インクルーシブ教育とは?実践例や合理的配慮の求め方【専門家QA】

ライター:発達障害のキホン
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インクルーシブ(inclusive)とは「包摂的な」「包み込む」という意味を持っており、インクルーシブ教育とは「誰も排除せず、すべてを包み込む教育」とされています。
このコラムではインクルーシブ教育についてや、実践例、合理的配慮の手順、インクルーシブ教育の課題や広めるために保護者ができることなどの疑問について専門家に回答頂きました。

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監修: 野口晃菜
インクルーシブ教育・インクルージョン研究者
一般社団法人UNIVA 理事
小学校講師、LITALICOの研究所長を経て、現在一般社団法人UNIVAの理事として教育や企業におけるインクルージョンに取り組む。
目次

インクルーシブ教育システムとは

インクルーシブ(inclusive)とは「包摂的な」「包み込む」という意味を持っており、インクルーシブ教育とは「誰も排除せず、すべてを包み込む教育」とされています。

現在の日本の学校ではマジョリティ(多数派)の子ども中心のつくりとなっています。例えば、障害のない子ども、シスジェンダー(生まれたときの性別と自分が自認している性別が一致している)の子ども、家庭環境が安定している子どもなどです。

しかし、実際の社会の中には障害のある子ども、性的マイノリティの子ども、外国にルーツのある子ども、社会的養護が必要な家庭の子どもなどもいます。そのようなマイノリティ(少数派)の子どもたちが排除されないように、マジョリティ、マイノリティ関係なく誰もが当たり前に通常の学校に通えるように教育システムを変えていくことがインクルーシブ教育においては必要です。

日本では、障害者の権利に関する条約を踏まえて、インクルーシブ教育システムの構築が進められています。インクルーシブ教育システムとは文部科学省でこのように定義されています。
「インクルーシブ教育システム」(inclusive education system、署名時仮訳:包容する教育制度)とは、人間の多様性の尊重等の強化、障害者が精神的及び身体的な能力等を可能な最大限度まで発達させ、自由な社会に効果的に参加することを可能とするとの目的の下、障害のある者と障害のない者が共に学ぶ仕組みであり、障害のある者が「general education system」(署名時仮訳:教育制度一般)から排除されないこと、自己の生活する地域において初等中等教育の機会が与えられること、個人に必要な「合理的配慮」が提供される等が必要とされている。

引用:共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告) 概要|文部科学省
出典:https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/044/attach/1321668.htm
このコラムでは、
・インクルーシブ教育って?
・インクルーシブ教育の実践例
・合理的配慮の手順
・インクルーシブ教育の課題
・インクルーシブ教育を広めるために保護者ができること

など、インクルーシブ教育についてのギモンから、課題まで専門家の先生のアドバイスを交えてご紹介します。

【専門家が回答】メリット、デメリットは?実践例や保護者ができることなどインクルーシブ教育を分かりやすく解説!

ここからはインクルーシブ教育・インクルージョン研究者/一般社団法人UNIVA 理事の野口 晃菜先生にインクルーシブ教育についての質問にお答えいただきます。

Q:インクルーシブ教育とはどんな教育ですか?分かりやすく教えてください

(質問)「インクルーシブ教育」という言葉を最近よく聞くようになりました。「みんな一緒に」という考え方ということなのでしょうか。一体どのようなものなのか分かりやすく教えてほしいです。

(回答)
多様な子どもがいることを前提とした教育です。教育の形を何も変えずに、ただ多様な子どもが同じ場にいるだけではインクルーシブ教育ではありません。インクルーシブ教育のためには、学校教育の在り方そのもの、例えば先生や子どもの人数、カリキュラム、学校経営や学級経営、授業づくりの在り方などを見直し、変革していく必要があります。
回答:野口 晃菜先生(インクルーシブ教育・インクルージョン研究者/一般社団法人UNIVA 理事)
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Q:子どもに発達障害があります。インクルーシブ教育に関心があるのですが、実際に行われているインクルーシブ教育の実践例などが知りたいです。

(質問)
子どもに発達障害があり、「インクルーシブ教育」について関心があります。今世界や日本で実際に行われているインクルーシブ教育にはどのようなものがあるのでしょうか。

