親子で自然に学ぶには?発達障害がある子の「気持ちの表現」を育む参考書にーー視覚支援ツール見本付き『おうち療育をはじめよう!』著者インタビューも

ライター:発達ナビBOOKガイド
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講談社
親子で自然に学ぶには?発達障害がある子の「気持ちの表現」を育む参考書にーー視覚支援ツール見本付き『おうち療育をはじめよう!』著者インタビューものタイトル画像

「療育」というと、どこかに通うというイメージがありますが、「おうちで」できることから始めようと提案しているのが、『発達障害がある子の会話力がぐんぐん伸びる おうち療育をはじめよう! 』(講談社)。この本の著者である、特別支援教育士の柳下記子(やぎしたのりこ)さんに、この本の活用方法や、保護者の方に伝えたい思いをうかがいました。
(イラスト:野波ツナ)

気持ちの表現、会話について、ひとつひとつ教えていく必要性

ソーシャル・スキル・トレーニングというと敷居が高い印象がありますが、実は日常生活の中にあるものだと、この本の著者、柳下記子さんは言います。たとえば、目の前にあるものが「テーブルだ」と覚えるように、「おはよう」がコミュニケーションの一つであることを自然に理解していく。でも、発達障害がある子どもは、「自然に」理解していくことがむずかしい場合があります。

そうしたコミュニケーションの教え方を、段階を追って具体的にわかりやすいマンガで説明してくれるのが、『発達障害がある子の会話力がぐんぐん伸びる おうち療育をはじめよう!』です。子どもへの声のかけ方や接し方のコツなど、一読するだけでも参考になりますが、巻末には付録として13種類の視覚支援のツール見本もついています。
発達障害がある子の会話力がぐんぐん伸びる おうち療育をはじめよう!
柳下 記子 (著), 野波 ツナ (著)
講談社
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マンガは『旦那さんはアスペルガー』で人気の野波ツナさん。わかりやすい展開で、親子ともに登場人物の表情一つひとつに思わず共感してしまう内容です。
P1.はじめに
P1.はじめに
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ステップを追って、コミュニケーションの練習ができる

この本は、子どもが自分の気持ちをうまく表現して相手に伝え、相手の気持ちを理解できるようになる、会話力を伸ばすための練習方法が丁寧に書かれています。いきなり「相手の気持ちを理解するには」といったことではなく、日常生活の中で機会を見つけて、少しずつ段階的にトライできること、その「機会の見つけ方」から丁寧に示されています。

STEP 1「子どもを上手に練習に誘うコツ」
STEP 2「子どもがぐんぐん伸びる言葉かけ」

この2つの章では、練習をスタートするために子どもを誘うのにはどんな言葉かけをしたらいいのか基本的なルールが紹介されています。

STEP 3「一緒に『あいさつ』してみよう」
STEP 4「子どもに上手な『自己紹介』を教えよう」

人と関わる準備段階として、あいさつと自己紹介をどうしたらいいのか、がわかります。

STEP 5「『いい姿勢』で話を聞いてもらおう」
自分のことをわかってもらうには、相手の言葉を受け止めることが必要になります。実際に、相手に「話を聞いているよ」とわかってもらえる姿勢の具体的な教え方が、このステップではわかります。

STEP 6「『表情』と『気持ち』を学んでもらおう」
STEP 7「『気持ち』のコントロールを学んでもらおう」
STEP 8「自分と相手の『心の動き』に気づいてもらおう」

発達障害のある子どもにどう伝えたらいいかという、少しむずかしい内容に入っていきます。相手の気持ちを理解して、自分の気持ちも大切にする、というゴールへと導かれます。

STEP 9「どのくらいできているかチェック!」
最後に振り返りのステップがあります。子どものみならず保護者自身がどのくらい成長したかも振り返る、その具体的な方法が書かれています。

また、「こちらヤギシタ相談室」では、本編からもう少し踏み込んだ、個別の相談でよくある事例をQ&Aで紹介しています。
P127.ヤギシタ相談室「自分と相手の『心の動き』に気づいてもらおう
P127.ヤギシタ相談室「自分と相手の『心の動き』に気づいてもらおう
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付録は、楽しんでツールを使うための「見本集」として使ってほしい

巻末には付録として、実際に切り取って使える視覚支援のツール見本集があります。絵カードや表情カード、気持ちを絵に書いてみる「きもちにっき」シートなどがありますが、著者の柳下先生は、「この付録を見本として、子どもとオリジナルのカードを作るのも、楽しいですよ。表情カードを自分の似顔絵にするのもいいですね」と教えてくれました。

誘うタイミングの大切さ=親子で同じ目線に立つこと

柳下記子先生にインタビュー
イラスト:野波ツナ
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ここからは、著者の柳下記子先生にお話をうかがいます。柳下先生は、幼稚園教諭や学校現場での勤務経験を経て、現在は視覚発達支援センター学習支援室室長であり、ソーシャル・スキル・トレーニングをテーマにした講演活動も行っています。

