子どもの滑舌の悪さが気になったら。先天性疾患や知的障害がある?相談先、家庭でできるトレーニング方法も【専門家監修】

ライター:発達障害のキホン
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話し始めたころは「かわいい」と感じていた、少したどたどしい赤ちゃん言葉。成長するにしたがって、次第にわかりやすい発音になっていくものですが、そうならないこともあります。子どもの滑舌が気になるとき、そこにはどのような原因があって、周りの大人はどのように働きかけたらよいでしょうか。

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監修: 小松知子
神奈川歯科大学 全身管理歯科学講座 障害者歯科学分野 分野長/教授
歯周病の病態メカニズムと唾液における酸化ストレス研究により、エビデンスに基づく歯科臨床を目指して活動しています。様々な障害のある人に対して歯科診療や摂食嚥下リハビリテーションを専門とし、障害特性に配慮した歯科治療および予防的アプローチを行なっています。さらに、多職種協働による地域包括歯科連携の体制づくりに取り組んでいる。

子どもの滑舌が悪い原因は?

声を出すことやその声の出し方自体のことを「発声」と呼び、ことばを発音することを「構音」と呼びます。例えば、一つの話しことばについて、喉頭音源(こえ)の性質を指すものを「発声」、言語音(ことば)としての性質を指すものが「構音」となります。

この構音がうまくできないことを、私たちは一般的に「滑舌が悪い」と言います。たとえば、「さかな」を「しゃかな」、「おかあさん」を「おかあしゃん」、「りんご」を「ご」とだけ言うことなどがあります。こうした滑舌がうまくいかないという状態は、どうして起こるのでしょうか。

そもそも上手にしゃべるってどういうこと?

物事の名前を覚えて、それを正確に発音することによって、自分が思っている物事を相手に伝え、相手が伝えようとしている物事を理解する、これが「しゃべる」ということです。そこには、物事には名前があると理解して名前の知識を蓄えるインプットと、相手に伝わるような構音ができることによって声にするアウトプットがあります。

この両方がうまくいったときに「上手にしゃべる」ことができた、となります。このアウトプットがスムーズにできるという意味で構音が正しくできていることが「滑舌が良い」という状態です。

舌・口唇の適切な動きなどによって音を出すことができるように

では、私たちがふだん何気なくしている構音は、どのようにできるようになったのでしょうか。赤ちゃんが最初に出す声は、泣き声で、ほぼ母音だけで構成されています。母音とは、のどから出るそのままの音で、舌や歯・あごなど口腔内の器官の動きに妨げられずに出る音です。赤ちゃんは、成長と共に周りの音を聞き分けられるようになり、自分へ話しかけてくれる人の声の様子を聞きながらまねをして、だんだんに発音できる音を増やします。

日本語の五十音の子音、カ・サ・タ・ナ・ハ・マ・ヤ・ラ・ワの各行の一音一音は、それぞれ、唇を閉じたり開いたり、舌の奥や舌先上あごの奥の柔らかい部分(軟口蓋)をコントロールしたり、といった複雑な動きによって構音が可能となります。

大人でも、初めて外国語を習ったときに、日本語にはない「th」や「f」のような音に関しては、たくさん練習をした記憶があるのではないでしょうか。それと同じことを、ことばを話し始めた子どもは日々トレーニングしています。一生懸命発音して、通じたという経験や、通じなくて困ったり、大人に直されたりという経験を経て、発音する力は成長し、滑舌(構音)はよくなっていくといわれています。

食べる機能の成長と、構音のバリエーションは連動

構音には、口の中の動きが大きく関係し、食べるときの口の中の動きの成長と連動しています。

生まれてすぐの赤ちゃんは、反射的に口の中であごと舌の動きを組み合わせて、乳首を吸うことにより栄養源である母乳やミルクを摂取しています。大脳の発達と共に、生後5~6カ月ごろから離乳が始まります。離乳とは文字通り乳離れのことです。ミルクを飲んでいる時の乳児型嚥下から固形の食べ物を飲み込む(成熟型嚥下・せいじゅくがたえんげ)動きが獲得され、その後、舌による押しつぶし、さらに歯茎でのすりつぶしができるようになり、奥歯が生えるとかんで(咀嚼・そしゃく)食べる動きの練習が始まります。

この過程で、舌の位置や動き方が変わっていきます。最初は軟らかいペースト状のものから始めますが、硬いものを咀嚼するようになると、顎の動き方も上下だけでなく左右も含めて複雑な動きをするようになります。

この口の中の動きが複雑にできるようになることが、構音と連動します。たとえば、横から見た時の舌先が下の歯と同じ位置にある状態ではタ行の音を出すことができません。また、口が閉じない状態では、マ行・パ行などの音を出すことができません。鼻呼吸ができるようにならないと、ナ行の音は出ません。

