障害の有無にかかわらず、誰もが安心して遊べる公園をーー福岡市「インクルーシブな子ども広場FUKUOKAシンポジウム」をレポート

ライター:発達ナビニュース
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福岡市は「誰もが思いやりをもちすべての人にやさしいまち、ユニバーサル都市・福岡」の実現を目指し、誰もがお互いを理解し、安心して、笑顔で、そして自分らしく遊ぶことのできる「インクルーシブな子ども広場」の整備に向けた取り組みを進めています。今回はその取り組みの一環として、2023年3月にオンラインで行われた「インクルーシブな子ども広場FUKUOKAシンポジウム」の様子をご紹介します。

市内すべての区にインクルーシブな公園を整備するために準備を進める福岡市

福岡市 百道中央公園整備イメージパース
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福岡市は、障害の有無や、特性、背景にかかわらず、すべての子どもたちが自分らしく遊べる「インクルーシブ」な遊び場を市内すべての区に整備すると発表しています。インクルーシブには、“誰一人取り残さない”というSDGsの基本理念や、すべてを包み込むという意味があります。

2022年度、福岡市は背もたれがある回転遊具、車椅子からも乗りやすいようにつくられたトランポリンなど、障害の有無にかかわらず楽しめる遊具を舞鶴公園に期間限定で設置。体験した人などにアンケートを取るなどしてそれを基に指針整備を進めてきました。

そのうえで福岡市は、2025年度末までに、市内7つの区すべてに1ヶ所ずつインクルーシブな遊び場を整備していくと発表しました。

今回は、九州大学院 芸術工学研究院 教授の平井康之先生がモデレーターを務めたほか、「みーんなの公園プロジェクト」代表 倉敷芸術科学大学 教授 柳田宏治先生、「インクルーシブふくおか」代表の上角栄子さん、福岡市住宅都市局公園部整備課 甲斐航平さんが登壇。福岡市のインクルーシブな子ども広場の整備指針を参加者の方々に共有したほか、デザインの視点からもインクルーシブな子ども広場の今後の在り方を議論しました。

多様な人や団体の連携が鍵。海外で成功しているインクルーシブな遊び場とは?

広まりつつも、まだまだ誤解も多い「インクルーシブな遊び場」

「インクルーシブな遊び場づくり〜海外の先進事例より〜」と題した基調講演を行なったのは、倉敷芸術科学大学 教授の柳田宏治先生です。柳田先生は、1990年代にアメリカでユニバーサルデザインについて調査したあと、国内で普及活動を行っているほか、著書「すべての子どもに遊び場を ユニバーサルデザインによる公園の遊び場づくりガイド」を刊行。インクルーシブな遊び場づくりの促進を目指す市民グループ「みーんなの公園プロジェクト」の代表も務めています。

「みーんなの公園プロジェクト」は、プロダクトデザインが専門である柳田先生、特別支援学校の教員と元教員というメンバーで構成。それぞれの立場から「遊び場の具体的なニーズ調査」「国内外の公園を訪れての事例調査」「関連情報の収集と発信」などを行っています。
「みーんなの公園プロジェクト」ホームページ
https://www.minnanokoen.net/
2006年から20年近く活動を続けるなかで、最近特にインクルーシブな遊び場への興味が高まってきたことを感じるという柳田先生。反面、表面的な理解や誤解をしている人が多いとも感じています。

・インクルーシブな遊び場は障害のある子どものためのもの
・平らな地面に易しい遊具を置けば、「それでよい」
・目指すゴールは「遊び場の完成」である
・インクルーシブな遊び場は一ヶ所あれば十分

上記がよくあるインクルーシブな遊び場に対する考えだそうですが、この全てが誤解なのだそう。では一体「インクルーシブな遊び場」とはどんな場所なのでしょうか。

「インクルーシブな遊び場」とは

柳田先生の考える「インクルーシブな遊び場」とは、“個人の特性や背景などの違いにかかわらず、あらゆる子どもが共に遊び、育ち合う場”。それには3つの柱が必要だといいます。

1つめがすべての基本となる「誰もが利用できること」、2つめが単に遊べるだけではなく子どもたちのさまざまな能力を引き出すために「遊びが豊かであること」、3つめが子ども同士はもちろん保護者同士や地域住民を含めたコミュニティをつくれるような「人や地域とゆるやかなつながりがあること」です。