発達ナビ編集部(以下、――)世の中には、子どもへの声がけに関する本はたくさんありますが、どういうタイミングで「やってみよう」と言ったらいいのか、そのタイミングが難しいのではないかと感じています。この本の中には、実際の練習に誘うタイミングが書かれていますね。
P13.子どもを上手に練習に誘うコツ
P13.子どもを上手に練習に誘うコツ
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柳下記子先生(以下、柳下):本の中で紹介した誘い方は、あくまで一例です。ご紹介した例以外にも、チャンスはたくさんあると思います。そこで大切なのは、子どもを練習に誘うときには、大人目線ではなく子ども目線に立つ、ということです。

遊んでいる子どもを振り向かせたかったら、大人も同じ遊びの中に入っていかないと、子どもには声は届かないもの。その目線の合わせ方にはちょっとした工夫が必要だと思います。その一例が、行事の前やトラブルがあったとき、ということです。

そして、「こうするといいよ」と言うときには、まずはうまくできているところを「ここがいいね」と褒めましょう。大人でも「その笑顔がいいね」と言われれば、嬉しくなってもっといい笑顔になりますよね。同じように、子どもの目線に立って、「何と言われたら嬉しいかな?」と考えてみてほしいのです。

子どもが落ち込んでいるときには、「悲しいよね」と気持ちに共感して視線を合わせます。励まそうとするあまり「くよくよしないで、次回がんばろうね」といきなり言っても、子どもにしてみれば「だってくやしいんだもん!」という気持ちでいっぱい。こんな風に、子どもの気持ちに共感できれば、どんなときだって、誘うチャンスになると思います。とにかく、大人の目線から子どもの目線に変わらないと、対話にはならないということです。
P38.一緒に「あいさつ」してみよう
P38.一緒に「あいさつ」してみよう
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感情の表し方のしかたは、保護者自身の感情表現の振り返りにもなる

――「表情を学ばせよう」からは、感情を表情に表すことが難しい子どもにとっては、気持ちの表現の仕方は自然とわかっていくものではないことが、よく伝わってきました。
柳下:自分のイメージどおりの表情をすることは、大人でもうまくいかないときがありますよね。また、ほかの人から見たときに、どういう思いなのかを伝える表情をつくることはもっと難しいです。だから、子どもには具体的な表情の見本を見せて伝えることが必要です。それは、子どもたちがお父さん・お母さんの顔を見る、ということなのです。

こうしたことから、親御さんたちはいつも子どもたちから見られていると意識してほしいです。「いつも、パパ・ママの姿を見ていていいんだよ」という、信じきって、頼りきって、安心できる親子関係を築けるといいですね。
P68.「表情」と「気持ち」を学んでもらおう
P68.「表情」と「気持ち」を学んでもらおう
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どんな感情も持っていいし、否定してはいけない。学びたいのはその表現のしかた

――感情について子どもに教えるときに、P126にある「心に気持ちが生じること それ自体は悪いことではありません!」というメッセージはとても大事ですね。
P126.自分と相手の「心の動き」に気づいてもらおう
P126.自分と相手の「心の動き」に気づいてもらおう
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柳下:この本を通じて私が伝えたかったことの一つが、「どんな感情も持っていい」ということです。これは私の尊敬する先生方から教えてもらった言葉です。

子どもは「いつまで泣いているの?」と言われると、「泣いちゃいけないんだ、泣いている自分はダメな子なんだ」と思ってしまいます。感情を我慢して出さないようにしてしまう子どもたちも少なからずいるのです。本当は、悲しいときは悲しんでいいし、怒っているときは怒っていい。ただ、その気持ちをどう表現するかが大切なのです。

感情の表現の仕方を大人が具体的の教えるときに大事なのは、絶対に感情そのものを否定しないことです。怒りを暴力の形で表現してはいけないけれど、怒りそのものが悪いわけではありません。あくまで「表現のしかたが違ったね、お友達を叩いてしまうという表現方法が良くなかったね」ということを伝えてほしいです。
P98.「気持ち」のコントロールを学んでもらおう
P98.「気持ち」のコントロールを学んでもらおう
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実はこの「どんな気持ちがあってもOK」ということは、保護者の方たちにとっても大事なメッセージです。イライラしたときやカッとなったときの感情は、ぜひ大事にしてください。「そう感じた理由は何か」と考えるところに、解決策はたくさんあると思います。

親御さんが子どもに対して怒ってしまうのは、子どもたちへの願いが強いからこそですよね。そのときに「こんなことで私は怒ってしまうんだ」とか、「私は子どもに、こういうことをしてほしいからこんな感情になるんだ」ということを、まずはどんな気持ちもあっていいという視点から、考えてもらえるといいのかなと思っています。

