粗大運動(そだいうんどう)とは?発達の目安や遅れている場合の原因、発達障害(神経発達症)との関係、育み方まで解説

ライター:発達障害のキホン
粗大運動(そだいうんどう)とは?発達の目安や遅れている場合の原因、発達障害(神経発達症)との関係、育み方まで解説のタイトル画像

粗大運動とは、座る、立つ、歩くなどの、生活をしていくときに必要な動作のこと。その動作は自然と獲得していくものであると同時に、外部からの刺激や働きかけを必要とすることもあります。粗大運動の発達が遅い場合は、何らかの障害がある可能性もあるといわれますが、それはどのような様子が見られるときなのでしょうか。具体的な働きかけの方法についても、見てみましょう。

監修者鈴木直光のアイコン
監修: 鈴木直光
筑波こどものこころクリニック院長
1959年東京都生まれ。1985年秋田大学医学部卒。在学中YMCAキャンプリーダーで初めて自閉症児に出会う。同年東京医科歯科大学小児科入局。 1987〜88年、瀬川小児神経学クリニックで自閉症と神経学を学び、栃木県県南健康福祉センターの発達相談で数々の発達障がい児と出会う。2011年、茨城県つくば市に筑波こどものこころクリニック開院。

粗大運動とは、座る・立つなど日常生活を送るために必要な体の動き

「粗大運動」とは何でしょう。聞きなれない言葉かもしれません。定義としては、
日常生活を送るために必要な、体を起こす、立つ、座る、姿勢を保つ、歩く、走るといった動作
つまり、毎日の生活に必要な、土台となる体の動きのことです。リハビリでは粗大運動障害はPT(理学療法士)が担当します。

一方、手で持ったり指でつまんだりする手指の動きや、食べたり飲んだりするために必要な機能を、微細運動といいます。リハビリでは微細運動障害はOT(作業療法士)が担当します。

いつごろからどんな粗大運動ができるようになる? 目安は?

脳から伝わる運動神経は、頭から始まって上から下へ、中央から末端へという伝わり方をします。赤ちゃんが動かせるようになる順番も、頭→くび→腕→背中→腰→脚という順序です。この流れにそって、できる粗大運動も発達していきます。

新生児期はまだ原始反射の段階

新生児のころは明らかな粗大運動はまだ見られず、モロー反射や掌握反射などの原始反射がメインとなります。新生児健診でのチェックは成長と、体が柔らかいか硬いかがポイントとなります。

主な粗大運動の発達の段階と、できるようになる目安は?

では、だんだんに成長していく粗大運動について、どんな動作がいつごろできるようになるかの目安を見てみましょう。
●首がすわる 生後3~4ヶ月ごろ
首がすわるというのは、縦抱きにしたときに首がグラグラせずにまっすぐ立っている状態で、自分の意思で向きたい方へ首を動かせるようになることです。新生児のころから「引き起こし反射」と言って、仰向けに寝かせた状態から、両腕をもってやさしく引き起こすと、体とともに首も一緒に起こそうとしますが、これはまだ「首がすわった」状態ではありません。両手を引っ張って引き起こしたときに、首が後ろに倒れなくなれば、「首がすわった」ということになります。

●寝返りする 生後5~6ヶ月ごろ
寝返りは、仰向けからうつ伏せに、うつ伏せから仰向けに、腰をひねって体の向きを変えること。うつ伏せから仰向けになるほうが難しい動きになります。寝返りが始まる以前には、足を上げて左右どちらかに腰をひねる様子が見られます。寝返りを始めたころは、うつ伏せから仰向け、どちらか一方向はできるけれど、反対にはうまく戻れないことも。仰向けからうつ伏せになっても、下になった腕がうまく抜けずに仰向けに戻ってしまうこともあります。だんだんと筋力がつき、体の動かし方も覚えて、自在に寝返りが打てるようになっていきます。

●支えがあれば座る 生後5~7ヶ月ごろ
赤ちゃんを抱っこして床にお座りの姿勢にさせ、背もたれを支えにしたり、上半身を大人の手で支えたりすれば、座っていられる状態です。また、周りから支えられなくても、前のめりになって自分の腕で床を押さえるようにして、数秒間じっとしていられることもあります。お座りの完成の手前の状態で、背中から腰への神経がしっかりしてきて筋肉が発達することで、だんだんと座っていられる時間が長くなっていきます。このころはまだ、寝ている状態から自力で体を起こして座ることはできません。