柳田先生は、この3つの柱に合わせて、海外では具体的にどのような取り組みがあるのかを紹介しました。

3つの柱からみる、具体的な海外の事例

“誰もが利用できる”ために欠かせないのが全体のアクセシビリティです。遊び場は、土地の高低差も利用しながら、すべてのエリアがアクセス可能な地面や園路でつながっています。これは、「公平性」を保証するためのもの。

また、遊具エリアの地面に使われているのはゴムチップ舗装です。クッション性があるので、怪我の心配も少なく、雨が降ってもぬかるむことがありません。
エリアの特性によって、コンクリート、芝、ウッドチップなど色や感触の異なる地表面材を使い分けられているのは、視覚に障害のある人を含め、多様な利用者が直感的に場所を認識しやすくするためだそうです。

“遊びが豊かであること”につながるのは、さまざまな選択肢があり、子どもたち自身がそのなかから選べるという環境。滑り台一つとっても、幅やタイプの異なる数種類が用意されていたり、エリアごとに回転遊具、揺れる遊具、音遊び…などに分かれていて、子どもたちが自分の気に入った遊びを選びやすいような工夫もあるそうです。また、1人で遊べるもの、みんなで遊べるものなどの選択肢も大切な要素の一つになります。

“人や地域とゆるやかなつながりがある”については、さまざまな視点からの仕掛けが。たとえば、砂場や回転遊具などは、車椅子やバギーに乗ったままみんなと同じ場所で遊べるのはもちろん、初めて会った子ども同士でも砂のやりとりや協力する遊びが生まれやすいようデザインされています。

また、「〜したい」「走る」「あれは何?」など、遊びのなかでよく使う言葉をピクトグラムにしたコミュニケーションボードを設置し、音声言語を持たない子どもや、外国にルーツのある子どもなども意思の疎通をはかりやすいようになっているのです。公園内のステージは、イベントの開催を促したり、地域とのつながりを広げることを目的として設置されています。

多くの人が関わることで、より良い遊び場が実現

こうした海外の質の高い事例の背景には、多様な連携があると柳田先生。自治体の積極的なリードはもちろん、障害のある当事者やNPOや市民団体の働きかけ、大学や企業による開発や研究、そして地域住民の協力や寄付など、さまざまな人が公園づくりに参加しています。公園を“つくる人”、“使う人”、そして“地域社会”がそれぞれの強みを活かし、対話を重ねることで、このような遊び場が現実のものとなっているのです。

柳田先生は講演の最後にこんなことを語りました。「福岡市の取り組みは、まさに多くの方の連携が実践されているように思います。遊び場をつくる段階から、多くの人が参加することで、人々のあいだにオーナーシップが生まれ“私たちの公園”と呼べるものになっていくのです。子どもたちにとって、こういった遊び場で得た経験は、将来学校や社会のあらゆる場面で活かされていくでしょう」

目指すのは、誰もがお互いを理解し、安心して、笑顔で、自分らしく遊べる場所

福岡市 百道中央公園整備イメージパース
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課題意識から始まった“インクルーシブな子ども広場整備”

柳田先生の講演に続き登壇したのは、福岡市住宅都市局公園部整備課 甲斐航平さんです。甲斐さんからは、2023年1月に策定された「インクルーシブな子ども広場整備指針」の説明が行われました。

まず冒頭で、心に残っている言葉を紹介した甲斐さん。「公園ってもともとインクルーシブな場所なのに、なぜ今になってインクルーシブと言い出すのか?」「そもそも公園に行こうという発想がない、いくとしたら人気がない時間に行く」という市民の方からの言葉です。指針をつくるにあたり、この2つの言葉を根底で意識してきたと振り返りました。

