした姿勢をカロリーナから感じて描かれたのでしょうか?

監督:カロリーナだけでなく、他のダウン症がある人々からも仕事への誇りは強く感じました。カロリーナ自身、スーパーで働いていて、彼女はワインの棚を担当しているのですが、彼女の持ち場のワイン棚はとても整然としているんですよ。

また、カロリーナの素晴らしいところは、(前向きさや仕事へのプライドだけではなく)そのアイロニー(皮肉)の精神です。自分自身を客観的に見ることができる力があるのです。

映画の撮影中、カロリーナに「泣いたほうがいい」とアドバイスされたんです。泣くことで心を解放できるからと。でもその時は特に泣きたい気持ちでもなかったし「映画が完成したらきっと泣くよ」と言ったのですね。映画が完成して初めての試写が終わったときに彼女が電話をしてきて、開口一番に「泣いた?」と。泣いてないと答えると「泣くって約束したじゃない!」と怒って、そして言ったんです。「泣くための薬を飲むべきよ」って。

映画の中に、母親が亡くなって泣いているダフネに父親が薬をすすめるシーンがあるのですが、それを踏まえてのジョークです。アイロニーのセンスが素晴らしいなと感嘆しました。
撮影中のフェデリコ・ボンディ監督と、ダフネ役のカロリーナ
撮影中のフェデリコ・ボンディ監督と、ダフネ役のカロリーナ (c) 2019, Vivo film - tutti i diritti riservati 配給:ザジフィルムズ
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――:映画の中には「涙を止める薬なんていらない。私は泣きたいの」「人生はしんどいの。だから人間なの」など、哲学的なセリフがいくつか登場します。そうしたセリフにもカロリーナの影響はあるのでしょうか。

監督:カロリーナと両親や同僚、友人との会話をかなり観察しました。そこから得たものもあるし、手紙や電話でひんぱんにやりとりをしていたから、そこから得たものもあります。そこで気づいたのは、カロリーナの中にある「生きる喜び」や「人生を楽しみたい」という思いの強さです。彼女は自分自身の弱さを力に変える力がある。ひっくり返す力があるのだと思いました。
彼女のアイロ二―のセンスも、自分を客観視できるからこそ。自身を客観視できるから、弱さも強さに変えることができるのです。

――:私自身、重度の障害がある娘がいます。ダフネ、そしてカロリーナが自分に自信をもって生きている、その姿を見て、わが子にも彼女のように人生を楽しめるような人になってほしい、それができるように育てられたらと感じました。

監督:カロリーナの両親は、彼女に絶大な信頼を置いています。彼女が自立できるようにすべての手を尽くしているところが素晴らしいと感じました。

――:娘は自立までは難しいかもしれないのですが…娘は言葉がしゃべれないのですが、この映画を一緒に見ていた時、涙を流している私を見て、頭をなででくれたんです。そしてハグをしてくれた。障害が重いと何もできないと思いがちですが、実は私自身娘にすごく支えられているんだと改めて感じられたんです。

監督:その行為は、1000の言葉に匹敵しますね。素敵なエピソードをありがとう。グラッツェ。

――:グラッツェ!
オンラインでインタビューを行う様子
フェデリコ・ボンディ監督へ、発達ナビ編集長・牟田がインタビューを行う様子
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映画公開情報

第69回ベルリン映画祭にて国際批評家連盟賞受賞。
2021年7月3日よりロードショー。東京・神保町の岩波ホール他、全国順次公開予定です
監督・脚本:フェデリコ・ボンディ 原案:フェデリコ・ボンディ、シモーナ・バルダンジ 
エグゼクティブ・プロデューサー:アレッシオ・ラザレスキー
プロデューサー:マルタ・ドンゼリ、グレゴリオ・パオネッサ 撮影:ピエロ・バッソ 編集:ステファノ・クラヴェロ 音楽:サヴェリオ・ランツァ 衣装:マッシモ・カンティーニ・パリーニ
出演:カロリーナ・ラスパンティ、アントニオ・ピオヴァネッリ、ステファニア・カッシーニ、アンジェラ・マグニ、ガブリエレ・スピネッリ、フランチェスカ・ラビ
2019年/イタリア/イタリア語/94分/カラー/シネマスコープ 
原題:DAFNE 字幕翻訳:関口英子 
配給:ザジフィルムズ 後援:公益財団法人日本ダウン症協会
厚生労働省社会保障審議会 推薦 【中学生以上、保護者・指導者等、一般(啓蒙) 】
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