インクルーシブ教育とは?その考え方や背景、具体的な取組み、課題点についてまとめました。

ライター:発達障害のキホン

インクルーシブとは、「包括的な」「包み込む」という意味です。インクルーシブ教育の導入により、就学先決定の仕組みや、通常学級で障害のある子どもも学べる環境整備が進みました。今回はインクルーシブ教育の基本の考え方や、実際にはどのように教育に活かされているのか、学校で取り組まれている取り組みについて紹介します。またインクルーシブ教育が抱える課題についても考えます。

目次

インクルーシブ教育は「すべての子どものための教育」

インクルーシブ教育とは、子どもたち一人ひとりが多様であることを前提に、障害の有無にかかわりなく、誰もが望めば自分に合った配慮を受けながら、地域の通常学級で学べることを目指す教育理念と実践プロセスのことをいいます。

つまり、「一人ひとり丁寧に」と「みんなで一緒に学ぶ」の両方の実現を目指す教育理念であるといえます。

英語ではinclusiveと表記され、「包括的な」「包み込む」という意味です。障害の有無によって学ぶ場所が分けられるのではなく、一人ひとりそれぞれの子どもの能力や困りごとが考慮された、すべての子どものための教育という意味で使われています。

インクルーシブ教育という言葉が広まり始めたのは、1994年にUNESCOによって開かれた国際会議がきっかけです。この国際会議で「Education for All(万人のための教育)」がうたわれ、可能な限りすべての子どもの能力や困りごとに応じた教育を行っていく方向性が公に打ち出されました。インクルーシブ教育の実現に向けて歩むのは日本だけではなく、国際的な流れだといえます。

これまでは、障害のある人は必ずしも社会参加できるような環境にありませんでした。障害のある人が積極的に社会で活躍できる環境づくりの一環として、一人ひとりの子どもに丁寧に向き合う理念に基づいたインクルーシブ教育が推し進められています。
参考:通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児 童生徒に関する調査結果について|文部科学省
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/1328729.htm
日本における、障害のある子どもの学ぶ環境は時代が進むごとに段階的に発展してきました。

「一人ひとり丁寧に」「みんなが一緒に学ぶ」というインクルーシブ教育が唱えられるまで、障害のある子どもへの教育の考え方や、彼らをとりまく学習環境はどのようなものだったのでしょうか。

ここでは、時代ごとの障害のある子どもをとりまく教育の移り変わりについてお伝えします。

障害のある子どもとない子どもの教室がはっきりと分けられていた時代

明治時代以前、障害のある子どもは、教育の対象と見なされておらず、教育を受ける機会が十分与えられていませんでした。

障害のある子どもにも教育が必要だといわれ始めたのは明治時代以降です。今よりも国の強制力が強かったために、本人や保護者の意志は尊重されることはなく就学先を選ぶことは許されなかったものの、明治時代から、盲、聾、知的、肢体不自由の学校が設立され、障害のある子どもの一部が教育を受けることができるようになりました。

そして昭和時代の終わりには、養護学校の義務化により、それまで就学を免除されていた重度の障害のある子どもに対しても平等に教育の機会が保障されることになり、全ての子どもが教育を受ける仕組みができました。

しかし、そのような状況の中で、障害のある子どもを地域の学校から離れた就学先に通わせることを、障害のある子どもを通常学級から隔離し、分離しているという非難の声も市民の中から生まれました。

障害のある子どもと障害のない子どもが同じ教室で学ぶようになった

1981年の「国際障害者年」において、「全ての子どもを通常学級へ」というメッセージがうたわれました。それがきっかけとなり、「すべての子どもが通常学級で学ぶこと」を第一の重要事項として、新たな教育の方向性が定められました。これをインテグレーション教育といいます。この過程では、これまでの時代の分離教育の反省から、障害のある人もない人も、分け隔てのない仲間として渾然一体の場所で学ぶことがもっとも重要だとされていました。

しかしながら、同じ環境で学ぶことばかりを推し進めるあまり、支援の必要な子どもに対して、十分なサポートをする体制の準備は不十分なままでした。

その結果、子ども一人ひとりの個性やニーズに合った教育を受けることができず、障害のある子どもは授業についていけなかったり、いじめや中傷の対象となったり、逆に腫れもの扱いをされてしまったりしたという問題が起こりました。

すべての子どものための教育―インクルーシブ教育へ

このような批判が国内であがっていた1994年に、スペインのサラマンカで「特別なニーズ教育に関する世界会議」が開かれ、新しい考え方としてインクルーシブ教育の理念が唱えられました。

障害の有無にかかわりなく、適切な配慮を受けながら、誰もが望めば地域の通常学級で学べること、つまり、「ひとりひとり丁寧に」と「みんなで一緒に学ぶ」の両方を実現する教育のはじまりです。

その後、インクルーシブ教育の理念は日本にも導入されていきます。国際的にインクルーシブ教育の理念が唱えられてから16年後の2010年、日本においても文部科学省によってインクルーシブ教育理念の方向性が示されました。

それまでの時代の教育で起こっていた問題について、環境の整備や、支援の必要な子どもに対する配慮の必要性などの具体的な改善の案が打ち出されました。この案により、研修会や勉強会が行われるなど、学校の先生たちの意識を変えるような取り組みが行われています。

このように、障害のある子どもを取り巻く環境は時代の流れの中で少しずつ改善されてきています。2016年5月、タレントの菊池桃子さんがインクルーシブ教育を進めることに協力的な姿勢を示すなど、社会の関心も高まりつつあります。
参考:「障害児教育におけるインクルーシブ教育への 変遷と課題」|髙橋・松﨑(2014),人間発達文化学類論集 第19号 p13-26
http://ir.lib.fukushima-u.ac.jp/repo/repository/fukuro/R000004531/16-116.pdf
参考:「分離教育か共生共育かという対立を越えて ‐「発達」概念の再検討‐」|野崎泰伸(2010),立命館人間科学研究 第21号p25-41
https://ritsumei.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=4242&item_no=1&page_id=13&block_id=21

