子どものPTSD(心的外傷後ストレス障害)の原因・症状・治療法は?診断基準やうつ病との関連性も説明【専門家監修】

ライター:発達障害のキホン
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PTSD(Post Traumatic Stress Disorder :心的外傷後ストレス障害)は、心の外傷体験に対する反応が長期的に続いている状態で、子どもも発症することがあります。子どもは大人に比べて精神的機能が未発達なため、外傷の影響が深刻になりやすいのが特徴です。では「子どもがPTSDかも(PTSDになってしまうのでは)」と感じたときに、身近な大人は何ができるのでしょうか。この記事では子どものPTSDの原因・症状・治療法・診断基準やうつ病との関連性についてなど詳しく解説します。

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監修: 井上雅彦
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授
LITALICO研究所 スペシャルアドバイザー
ABA(応用行動分析学)をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のためのさまざまなプログラムを開発している。
目次

PTSDとは心の外傷体験に対する反応が長期的に続いている状態

PTSD(Post Traumatic Stress Disorder :心的外傷後ストレス障害)は、心の外傷体験に対する反応が長期的に続いている状態です。

通常、外傷への反応は一過性で時間とともに改善しますが、災害・事件・事故など自分や身近な人の生命に関わるような重大な外傷体験の場合、症状が重く、長期化することがあります。このように症状が長期化した状態を、PTSDと呼びます。

症状の代表例には、心の外傷体験を再体験するフラッシュバック、気分障害、睡眠障害などがあげられます。

また、PTSDと関係が深い病名に、急性ストレス障害がありますが、急性ストレス障害は外傷体験の直後から1ヶ月以内に発症し、1ヶ月以内に収束するのが特徴です。一方で、外傷体験から3~6ヶ月以内に発症し、症状が1ヶ月以上続くのがPTSDです。(外傷後何年も経ってから発症するケースもあります。)

※このページは「心の外傷とその対応|文部科学省」と各参考資料を基に作成されています。
参考:心の外傷とその対応|文部科学省
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/clarinet/002/003/005/002.htm

子どものPTSDの原因・症状・診断基準

PTSDは大人・子ども問わず発症する病気ですが、大人に比べて精神的機能が未発達な子どもの場合、その外傷体験の影響が深刻になることがあります。そのため、子どものPTSDは大人よりも細やかな注意が必要です。

子どものPTSDの原因

どのようなストレスでも外傷体験となる可能性はありますが、子どものPTSDの原因になりやすい外傷体験は以下の3つと言われています。

1.自分の生命や身体に対する深刻な脅威
具体例:暴力、性的な虐待、人質にとらわれる、戦争、ガンなどの重い病気など

2.他者が重症を負ったり、殺害されたりした出来事を目撃すること
具体例:事件事故・暴力・天災・テロ・戦争など

3.身近な他者に対する深刻な脅威
具体例:家族の死、暴力、性的な虐待、人質にとらわれる、戦争、ガンなどの重い病気など

個人差があるため、外傷体験に晒された全ての子どもがPTSDを発症するわけではありません。また、子どもが直接外傷体験に遭遇していなくても、他者の体験を目撃することで発症するケースがあるため、注意が必要です。

※幼児のPTSDで多い原因のひとつに「ドメスティックバイオレンス(家庭内暴力)」が挙げられます。

子どものPTSDの症状

子どものPTSDの症状は主に「侵入症状」「回避症状」「認知および/または気分に対する悪影響」「覚醒度および/または反応性の変化」「解離症状」の5つがあり、いくつかの症状を併発することがほとんどです。

1.侵入症状
心の外傷体験を連想させるものを目にしたあとなどに、意図せずその体験を思い出したり、悪夢を見たりします。(6歳未満の場合、悪夢と外傷的な出来事の関連性は不明)

心の外傷体験を再体験するフラッシュバックがよく見られますが、幼児の場合、遊びを通して外傷体験を再演するケースも多いです。

2.回避症状
心の外傷体験の記憶や感情を思い出さないように回避し続けます。その体験を連想させる物事も回避対象です。

3.認知および/または気分に対する悪影響
心の外傷体験を思い出せなかったり、その体験に対する考え方に歪みが生じたりする場合があります。考え方の歪みの例には「自分が悪いのではないか」「自分が何か対処をすれば避けられたのではないか」などがあり、自責的な考え方になる傾向が見られる場合もあります。

