発達障害領域でも広がる作業療法士(OT)の役割とは。発達に凸凹がある子どもたちの身近な存在を目指してーー日本作業療法士協会 中村春基会長インタビュー

ライター:専門家インタビュー
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「作業」を通して自立支援をサポートする、作業療法士(OT)。近年、発達障害の分野でも作業療法士に触れる人も多くなり、より身近な存在になりつつあります。
今回は、日本作業療法士協会の会長を務める中村春基さんに、作業療法士の仕事について、また発達障害のあるお子さんを支援する際のポイントについて、お話を伺いました。

その人らしい生活を支援するのが作業療法士(OT)の役割

作業療法士(OT)の役割というと、病気やケガのあとのリハビリの印象が強いかもしれません。ですが実は、発達障害の領域でも作業療法の重要性が高まってきています。今回は、日本作業療法士協会の中村春基会長に、作業療法士の仕事や発達障害のあるお子さんを支援する際のポイントを伺いました。

――はじめに、作業療法で対象となる「作業」について教えてください。

中村:作業療法でいう「作業」とは、日常生活のすべての行為を指しています。たとえば、料理や掃除といった家事、接客やパソコン作業など仕事の場面で必要なこと、スポーツや音楽鑑賞、手芸などの趣味の活動はもちろん、食事や休息、眠ることだって作業の1つです。

発達障害のあるお子さんの場合は、たとえば「食が細い」「なかなか寝つけない」といったことから、「黒板の文字を写すのが苦手」「授業中じっと座っていられない」といった学習や集団行動の悩みまで、そのすべてが支援の対象となります。

――とても幅広いのですね。

中村:驚かれるかもしれませんね。作業療法士の仕事は、「その人らしく生きるために、困りごとを軽減、解決するためのサポート」と言い換えられるのではないでしょうか。

発達障害の領域でも作業療法の重要性が知られるように

――現在、日本ではどれくらいの作業療法士の方がどのような分野で活躍されているのでしょうか?

中村:作業療法士は1966年にできた国家資格で、自立支援についての医学、心理学、社会学的な知識を持つプロフェッショナルです。現在、日本国内で資格を持つ人は10万人を超えています。

日本の作業療法士は、その多くが医療機関で仕事をしていることも大きな特徴です。ほかには、児童発達支援センター、放課後等デイサービスなどの児童福祉サービスなど。最近では就労支援施設や学校、学童保育、また刑務所などで支援にあたる作業療法士も増えています。
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現在仕事に就いている作業療法士のみの割合(2020年度 日本作業療法士協会調べ)
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最近では、医療機関における子どもを対象とする作業療法で割合が大きくなっているのが発達障害です。自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)の支援においても作業療法が重要であることが知られるようになりつつあります。

日本作業療法士協会では5年毎で「作業療法白書」を取りまとめています。最新の2021年度版を編集中なのでまだ正確な数字がお伝えできないのですが、傾向としては下記のとおりです。

【医療機関】
新生児期から18歳以上まで幅広い。割合としては未就学が約45%、就学~15歳までが約25%。

【児童福祉サービス】
未就学が5割強、就学後が5割弱で、やや未就学のお子さんの方が多い。
施設種別としては、作業療法士が多くいる順に、児童発達支援センター、放課後等デイサービス、障害児入所施設。

【対象とする障害や疾患】
・ASD、ADHD、DCD、LDなど
・脳性麻痺
・精神遅滞 知的障害
・てんかん
・ダウン症などの染色体異常
・重症心身障害
・筋ジストロフィーを含む神経難病
+障害が診断される前の気になる段階の子どもたち

とは言え、「リハビリ」「高齢者」というイメージがまだまだ強いようです。病院や療育センターで作業療法を受けることになっても、作業療法士は何をする人なのか、保護者の方には分かりにくいかもしれません。実際の作業療法の場面では、お子さんへの対応が中心になるので、なかなか「作業療法とは何か」「作業療法士が何を目指しているのか」を伝える時間を持てないのも実情です。

