発達特性を強みに!世界的ベストセラー著者が語る、AI時代の学習アプローチ。子どもが「どう学ぶか」を知るということ【Barbara Oakley教授特別講演レポート】

ライター:発達ナビ編集部
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発達障害や発達に特性のあるお子さんの学習で「頑張っても成果が出ない」と感じられる原因は、脳の情報処理の特性と従来の勉強法のミスマッチにあるかもしれません。

25か国語以上に翻訳されたベストセラー『A Mind for Numbers』の著者、Barbara Oakley教授による特別講演が、白百合女子大学創立60周年を記念し2025年10月26日に行われました。

本レポートでは、最新の神経科学の知見、AI時代の学びのヒント、そしてバーバラ先生の温かいメッセージをお届けします。

AI時代だからこそ大切になる、「知識」を「知性」に変える学習法

この記事で分かること

  • 【発達特性を強みに変える学習法】 発達障害のお子さんの特性を活かし、学習の成果を出すための脳科学に基づいた具体的な学習戦略
  • 【AI時代の「学び方」を習得】 世界的エキスパートが教える、AI時代を生き抜くために必須のスキル「どう学ぶか(Learning how to learn)」への視点転換
  • 【記憶力を高める実践テクニック】 比喩を活用し、知識ネットワークを強化することで、抽象的な概念の理解と記憶定着を加速させる具体的な方法
  • 【特性別の効果的な学習サポート】 ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如多動症)など、特性ごとの認知特性に合わせた、生成AIも活用した実践的な学習ヒント
ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、SLD(限局性学習症)などの発達障害や、発達に特性があるお子さんの学習サポートに難しさを感じている方も多いのではないでしょうか。「頑張っているのに成果が出ない」と感じる原因は、お子さんの脳の情報処理の特性と、従来の教え方や勉強法のミスマッチにあるかもしれません。

2025年10月26日、白百合女子大学創立60周年を記念して、世界25か以上の言語に翻訳されたベストセラー『A Mind for Numbers』の著者、Barbara Oakley(バーバラ・オークリー)教授による特別講演が行われました。

講演は「いにしえの知恵と現代の知性が出会うとき:AI時代の学び」と題され、知識の重要性が増す現代社会における学習のあり方が語られました。

世界的な学びのエキスパートであるバーバラ先生は、実はとてもユニークな経歴の持ち主です。穏やかな雰囲気とは裏腹にチャレンジ精神が旺盛で、陸軍でのロシア語通訳や、南極大陸での通信技師など、多岐にわたる経験をお持ちです。

特に注目すべきは、幼少期に転居を繰り返した影響で算数に強い苦手意識を持っていたという事実です。「勉強が苦手だった」という原体験があるからこそ、先生は「学ぶ」という行為に人一倍真摯に向き合い、脳科学に基づいた効果的な学習法を体系化されたのかもしれません。
『A Mind for Numbers』の著者、Barbara Oakley(バーバラ・オークリー)教授による特別講演
『A Mind for Numbers』の著者、Barbara Oakley(バーバラ・オークリー)教授による特別講演
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脳の特性を活かす「集中」と「記憶」の技術

講演会では、最新の脳科学と認知科学の知見に基づき、「学ぶ」という行為を根本から紐解きました。
白百合女子大学創立60周年記念講演「いにしえの知恵と現代の知性が出会うとき:AI時代の学び」
白百合女子大学創立60周年記念講演「いにしえの知恵と現代の知性が出会うとき:AI時代の学び」
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記憶を定着させる「比喩」と「知識ネットワーク」の仕組み

人間が新しい情報を記憶する際、脳は既存の知識ネットワークに結びつけることで情報を定着させます。この「リンク」の作業を強力に助けるのが比喩の力です。

比喩は、抽象的な概念をすでに理解している具体物に置き換えることで(例:電流の流れを水の流れになぞらえる)、脳のネットワークへの接続を容易にします。これは、学習の難易度を劇的に下げ、記憶の定着率を高めるための重要な技術なのです。

生成AIと脳の情報処理の関係を理解する

近年目覚ましい発展を遂げる生成AIの仕組みは、実は人間の脳の神経回路の研究から深く影響を受けています。両者の研究は相互に発展し合ってきたため、AIの「入力・処理・出力」の構造を理解することは、私たちの脳の働きや学習プロセスを客観的に把握するための大きなヒントとなりえます。
白百合女子大学創立60周年記念講演「いにしえの知恵と現代の知性が出会うとき:AI時代の学び」
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特性を「強み」に変える効果的な学習アプローチ

脳の働きは年齢と共に変化しますが、一人ひとりの脳の特性によっても、得意とする学習方法が異なります。特性ごとの強みを活かしたアプローチを実践することで、より効果的に学習が進む可能性があります。
  • ASD(自閉スペクトラム症)の方: パターン認知能力を活かし、ルールや体系化された情報、視覚的な教材を最大限に活用する。
  • ディスレクシア(限局性学習症の一種)の方: レクチャー型認知に優れる傾向を活かし、言葉による説明や口頭での指示をそのまま記憶・理解できるアプローチが適している。
  • ADHD(注意欠如多動症)の方: 興味・関心への強い集中力という強みを活かし、興味のある内容を起点とすることで、自発的な探求意欲を引き出す(生成AIの活用も有効)。

「どう学ぶか」を知ることが豊かな人生を築く

海馬(学習と記憶の中心となる脳領域)では、新しい神経細胞が毎日生まれています。こうした生まれたばかりの若いニューロンは可塑性が高く、新しい学びに結びつきやすい上、(抑うつや意欲など)気分の改善にも寄与することが知られています。だからこそ、これらのニューロンが生き延び、成長し、よく働けるように支えることが重要になります。

興味深いことに、「何か新しい経験や学び」は、若いニューロンを支える「格子状の支柱(trelis)」のような役割を果たし、生存を助け、脳の学習経路を強化します。つまり、新しい経験や学びは、若いニューロンが脳のネットワークに根づくための“支え”や“足場”として働くのです。

学びに困難さを抱える子どもたちにとって、そしてその子どもを支えようとする保護者にとって、「何」を学ぶかから「どう」学ぶか(Learning how to learn)への視点の転換は、大きな変化をもたらします。この考え方を受け入れることで、誰もが自分に備わった脳の力を活かし、より豊かで主体的な人生を歩んでいくことにも繋がっていくはずです。
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