自閉症の息子妊娠中、出生前診断を受けた私--母より背が高くなった21歳の息子を見ながら思うこと

2022/01/17 更新
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誰しも「わが子は健康に生まれてきてほしい」と思うものでしょう。私もそうでした。でも、生まれた子には障害がありました。

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立石美津子
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監修: 鈴木直光
筑波こどものこころクリニック院長
1959年東京都生まれ。1985年秋田大学医学部卒。在学中YMCAキャンプリーダーで初めて自閉症児に出会う。同年東京医科歯科大学小児科入局。 1987〜88年、瀬川小児神経学クリニックで自閉症と神経学を学び、栃木県県南健康福祉センターの発達相談で数々の発達障がい児と出会う。2011年、茨城県つくば市に筑波こどものこころクリニック開院。

特別支援学校での経験が自信を失わせた


25年以上前になりますが、私は特別支援学校の教員免許をとるために特別支援学校で教育実習を行いました。

教壇に立つ著者
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それまで机上で特別支援教育の勉強をしていましたが、実際、障害がある子を目にして、頭では理解しつつも、その支援の難しさを実感し「自分には障害がある子どもは育てられない」と強く思うようになっていきました。

特別支援学校には自閉スペクトラム症、ダウン症候群だけではなく、さまざまな障害のある子どもがいました。光を浴びてはいけない疾患のあるお子さんなどもいて、常に細心の注意をする必要がありました。

出生前診断とは

出生前診断には、形態異常を調べる超音波検査のほか、染色体異常を調べる母体血清マーカー検査や新型出生前診断(NIPT)、羊水検査などの種類があります。

母体血清マーカー検査や、新型出生前診断(NIPT)は診断が確定できない検査です。採血によって行います。羊水検査は診断が確定できる検査ですが、腹部に針を刺し羊水を採取する必要があります。

新型出生前診断の正式名は「母体血胎児染色体検査(NIPT)」といいます。妊婦の血液の中にある胎児由来遺伝子を調べることにより、13トリソミー(パトウ症候群)、18トリソミー(エドワーズ症候群)、21トリソミー(ダウン症候群)などの染色体異常があるかを調べる検査です。採血による簡単な検査ですが、結果によっては「産む/産まない」の重い決断を迫られることになります。

検査を受けた経緯

2年間の不妊治療を経て38歳で妊娠したとき、クリニックで「トリプルマーカーテスト」というものを知りました。
この検査で確率が高くより正確な診断を希望する場合、確定診断が可能な羊水検査を行います。

不妊治療中は出口の見えないトンネルをさまよっているようでとてもつらい2年間でした。やっと妊娠したのに、今度はこれから続く10か月の間、「おなかの子どもに障害があったらどうしよう」と不安を抱えながら過ごしたくない気持ちもあり、トリプルマーカーテストを受けることにしました。教育実習のときに「私には育てられないだろう」と感じたことも背景にありました。採血の結果の用紙には「21トリソミー(ダウン症候群)の可能性【80%】」と書かれていました。

翌週、確定診断のために、入院して羊水検査を受けました。おなかに針を刺し、羊水を抜いている処置の最中、ずっと泣いている私に、医師は「何をそんなに泣いているんですか」と厳しい口調で言いました。「どんな子どもでも産もうと考えているならば、最初からこの検査を受けないでしょう。検査を止めますか?」と。

医師の言葉は正論でした。「障害の有無に関わらず、どんな子どもでも産んで育てる」覚悟ができているのであれば、そもそも受けることはない検査だったのです。泣いていること自体、矛盾している態度でした。

出生前診断については「検査でおなかの赤ちゃんに障害があると分かった場合、出産後の育て方について妊娠中、十分考えることができる」と医師が語るのをテレビでみたことがあります。

ですが、確定検査を受けて陽性となった妊婦の多くが人工中絶をしているといいます。

結果が出るまでは約1カ月。医師から「検査結果が出て1週間以内に産むか産まないか決めてください」と言われました。

結果は「21トリソミー(ダウン症候群)の可能性は【ない】」。13トリソミー(パトウ症候群)、18トリソミー(エドワーズ症候群)も陰性でした。

ダウン症のお子さんがうらやましかった

息子を産んで2年間が過ぎたころ、ほかの子とはあきらかに違う行動をとる息子に言い知れぬ不安を感じ、専門医を受診しました。自閉症(※当時の診断名。現在は自閉スペクトラム症)と診断されました。