また、心の外傷体験は気分にも悪影響を及ぼし、以下のような症状として表れます。

・陽性感情の減少と陰性感情(恐怖・罪悪感・悲しみ・羞恥心・錯乱・疎遠感・孤独感など)の増加
・物事に関心が持てなくなる
・ひきこもり
・感覚が麻痺していると感じる
・自分が若くして死ぬと予測する

4.覚醒度および/または反応性の変化
心の外傷体験の前には見られなかった、過剰な覚醒状態やそれに伴う症状が表れます。ちょっとした音や変化にドキドキしたり、常に緊張している状態になったりもします。

5.解離症状
自分の意識が体から離れているように感じたり、現実が非現実に感じたりします。
参考:小児および青年における急性および心的外傷後ストレス障害 (ASDおよびPTSD)|MSDマニュアル プロフェッショナル版
https://msdmnls.co/3A1fdJ7

子どものPTSDの診断基準

PTSDは、重度の恐怖をもたらした心の外傷体験があり、その体験を再体験しているかどうかや、感情麻痺や過覚醒の病歴をもとに診断されます。

PTSDと診断されるには、機能障害や精神的苦痛を引き起こすほど重度な症状があり、その症状が1ヶ月以上続く必要があります。症状が3日以上1ヶ月未満のものは急性ストレス障害と判断され、PTSDの診断にはなりません。

また、PTSDには、急性ストレス障害が持続したケースや、心の外傷体験後しばらくしてから発症するケースなどがあり、発症までの経過はさまざまです。(急性ストレス障害やPTSDの具体的な基準はわずかに異なることがあります。)

子どもの年齢別の反応、大人にできること

子どものPTSDは、年齢によって症状の表れ方に特徴があります。ご家庭でできる応急処置の方法にも違いがあるので、幼児・小学生・中高生に分けて説明します。

幼児(主に小2くらいまで)
これまで「安全であった世界」がそうでなくなったと感じており、安全であることを確認しようとします。そのため、家族への依存が強くなり、赤ちゃん返りなどの症状が表れます。

ぼーっとしている、ものごとに関わりたがらない、危険が去ったことを理解できない、ぐずる、眠るのを怖がる、両親から離れられない、退行症状や不安感などの症状が見られる場合もあります。
小学生のPTSDに見られる反応
ぼーっとしている
、ものごとに関わりたがらない様子
、  何が怖いのか分からないが不安・恐怖心を感じる
、危険が去ったと理解できない
、ぐずったり、泣きわめく、イライラするなど扱いにくくなる
、眠ることや夜一人になるのを怖がる
、体験した出来事を繰り返し話す
、不安で両親から離れられない
参考:心の外傷とその対応|厚生労働省(https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/clarinet/002/003/005/002.htm)
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・大人にできる支援
「大丈夫だよ」と繰り返し伝える、スキンシップの頻度を増やす、一緒に寝るなど、安心・安全であることを思い出してもらうよう心がけましょう。また、無理に心の外傷体験を思い出させたり、大切な人と引き離したりなど、心の負担になるような刺激は避けてください。

できるだけ日常生活を今まで通り続けることが大切です。

心の外傷体験を再現する遊びをしたときは、ぬいぐるみなどのおもちゃや画用紙などを用意して、気持ちを表現しやすい環境をつくるといいでしょう。

小学生(主に小3から小5くらいまで)
このくらいの年齢になると、ストレスを受けたときの反応は不安や恐怖が中心になります。しかし、幼児期や低学年の子どもと違い、恐怖がより現実的な内容を持っています。イライラ、怒り、言うことを聞かないなどの行動や、吐き気、腹痛、頭痛などの身体症状、不眠、悪夢などが引き起こされることも多く見られます。