そこで、協会では、作業療法を「知って」、上手に「使って」もらえるよう、広報活動にも力を入れています。たとえば、『○○○とつなぐ』という協会が発達障害のお子さんを支援する方向けに発行したパンフレットは、手帳に挟んで持ち帰ってもらい、気になったときに読んでもらえるように手のひらサイズで作成しました。
○○○とつなぐー子どもの育ちを支える作業療法士ー
https://www.jaot.or.jp/files/page/kankobutsu/pdf/ot_kodomo_forlook.pdf
――日本以外の国では、どのような状況なのでしょうか。

中村:イギリスでは7割もの作業療法士が、地域の学校や通園施設、訪問施設などで働いていると聞いています。アメリカでも、延べ13万人の作業療法士のうち3万人が教育現場で働いており、なりたい職業ベスト10にもランクインしたことがあるくらい、子どもたちにとっては身近な存在のようです。

――医療機関が中心の日本とは、大きく違うのですね…!

中村:そうですね。 「友達づきあいが苦手で、悪気はないのにすぐに相手を怒らせちゃう」「ボールを投げたり、鉄棒をしたりするのが苦手で、みんなにバカにされてるみたい」、こうした悩みを気軽に話せて、その解決策を一緒に考えてくれる人がいたら子どもたちはどれだけ気持ちがラクになるでしょう。

医学的知識のある作業療法士が身近な存在となれば、必要があればスムーズに医療機関と連携し、早期に治療や療育を始める助けともなるはずです。作業療法士が、生活と医療を結びつける架け橋となれたら!作業療法士協会がめざす大きな目標の1つです。

将来的には日本でも「町の作業療法室」のような場所があちこちにできて、困りごとがある人がふらっと相談できるようにしていけたら、と考えています。

作業療法士(OT)がプロの経験と知識で、保護者の不安を解消!

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出典 : http://amanaimages.com/info/infoRF.aspx?SearchKey=10161017576
――作業療法の支援計画はどのように立てていくのでしょうか?

中村:ひとくちに発達障害の作業療法といっても、実にさまざまなアプローチがあります。たとえばおもちゃやボール、楽器を使った手先や運動の訓練のほか、スーパーに買い物に行ったり、子どもたち同士で料理をしたり、ときにはみんなでスポーツ観戦に出かけたりすることも。具体的な生活の場面で、何ができていて、どんなことに困っているかといったことを、学校や園、また地域社会での経験を通して子どもと一緒に考えていきます。

豊富な医学的な知識に加え、心理学や社会資源に関する知識をもとに、子どもの成長の一歩先を見ながらお子さん自身の気づきと変化をサポートしていくのです。だから、作業療法の現場はいつでも前向き!作業療法士は、「この子が持っている能力は何か」「今の運動機能と知的な能力だったらどんな遊び、勉強、作業ができるか」をすばやく見つけ、子どもが成功体験を感じられるシーンをたくさんつくっていきます。 

――保護者の方にとっても、発見が多そうですね。

中村:そうですね。こうした働きかけは、そのまま保護者へのサポートにもつながります。保護者はともすると、わが子の苦手や不得意な面に目が行ってしまい「なんとか克服させてあげたい」と思いつめがち。そこに作業療法士のプロフェッショナルな視点が入ることで、「子どもの可能性や能力に気づき、子育てがより楽しく気が楽になった」という声も聞かれます。

――学校や園の先生はどうでしょうか?

中村:学校や園の先生からも、作業療法士と協働することで支援がしやすくなった、という声が届いています。

例を挙げると、「学習が困難なことの背景には、眼球の動きや姿勢を保つことの難しさなどの原因があることを知り、決して怠けているわけではないということが分かって教師としてもうれしかった」「授業の様子をこまかく観察してもらい、道具や教材の工夫で困りごとがある子どもたちにもできることが増えることが分かりました!」などです。こうした声を聞くことは、私たち作業療法士の何よりの喜びです。
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