●支えなしに座る(座って両手が自由になる) 生後6~8ヶ月ごろ
いわゆる「お座り」の完成形で、腰がすわるとも言います。支えがなくても、安定して数分間座っていられるようになり、さらに両手を床から放して座ることができます。微細運動にも関係しますが、両手を使っておもちゃを持つといったことも可能になります。

●ずりばい~はいはい 6~11ヶ月ごろ(平均して8ヶ月ごろ~/目安としてハイハイの「ハチカ月」と覚えます)
いよいよ自力での移動が始まります。ずりばいは、うつ伏せの姿勢から上半身だけを起こして、腕の力で前後左右に移動することです。さらに手と足の両方の力を使って、四つん這いの姿勢で移動するようになるのがハイハイです。ずりばいとハイハイの違いは、お腹が床についているかどうか。腰から足にかけても動かせるようになってくると、おしりが上がり、お腹が床につかないハイハイになります。さらに、両ひざを床につけないで手のひらと足の裏だけを床につけた「高ばい」というスタイルもあります。ただ、床に物がたくさん置いてあって、つかまるところが多い環境では、ハイハイをしないでいきなりつかまり立ちする場合もあります。

●つかまり立ち~伝い歩き 生後8~11ヶ月ごろ
お座りの姿勢から、おしりを上げられるようになると、少し高いところにあるつかみやすいものに手をかけて腰を上げるようになります。これがつかまり立ちです。つかまり立ちが安定し、そのまま足を交互に動かすと移動ができるようになり、伝い歩きとなります。このころの赤ちゃんは、手の届くところならどこにでもつかまって立ちたがるので、不安定なものを身の周りに置くと危険なので気をつけましょう。

●立つ 生後9ヶ月~1歳1ヶ月ごろ
つかまり立ちがさらに安定して、片方の手で体を支えれば立っていられるようになり、やがて両方の手をどこにもつかまらなくても立てるようになります。はじめのうちは、一瞬立つだけで、すぐにしりもちをついてしまいますが、体のバランスのとり方をだんだんと覚え、足を踏ん張ることができるようになると、しっかり立っていられるようになります。初めはバランスをとるために両脚を広げて立ちます。頭部からスタートした運動神経が、足の裏まで届いたと言うことになります。

●歩く 1歳前後から
いよいよ二足歩行の始まりです。歩くためには片方の足を一瞬浮かせ、左右どちらかに体重移動させなくてはなりません。左右交互に体重を移しながら足を前に出し、倒れないように進むのが「歩く」ということ。はじめのうちは、一歩が出ても、すぐにしりもちをつきますが、すぐに2歩、3歩と歩けるようになるでしょう。歩けるようになってしばらくは、体重のバランスをとるために両腕を上げたバンザイのポーズで歩くことが多いです。1歳前から一人で歩ける子もいれば1歳半でようやく歩ける子もいます。一般に、歩行開始年齢は個人差がかなりあります。

●走る 1歳半前後から
歩くのが、1歩ずつ左右の足に体重を移動させることなら、走るのは、さらに両足が一瞬空中に浮く状態になります。左右どちらか後ろの足で地面を蹴り、前に出た足を着地させるというかなり複雑な一連の動作になります。筋肉や関節の動きも大切ですが、脳からの運動神経の指令が複雑に発達したからこそできる動作です。

粗大運動の発達が遅れる場合に考えられること

粗大運動は、体と心の両方が成長して発達していきます。発達障害(神経発達症)などがあることで、粗大運動の発達に遅れが見えるのは、どんなケースなのかを見ていきましょう。
※最新のDSM-5では発達障害は「神経発達障害/神経発達症」と表記されていますが、一般的に「発達障害」と呼ばれることが多いため、以下「発達障害(神経発達症)」と記述します。

ずりばい、ハイハイをなかなかしないいくつかの理由

赤ちゃんは寝返りでも移動はできますが、本格的に自力で移動できる最初の方法となるのが、ずりばいとハイハイです。生後8ヶ月ごろになっても、ハイハイをしようとする様子が見えない場合、どんな理由が考えられるでしょうか。

まず体の面から考えてみましょう。腰がしっかりすわっていない場合は、ハイハイはまだこれから、ということになります。支えがなくても安定して座れるようになってから、ハイハイは始まります。また、ずりばいし初めのポーズとなるうつ伏せの姿勢が、そもそも苦手ということも考えられます。この場合は背泳ぎのような背ばいとなります。ハイハイするには筋力の成長が追いつかない場合や、股関節脱臼などの股関節に原因がある場合もあり、そのような場合にはハイハイの開始が遅くなることもあります。

