ハード面はもちろん、ソフト面の整備が重要な鍵に
実証実験では多くの課題が散見。その検証を取り入れて指針作成へ
甲斐さんからの説明のあとは、「インクルーシブふくおか」代表の上角栄子さんからのお話に移ります。上角さんは、「インクルーシブな子ども広場」の整備指針ができるまでの経緯について説明しました。
福岡市は、整備指針をつくるにあたり、舞鶴公園の一角にインクルーシブな遊具を整備し、実証実験を実施。障害のある子どもとその保護者が参加しました。喜んでいた子どもたちがいた反面、砂地を車椅子で移動するのが大変だったり、知的障害や視覚障害の子どものための遊び場はなかったりなど、まだまだ課題が多かったのが現実です。
そこで、障害のある子どもがどんな遊びが好きなのか、アンケートを行いました。その結果を分析し、当事者の思いを取り入れ、整備指針の作成を進めていったのです。
福岡市は、整備指針をつくるにあたり、舞鶴公園の一角にインクルーシブな遊具を整備し、実証実験を実施。障害のある子どもとその保護者が参加しました。喜んでいた子どもたちがいた反面、砂地を車椅子で移動するのが大変だったり、知的障害や視覚障害の子どものための遊び場はなかったりなど、まだまだ課題が多かったのが現実です。
そこで、障害のある子どもがどんな遊びが好きなのか、アンケートを行いました。その結果を分析し、当事者の思いを取り入れ、整備指針の作成を進めていったのです。
当事者家族に寄り添い、その想いを取り入れた整備指針
上角さんたちが考えた整備指針に欠かせないものは、「誰もが遊べる場所を整備すること。安心して安全に過ごせる場所であること」。そのうえで、理想の「こども広場」のレイアウトを考えてみることにしたのです。みんなで遊べる場所や1人遊びに集中できる場所、感覚遊びができる場所、自然のなかを散策できる場所のほかに、車椅子でもアクセスがしやすい工夫や充実したトイレなどが必要だという声があがりました。
その後、そのレイアウトを基にワークショップを開催しました。そこで、障害のある子どもの保護者に聞き取りなども行なったのです。「車椅子からおりて遊ぶ場所があったらいい」「装具を外して遊ぶ場所があったらいい」などの声があったほか、不安要素として大きかったのが子ども同士、あるいはほかの保護者とのトラブルでした。そういったことから、公園をより利用しやすくするには、ハード面の整備が大切なことはもちろん、ソフト面も重要だと分かってきたのです。
上角さんは、最後に福岡市への感謝の言葉で発表を締めくくりました。「福岡市が、当事者家族に寄り添い、整備指針に私たちの思いを反映してくださったことに感謝いたします。今後とも誰もが住みやすい街になるよう、市民と共に歩んでいく福岡市であってほしいと思っています」
その後、そのレイアウトを基にワークショップを開催しました。そこで、障害のある子どもの保護者に聞き取りなども行なったのです。「車椅子からおりて遊ぶ場所があったらいい」「装具を外して遊ぶ場所があったらいい」などの声があったほか、不安要素として大きかったのが子ども同士、あるいはほかの保護者とのトラブルでした。そういったことから、公園をより利用しやすくするには、ハード面の整備が大切なことはもちろん、ソフト面も重要だと分かってきたのです。
上角さんは、最後に福岡市への感謝の言葉で発表を締めくくりました。「福岡市が、当事者家族に寄り添い、整備指針に私たちの思いを反映してくださったことに感謝いたします。今後とも誰もが住みやすい街になるよう、市民と共に歩んでいく福岡市であってほしいと思っています」
インクルーシブデザインの考え方が指針のベースに
当事者にとってどんな公園が必要かを考えるところからスタート
上角さんの説明のあとは、モデレーターでもある九州大学院 芸術工学研究院 教授の平井康之先生が「インクルーシブな子ども広場とインクルーシブデザイン」と題した発表を行いました。