唇を閉じていられるようになるために鼻呼吸が大切

離乳が始まり固形物を食べるようになると、口を閉じて食べ物を飲みこむ(嚥下する)という動きをするようになります。このときに、鼻呼吸がうまくできていることが大事だと言われています。唇を閉じていられるということは、鼻呼吸ができている証拠でもあります。

赤ちゃんはいろいろな音が口から出る、ということを実験していきます。唇を閉じたまま息を吐き、「ぶぶぶ~」と唇を震わせると音が出る、という発見をするでしょう。この「ぶぶぶ」という音は、やがて唇のコントロールがうまくできるようになると、パ行、バ行、マ行などのさまざまな音へと進化します。

小学校に上がる前に滑舌の相談が増えます

正しい発音のお手本を何回繰り返し聞かせてみても、なかなかうまくできない、何を言いたいのかはわかるけれども、特定の音がうまく出せなかったり、違う音を発音してしまう子どももいます。はじめは個性だと思っていた話し方も、4~5歳ごろになると、構音がうまくできないのかもしれないと保護者が気づく、ということがあります。

特に小学校に上がるまえ、幼稚園・保育園の年長クラスのころや、「就学相談」が開始されるころになると、この「滑舌」が気になって相談されるケースが増えます。

滑舌が悪くなってしまう原因は?

それでは、なぜ滑舌が悪くなってしまうのでしょうか。いくつかのケースが考えられます。

聴力の問題

構音できるようになるために大事なことは、まねをすること。そのためには、音が聞こえていることが大切です。もし、音がよく聞こえていなければ、まねをすることもできないでしょう。音が聞こえない、聴力に問題があるケースには、耳そのものの器官としての働きがよくないケースの「伝音性(でんおんせい)難聴」と、耳は聞こえているけれども、内耳の奥にある音を脳に伝える「神経系」の働きがよくないケースの「感音性(かんおんせい)難聴」があります。伝音性難聴の場合には、中耳炎などの病気が原因となる場合や、音を感知する部分の奇形などの場合があります。感音性難聴の場合には、特定の音域がうまく感受できない、複数の音の聞き分けが難しいなどのケースもあります。

いずれにしても、音がよく聞こえなければ、声をまねすることもうまくできないことが多いと言われています。

口の中の機能発達の遅れや形態の問題

構音は、唇や舌、あごといったパーツの複雑な動きによって形成されます。舌の位置が下がったまま(低位舌)だと、正しい発音ができないです。唇を閉じることができず、舌が低緊張で常に舌で歯を押している場合は出っ歯(前突)、上下の歯がかみ合わない(開咬)、すきっ歯(歯間離開、空隙歯列)などといった歯並びが悪くなる原因にもなります。

舌の大きさ、歯列の形(歯並び)、上あごやのどの形などが、構音には大きく影響します。体のパーツの形や大きさに関しては、成長に伴って解決されることもありますが、生まれつきの特性による場合もあります。

その中には、舌小帯(ぜっしょうたい)が極端に短いというケースもあります。舌の裏側と口の底と下あごの歯ぐきの内側をつないでいるヒダが舌小帯で、この部分が短いと、口を開けたときに舌先を上あごに触れさせることができず、サ行・タ行・ラ行が正しく構音できない場合があります。

また、前歯がないと、サ行の発音がしにくくなります。歯と歯茎も構音に欠かせないところです。

構音(発音)に関する筋力の弱さが原因

発音するためには口の中のさまざまな筋肉をコントロールしますが、この筋肉をコントロールする力、つまり筋力そのものが弱いとうまく構音できないことがあります。先天性の疾患などにより全身の筋力が弱いことが、滑舌が悪くなる原因となることもあります。

言葉の発達や、知的発達の遅れがある場合

滑舌の問題以前に、ことばを発しようとしない場合や、ことばの意味をよく理解できていない場合などは、知的な発達の遅れや偏りが原因の場合もあります。難聴もなく、口の中の機能や形態の問題がなくても、滑舌がよくないということもあります。

先天性の疾患との関係

耳の聞こえや、口の中の形態や機能、筋力や知的な発達の遅れなどは、子ども自身にある先天的な疾患などが原因ということは少なくありません。ですが、生まれつきだからとそのままにしておくのではなく、療育やトレーニングによって、ある程度改善することが可能だといわれています。
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滑舌が気になったときには、どこに相談したらいい?

滑舌は、訓練することである程度の改善ができます。その指導をしてくれるのが言語聴覚士(speech therapist:ST)です。言語聴覚士は、耳の聞こえ、発声、呼吸、認知、咀嚼・嚥下にかかわる機能に関しての専門家です。

言語聴覚士とつながるためには、子どものかかりつけの小児科、耳鼻咽喉科などから紹介してもらうことができます。また、ほかの病気でかかっている場合であれば、脳神経外科、神経内科、形成外科、リハビリテーション科、歯科からの紹介ということもあります。「言語外来」「ことばの外来」を設置している病院もあります。
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