自閉症中3息子、初めての通信制高校オープンキャンパス。面談、体験授業は苦手なことの連続で…

ライター:まゆん
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ASD(自閉スペクトラム症)の太郎は、「高校に進学したい」と言っているが、具体的にどのような高校に行きたいというような意思は感じられない。初めて通信制高校のオープンキャンパスに行ってみると……。

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監修: 初川久美子
臨床心理士・公認心理師
東京都公立学校スクールカウンセラー/発達研修ユニットみつばち
臨床心理士・公認心理師。早稲田大学大学院人間科学研究科修了。在学中よりスクールカウンセリングを学び、臨床心理士資格取得後よりスクールカウンセラーとして勤務。児童精神科医の三木崇弘とともに「発達研修ユニットみつばち」を結成し、教員向け・保護者向け・専門家向け研修・講演講師も行っている。都内公立教育相談室にて教育相談員兼務。

通信制高校のオープンキャンパス

ASD(自閉スペクトラム症)の太郎は、中学3年生。特別支援学級に在籍している。

私は太郎の中学卒業後の進路について、担任の先生、放課後等デイサービスのスタッフの方、主治医に話を聞いたり、Webサイトで高校の情報を得たりした。そして、太郎の特性を考慮し、2つの高校に絞った。家から通学時間が30分圏内の普通科高校と、通信制高校である。

太郎に「高校」「オープンキャンパス」の話をすると、実際に目の前にしていないため、なんのことやらという表情になり口数が減る。それでも私は、家からの交通手段、通学時間、学校の特色、合わせて太郎になぜこの高校がいいと思ったかを説明した。そのうえで、7月半ばに初めてのオープンキャンパスに参加した。

通信制高校であるが、月曜から金曜まで登校が可能な高校である。一学年が30人と少人数ということに加え、通常のクラスに入れないと感じたり苦手とする授業を受けたりする時には個別に指導していただける教室があるところが魅力だと考えていた。また、授業の開始時間が普通科高校と比べて1時間ほど遅いため、満員電車も避けられる。乗り物酔いをしやすい太郎にとっては、好条件だと考えていた。
初めてのオープンキャンパスへ
初めてのオープンキャンパスへ
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校舎に入る前から太郎は緊張していて、口数が減っていた。

校舎に入ってからは在校生の実体験や先生からの学校説明があった。太郎はその時点ですでにガチガチに固まっていて、私が話しかけても首を縦に振るか横に振るかで声を出せなくなっていた。

「緊張している?」と小声で声をかけると、こくんと縦に首を振った。
「少し水分摂る?」と再度声かけをした。太郎は首を横に振った。

1時間超の説明が終わるまで太郎はずっと声を出すことなく、緊張が伝わってきた。説明のあとには、高校の先生と簡単な三者面談が設けられていた。

高校の先生との三者面談

三者面談で緊張が増す太郎
三者面談で緊張が増す太郎
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そこでも太郎の緘黙、緊張状態は変わることなく……というより、さらに強く表れた。先生が太郎に話しかけても視線も合わせることなく、下を向いたままで頷くこともやっとの状態になっていた。

先生も異変に気づいた表情をされた。私はすぐに、ASD(自閉スペクトラム症)の太郎の特性を説明した。先生は「なるほど、その特性を伝えてくださっていたら、面接時にこちらも配慮いたしますので」と返事が返ってきた。

そして、先生は三者面談の間で何度か太郎とコンタクトを取ろうと、さり気ない声かけに挑んでくださっている様子だった。太郎は緊張のあまりに返事をすることはできなかったが、私は先生の対応を見て少し安心した。

この高校のオープンキャンパスは1度だけではなく、数回開催される。2回目は実際に体験授業を行う内容だった。三者面談の最後に、先生から「2回目のオープンキャンパスに参加したいか」という質問があった。オープンキャンパス開催の日付けや説明が書かれてある用紙が机の上にあったのだが、太郎は指さした。

