発達障害がある子どもの場合の口腔ケア

歯のケアが必要なことは分かっているけれど、どうしてもうまく歯磨きができない、という場合があります。

発達障害のある子どもの場合、特性などにより、食生活が乱れたり、歯磨きがうまくできなかったりして、虫歯になってしまうこともあります。

自閉スペクトラム症の特性から、こだわりが強いために極端な食べ物の好き嫌い(偏食)があったり、パニックをなだめるためにお菓子やジュースなどを頻繁に与えてしまったりという場合もあるのではないでしょうか。

ADHDがある場合は、歯磨きの間じっとしていられなかったり、歯磨きをすること自体を忘れてしまったり。手先の不器用さやボディイメージの弱さがあると、自分ではうまく磨けないということもあります。

また、感覚過敏があると、口や顔を触られることを嫌がって歯磨きするのが難しいということもあります。歯磨きの時間がバトルになってしまい、そのことを考えるだけで憂うつ、という保護者の方も少なくありません。

こうした特性がある場合は、後述する脱感作(だつかんさ)などの方法をはじめ、子どもがいやがらない歯磨きの工夫を試してみてください。また、かかりつけの歯科医ともよく相談してみることも大切です。

基礎疾患がある子どもの場合の口腔ケア

低出生体重児や先天性の心疾患、脳性麻痺、重症心身障害などがある子どもの場合には、体質や特性、生活環境によって虫歯ができやすいことを知っておきましょう。上記のような虫歯予防を守っても虫歯ができてしまう、あるいは歯磨きをしようと思ってもできない、という場合があります。

体質や生活環境によって、虫歯になりやすい場合

低出生体重児や先天性の心疾患、脳性麻痺、重症心身障害などがある子どもの場合、歯の表面のエナメル質など歯の質が弱い場合があります。また、基礎疾患などで服薬をしていると薬剤の影響で歯肉増殖や唾液分泌低下などが起こることで虫歯になりやすいともいわれています。

重度の障害などによって、よくかんで食べることや飲み込みがうまくできず、食形態がペースト食に限られている場合は、歯に食べ物が付着しやすくなります。また、反芻癖があって口の中にいつも食べ物が残っている状態や酸性の状態が長く続くといったことによっても、虫歯予防がしづらくなります。

心臓に疾患がある場合、歯周病に注意を。感染性心内膜炎の可能性も

歯周病になると歯肉に炎症がおきますが、この炎症の原因は細菌によるものです。歯茎から細菌が血管に侵入し、血流にのって心臓に到達して心臓の損傷がある部分に付着し、感染性心内膜炎などを起こすことがあります。

毎日の歯磨きのための工夫って?

毎日の歯磨きで大変なのは、何よりも子どもがいやがること。歯磨きが親子ともにストレスとなっているということもあるでしょう。子どもがいやがる原因を考えてみると、少し解決の糸口が見えるかもしれません。毎日の歯磨きを続けるためには、次のようなことが大切です。

毎日の歯磨きのために 1:痛みがないかチェック

仕上げ磨きをされるときに、どこかに痛みを感じている場合があります。ゴシゴシと強く磨こうとして歯ブラシがあたって痛いことも、子どもが歯磨きをいやがる原因になります。歯ブラシは鉛筆を持つようにしてやさしく握り、こまかく震わせるようにして歯に当てましょう。

特に、上唇小帯(じょうしんしょうたい)という上唇の真ん中で、唇と歯茎をつないでいる「すじ」が長く伸びていることがあります。この部分に歯ブラシが当たると、とても痛いです。歯ブラシを持っていない手指で上唇をしっかり排除して、確認しながら磨いてあげましょう。

毎日の歯磨きのために 2:感覚過敏がある場合は脱感作を試してみる

感覚過敏がある子どもの場合は、口の中を触られること自体がいやで暴れてしまう、という場合があります。その場合は、脱感作を試してみましょう。

脱感作とは、触っても大丈夫な体の部分から、手のひらを動かさないようにしっかり触れて、声をかけながら少しずつ慣れさせていくことで、歯磨きなら口周りを触ることができるようにしていく方法です。肩→首→頬→口の周り→口の中の順序で触れていき、慣らしていきます。口の中に指を入れる時は指の腹でしっかり歯茎に触れて、いやがらなくなるまで動かさないようにするのがポイントです。そのようなアプローチをすることで、歯ブラシのような刺激が強いものも受け入れられるようになります。

毎日の歯磨きのために 3:ブクブクうがいを練習する

歯磨きができてもできなくても、ブクブクうがいで食べカスを口の中から減らすことができます。でも、いきなり「ブクブクうがい」と言っても、やり方が分かりません。プロセスを分解して、少しずつトライしてみましょう。

ブクブクうがいには、①水を口に含む →②口の中に水をためておく →③口の中で頬を膨らませて、水を左右に移動させる →④吐き出す、という動作のプロセスがあります。このプロセスを1つひとつ確認しながらやってみましょう。最初の①水を口に含む では、口を閉じないと水がこぼれてしまうので、そこから挑戦します。ぶくぶくうがいのやり方の動画などもあるので活用してみましょう。水を含まずに、1つひとつ動きを模倣しながら練習するのも良いでしょう。

毎日の歯磨きのために 4 :自分で磨けるようにする

大人になるまでに、歯磨きが自分でできるようになることが最終的な目標ですが、まずは歯磨き習慣の定着が大切です。口の中が過敏な子どもの場合は、前述のように、歯が生える前からミルクを飲んだ後に口腔用ガーゼや柔らかいガーゼなどで口内を拭くことで、過敏を防ぐことにつなげていきます。また、歯磨きの前に、指で過敏を和らげるなどを行うことで、仕上げ磨きの歯ブラシをいやがらないで受け入れられるようになり、仕上げ磨きもしやすくなります。歯磨きする部分を絵カードなどで示して、時間の長さを決めて、「10まで数えるよ。1、2…10、はいOK」というようにカウントします。終わったらほめてあげましょう。

このようにして、終わりを提示することで、最終的には歯磨きを受け入れてもらいます。

一見、歯磨きができているようでも、特に小学校中学年くらいまでは、細かいところまで自分で歯ブラシを当てることが難しいので、大人が仕上げ磨きしてあげることが必要です。磨き残し部分が赤く染まる液なども市販されていますから、親子でときどき磨き残しをチェックして、残っているところをうまく磨く方法を研究したり教えたりしましょう。

毎日の歯磨きのために 5:かかりつけの歯医者を見つける

家庭で口腔ケアをするときに、正しいやり方が分からないことがあるでしょう。歯磨きの習慣づけも、歯ブラシのじょうずな使い方も、専門家の指導を一度受けてみてください。

歯医者さんは、虫歯の治療や歯科検診だけでなく、気軽に口の健康についての相談ができる場所です。最初の乳歯が生え始める頃から、ぜひかかりつけの歯科医を通いやすい場所で見つけてください。

もし、子どもに障害がある方で、どこに相談していいか分からないという場合は、各地域に障害のある子どもを専門にみている口腔保健センターなどがありますので、利用してみてください。日本障害者歯科学会のホームページにも、口腔保健センターや障害者歯科学会の認定医の案内があります。

かかりつけの歯医者に、気になることは気軽に相談して、定期的に健診を受けることで、虫歯を予防することもできます。まずは、子どもが安心していやがらずに通える歯医者さんを探しましょう。
次ページ「まとめ」

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