続けることで「場」が認知される

――「保護者の支援の場を作る」ということも、江東もっくの活動の大きな目的ですね。保護者同士のつながりを作ったり、支援を推進するために必要なことはなんでしょう?

まずひとつは、「続ける」ということでしょうか。私たちにも「誰も人が来ない」という時期がありましたが、「何のために活動しているのか」というところから、何度も話し合いをしました。対象年齢を区切ったほうがいいのではないか、という案も出ましたね。でも、やはり年齢や、障害の有無などでボーダーを作りたくない、というのが結論。いつ来てもいいし、いつ帰ってもいい。喋っても喋らなくてもいい。そういう自由な場所にしたいな、と思うんです。
江東区取材撮影
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――続けていくためのポイントはなんですか?

やはり助成金の話なども知っておく必要がありますね。「お金がない」で終わってしまってはもったいないです。私たちも補助金を受けられるようになったので、利用者の方から参加費をいただかなくても運営できるようになりました。メンバーには教育関係の専門家も多く、運営についての情報収集もみんなでできるのは心強いです。
それから、この場所があるということもポイント。「今週もあるよね」って来てくれる利用者さんも多いんですよ。

――メンバーのみなさんは、どのようなつながりでチームに参加されることになったのですか?

元校長のつながり、PTA役員をしていた人の紹介など、志を持つ人同士の地域のつながりがベースです。心理カウンセラーの方もいるし、本当に多彩なメンバーです。ひとつ課題をあげるとすれば、メンバーの高齢化かな(笑)。IT関係はみなさんちょっと苦手なので、SNSの発信などは私が一人で担当しています。

PTA活動から始まった脱・孤育ての取り組み

――江東もっくが掲げる「脱・孤育て」というフレーズにも大変共感します!

私が子育て中、PTA活動をしていたときから、「脱・孤育て」という言葉を使っていたんです。PTA活動って、忙しい保護者には敬遠されがちな面もあるかと思いますが、学年をまたいだ交流ができるから、本当にいろいろな情報交換ができるんです。子育ての悩みや経験談なども話せて、私自身もPTAで孤独な子育てを抜け出せた一人です。これをもっと広げていきたいな、というのが江東もっくの思いです。

――そもそも本田さんがPTA活動に取り組もうと思われたのは、何かきっかけがあったのでしょうか?

子どもが1年生のときに「もしかして発達障害かな?」と、気になる様子が見えるようになったんですね。私はせっかちなのですぐに病院に行ったところ、診断が出ました。理由がわかれば、あとは対策をするだけ。学校生活が送りやすいようにと先生に相談をしたのですが、当時はまだ合理的配慮という言葉も知られていないし、先生の理解も得られなかったんです。子どもも学校に行けなくなってしまって。

――まだインクルーシブ教育という概念もない頃ですね。

そうなんです。でも、子どもがまた学校に通うには、学校全体で理解を深めてもらう必要がある、と痛感して。学校にいろいろお願いするなら、自分もできることをしなきゃいけない。それに親である私が、学校のことを何も知らないのではダメだな、とも考えました。それまでPTAへの興味はまったくなかったのですが、180度転換!PTA会長まで務めることになりました。

――学校と話を進めるなかで、最も大変だったのはどんなことですか?

人それぞれに考え方が違うことですね。わが子の障害を認めたくない、という保護者の方もいる。「障害=できない子」ではなくて、親や学校がちょっと動いてあげれば楽になる、生きやすくなることがたくさんあります。でも、なかなかそれが理解されないハードルは感じていました。だから、脱・孤育てにもつながりますが、保護者教育が大切なのではないか、と思うんです。
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――保護者の方が情報を得られる場所が必要だ、ということですね。

その通りです。孤独に子育てをしていると、なかなか情報も入ってこないし、一人で抱え込んで親子共に苦しくなってしまう。

――PTA活動をするなかで、手応えを感じたエピソードがありましたら教えてください。

子どもが不登校になる前に、担任の先生とうまく話し合いができないことがありました。それで、学校の全クラスの授業を見学したんです。そうすると、「もっとこうしたらいいのではないか」という点がたくさん見えたんですね。それをまとめて、校長先生に渡しました。すると、ガラッと学校全体の授業が変わったんです。校長先生がちゃんと向き合ってくれて、先生も研鑽をしてくださったんだな、と。

――全クラスの授業を見学するのは、それだけでも大変ですよね。そのモチベーションはどこから?

元々はわが子のためですが、学校に入ってみると困っている子がたくさんいることを目の当たりにして。そしたら、自分の子だけでなく、すべての子にとっていい環境になればいいな、と思うようになりました。どうせやるなら、みんなのために、という感じですね(笑)。

アートで人々をつなぐ「アートパラ深川」

――アートパラ深川の取り組みについても、教えてください。

江東区には、東京オリンピック・パラリンピックの会場がたくさんありました。それで、アートのパラリンピックを江東区でやろう、東京工芸大学の教授が中心となって立ち上げたのが、「アートパラ深川」です。私は、最初の年はボランティアで、翌年から実行委員会のメンバーに加入しました。

――多忙ななか、実行委員として参画することにした決め手はなんですか?

やはり作品のすばらしさです。美術館でシーンと黙って鑑賞するのではなく、コミュニケーションを大切に、おしゃべりをしながらアートに触れられるのがアートパラ深川。観に来られたアーティストの皆さんと話をすると、本当にその内容がおもしろくて。全国公募をするのですが、全国から集まる作品を最初に拝見できる感動も実行委員の醍醐味です。

――すてきですね。街を歩くように、おしゃべりしながらアートを観られるんですね。

はい、深川の街中を美術館にしようという試みですから。今年で5回目を迎え、認知度も上がってきました。『共に生きる』社会をめざすという趣旨に賛同して協力してくださる企業も増えています。
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