それでも給食は苦しい

僕の通っていた学校では「お減らし」という制度がありました。一旦は平等に給食を配って、苦手なものは減らしていい制度です。でも、全部返すのはダメで1口は食べるというのがルールでした。

このたった1口が苦痛でした。1回口に入れて水で流し込めればよかったのでしょうが、基本、飲み物は牛乳でした。1口が食べられません。基本、全てのメニューを1口です。何度、先生が「もういいよ」って言ってくれないかなと思っていました。でも、頑張って食べていたと思います。休み時間も掃除時間も僕は給食と戦っていました。

小学5年生のときの担任の先生は、「そんなに食べないと大きくなれないよ」と毎回僕に声をかける先生でした。1口を頑張って欲しくて言った言葉だと思いますが、そのころの僕は、言われる度にプレッシャーでした。「食べない人間は大きくなれない」「食べない奴はダメな人間だ」そういう思い込みのような感覚になりました。そのうち、クラスのみんなも「食べないと大きくなれないよ」と僕に言うようになり、お減らししたいのに「食べないとダメだよ」と妨害してくるのです。
味覚過敏…?小学校の思い出は「給食が怖い」―ー苦しむ僕を救ってくれた恩師への感謝、大人への願い【感覚過敏な15歳社長 連載2】の画像
出典 : http://amanaimages.com/info/infoRF.aspx?SearchKey=11017038048
小学5年生は、毎朝「学校に行きたくない」と言いながら学校に行きました。給食が嫌で休んでいいなんて知らなかったのです。もし、今、あのころの僕に話しかけられるのなら、「嫌なら本気で休みたいと親に言え」と伝えたいです。不満を言うだけでは、親には本気度は伝わらない。だから本気で言わないと伝わらない。

ただ、保護者のみなさんや、先生には知っていただきたい。子どもは選択肢を知らないのです。だから声をあげられないのです。本当は苦しいし助けて欲しかったです。
学校行事の際に具合が悪くなった様子
学校行事の途中で気持ち悪くなることが多く、自分でも「弱い子」と思っていた小学生時代です。もし、感覚過敏という言葉を知っていたら、具合の悪さで自分を責めることはなかった気がします。
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僕を救ってくれた先生

小学6年生の先生は「怖い」と噂の先生でした。僕もビビっていました。僕の給食の食べなさを見た担任の先生が、「成長期にこのままではダメだ。給食をやめてお弁当にしよう」と言ってくれました。

「先生が校長先生にお願いするから、加藤くんは病院に行って、給食ではなくお弁当がいいですよという診断書をもらってきて」と言ってくれ、親にも説明してくれました。母はネットで調べて、思春期の摂食障害を専門にしている精神科の病院を見つけてくれて、そこに行きました。

病院の先生は、「給食なんて嫌だよな。今までよく頑張った。よし、先生が手紙を書いてあげるから、これからはお弁当を食べて、中学では好きなもの食べていいからな」と言ってくれました。僕の心が軽くなりました。辛いことをわかってくれる人がいることや、この状況を変えようとしてくれる人がいることが、心の安心に繋がりました。

お弁当を持って行く前日、先生に言われました。「クラスのみんなには、加藤くんから説明するか?それとも先生が話した方がいいか?選んでいいぞ」

僕は一人で説明できるかわからなかったので、先生に説明してもらって、最後にちょっとだけ話すという方法を選んで先生に言いました。給食の準備が始まる前、先生はみんなに話し始めました。

「勉強が嫌いな人、運動が苦手な人がいるように、加藤くんは給食が苦手です。みんなにも1つくらい苦手なことがあるよね?病院の先生がお弁当にしたほうがいいと言っているので今日から加藤くんはお弁当です。加藤くんが食べてるかどうかは先生が見ているから、みんなは気にしなくていいです」

と話してくれました。おかげて給食の時間に「もっと食べた方がいいよ」「食べないと大きくなれないよ」というクラスの声からも解放されました。6年生の2学期の出来事です。もっと早く、この方法を誰か他の先生が言ってくれたら、僕の学校生活はもう少し楽しい記憶が増えたかもしれません。
恩師に花束を渡す様子
卒業式、クラスを代表して担任の先生にお礼のプレゼントを渡しました。僕にとっては、忘れることができない恩師です。
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振り返って思うこと

僕が「感覚過敏」という言葉に出会ったのは中学1年生です。この時はじめて、「味覚過敏」という言葉を知り、これまでの食べ物に関する辛い体験の原因がこれだったのかと気がつきました。そして、心が軽くなりました。

なぜ給食が嫌なのか説明できませんした。なぜ、こんな美味しいものを食べないのだ?と聞かれても「食べたくないから」としか言えませんでした。「嫌だ」「食べたくない」としか言わなければ、わがままな子とか贅沢な子と思われるでしょう。世の中には食べられなくて死んで行く子どもがいると言われても、それはかわいそうだと思っても、だからと言って僕が代わりに残さず食べることはできない。残すなんて農家さんに失礼だと言われても、食べられないのです。

なぜ、食べられないのかは、15歳になった今でもうまく表現できません。視覚過敏や触覚過敏、嗅覚過敏については、それなりに冷静に自分を分析できるようになりましたが、味覚過敏については、まだ言語化できずにいます。

食べると気持ち悪くなるものもありますし、頭が痛くなるものもある。そのうち、食べ物を見ただけで、口の中に不快な味が再現されたようになって気持ち悪くさえなります。とにかく、食べないでいられる状態が安心安全なのです。

辛さや不快感を言語化できないというのが、感覚過敏の課題だと思っています。特に小さい子は、表現できないです。「食べないことは悪、残すことは悪」という常識があると思います。この常識に苦しむ子どもたちがいることをまずは知っていただきたいです。

そして、食べない理由を問いただすよりも、1口だけ頑張らせるよりも、大人には、その辛さを表現できるサポートと、その辛さから回避できる方法を一緒に考えて欲しいです。
感覚過敏研究所の味覚過敏の人のための缶バッジ
感覚過敏研究所の味覚過敏の人のための缶バッジ
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感覚過敏研究所では、五感の困りごとを可視化させた感覚過敏缶バッジを作成しています。味覚過敏の缶バッジを給食バッグやランドセルにつけて登校している小学生もいらっしゃいます。小さな子が学校や外でちょっと頑張りたい時のお守りになればと思って作成しました
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