(回答)
通常の学級における授業のスタイルや学級経営のスタイルを、多様な子どもがいることを前提に変えている学校がたくさんあります。例えば、教科書を使って、先生が黒板に板書をして、一斉指導をするスタイルではなく、一人ひとり自分のペースに応じて学ぶ授業スタイルや、テーマに沿ったプロジェクト型学習を自分で計画して進めるスタイルの授業など。一人ひとりが違う興味関心があり、得意な学び方が異なり、休み時間の過ごし方も異なる、など、多様な子どもがいることを前提とした学級経営や授業づくりをした上で、個々に必要な合理的配慮をすることがポイントです。
回答:野口 晃菜先生(インクルーシブ教育・インクルージョン研究者/一般社団法人UNIVA 理事)
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Q:小学校などでインクルーシブ教育のために合理的配慮などを先生にお願いできるのでしょうか。また、お願いするための手順や必要なものなどあるのでしょうか。

(質問)
子どもに発達障害があり、特性から学校で苦労していることが多くあります。このような場合インクルーシブ教育のために合理的配慮などをお願いできるのでしょうか。先生への伝え方や手順、あると役立つものなども教えていただけるとうれしいです。

(回答)
合理的配慮は、障害者差別解消法という法律において義務付けられています。ぜひ合理的配慮を学校に意思表明してください。お子さんの年齢や特徴にもよるかと思いますが、なるべくお子さんとどのような合理的配慮が学校であるとよいか、まずは話し合ってみてください。ポイントは、まずは学校においてお子さんが学ぶ上でのバリアがどこにあるのかを先生と話すこと。その上でそのバリアを解消するための合理的配慮について話し合うことです。

もし学校側が保護者の方が提案した合理的配慮が難しいという場合、その理由を聞いてみてください。その上で、どのような合理的配慮であれば可能かを、ぜひ話し合ってみてください。可能であれば、その場に子どもさん自身が参加されることをお勧めします。担任の先生のみでなく、特別支援教育コーディネーターや管理職の先生にも同席をしてもらうと、いろんなアイディアがでてくると思います。「バリアをどう解消するか?」という観点からぶれずにみなさんで対話をしてみてください。

学校における合理的配慮の事例は、国立特別支援教育総合研究所のインクルDBにたくさん掲載されています。そのほかにも、私が編著として9月に出版した書籍「LD(ラーニングディファレンス)の子がみつけたこんな勉強法 学び方はひとつじゃない! - 合同出版」にも合理的配慮の事例や、そのためのプロセスがたくさん掲載されていますので、参考にしてみてください。
参考: インクルーシブ教育システム構築支援データベース(インクルDB)|国立特別支援教育総合研究所
https://inclusive.nise.go.jp/
参考:LD(ラーニングディファレンス)の子がみつけたこんな勉強法 学び方はひとつじゃない!|合同出版
https://www.godo-shuppan.co.jp/book/b630833.html
LDの子が見つけたこんな勉強法: 「学び方」はひとつじゃない!
野口晃菜 (著), 田中裕一 (著)
合同出版
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回答:野口 晃菜先生(インクルーシブ教育・インクルージョン研究者/一般社団法人UNIVA 理事)
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Q:インクルーシブ教育をもっと広めていくために、どのような課題があるのでしょうか。

(質問)インクルーシブ教育がもっと日本に浸透すればいいのにと思っています。広めていくためにはどのような課題があるのでしょうか。

(回答)
インクルーシブ教育は障害のみの話ではなく、子どもたちは多様であることを前提とした教育です。そのためには、障害分野のみでインクルーシブ教育の議論をしたり、制度をつくるのでは限界があります。日本には不登校状態の子どもも、外国にルーツのある子ども、性的マイノリティの子もたくさんいます。学校教育そのものをどのように変えていくのか、より大きな視点での議論が必要です。教育施策の中で優先順位を上げていくために、より多くの人が知り、関心を持てるような工夫が必要です。そもそも教育そのものにもっと予算が割かれることも必要です。
回答:野口 晃菜先生(インクルーシブ教育・インクルージョン研究者/一般社団法人UNIVA 理事)
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LITALICOでは学校におけるインクルーシブ教育を推進するため「LITALICO教育ソフト」というサービスを開発し、多くの自治体や学校の先生方と連携しています。

Q:インクルーシブ教育を進めていくために保護者ができることなどはあるのでしょうか。

(質問)
通っている学校などでもっとインクルーシブ教育を知ってもらうために、保護者としてできることはあるのでしょうか。

(回答)
上記のご質問への回答とも重なりますが、まずはご自身のお子さんにとって今の学校で学ぶ上でのバリアはなにかを明らかにし、その解消方法として合理的配慮の意思表明を学校にしていただくことができることかと思います。学校はまだ合理的配慮に慣れていません。みなさんの行動により、学校にとって合理的配慮がどんどん当たり前のものになっていくと思います。また、ぜひその経験を周りの保護者とも共有してみてください。
回答:野口 晃菜先生(インクルーシブ教育・インクルージョン研究者/一般社団法人UNIVA 理事)
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(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。

※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
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