「きもちにっき」は、言葉で表すことが苦手な子どもにも、自由に表現できる方法

――子どもが気持ちを表現する方法のひとつとして「きもちにっき」が紹介されていますが、これは表現する子どもにとっても、気持ちを理解する保護者にとっても、とてもわかりやすいものですね。
P102.「気持ち」のコントロールを学んでもらおう
P102.「気持ち」のコントロールを学んでもらおう
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心のコップにどんな気持ちが、どのくらいまで詰まっているのか、溢れているのか。大人にとっても視覚的によくわかる方法だと思いました。
親子で自然に学ぶには?発達障害がある子の「気持ちの表現」を育む参考書にーー視覚支援ツール見本付き『おうち療育をはじめよう!』著者インタビューもの画像
実際に子どもが描いた「きもちにっき」(書籍にはモノクロで掲載されています)
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柳下:この「きもちにっき」は、言葉ではうまく表現できなくても、絵だったら表現できるというお子さんが気持ちを伝えるツールです。実は私自身の子育てでも、実際に使っていたものなんです。わが子も気持ちのコントロールがうまくいかなくなると大泣きしたり、すぐいじけてたりしてしまう子どもだったので、気持ちを表現しやすいように絵で表現する日記を書かせていました。

本に登場する絵は、この本のためにモニターとなってくれた親子のお子さんに書いてもらいました。嫌な気持ちはグルグル渦巻く思いがコップからこぼれだしていますね。一方、うれしいきもちはキラキラした形やハートマークになり、それでコップが満たされています。

ほめるつもりで子どもを見る、という視点の大事さを教えてくれる「ほめポイントチェック表」

――「きもちにっき」と同様に、記録する大切さを教えてくれるツールが「ほめポイントチェック表」ではないでしょうか。
P133.どのくらいできているかチェック!
P133.どのくらいできているかチェック!
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柳下:ペアレントトレーニングをしていると、最初のころは「うまく褒めることができません」とおっしゃっていたお母さんたちが、いつのまにか褒め上手になっていることがあります。でも、ご自分のことは気づかないことが多いものです。その実感を持ってほしくて、「ほめポイントチェック表」を付録につけました。少し時間がたってから振り返ると、「今ならここも褒められる」という部分がきっとあると思います。また、お子さんの成長とともに、うまくいく・いかない部分も変わっていきます。そういうときにも役立ててもらえたら嬉しいです。

親は、子どもからたくさん教わりながら、親心を育んでいくものだと思っています。このチェック表は、○×で評価するものではなく、子どもが育ててくれていることに気づくための、一つの方法として活用してもらえたらうれしいです。

安心して子どもの思春期を迎えるために。今していることがベースとなる

――本編のSTEP9のあとに、「思春期に向けて知っておきたい大切なこと」がありました。この本のメインの読者層は小学校低学年ですが、少し先の思春期まで見通されているのですね。

柳下:思春期について漠然と身構えてしまう保護者の方は多いので、この章を加えました。思春期の子どもはどうしても、親に対して「そばに来るなよ」と言ってみたりするもの。でも、心の底では親御さんのことが嫌いになったわけではありません。以前、あるお子さんが「お母さんに返事するのも面倒なときもあるし、親と一緒にいるところをほかの友だちには見られたくない。でも、嫌いになったわけじゃないんだ…」と思いを打ち明けてくれました。「いつも自分のことをわかろうとしてくれて感謝している」とも教えてくれました。

思春期は確かに難しいものです。子どもたちが健康的に、安心して親に反抗するためには、それまでの親子関係がどのようであったかということが大事なポイントになります。まだお子さんが小学校低学年の今、気持ちを通わせていることが思春期につながっているということを伝えたかったのです。幼少期に関係性を育めていれば大丈夫と、自信もって日々のコミュニケーションをしてもらえるといいと思います。

オロオロジタバタする親であっていい、そのままでいい

――ところで先生ご自身は、どのような子育てをされてきたのでしょうか。

柳下:私は幼稚園教諭として、たくさんの子どもたちをずっと見てきました。その分、自分の子育てでは、「幼稚園の先生だから、なんでもできるよね」と、誰かに言われているような感じがしていたんですね。でも、実際はたくさんオロオロしたし、泣きたいような失敗もしました。親として育っていく過程では、失敗しつつ、小さな成功を積んでいくことで、だんだんに自信がついてくるものですね。

補章でも書いた、
子どもにとっていい親とは、子どもと向き合って、失敗して、考えてオロオロしてジタバタする親です。逆に子どもにとってつらいのは、自分に関心をもってもらえないことです。(P154より)
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4065246423
このことは、学生時代に私の恩師が教えてくれたことです。そのことを思い出して「オロオロしてもいいんだ」と、私自身がホッとしたというのが私の子育て経験です。

この本を読んでくださるみなさんにも、今のそのままでいいんですよ、ということをお伝えしたいです。

まとめ

タイトルの「おうち療育」という言葉には、「『療育』と固く考えるのではなく、日常の中で育めることがたくさんあるということに気がついてほしいという思いを込めている」と、柳下先生は教えてくれました。

本書は、子どもにソーシャルスキルを教えるための本ではなく、親御さんが子どもと一緒に育つためのレッスンをしてくれる本です。子どものいいところをたくさん見つけて、子どもの成長を楽しむための本、『発達障害がある子の会話力がぐんぐん伸びる おうち療育をはじめよう!』、ぜひ手にとってみてください。
発達障害がある子の会話力がぐんぐん伸びる おうち療育をはじめよう!
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