自分の行動が気になる、苦しい思い出に関連する物事に恐怖を示す、体験したことを繰り返し話す、体験したことを再現する、集中力や学習意欲の低下、両親に心配をかけさせなくないので、不安感を告げることに戸惑う、などの症状が見られる場合もあります。
中高生のPTSDに見られる反応
睡眠や食事が普通にとれず、生活リズムが乱れる、自分のことばかり考えてひきこもる、自分の無力さに悩む、恥ずかしいという気持ちや罪の意識を感じていることも多い、抑うつ的になりものの見方が悲観的になる
、大人びた行動や態度、逆に反抗的・非協力的な態度をることもある、行動範囲が狭くなる、外傷体験への復讐や後先を考えない行動をすることがある、性格が変わったり、大切な人との関わり方が変わる、自分の不安やストレス反応に対する友達の反応をとても気にする、集中力の低下や学業成績の低下
参考:心の外傷とその対応|厚生労働省(https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/clarinet/002/003/005/002.htm)
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・大人にできる支援
幼児期の対応と同様に、安心安全を感じられる環境を作り、心の負担となる刺激を避け、通常通りの生活を心がけましょう。

ある程度大きくなったお子さんでも赤ちゃん返りをすることがありますが、からかったりやめさせようとしたりせず、受け止めることが大切です。また、成績が下がってしまった場合は、一時的なものであると伝えて、自信を喪失させないように配慮しましょう。自分の衝動をコントロールする努力をさせてみる(行動する前に、何をしたいかを言葉にさせてみる)ことも有効だと言われています。

趣味や友達と遊ぶ時間を作ったり、お手伝いを頼んだりなど、気分転換を促すことも効果的です。

小学6年生から中高生(主に18歳くらいまで)
この年齢の子どもの場合はストレスを受けたときに、より複雑な反応を示します。引きこもり、抑うつ、自殺念慮、非行、身体症状の産出などもよく見られる症状です。

恥ずかしい気持ちや罪の意識で孤立してしまったり、恐怖感や無力さを意識しすぎてしまい、人間関係でトラブルなどが見られる場合もあります。
中高生のPTSDに見られる反応
恥ずかしいという気持ちや罪の意識を感じて孤立してしまう、 自分の恐怖感や無力さを意識しすぎる
、 苦しさを表現するために急にはしゃぎ出したり、さまざまな
 行為に走ったりする(薬物の使用、非行、性的交友など)
 自己破壊的な行為、自傷など
参考:心の外傷とその対応|厚生労働省(https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/clarinet/002/003/005/002.htm)
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・大人にできる支援
社会的活動の場を用意することが大切です。体を動かし、人と関わり、楽しさや他者の役に立つ体験を増やしていきましょう。ご家庭では、子どもの話に耳を傾けるよう心がけてください。

もし、激しい感情や行動の変化がある場合は、速やかに専門機関と連携をとってください。子どもの変化に早く気づくことができるように、日ごろから学校や友達といるときの様子に気を配っておくといいでしょう。また、親同様に、友達との関係・友達からのサポートなども重要になってきます。

子どものPTSDの治療法

子どものPTSDの治療法は大きく分けて3つあると言われています。

1.精神療法
2.行動療法
3.選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)のほか、ときに抗アドレナリン作動薬


精神療法では、主にカウンセリングの一種である支持的精神療法が用いられます。特定の症状を示す患児に役立つことがありますが、全てのPTSD患児に適応するわけではありません。

一方、行動療法は多くのPTSD患児の苦痛や機能障害を減少させるのに、効果的であるとわかっています。PTSDの治療に使われる代表的な行動療法には「曝露療法」があり、心の外傷体験後から続く恐怖を消すのに役立ちます。

子どものトラウマに焦点化した認知行動療法として「TF-CBT トラウマフォーカスト認知行動療法」があります。
TF-CBTは、米国のDeblinger、Cohen, Mannarinoにより開発され、子どものトラウマに焦点をあてた認知行動療法です。欧米のいくつかの治療ガイドラインにおいて、子どものトラウマ治療の第一選択として推奨ることの多いプログラムです。

基本的に毎週1回、親子で通い、親子別々に課題に取り組む回や親子一緒に話し合う回などがあり、8~16週間定期的に通う場合が多いです。
参考:TF-CBT トラウマフォーカスト認知行動療法|兵庫県こころのケアセンター
https://www.j-hits.org/document/child/page4.html
SSRIは感情麻痺やフラッシュバックの軽減に役立ちます。抗アドレナリン作動薬は過剰な覚醒状態の緩和に役立つ場合がありますが、まだデータが十分にとれていないので注意が必要だと言われています。
参考:小児および青年における急性および心的外傷後ストレス障害 (ASDおよびPTSD)|MSDマニュアル プロフェッショナル版
https://msdmnls.co/3A1fdJ7
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