「日常がうまくいかない」正反対なのに似ている2人――SNSで話題沸騰!『君と宇宙を歩くために』1巻発売記念!泥ノ田犬彦先生インタビュー

ライター:発達ナビ編集部
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第1話掲載からSNSで大反響、60万人が読んだ大注目のマンガ『君と宇宙を歩くために』。ヤンキーの小林と変わり者の転校生宇野、〝普通〟ができない正反対の2人の高校生の姿に共感、涙し、そして前を向くための力をもらっているという方は多いのではないでしょうか。今回はマンガ『君と宇宙を歩くために』第1巻発売を記念して、作者の泥ノ田犬彦先生のインタビューをお届けします。

アフタヌーンWeb増刊「&sofa」第1話掲載からSNSで大反響、60万人が読み共感、涙したマンガ『君と宇宙を歩くために』。ヤンキーの小林と変わり者の転校生宇野、いわゆる〝普通〟ができない正反対の高校生の友情物語は、多くの人の心の琴線に触れ、励ましてくれる一冊です。
発達ナビでは、『君と宇宙を歩くために』第1巻発売を記念して、作者の泥ノ田犬彦先生からお話を伺いました。先生に伺ったおすすめの場面もたくさんご紹介いたします!

『君と宇宙を歩くために』

『君と宇宙を歩くために』
『君と宇宙を歩くために』
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勉強もバイトも続かないヤンキーの小林。ある日彼のクラスに変わり者の宇野が転校してくる。小林が先輩から怪しいバイトに誘われているところを宇野に助けられ、その出来事をきっかけに2人は仲良くなる。宇野のことを知れば知るほど彼の生き方にひかれ、自分も変わろうと行動する小林でしたが……。どうしていいか分からずあきらめがちだった小林と、できないことは工夫をして乗り越えようとしてきた宇野、正反対の2人がそれぞれ壁にぶつかりながらも楽しく生きるために奮闘する友情物語。

自分の「できない」を解決する方法を駆使する宇野、それに感化される小林、2人の友情物語

LITALICO発達ナビ編集部(以下――)本作品を描かれたいと思ったきっかけをおしえてください。例えば、周りの人やご自身が体験されたことなどが含まれているのでしょうか?

泥ノ田犬彦 先生(以下泥ノ田先生):プライベートなことになるので詳しい言及は避けますが、基本的には自分で体験した感情、感覚、または身近にあった出来事がベースになっていて、宇野みたいな子が日常を歩み続けている作品があったらいいな〜と思ったことが執筆のきっかけの一つです。その対になる形で小林というキャラクターを作りました。像としては宇野が先に、感情としては小林が先に、という形で発生しています。
突出したキャラクター性を持つ子たちは同時に秀でた才能も付与されていることを期待されがちな気がするのですが、この作品内ではあんまりそういう風にはしたくなくて。あくまで隣のクラスにいそうな雰囲気を保ちながら描けたらいいなと思っています。

――学校でもバイトでもドロップアウト気味だけれど優しい心を持ったヤンキー小林大和と、まっすぐな努力家で、なにか特性もありそうな、小林にとっては変わった転校生・宇野啓介。2人のキャラクターについて、詳しく教えていただけますか。

泥ノ田先生: 元々サスペンスを描こうかなと思っていたのですが、担当さんから「感動する話ではなくてもいいので、人の心が動くお話を描くことはできますか?」というオーダーを受けました。自分の中の「心が動く」とはなんだろう? と考えた時にできたのが宇野と小林のキャラクターでした。
転校初日の宇野とそんな宇野を「ヤバいやつ…」と思う小林
転校初日の宇野とそんな宇野を「ヤバいやつ…」と思う小林
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宇野は明るくて努力家で、自分の「できない」を解決する方法を駆使して自立した生活をしようとしています。空気を読むのが苦手なためいつも少し笑っているのですが、一方で高校2年生として年齢相応のプライドも持っており、からかわれて傷ついたり凹むこともあります。そんな宇野に興味を持ち影響を受けていくキャラクターが小林です。

小林は体が大きくビジュアルも派手で、一見近寄りがたくて不機嫌そうな雰囲気を醸し出していますが、内面はナイーブで自分の「できない」を認めることをダサい・怖いと感じており直視することを避けています。

1話の中で最初に浮かんだのは、自分の苦手を認め工夫をしながらも頑張る宇野の姿と、そんな宇野に感化され努力を始める小林のシーン。それに付け加える感じで、小林の友達の朔が宇野に感化された小林を茶化した際に「ダサくていいんだ それでそのあと良くなるなら」と告げるシーンでした。“自分の大きさを認めて一歩踏み出す瞬間”が描きたかったんだと思います。そのきっかけになる出来事や結果が世間から見てどれだけ小さなことでも、「やるぜ!」と決める時の心の動きは偉大な一歩だなあと考えています。
宇野が宇宙を歩くための「テザー=命綱」であるノート
宇野が宇宙を歩くための「テザー=命綱」であるノート
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片方が完璧なタイプのストーリーにしても良かったのですが、どちらも同じような悩みを持っている人同士がお互いに相手を「すごい」「かっこいい」とリスペクトし合えるのってすごく素敵なことではないかと思い、この設定になりました。

絶対に描きたかった「でも僕は宇宙を歩きたい!」 

――1巻の中でこれを描きたかったというシーンやセリフを教えていただけますか?

