ダウン症のお子さんがうらやましかった

息子を産んで2年間が過ぎたころ、ほかの子とはあきらかに違う行動をとる息子に言い知れぬ不安を感じ、専門医を受診しました。自閉症(※当時の診断名。現在は自閉スペクトラム症)と診断されました。

息子は自傷行為、パニックが激しく「一生これが続くのではないか」と絶望的な気持ちになりました。

放課後等デイサービスで出会ったダウン症候群の子どもたちの中には言葉が出ていない子もいましたが、たとえ言葉がなくても「他人とコミュニケーションがとれていてうらやましい」とも思いました。

夏休み保育の手伝いとして、親が何日かスタッフとして入る機会があったのですが、息子は私が部屋に一歩足を踏み入れた途端、「ここは自分の母親がいるべき場所ではない!何故だ!何故だ!おかしな構図ではないか!」と思ったのか、自傷しパニックを起こし、服を脱いで全裸になって暴れました。

それに対して、ダウン症候群の子どもたちは親の姿を見ると、嬉しそうにすり寄っていました。この様子を見て「出生前診断を受けたことはつくづく意味がなかった」と思いました。

わかるのは一部の障害

出生前診断で分かるのは、星の数ほどある障害の中の一部です。(息子のような)自閉スペクトラム症があるかは調べられません。ですから、陰性の結果が出たからといって、必ずしも病気や障害がないわけではありません。

「障害のある子どもを育てるのには莫大なお金がかかるだろう」と考え産まない選択をする人もいるかもしれません。けれども、療育手帳や身体障害者手帳などを取得することにより、さまざまな福祉サービスを受けることもできます。手当や税金などの減免もあります。

人は「見えない先のこと」「自分の知らないこと」に強い不安を抱きます。障害がある子どもを実際に育てている保護者の話を聞いたり、体験談の本を読んだりして正しい情報を集めた上で、検査の選択と決断をしてほしいと思います。

息子は現在21歳になりました。
著者親子
Upload By 立石美津子
障害のある子どもの親となったとき、これまで培ってきたものとは全く違う価値観をゼロからつくり上げることになります。障害の受容とは、長い年月をかけて子どもを育てていく過程で、親が築いてきた自身の価値観を一度リセットし、再構築していく作業だと感じています。

でも、これをすることで新しい世界、価値観が生まれ「普通」という呪縛から解放されました。負け惜しみではなく「今のままの、自閉スペクトラム症の息子がいい」と思えるようになりました。

今、21年前に戻れるのならば「出生前診断、受けなくてもいいんじゃないの。障害があっても何とかなるよ」と言葉をかけてやりたいです。私より背が高くなった息子を見てシミジミ思います。

執筆/立石美津子

(監修・鈴木先生より)
出生前診断には未だ賛否両論があります。一般に染色体異常としてはダウン症候群が有名ですが、自然流産する染色体異常で最も多いのはターナー症候群と言われています。しかし、臨床的にはそれ以外の染色体異常や先天奇形症候群も多く存在します。小児科で診断されずに大人になることもあります。生後1年も満たないうちに亡くなっていくお子さんもいます。
立石さんの息子さんのように出生前診断で異常がないと言われても、調べうる範囲内で異常がなかっただけであり、現代でも自閉スペクトラム症に関しては分かりません。
私は小児科医として、どんな障害があったとしても新しい命を得て生まれてきたお子さんとその親御さんには「おめでとうございます」と言うようにしています。ドローターが提唱した先天異常のあるお子さんを産んだ親の心理は、ショック→否定→悲しみと怒り→適応→再起の順に経過していきます。怒りの時期に「おめでとう」と言われても保護者は受け入れられませんから、タイミングをはかりながら言葉をかけます。
自閉スペクトラム症と診断された後もほぼ同じ心理経過をたどります。障害などの重い病気の告知後には、この子の99%は正常で1%の病気の部分は医療側で見ますから親御さんはこの子の99%のできるところを伸ばしてあげてくださいねと伝えるようにしています。
どんな障害であっても、そのお子さんにとって「Not unable, but able」の精神が重要なのです。

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