起立性調節障害の処方薬は?漢方は効果がある?副作用なども/医師監修

ライター:発達障害のキホン
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「朝どうしても起きられない」「急に立つとめまいがする」という症状が表れる起立性調節障害。思春期の子どもが発症することが多く、症状が改善しない場合不登校につながる可能性もあります。今回は起立性調節障害の症状や原因、処方される薬や治療方法、家庭でできる取り組み、学校との連携などを解説します。

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監修: 藤井明子
小児科専門医
小児神経専門医
てんかん専門医
どんぐり発達クリニック院長
東京女子医科大学大学院修了。東京女子医科大学病院、長崎県立子ども医療福祉センターで研鑽を積み、2019年よりさくらキッズくりにっく院長に就任。2024年より、どんぐり発達クリニック院長、育心会児童発達部門統括医師に就任。お子様の個性を大切にしながら、親御さんの子育ての悩みにも寄り添う診療を行っている。 3人の子どもを育児中である。
目次

起立性調節障害とは?原因は?どんな症状があると診断される?

起立性調節障害とは自律神経の不調により、朝の起床困難、倦怠感、動悸、頭痛、立ちくらみ、失神などの症状が表れる疾患です。英語では、「Orthostatic Dysregulation」と表記し、略して「OD」とも呼ばれます。

起立性調節障害は10歳~16歳の思春期に発症することが多く、軽症例を含めると発症率は小学生では約5%、中学生では約10%とも言われています。また、不登校の子どもの3~4割は起立性調節障害が背景にあるともされています。

起立性調節障害の原因は?

起立性調節障害は循環調節機能の異常により、自律神経がうまく働かなくなることで引き起こされると言われています。自律神経には交感神経と副交感神経の2種類があり、その働きのバランスが崩れることで起床困難や倦怠感などさまざまな不調が出てきます。

起立性調節障害の要因はほかにもあり、学校や家庭でのストレスといった心理的要因や水分不足なども関係していると考えられています。

起立性調節障害の症状は?

起立性調節障害の症状は身体面、精神面にさまざまな形で表れます。
以下の症状のうち3つ以上当てはまる、または2つ以上でも症状が強ければ起立性調節障害の可能性があるとされています。

・朝の起床困難
・午前に調子が悪く、午後に回復する
・頭痛
・腹痛
・動悸
・気分の不良
・顔色の悪さ
・立ちくらみ
・失神
・食欲不振
・車酔い など


ほかにも、集中力・思考力の低下やそれに伴う学業不振、日常の活動量の低下、生活リズムの昼夜逆転などがあります。

当てはまる症状が多く起立性調節障害かもしれないと思ったときの受診先は、子どもの場合は小児科がいいでしょう。ほかには、循環器内科、脳神経内科など診察している場合もあります。 また、起立性調節障害に対応していることが病院のWebサイトなどに書いてある場合もありますので、近くにないか探してみるといいでしょう。
参考:起立性調節障害対応ガイドライン|岡山県
https://www.pref.okayama.jp/uploaded/life/604493_5061359_misc.pdf

起立性調節障害は治る?治療法や薬について

起立性調節障害の検査には起立負荷試験が行われます。この検査は、体を横に臥床している状態から、立ち上がった状態になった時に、血圧や心拍数がどのように変化するかを測定します。一般的に、測定は数分間続けて行います。血圧の低下が認められた場合は、起立直後性低血圧(INOH)と呼ばれる状態で、起立性調節障害の一つの症状です。心拍数が異常に上昇する場合も、起立性調節障害の特徴で、体位性頻脈症候群(POTS)タイプと診断されます。

起立性調節障害の治療は症状の重症度によっても変わってきます。軽症の場合は、自身でできる取り組みから始めていくことが多いです。内容としては、以下のようなことが挙げられます。

・起床時にはいきなり立ち上がらずに30秒ほどかけてゆっくり起立する
・早寝早起きなど生活リズムを規則正しくする(怠くても日中は体を横にはしない、など)
・水分を多めにとる(1日1.5L~2L目安)
・塩分を多めにとる(1日10~12グラム目安)
・毎日運動をする(15分程度の散歩から始めると良い)
・加圧ソックスや腹部バンドを着用する(血圧低下を予防) など


以上のような取り組みに加えて、薬を使った治療が行われることがあります。起立性調節障害に処方される薬は症状によって変わってきますので、次に紹介します。

起立性調節障害に処方される薬

起立性調節障害の治療では、血圧を上昇させるために以下の薬が処方されることがあります。

・ミドドリン塩酸塩(メトリジン錠、メトリジンD錠)
・メチル硫酸アメジニウム(リズミック)

起立性調節障害は朝に血圧が上がらないことで、さまざまな症状が表れるため、このような血圧を上昇させる薬が効果的と言われています。

また、起立性調節障害に不安障害や抑うつ状態が伴う場合には、SSRI(向精神薬)が処方されることもあります。昼夜逆転など睡眠リズムが整わない時には、自然な睡眠サイクルを調整する役割を持っているメラトニン受容体作動薬を使用することもあります。

漢方薬は起立性調節障害に効果がある?