泥ノ田先生: 宇野「でも僕は宇宙を歩きたい!」と小林「宇野だってそれ乗り越えてきてんだろ」「じゃあ泣くのは今じゃねえよな」のあたりは絶対描きたかったです。2人にそれぞれ希望とプライドがあることを分かってもらえたらいいなと思って描きました。宇野のセリフは、最初「まっすぐ歩きたい」とか「楽しく歩きたい」とかと迷っていたんですが、別にまっすぐじゃなくても楽しくなくても歩いていいよなと思い、出版社の担当さんとも相談してその部分は削りました。
宇野の「でも僕は宇宙を歩きたい!」、小林の「宇野だってそれ乗り越えてきてんだろ」「じゃあ泣くのは今じゃねえよな」のシーン(第1話より)
宇野の「でも僕は宇宙を歩きたい!」、小林の「宇野だってそれ乗り越えてきてんだろ」「じゃあ泣くのは今じゃねえよな」のシーン(第1話より)
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あとは冒頭でも触れた「ダサくていいんだ」のシーン。自分のために積極的に何かをするということが恥ずかしいと感じることもあると思います。でも、例え過程がダサくても「できるなら、いつかできるようになるなら、そのために頑張ってもいいじゃん」と言える人もかっこいいよね、という考え方があってもいいよなと思って描きました。強要するつもりは全くないのですが、今頑張りたいけどダサいかも……と悩んでる人がいたらそんなことないぜ! かっこいいぜ! とエールを送りたいなと思っています。
小林の「ダサくていいんだ」のシーン(第1話より)
小林の「ダサくていいんだ」のシーン(第1話より)
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またセリフとは離れますが、1話で小林が怖い先輩に声をかけられるシーンとそこで宇野に遭遇するシーンは絶対に描きたかったです。どのタイミングで誰と出会うか、というのが人生の大きな分岐点になると思っているので、神様がルートを捻じ曲げるようなイメージでパワーを込めて描きました。
泥ノ田先生が『神様がルートを捻じ曲げるようなイメージでパワーを込めて描きました』というシーン
泥ノ田先生が『神様がルートを捻じ曲げるようなイメージでパワーを込めて描きました』というシーン
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「地球のどこかに同じような悩みを持って生きている人が自分以外にもいる」と思うと、少しだけ気持ちの角度が変わる

――小林くん、宇野くん、宇野くんのお姉さん、朔、井ノ上先生たち周りの人々が関わり合うことによって、世界が広がっていくところに胸が熱くなります。社会では特性がある人はもちろん、“普通”と言われる人も大なり小なりの困りごとを抱えていると思いますが、それを一人で抱えこんでしまうことが生きづらさに繋がっているのではと感じました。先生はご自身が困った状況にある場合、どのように解決されようとしますか?

泥ノ田先生:私が答えていいものか分かりませんが……! 個人的には“人に聞く”“人と話す”が一番していることだと思います。自分の頭だけではどうしても行ける範囲が決まっているように感じるので、信頼できる人や経験を積んでいる人に話を聞いてもらって別の方法を探ったり、そもそもこれは悩むべきものなのか? と原因を複数の視点から見つめたりすると、その悩みがどのくらいの大きさなのか少し冷静に判断できるような気がします。実際にはその冷静に判断のゾーンに行くまでものすごく時間をかけますが……。一人だと延々同じところでぐるぐる悩み込んでしまう性質なので、人に聞いて解決をし、解決したことは「これは解決しました! 理由はこうです!」とメモしておきます。 解決したことを忘れてまた悩まないようにしますね。

またこれは解決方法ではない場合もあるのですが、同じ悩みを持っている人を見つけるというのも大切かなと思っています。一人で抱えてしまうと孤独で胸がいっぱいになってしまいますが、地球のどこかに同じような悩みを持って生きている人が自分以外にもいるんだなと思うと、少しだけ気持ちの角度が変わるような感覚になります。自分が言えなかった「助けて〜」を誰かが言ってくれているかもしれないし、運が良ければその先で解決策が見つかっている可能性もあるので。

――今後の作品の展開を教えていただけますか?

当分は宇野&小林の日常生活がメインになるかと思いますが、宇野のお姉ちゃんや小林の友達の朔の話も描けたらいいなと思っています。どこまで描くことができるか分からないのですが、それぞれの立場でそれぞれの悩みや葛藤があると思うので、丁寧に物語を進めることができたらうれしいです。

――最後に発達ナビの読者のみなさまへメッセージをお願いいたします。

『君と宇宙を歩くために』は学校、仕事、社会の中で「何かうまくいかないなあ」と思いながら日々過ごしているキャラクターたちが出てきます。めちゃくちゃ活躍したり、彼らが世界を大きく変えるなんてことはないかもしれないですが、自分の歩く道を見つめて進んでいこうと奮闘していく姿を等身大で描けたらいいなと思っています。何気ない日常を、一緒に見守っていただけたらうれしいです。頑張って描きます!

――ありがとうございました。 

泥ノ田犬彦先生

泥ノ田犬彦先生
泥ノ田犬彦先生
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アフタヌーン四季賞2022年秋のコンテストにて『東京人魚(トーキョー・マーメイド)』が準入選。『君と宇宙を歩くために』はアフタヌーンWeb増刊「&sofa」にて毎月第4月曜日連載中。
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(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。

※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

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