「数学の体験授業」だった。

先生は反応した。「お、そうかそうか。数学を体験したいんだ。得意?」太郎は首を横に振った。
「苦手かな?」太郎は縦に首を振った。
「うん。そうか。実際体験してみよう」と先生は言った。
数学の授業を指さす太郎
数学の授業を指さす太郎
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太郎自ら2回目のオープンキャンパスの日付けを選び、体験授業の学科も選んだ。緊張している中で何も考えることができていない訳ではなかった。

意思表示を少しでもできたことに、私は安心した。ただ、この状態での受験や高校生活に不安を覚えた私だった。

体験授業では…

そして、2回目のオープンキャンパスにも参加してきた。慣れない場所、初めて出会う人たちとのグループワーク、数学……すべてが太郎には苦手なことだった。

保護者はそのグループワークを見守る形だったのだが、私は気が気でなかった。太郎は、問題が分からず固まってしまった。そこで助けてくれたのは、学校の先生とグループワークに参加していた高校生だった。

ほかの生徒と比べることは良くないかもしれないが、学校の学力レベルと太郎が合っているのかを見極めることは、この先の高校生活に重要になってくると思っている。

今回の授業体験では……太郎が一人浮いているようにも見えた。私の不安は募った。

オープンキャンパスの帰り道、太郎は少し暗い表情をしていた。私はしばらく太郎の様子を見守り知らぬふりをして声かけもしなかったが、あまりにも声を発さなかったため、たまらず声をかけた。

「ちょっとグループワークが難しかった?」
太郎はこう答えた。「うん」

そのひとことだけが返ってきた。ひとことに重みがあり、私も不安がまた募った。

「どうしても参加が難しい時は、別のクラスに行けるって説明していたから、そうしたらいいね」
その場しのぎのようなフォローの声かけに太郎はまた、「うん」

それだけだった。

執筆/まゆん
(監修:初川先生より)
太郎くん初めての高校オープンキャンパスへの参加エピソードをありがとうございます。高校という存在自体が未知で、入るには試験や面接など何らかの関門があるということは多くの子どもたちが知っているので、ただでさえ新奇の場所に苦手さを感じやすい特性がある中で、より一層不安緊張が高まってしまったことと思います。

太郎くん本人の意思もあり、2回目にも参加できたのはよかったですね。場や人に慣れてきてようやく見えてくるその学校の特徴というものがあるでしょうから、複数回参加できる場合にはしてみるといいと思います。また、まゆんさんが書かれていたように、まわりの中3生がどんな感じのお子さんかということも見ておけるといいと思います。体験授業や部活体験などがあるとそのあたりが感じ取りやすくなりますね。

発達障害や不登校歴のあるお子さんの場合、高校が行う説明会で説明を聞くことだけではなく、その後に開催されることの多い「個別相談会」にも参加できるとよいでしょう。まゆんさん、太郎くんははじめから参加されていて何よりです。
学校生活について気になることを聞いてみることだけでなく、お子さんの特性についてや高校生活でつまずくかもしれない点について簡単に高校側に伝え、学校側の反応を見ることは大事です。

今回、通信制高校を見学され、また普通科高校も検討されているとのこと。通信制と全日制普通科だと、この両者の違いは大きくは単位認定の方法です。通信制高校の場合、単位制であることが多いため、仮に何らかの単位をその学年で取得できなくとも、翌年度以降に取得すればよいということになります。全日制普通科の場合、その学年で取得する単位を1つでも落としてしまうと留年か退学になります(※全日制単位制の学校もあります)。また、単位取得にあたっても、定期試験以外にどのような評価項目があるのか(予習復習が必須、高頻度な小テストがあったり、レポートや、あるいはグループワーク、グループ研究のようなものが入っていたり、ディスカッションなどに重点を置く場合などもあり、学校ごとの特色が出やすいところです)について確認しておくことも大事です。何校か見ると、保護者の側もどんなところをよく確認したらいいかが分かりやすくなりますので、はじめから1校と決めるのではなく、複数校見てみることをおすすめします。
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https://h-navi.jp/column/article/35030157
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(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。

※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
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