塾に入って変わったタケル
その塾の先生は、雰囲気は優しいのに課題はしっかり重いタイプでした。11月から受験期の子どもたちの間に飛び込んだタケルには、授業中の課題はもちろん、持ち帰りの宿題も多かったです。
私はその量にたじろぎ、「減らしてもらうわけにはいかないのか?」と聞いてみました。が、なんとタケルは自分で塾にあるプリントをチョイスし、勝手に“宿題”と称して持ち帰っているらしいのです。
「学校のプリントはみんな一度やった問題の数字だけとか、(穴埋め問題の)かっこの位置を変えただけ。塾には見たこともない問題があるから楽しい!」とタケル。「学校やめて朝から塾に通いたい!」と言い出す始末です。
「学校がある時間は塾は休みだよ。タケル一人のために開けてるわけがないでしょう」と言うと納得してくれましたが、最初は週2コマで始めた塾通いも、週3日、週4日と一週間ごとに増え、最終的には水泳教室も書道教室もやめて、週6日通うことになってしまいました。
塾がASDのタケルに合っていた理由とは
タケルは「学校は眩しくてうるさいから嫌い」と言います。塾なら通うのは夜だし、教室も静かです。自分のレベルに合った課題をもらえるのも魅力に感じていたようです。
私の目から見ると、この塾の先生は、みな説明が丁寧で、指示を変えるときは必ず理由を言ってくれるのが良いなと思っていました。もし説明が行き届かなかったときでも、子どもに不利益がかからないように、常に気を遣ってくれている印象がありました。
入塾して数日が経った頃、迎えに行った車の中でタケルはぽつりと「ここは良いね」と言いました。「質問したら答えが返ってくる」と。
息子は疑問を丁寧に解消しながら進みたいという特性がありますが、学校では「どうしてですか?」と聞くだけで、文句を言っているように受け取られてしまうことがよくありました。「要するにやりたくないって言ってるの?」と怒られてしまうこともあり、「なんでちゃんと答えてくれないんだ!」と癇癪を起こすこともありました。
そして、それは私にも覚えがあることでした。
質問したことの答えが返ってこない!といういらだち
子どもの頃の私は、説明がなく予定を変更されるとひどく不安になり、親や先生に「なんで?なんで?」と激しく抵抗していました。そして「怒っているからなだめなきゃ」と、大人たちから譲歩されたり、お菓子をもらったりすると、それまで以上に不機嫌になりました。私は騒いで得をしたいわけではないのです。ただ、答えが聞きたかった。それを大人たちは「ワガママ」「いつも自分が中心でないと嫌なんだ」と断じ、最後は叱りました。昭和のことですから鉄拳制裁です。それで泣きながら謝らされるのが常でした。
ここで今クドクドと書いている通り、その当時のことを私はまったく納得していません。ASD(自閉スペクトラム症)は人が言葉に込めた解釈を受け取らない傾向がある、そして多くの人たちには“素朴な疑問”が反撃に聞こえることもあるということを知った今でもです。頻出語である「なんで?」という言葉を「非難」と受け取る人は、思い出補正(下方修正)もあって大変苦手です。
でも、タケルの塾ではそのストレスが一切ありませんでした。私が「どうしてこのやり方なんですか?」と聞けば、先生は「少し長くなりますよ」と言いつつ説明してくれます。タケルも、教科書にないことを授業中に思いついて質問をしても、授業の妨害とは捉えられず、まず「それは高校でやるところだよ、思いついてすごいね。後で説明するね」と受け止めてもらえたのです。
そのおかげで、タケルは塾でどんどん自由に発言できるようになり、勉強にも自然と勢いがついてきました。そして、大方の予想――私や夫、たぶん塾の先生方も含めて――を良い意味で裏切り、タケルは希望していた私立の中高一貫校に合格しました。