通常、「インクルーシブな子ども広場」のようなプロジェクトは行政が企業を選定し、業務を委託して進められます。ですが、今回は平井先生のような学識者や、当事者家族でもある「インクルーシブふくおか」の上角さん、NPO法人福岡市障害者関係団体協議会の清水理事長、東福岡特別支援学校の野口校長、パラアスリートの道下美里さんの5人が委員となり、当事者の意見を重視する整備指針検討委員会が進められることになったのです。委員会開催は3回だけですが、課題を丁寧に共有する検討会が、毎週15回にもわたって開催され、委員会メンバーだけではなく、多くの方と考えを共有してきました。
さらに、「こんな公園あったらいいな」という理想の姿を一緒に描き、それを実現するための道筋を現実とつなげていく「バックキャスト」というインクルーシブデザインの手法を用いて、当事者にとってどんな公園が必要かということを模造紙にデザインしていったのです。その結果、良い整備指針ができ、そのプランと同じ5000平米の公園が実現しました。
通常、「インクルーシブな子ども広場」のようなプロジェクトは行政が企業を選定し、業務を委託して進められます。ですが、今回は平井先生のような学識者や、当事者家族でもある「インクルーシブふくおか」の上角さん、NPO法人福岡市障害者関係団体協議会の清水理事長、東福岡特別支援学校の野口校長、パラアスリートの道下美里さんの5人が委員となり、当事者の意見を重視する整備指針検討委員会が進められることになったのです。委員会開催は3回だけですが、課題を丁寧に共有する検討会が、毎週15回にもわたって開催され、委員会メンバーだけではなく、多くの方と考えを共有してきました。
さらに、「こんな公園あったらいいな」という理想の姿を一緒に描き、それを実現するための道筋を現実とつなげていく「バックキャスト」というインクルーシブデザインの手法を用いて、当事者にとってどんな公園が必要かということを模造紙にデザインしていったのです。その結果、良い整備指針ができ、そのプランと同じ5000平米の公園が実現しました。
公園開園後もコミュニティのなかにインクルーシブデザインを取り入れることが必須
「インクルーシブな子ども広場」の背景には、インクルーシブデザインの考え方があります。インクルーシブデザインとは、これまで排除されてきた人たちの視点から、新たなデザインを共創するアプローチのこと。決してそれは、障害者の「ための」ものではなく、すべての人を対象にしたデザインのことなのです。障害がある人も、ない人も両者が価値を感じられることが、相互理解を促し、さらに新しい価値を創造することにもつながっていきます。
また、インクルーシブデザインの考え方が指針のベースになっていることはもちろん、開園後、そこで形成されるコミュニティなどにも取り入れ続けられることが、遊び場にとってとても重要なことなのです。
最後に平井先生はこんな思いを語りました。「整備指針検討委員会は、今月末で解散となります。今後については別プロジェクトになりますが、引き続きインクルーシブデザインやそれをベースにしたコミュニティづくりなどを議論、検討し続けられればと思っています」
また、インクルーシブデザインの考え方が指針のベースになっていることはもちろん、開園後、そこで形成されるコミュニティなどにも取り入れ続けられることが、遊び場にとってとても重要なことなのです。
最後に平井先生はこんな思いを語りました。「整備指針検討委員会は、今月末で解散となります。今後については別プロジェクトになりますが、引き続きインクルーシブデザインやそれをベースにしたコミュニティづくりなどを議論、検討し続けられればと思っています」
あらゆる面で選択肢があるのが「インクルーシブな子ども広場」
シンポジウムの最後には、平井先生がモデレーターとなりパネルディスカッションが行われました。語られたのは、「子どもの遊び場」に物理的な面だけではなく、心理的な面への配慮があることの大切さです。