インクルーシブ教育における具体的な取り組み 

基本的な環境を整えること

インクルーシブの実現に向けて、文部科学省をはじめ、国や都道府県、市町村などの行政機関が主体となって行うべきことの1つが、多様な子どもが共に学ぶための基礎的な環境を整備することです。

例えば、肢体不自由があり車いすに乗って通学する子どもにとって、校舎内が階段ばかりでは自力での移動が困難です。ですが、校内の段差を減らしたり、スロープやエレベーターを設置することで移動することの障害を解消していくことができます。

他にも、市町村が主体となって、支援の必要な子どもが困ることのないようにボランティアスタッフを配置するシステムを作ることで、学習や行動面に困難のある子どもも、適切な支援を受けながら通常学級での集団授業に参加することができるようになります。

このように学校の設備や教育の体制の整備が整っていくことで、障害のあるなしに関わらず、多様な子どもが通い学びやすい学校環境を作っていくことができるようになります。

学校現場で進めるべき基礎的環境の整備には他にも様々なものがあります。

・子どもの障害の程度、能力に合わせて特別支援学校、特別支援学級、通常学級など多様な学び場を用意し、行き来できる体制を整えること
・専門性のある支援体制や教員の育成
・特別支援学級と通常学級の間で共同学習を行うこと
・個別の支援計画の作成

などなど…インクルーシブ教育の達成に向けて、現在も環境整備が進められている途上です。
参考:基礎的環境整備について(現状及び国・都道府県・市町村の役割分担)|文部科学省
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/044/attach/1320679.htm
また、行政以外でも、インクルーシブ教育を取り入れたサポートをしているところもあります。

例として、「そのひとりの『できるよろこび』をちからに」を掲げるLITALICOジュニアでは、子どもの未来の可能性を拡げていくため、一人ひとりに最適な学び方と環境を提供しています。
参考:一人ひとりに合わせた教育|LITALICOジュニア
https://junior.litalico.jp/about/education/

合理的配慮

国や都道府県、市町村などの自治体が整えた基本的な環境をベースとして、学校や教員が主として行っていく「合理的配慮」というものがあります。

合理的配慮とは、一人ひとりの特性や場面に応じて発生する障害・困難さを取り除くための、一人ひとりに合わせた調整や変更のことです。障害のある人が障害のない人とが平等にいられるために作られた仕組みです。

例えば、文字の読み書きが困難な子どもへの合理的配慮を一例にして考えてみましょう。

読み書き困難な子どもに対して、みんなと同じ教科書やノートをそのまま使わせていては、授業内容の理解や問題の回答がとても難しくなります。そこで、読み書きの困難さを取り除くための配慮として、教科書やプリントを拡大したり、黒板の板書を色分けして見分けやすくしたり、タブレットやカメラを使って板書を撮影・印刷することを許可したり、試験時間の延長や問題の代読を行うなどが考えられます。

その子どもの特性と、子どもが過ごす環境や場面ごとに発生する具体的な困難に対して、適切で十分なサポートや変更を加えることが合理的配慮です。
■教室や授業で行われている工夫
例えば、教室や授業で行われている工夫には以下のようなものがあります。

・水筒や帽子、体操服などを置く場所が決めて、誰でも持ち物の整理がしやすいようにする。
・掲示物を減らしたり、授業中に紙や布で掲示物を覆うことより、視覚刺激に敏感な子どもでも授業に集中できるようにする。
・廊下は走らない、チャイムが鳴る2分前には席に着く、などルールを明確にすることで、行動の切り替えをしやすくする。
・一日の最初に、今日はどのようなスケジュールで進めるかを示されることで、時間の見通しをもてるようにする。
・先生は情報を伝えるときには、口頭だけではなく、目に見える文字や絵で視覚的に示して、理解をしやすくする。
・先生はゆっくりとした口調で話すとともに、大事なことは、繰り返したり、黒板に書いたりして、理解をしやすくする。
・授業の中で、簡単な問いに答える機会を作り、全員が参加できるような授業にしている。
・難易度別のプリントを作り、子どもが自分の力に合わせて選べるようになることで、それぞれのレベルに合わせた教育が行われている。

インクルーシブ教育の実現に向けて、就学先決定の仕組みも変わりました

インクルーシブ教育の理念に基づき、就学先決定の仕組みの改善も進められています。障害のある子ども自身や保護者の意思を尊重した上で就学先決定がなされるようになりました。
就学先が決定するまでのフロー図
就学先が決定するまで流れの図
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平成25年までは、障害のある子どもは、原則、特別支援学校に就学することとなっていました。現在においても最終的に就学先の決定をするのは教育委員会となりますが、それを決めるまでに、本人と保護者の思いが最大限に考慮されるような改善が行われました。

また、幼少期の段階から発達についての相談の機会や情報提供が積極的に行われるようになったことも改善点です。一歳半検診や、三歳児検診の際に、発達の遅れが見受けられる場合にも、専門家からアドバイスや情報を得ることができます。

また、教育委員会は、幼稚園、保育園、子ども園における子どもの様子をふまえて、就学するまでの間に、子ども一人ひとりに合わせた個別の支援計画書を作成することも推奨されています。このような計画書は、就学先を決定する際の資料として活用されたり、就学後の子どもへの教育支援の手立てとして活用されたりします。


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