「やめて」が言えない。自閉症息子が自分の思いを伝えられるようになるために

ライター:ゆきみ
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自閉スペクトラム症と構音障害がある長男けんとは、幼児期から気持ちを言葉で伝えることが、とても苦手です。通っている放課後等デイサービスで行われている課題をヒントに、自分の気持ちを伝えられるように、そして人の気持ちを知るきっかけになれるように……と、家庭でも取り組んでいることがあります。

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監修: 藤井明子
小児科専門医
小児神経専門医
てんかん専門医
どんぐり発達クリニック院長
東京女子医科大学大学院修了。東京女子医科大学病院、長崎県立子ども医療福祉センターで研鑽を積み、2019年よりさくらキッズくりにっく院長に就任。2024年より、どんぐり発達クリニック院長、育心会児童発達部門統括医師に就任。お子様の個性を大切にしながら、親御さんの子育ての悩みにも寄り添う診療を行っている。 3人の子どもを育児中である。

自閉症息子、分かりづらい気持ちを、表情マークで表現

現在、小学2年生の長男けんとは、自閉スペクトラム症と3歳の時に診断を受けました。
けんとには構音障害もあり、言葉が不明瞭なことに加え、思っていることを言葉に出して伝えるのが苦手です。楽しそうな時は笑顔でピョンピョン飛び跳ねたり、イヤそうな時は、その場から逃げ出したりするので、その様子を見て親が気持ちを察知。

「うれしかったね」とか「怖かったのかな?」と予想した気持ちをけんとに質問していましたが、うれしいのか、悲しいのか、何が怖くて、イヤだったのか、どんな感情を持っているのかというのは、小さな頃からとても分かりづらい子でした。
放課後等デイサービスでは、その日の終わりに「今日の感想、気分」を提出する課題があります。
放課後等デイサービスでは、その日の終わりに「今日の感想、気分」を提出する課題があります。
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小学校2年生から通い始めた放課後等デイサービスでは、その日の終わりに「今日の感想、気分」を提出する課題があります。感想を書けるようになっている記入欄と、その下にニコニコ笑顔のマーク、プンプン怒り顔のマーク、悲しそうな泣き顔のマーク、困っている顔のマークが書いてあり、その日の気分に自分で丸をつけます。

けんとは、放課後等デイサービスでの活動を楽しんでいることが多く、感想のところには「かくれんぼが楽しかった」などと書き、その下はほぼ毎回、ニコニコ笑顔マークに丸がついています。

ニコニコしていたのに、怒っていた?

ずっと楽しそうにしていたのに、提出課題の「今日の気分」のところには、怒りマークに丸がついている!
ずっと楽しそうにしていたのに、怒りマークに丸がついている!
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通っている放課後等デイサービスでは、迎えに行った時、今日の子どもの様子を聞けるフィードバックがあります。
ある日「今日の感想、気分」を書く課題で、けんとが珍しくプンプン怒り顔のマークに丸をつけていました。その課題を見た先生がけんとに、なぜプンプンマークに丸をつけたのか事情を聞き、フィードバックの時に私に教えてくださいました。どうやらお友達に押されてしまったらしく、それが嫌だったようです。

しかし、その日の放課後等デイサービスでのけんとは、とてもニコニコ楽しそうに過ごしていたらしく、「怒っている素振りがあったり、嫌な気持ちを抱えていたり」という様子は一切感じられなかったとのこと。
言葉で上手く表現できないだけでなく、態度でも分かりづらい感情が隠れているのだと知りました。

それ以来「けんとの他にも隠れている感情が見つかるかもしれない……。そして、この表情マークで気持ちを伝え合うことで、人の気持ちに気づくきっかけになるかもしれない…」と思い、不定期ですが、家族でどこかへ遊びに行ったあとなどに、けんとに感想を聞いて、本人が気分マークに丸をつけるというやり取りを始めてみることにしました。

『自分の気持ち』『人の気持ち』伝えて分かること

「ヘビに会えてうれしかった!」と、息子はニコニコ笑顔マークに丸! 私は怖かったのに!
「ヘビに会えてうれしかった!」と、息子はニコニコ笑顔マークに丸! 私は怖かったのに!
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休日、家族でアスレチックへ行った時のことです。
身体をいっぱい動かして帰宅し、家族でテーブルに集まり、さっそく今日の感想や気分をみんなで伝え合うことをしてみました。

まずは私の番。その日、アスレチックの途中でヘビに遭遇したので、その出来事に触れながら「ママは、今日はとっても楽しかったのでニコニコ笑顔マークに丸! だけど、途中でヘビがいてビックリもしたし、怖かったし……、たくさんの気分があったよ」と、私の気持ちを伝えました。

そして、けんとの気持ちを聞いてみると、「ビックリしたけど、ヘビに会えてうれしかった」と言いながら、なんとニコニコ笑顔のマークに丸をつけたのです。

私は怖くて必死でしたが、けんとの言葉を聞きながらその様子を思い返してみると、ヘビを見つけた時、確かにけんとは笑っていました。「怖くなかったの?」と聞いてみると「怖くなかった」と。けんとにとっては、初めてヘビが見られてうれしかったのだと知ることができました。

私は、自分がヘビが怖いからといって、「けんとも怖かっただろう」と勝手に決めつけていたのです。でも、それは、私の感想。人の思いはそれぞれなのだと、私自身も改めて気づかされた出来事になりました。
次ページ「人に気持ちを伝えようとしている? 「イヤだよ、やめて」が言えるように」

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