当プロジェクトでは、障害のある子どもの保護者は「周りの子どもに迷惑をかけてしまったらどうしよう」「嫌な言葉をかけられたらどうしよう」などという気持ちを持っていることが分かりました。ですが、定型発達の子どもを育てる保護者もまた「子どもが車椅子に触ってしまったどうしよう」……などと、心配に思っていることが分かったのです。そんなことから、子どもと子ども、そして保護者同士が自然にコミュニケーションをとれるようなきっかけが「子どもの遊び場」には大切になります。
また、今回のシンポジウムのなかで柳田先生が海外の事例を紹介しましたが、海外で質の高い遊び場が実現できている理由として、自治体のお金だけではなく、個人や企業からの寄付で多くが賄われているという背景があるのです。日本でもクラウドファンディングで公園のなかの一つの遊具を整備するなどの動きが始まっています。今後は公園の整備だけではなく、運営にも自治体だけではなく、多くの人が関わっていくことが「インクルーシブな子ども広場」の成功の鍵になってくるのでしょう。
最後に、甲斐さんがこんなふうに語っています。「これから7ヶ所の公園を整備していくわけですが、100点の公園が7ヶ所できるわけではないと思います。でも、70点80点の公園だったとしても、そこから利用するみなさんの声を反映しながらブラッシュアップしていけるはずです。また、7ヶ所あるので、こっちの公園が合わなくても、あっちの公園が合う……ということもあるだろうと想定しています。そんなふうにいろいろな選択肢が持てる公園を整備していきたいです。ぜひ、これからもみなさんからのご意見をいただけますよう、どうぞよろしくお願いいたします」
多くの人が熱量を持って取り組んだ「インクルーシブな子ども広場」の指針づくり。その指針を基に整備される最初の公園が早良区の百道中央公園です。2023年秋に工事がスタートし、2024年の春がオープンとなります。どんなインクルーシブな場所が完成するのでしょうか。その遊び場で、子どもたちが互いに理解しながら、笑顔で楽しく遊ぶ姿をみるのが楽しみです。
当プロジェクトでは、障害のある子どもの保護者は「周りの子どもに迷惑をかけてしまったらどうしよう」「嫌な言葉をかけられたらどうしよう」などという気持ちを持っていることが分かりました。ですが、定型発達の子どもを育てる保護者もまた「子どもが車椅子に触ってしまったどうしよう」……などと、心配に思っていることが分かったのです。そんなことから、子どもと子ども、そして保護者同士が自然にコミュニケーションをとれるようなきっかけが「子どもの遊び場」には大切になります。
また、今回のシンポジウムのなかで柳田先生が海外の事例を紹介しましたが、海外で質の高い遊び場が実現できている理由として、自治体のお金だけではなく、個人や企業からの寄付で多くが賄われているという背景があるのです。日本でもクラウドファンディングで公園のなかの一つの遊具を整備するなどの動きが始まっています。今後は公園の整備だけではなく、運営にも自治体だけではなく、多くの人が関わっていくことが「インクルーシブな子ども広場」の成功の鍵になってくるのでしょう。
最後に、甲斐さんがこんなふうに語っています。「これから7ヶ所の公園を整備していくわけですが、100点の公園が7ヶ所できるわけではないと思います。でも、70点80点の公園だったとしても、そこから利用するみなさんの声を反映しながらブラッシュアップしていけるはずです。また、7ヶ所あるので、こっちの公園が合わなくても、あっちの公園が合う……ということもあるだろうと想定しています。そんなふうにいろいろな選択肢が持てる公園を整備していきたいです。ぜひ、これからもみなさんからのご意見をいただけますよう、どうぞよろしくお願いいたします」
多くの人が熱量を持って取り組んだ「インクルーシブな子ども広場」の指針づくり。その指針を基に整備される最初の公園が早良区の百道中央公園です。2023年秋に工事がスタートし、2024年の春がオープンとなります。どんなインクルーシブな場所が完成するのでしょうか。その遊び場で、子どもたちが互いに理解しながら、笑顔で楽しく遊ぶ姿をみるのが楽しみです。
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