福岡市は2011年から「みんながやさしい、みんなにやさしい ユニバーサル都市・福岡」というプロジェクトをスタート。市内のさまざまな場所で、バリアフリーやユニバーサルデザインの取り組みを進めてきました。そんななかで、子どもの遊び場に注目したときに、“ブランコは体を支える力が弱い子は使えない”、“車椅子や歩行器具を使っている子は、柵が設けられている砂場には入りにくい”……など、遊び場にはまだまだユニバーサルデザインの取り組みが行き届いていないと気づいたといいます。そんな課題意識から始まったのが、「インクルーシブな遊び場」についての整備指針づくりだったのです。
「みんながやさしい、みんなにやさしい ユニバーサル都市・福岡」ホームページ
https://www.city.fukuoka.lg.jp/ucf/

さまざまな特性のある子どもたちに配慮しながら進めた指針づくり

整備指針をつくるにあたり、実証実験やアンケートなど、さまざまな調査を重ねてきた福岡市。その結果、「公園にあまり行かない理由」の多くが、たとえば障害などが理由で遊具を使用できないことなどの物理的なものより、ほかの公園利用者とのトラブルなどに不安を感じるという心理的なものだということが分かりました。

また、福岡市の調査では、身体障害よりも知的障害のある子どものほうが多いという数字も出ています。これらのことから、身体に障害のある子どもが使えるようなユニバーサルデザインの遊具を設置しただけでは、インクルーシブな遊び場は完成しないことが分かったのです。

周りの音が気になってしまう子ども、1つのことに長時間集中して周りが見えなくなってしまう子ども……など、さまざまな特性のある子どもがいるということにも配慮しながら、整備指針の作成を進めました。

障害のある子どもだけではない。すべての公園利用者のために

福岡市 百道中央公園整備イメージパース
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福岡市は、インクルーシブな子ども広場を、「誰もがお互いを理解し、安心して、笑顔で、自分らしく遊べる場所」と定義しています。この言葉にある“誰もが”には、多様な子どもはもちろん、その保護者やあらゆる公園利用者が含まれているのです。また、“安心して”という言葉には、子どもや保護者が気兼ねなく過ごすことができるという意味が込められています。

そんな「インクルーシブな子ども広場」を実現するために、指針のなかで6つの要件を策定。身体的、精神的発達や忍耐力・協調性といった社会性を育むために「身体的遊び」「精神・情緒的遊び」「社会的遊び」の3つからなる多様な遊びの要素を実現すること。また「アクセス」「安全性」「情報環境」として整理した周辺環境の整備を実現すること。これら6つを意識して、整備を進めることにしたのです。

また、いくつかの共通配慮事項も示しています。
1つめが、保護者が子どもを補助しやすいようなスペースを設けること。保護者が子どもを補助したり、一緒に使用できる遊具を設置したりする予定なのだそう。

2つめが、自然と人工物の調和が取れていること。木々や草花などを触れて感じることができるのはもちろんですが、シンプルな芝生広場は、小さな子どもや肢体不自由な子どもがはいはいやずりばいなどで楽しめるようにという面でも考えられています。

3つめが、1人遊びとみんなでの遊びを選択できること。複数人が同時に遊ぶことを想定している場所とは別に、集中して1人遊びができるスペースを設けることを想定しています。

最後が、特に配慮すべき利用者が気兼ねなく利用できることです。おむつ替えや医療的ケアが必要な子どもなど、屋内での対応が欠かせない利用者にはバリアフリートイレは必須。乳幼児連れの保護者などでバリアフリートイレが混み合って、“絶対に必要な人”が使えないということがないよう、男女のトイレにベビーベッドやベビーチェアの配置をする予定です。

また、インクルーシブな遊び場は障害のある子どものためだけのもと、という誤った理解をしている人も多いので、表現を考えていかなければいけないと甲斐さんは話します。また、一方で障害のある子どもを育てる保護者は、公園の利用をあきらめてしまうというケースも多いので、月に一度は障害がある子どもがのびのびと遊べる日をつくるなど、運営面で環境を整えることも重要だと考えているそうです。

最後に甲斐さんはこんな言葉で説明を締めくくりました。「検証を基に整備指針を作成してきましたが、実際の整備はこれからです。本日お話ししたことが100%正解だとは思っていません。整備後にもまだまだ改善点が出てくるはずです。その点は市としても継続的に検証を進めていきたいと思っています。公園を利用される市民のみなさんにもご協力いただきながら、より良い遊び場が生まれるような取り組みを続けていきます」
次ページ「ハード面はもちろん、ソフト面の整備が重要な鍵に」

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