発語のない自閉症息子、意思疎通の方法は?クレーンが目立った幼少期、小学生になった今は

ライター:べっこうあめアマミ
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重度知的障害を伴う自閉スペクトラム症がある息子は、現在8歳ですが話すことができません。
文字の読み書きができないのはもちろんのこと、知的障害の重さと息子の特性ゆえに、絵カードなどの使用もうまくいきません。では、息子はどのような方法で意思表示をし、私たちとコミュニケーションをとっているのでしょうか?よく聞かれるこの疑問について、書きたいと思います。

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監修: 新美妙美
信州大学医学部子どものこころの発達医学教室 特任助教
2003年信州大学医学部卒業。小児科医師として、小児神経、発達分野を中心に県内の病院で勤務。2010年信州大学精神科・子どものこころ診療部で研修。以降は発達障害、心身症、不登校支援の診療を大学病院及び一般病院専門外来で行っている。グループSST、ペアレントトレーニング、視覚支援を学ぶ保護者向けグループ講座を主催し、特に発達障害・不登校の親支援に力を入れている。 多様な子育てを応援するアプリ「TOIRO」の制作スタッフ。

息子の意思表示の方法は主にジェスチャー&クレーン

自閉スペクトラム症のある子どもによく見られる行動の一つに、「クレーン現象」というものがあります。クレーン現象とは、子どもが何かをしたい時に、自分ではなく大人の手を使って、物を指したり、物を取ったりして、意思表示や欲求を満たそうとする行動です。乳幼児期の息子の意思表示の方法は、主にこのクレーン現象だったと記憶しています。

しかし、息子のクレーン現象は今もゼロではありませんが、徐々に減っていきました。そして現在は、クレーン現象の代わりに場面に応じたジェスチャーが、息子の主な意思表示の方法となっています。

私たち家族は言葉で息子に気持ちや指示などを伝えますが、息子はさまざまなジェスチャーで、それに応えてくれているのです。

息子の気持ちを伝えるジェスチャー、どんなものがある?

では、息子はどのようなジェスチャーで意思を伝えているのでしょうか?息子が使う主なジェスチャー(しぐさ)は、次のようなものです。

1.お辞儀

「いってきます」「ごめんなさい」「ありがとう」「こんにちは」など、息子が最も多くの場面で行うしぐさです。
親である私もお辞儀や会釈をすることが多いからか、息子もそれを見て自然と身についたようです。
お辞儀は「いってきます」「ごめんなさい」「ありがとう」「こんにちは」など、知的障害を伴う自閉症のある息子が最も多くの場面で行うしぐさ
お辞儀は「いってきます」「ごめんなさい」「ありがとう」「こんにちは」など、息子が最も多くの場面で行うしぐさ
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2.手を合わせてお辞儀

「それください」「ごめんなさい(より深い反省をこめて)」などの意味で使います。
お辞儀をより丁寧にした印象です。
手を合わせてお辞儀は「それください」「ごめんなさい(より深い反省をこめて)」などの意味
手を合わせてお辞儀は「それください」「ごめんなさい(より深い反省をこめて)」などの意味
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3.手をたたく

「ちょうだい(『それください』よりもフランクな印象)」の意味でよく使います。
ほかにも、「いってきます」「ありがとう」などポジティブな気持ちを表す時に使うしぐさです。
手を叩くのは「ちょうだい」や、「いってきます」「ありがとう」などポジティブな意味でもよく使う
手を叩くのは「ちょうだい」や、「いってきます」「ありがとう」などポジティブな意味でもよく使う
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4.手を挙げる

「いってきます」「さようなら」など、単純な別れのあいさつの時に使います。
息子のテンションによって、片手だけ挙げたり、両手を挙げたり、小さく挙げたり、手をピンと伸ばして高く挙げたりします。
手を挙げるのは「いってきます」「さようなら」など、単純な別れのあいさつの意味
手を挙げるのは「いってきます」「さようなら」など、単純な別れのあいさつの意味
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5.激しい愛を伝える表現

久しぶりに会った大好きな相手に応える時、もしくは大好きな食べ物を早く食べたい時などに使います。
手を何度も激しくたたいてあふれる気持ちを表しているようです。
手を何度も激しくたたくのは、愛を伝えたい時に使う
手を何度も激しくたたくのは、愛を伝えたい時に使う
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ジェスチャーは自由度の高いコミュニケーション方法

息子のジェスチャーは、マカトンサインや手話のように、「このジェスチャーはこの意味」という明確なルールがあるわけではありません。中には療育で教わったマカトンサインが元になって派生したものもありますが、完璧な形ではなく、意味もその通りではないのです。しかも、同じジェスチャーに複数の意味があります。

そうなると、「受け取る側はどんな意味か判別できないのではないか?」と思うかもしれません。しかし、意外とそこは困りません。

想像してみてください。例えばお辞儀や手を合わせるしぐさ、手を振る(手を挙げる)しぐさなどは、定型発達の大人でもよく使うものだと思います。でも、そのしぐさに含める意味は、必ずしも一つに決まっているわけではないはずです。

同時に、そのしぐさをされた相手も、そのシチュエーションとあわせて意味を判断しているのではないでしょうか。
「このシーンでこの動作をしたなら『ありがとう』なんだろうな」「言葉はなかったけど『さようなら』と伝えたいんだろうな」という具合に。

ですから、息子がこのくらい幅の広い意味のジェスチャーをしていても、シチュエーションとあわせてなんとなく判断できるものなのです。

特にお辞儀などは、会釈も含めると「こんにちは」「すみません」「ありがとう」「いってきます」などさまざまな意味合いで使うもの。ジェスチャーはそれくらい自由度の高いものなのだと、改めて息子を見て思いました。
次ページ「意思疎通ができるようになったのは、発語がなくても言葉の理解力が上がったから」

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