息子は自傷行為、パニックが激しく「一生これが続くのではないか」と絶望的な気持ちになりました。

放課後等デイサービスで出会ったダウン症候群の子どもたちの中には言葉が出ていない子もいましたが、たとえ言葉がなくても「他人とコミュニケーションがとれていてうらやましい」とも思いました。

夏休み保育の手伝いとして、親が何日かスタッフとして入る機会があったのですが、息子は私が部屋に一歩足を踏み入れた途端、「ここは自分の母親がいるべき場所ではない!何故だ!何故だ!おかしな構図ではないか!」と思ったのか、自傷しパニックを起こし、服を脱いで全裸になって暴れました。

それに対して、ダウン症候群の子どもたちは親の姿を見ると、嬉しそうにすり寄っていました。この様子を見て「出生前診断を受けたことはつくづく意味がなかった」と思いました。

わかるのは一部の障害

出生前診断で分かるのは、星の数ほどある障害の中の一部です。(息子のような)自閉スペクトラム症があるかは調べられません。ですから、陰性の結果が出たからといって、必ずしも病気や障害がないわけではありません。

「障害のある子どもを育てるのには莫大なお金がかかるだろう」と考え産まない選択をする人もいるかもしれません。けれども、療育手帳や身体障害者手帳などを取得することにより、さまざまな福祉サービスを受けることもできます。手当や税金などの減免もあります。

人は「見えない先のこと」「自分の知らないこと」に強い不安を抱きます。障害がある子どもを実際に育てている保護者の話を聞いたり、体験談の本を読んだりして正しい情報を集めた上で、検査の選択と決断をしてほしいと思います。

息子は現在21歳になりました。
著者親子
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障害のある子どもの親となったとき、これまで培ってきたものとは全く違う価値観をゼロからつくり上げることになります。障害の受容とは、長い年月をかけて子どもを育てていく過程で、親が築いてきた自身の価値観を一度リセットし、再構築していく作業だと感じています。

でも、これをすることで新しい世界、価値観が生まれ「普通」という呪縛から解放されました。負け惜しみではなく「今のままの、自閉スペクトラム症の息子がいい」と思えるようになりました。

今、21年前に戻れるのならば「出生前診断、受けなくてもいいんじゃないの。障害があっても何とかなるよ」と言葉をかけてやりたいです。私より背が高くなった息子を見てシミジミ思います。

執筆/立石美津子

(監修・鈴木先生より)
出生前診断には未だ賛否両論があります。一般に染色体異常としてはダウン症候群が有名ですが、自然流産する染色体異常で最も多いのはターナー症候群と言われています。しかし、臨床的にはそれ以外の染色体異常や先天奇形症候群も多く存在します。小児科で診断されずに大人になることもあります。生後1年も満たないうちに亡くなっていくお子さんもいます。
立石さんの息子さんのように出生前診断で異常がないと言われても、調べうる範囲内で異常がなかっただけであり、現代でも自閉スペクトラム症に関しては分かりません。
私は小児科医として、どんな障害があったとしても新しい命を得て生まれてきたお子さんとその親御さんには「おめでとうございます」と言うようにしています。ドローターが提唱した先天異常のあるお子さんを産んだ親の心理は、ショック→否定→悲しみと怒り→適応→再起の順に経過していきます。怒りの時期に「おめでとう」と言われても保護者は受け入れられませんから、タイミングをはかりながら言葉をかけます。
自閉スペクトラム症と診断された後もほぼ同じ心理経過をたどります。障害などの重い病気の告知後には、この子の99%は正常で1%の病気の部分は医療側で見ますから親御さんはこの子の99%のできるところを伸ばしてあげてくださいねと伝えるようにしています。
どんな障害であっても、そのお子さんにとって「Not unable, but able」の精神が重要なのです。

このコラムを書いた人の著書

動画でおぼえちゃうドリル  笑えるひらがな
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小学館クリエイティブ
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