起立性調節障害へは起立時のめまいなどに効果があるとして、以下のような漢方薬が処方されることもあります。

・苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう): 立ちくらみやめまい、頭痛 など
・半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう):胃弱、頭痛、ふらつき、めまい など
・補中益気湯(ほちゅうえっきとう):疲労倦怠 など
・小建中湯(しょうけんちゅうとう):腹痛、疲労倦怠 など
・真武湯(しんぶとう):冷え性、胃腸虚弱、神経衰弱 など

起立性調節障害への漢方薬の使用はエビデンスが少ないのが現状ですが、この中でも苓桂朮甘湯は4~8週間使用することで起床時のめまいなどが改善されたという報告があります。
参考:平澤 一浩, 大塚 康司, 塚原 清彰 著「複数の臨床的指標を用いて苓桂朮甘湯の有効性を確認できた起立性調節障害の2例」日本東洋医学雑誌 73巻(2022年)4号 p. 375-381
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kampomed/73/4/73_375/_article/-char/ja/

薬を飲んでも起立性調節障害がなかなか治らない…どうしたらいい?

起立性調節障害の治療をしていても、なかなか改善しないと悩んでいる方もいると思います。一般的に起立性調節障害の治療は長くかかると言われています。

軽症の場合は日常生活に影響が少なくなるまで数ヶ月、中程度の症状の場合は1年後の回復が約50%、2~3年後の回復が約70~80%程度です。重症の場合は、さらに期間が長くなることが考えられます。そのため、長い目で見て治療を進めていくという姿勢が大事になってきます。

また、服薬だけで改善するわけではないため、合わせて生活の中でできる取り組みをしていくことも大切です。

心理・社会的要因として、学習不振などが関係していることもあり、起立性調節障害だと思ったら、実は学習障害もあったなど、発達障害と診断されることもあります。生活習慣の改善に取り組んでも、なかなか症状が改善しない場合には、心理社会的要因へのアプローチも主治医と相談することが大切になります。

家庭でのサポート方法

まずは家族など周りの人が起立性調節障害のことを理解することが大事です。起立性調節障害があると、朝起きられずに学校に遅刻したり欠席したりするのに、午後からは回復してくる場合もあることから、「怠けているのでは」「学校をさぼりたいだけなのでは」と思われることがあります。しかし、起立性調節障害は身体的な疾患であり、気持ちや根性では改善しません。

「早く起きなさい」などと𠮟ってもよい結果にはなりません。まずは、この状態は起立性調節障害の症状で、本人もつらい思いをしているということを理解して、病院の受診を促すとともに、家庭でもできる改善のためのサポートをしていきましょう。

起立性調節障害は生活リズムを整えることが大事です。そのために家庭でできる工夫としては以下のようなものがあります。

・起こし方を本人と家族で相談しておく
・昼間横にならないように声掛けをする
・就寝時刻の30分前にベッドに入るように決めておき、時間になったら消灯する
・夜9時以降のテレビ・ゲーム・スマートフォンの使用は控える
・カーテンを開けて朝日を部屋に入れる
・起床後シャワーを浴びる  など


すぐに早寝早起きをすることが難しい場合には、まずは無理なく起きられる時間から始め、徐々に起きる時間を早めていくなど工夫をしながら進めていくといいでしょう。

また、現在ではスマートフォンで「夜9時以降に特定のアプリは使用できないようにする」など設定が可能です。ほかにも、時間になったら自動で照明を消す装置やカーテンを開ける装置も販売されています。このようなツールを活用することで、本人も家族も負担が少なく進めることができるでしょう。

学校との連携

起立性調節障害により学校に行くことが難しい場合は、学校と連携することも重要です。

必要に応じて病院で診断書を出してもらい、学校の担任やスクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーなどと相談しながら、学校に通いやすいように配慮事項を決めていくといいでしょう。

具体的な配慮としては、午後からの短時間登校、保育室などへの別室登校を認めてもらう、楽な姿勢で勉強できる環境を整えてもらうなどがあり、段階的に学校へ通えるようにしていくことがあります。

午後からの登校は起立性調節障害の症状への配慮だけでなく、電車通学の場合はラッシュアワーなど負担となる状況を避ける意味合いもあります。

周りの生徒の反応が不安な場合は、先生から遅刻の理由や起立性調節障害について周知してもらうという配慮もあります。ただ、知られることが負担という子どももいるため、家庭と学校でよく話し合って決めていくとよいでしょう。

いずれにしても、本人や保護者だけが問題を抱え込むことがないように、家庭と学校がお互いに相談しあえる関係をつくっていくことが大事です。

心理療法

起立性調節障害への治療では、心理療法が行われることもあります。心理療法は臨床心理士などと話すことで、問題を整理したりストレスを軽減させたりする治療法です。カウンセリングとも呼ばれます。

例えば学校を長期間欠席することや、ほかの生徒と違う通い方をしていることなどに不安や気分の落ち込みがある場合に、心理療法で精神的な問題を解消させていきます。

不安が強く心理療法を希望する場合は、主治医に相談してみるといいでしょう。
参考:カウンセリング / 心理療法|厚生労働省 e-ヘルスネット
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-088.html
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