次に、心の面を見てみましょう。ハイハイをするのは、今自分がいるところから離れたところへ「動きたい」という意欲があるから。触りたいものや人、「あれはなんだろう」という好奇心があるから、自分が今できる動作で移動しようとするのです。好奇心があまりなければ、ハイハイする意欲は湧きません。あるいは、すぐに誰かが抱っこしてくれるなど、ほかの移動方法で満足していたり、部屋が狭かったり物が溢れていたりして、ハイハイしなくても興味のあるものにすぐ手が届くような環境の場合も、ハイハイをあまりしないことがあります。

シャフリングベビーは一過性のものであれば心配ありません

シャフリングとは、ハイハイをしないかわりに、お座りの姿勢でおしりを床につけたまま、上半身を上に跳ねさせて、その勢いで手を床につけずに前に進むこと。また、四つん這いのハイハイではなく、腰から下を地面につけたままのハイハイが一般的なシャフリングベビーです。

かつては、シャフリングベビーは障害があることが多い、と言われましたが、研究が進み、一時期シャフリングしていても、その後立って歩けるようになれば、特に問題はないとされています。シャフリングしたがるかどうかは、遺伝的な要素が大きく関係するともいわれます。

このように粗大運動の発達が遅かったり、特定の動作をしたがらなかったりする場合にはさまざまな理由があります。ただ、それだけでは何か心配なことが隠れているとは考えにくいものです。基本的には、どんなプロセスをたどっても、歩けるようになるころには問題がなくなっていることが多く、その場合は個人差の範疇と考えられ、脳の大きな障害はないでしょう。

つま先立ちや階段を降りるのが苦手な場合

発達障害(神経発達症)でよく見られるのは、自己刺激としてつま先立ちで歩くこと(つま先歩行)です。体の感覚統合(*)がうまくいっていない場合にあらわれる体の使い方のひとつです。歩行器を使用している子どもの場合にも、つま先歩行は見られるので、いずれにしても自然に体幹が鍛えられるような遊びや働きかけが必要となります。遊びとしてはトランポリン、平均台、縄跳びなどがいいです。また、歩けるようになっても階段を降りるのが苦手な子どもは障害がある可能性があります。

* 感覚統合とは
人間の感覚には、既によく知られている五感(触覚、視覚、聴覚、味覚、嗅覚)に加えて、固有受容覚(手足の状態・筋肉の伸び縮みや関節の動きを感じる感覚)、前庭覚(身体の動きや傾き、スピードを感じる感覚)といった合計7つの感覚があります。
(中略)
次々と身体に入ってこようとするこの7つの感覚を整理したり分類したりするのが感覚統合です。このはたらきによって、その場その時に応じた感覚の調整や注意の向け方ができるようになり、自分の身体を把握する、道具を使いこなす、人とコミュニケーションをとるというような周囲の状況の把握とそれをふまえた行動ができるようになります。リハビリではOT(作業療法士)が感覚統合訓練を担当します。発達障害(神経発達症)がある子どもにとって一番いい療育は、感覚統合訓練が含まれている音楽療法と乗馬療法です。

(「感覚統合」とは? 発達障害との関係、家庭や学校でできる手助けまとめ)
出典:https://h-navi.jp/column/article/35025964
参考:音楽とこころ
https://www.towayakuhin.co.jp/healthcare/music/
次ページ「発達障害(神経発達症)がある子どもの粗大運動の発達と、その背景にあるもの」

追加する

バナー画像 バナー画像

年齢別でコラムを探す


同じキーワードでコラムを探す



放課後等デイサービス・児童発達支援事業所をお探しの方はこちら

放課後等デイサービス・児童発達支援事業所をお探しの方はこちら

コラムに対する投稿内容については、株式会社LITALICOがその内容を保証し、また特定の施設、商品及びサービスの利用を推奨するものではありません。投稿された情報の利用により生じた損害について株式会社LITALICOは一切責任を負いません。コラムに対する投稿内容は、投稿者の主観によるもので、株式会社LITALICOの見解を示すものではありません。あくまで参考情報として利用してください。また、虚偽・誇張を用いたいわゆる「やらせ」投稿を固く禁じます。「やらせ」は発見次第厳重に対処します。