【精神科医・本田秀夫】「もっと早く知りたかった」ADHDの大人たちの本音を教訓に。自己評価を下げない子ども期の支援とは

ライター:本田秀夫
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「コツコツよりも一発勝負」「『前もって』よりもギリギリセーフ」「姿勢よりも傾聴」。こうしたキーワードを手がかりに、ADHD(注意欠如多動症)の特性を解説していきます。ADHDの子育てでは、要求水準を下げることが大切です。そこを大人が理解して、腹をくくることができれば、子どもも大人もラクになります。
成人ADHDの診断が急増するいま、子ども期から特性に合った関わり方を知ることが、将来の生きづらさを減らす大きなカギになります。

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執筆: 本田秀夫
信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授
附属病院子どものこころ診療部長
発達障害に関する学術論文多数。日本自閉スペクトラム学会理事長。

「もっと早く知りたかった」ADHDの大人たち

ADHD(注意欠如多動症)についての認知が広まったことなどを背景に、成人になってからADHDと診断される方が増加傾向にあります。2010年から2019年度にかけて信州大学が行った調査では、成人になってから診断された方は10年間で約21倍に増加していました。

大人になってからADHDと診断された方の多くは、「診断を聞いて気持ちがラクになった」「できれば子どもの頃から知っておきたかった」といった感想を述べます。
それは、「早くから知っていればADHDを治せたかもしれない」という意味ではありません。

大人たちの体験を次の世代に活かして

多くの人は、自分がそそっかしくてミスが多いことを子どもの頃から自覚しています。しかし、いくら気をつけても失敗して叱られてばかりで、誰にも相談できませんでした。
子どものうちに特性を理解し、困りごとを安心して相談できる環境があれば、叱られ続けて自己評価が下がってしまう悪循環を防ぐことができます。
いま、大人になってから自分の特性に気づき「もっと早く知っていれば」と振り返る人たちの経験は、次の世代を支える大切なヒントになります。
その学びを子ども期の支援に活かし、周囲の大人が“その子に合ったやり方”を共有していくことで、無理のない関わり方が自然と身につきます。
叱られ続けて自己評価が下がる悪循環を防ぎたい 本田秀夫『最新 マンガでわかるADHDの子どもたち―その子の特性を活かした、独自の処世術』マンガ:フクチマミ
叱られ続けて自己評価が下がる悪循環を防ぎたい 本田秀夫『最新 マンガでわかるADHDの子どもたち―その子の特性を活かした、独自の処世術』マンガ:フクチマミ
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子ども期の支援で大切な3つのポイント

私は、ADHDをテーマとした講演を依頼された際には、悩みごとへの対応ポイントを、次のようなキーワードを用いてお話ししています。

  • 1.コツコツよりも一発勝負
  • 2.「前もって」よりもギリギリセーフ
  • 3.姿勢よりも傾聴


1.コツコツよりも一発勝負
私は、ADHDのお子さんやご家族には、「コツコツよりも一発勝負!」という考え方をお伝えしています。たとえ忘れ物を減らせるとしても、そのために毎日コツコツ120%のエネルギーを使い続けるわけにはいきません。そうではなく、普段は手を抜いておいて、いざというときだけ「一発勝負!」で集中して頑張ればいいのです。

子どもに手抜きをさせることに抵抗を感じる人もいるかもしれませんが、エネルギーの使い分けを身につけられるかどうかが、健康に暮らしていけるかどうかを左右するポイントの一つになります。

2.「前もって」よりもギリギリセーフ

例えば、土壇場になって追い込まれると、宿題をやり始める。ADHDのお子さんには、ピンチになると行動のスイッチが入るようなところがあります。
締め切りまで余裕があるときには、机に向かってみても、なかなか集中できません。日によっては気分が乗って集中できることもありますが、それが毎日は続かない。やる気になるかどうかは、イスに座ってみるまでわからない。自分でも自分の行動をコントロールできないところがあるのです。
ただし、ピンチになればスイッチが入ります。心の底から「やばい、もうダメだ」と感じたときには、すぐに行動できることが多いのです。
私の場合、すべての雑念を断ち切って集中したあと、風船がしぼむように力尽きます 本田秀夫『最新 マンガでわかるADHDの子どもたち―その子の特性を活かした、独自の処世術』マンガ:フクチマミ
私の場合、すべての雑念を断ち切って集中したあと、風船がしぼむように力尽きます 本田秀夫『最新 マンガでわかるADHDの子どもたち―その子の特性を活かした、独自の処世術』マンガ:フクチマミ
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3.姿勢よりも傾聴
本田秀夫『最新 マンガでわかるADHDの子どもたち―その子の特性を活かした、独自の処世術』マンガ:フクチマミ
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子どもが「話を聞いていないように見える」「姿勢が悪い」といった様子が気になることがあります。ADHDの子どもには、注意を持続させることが難しいという特性があり、そのためにこうした行動が見られる場合があります。
しかし、当たり前と言えば当たり前ですが、「話を聞くこと」と「姿勢を正すこと」は、それぞれ別々の行動です。
姿勢を正そうとすると話に集中できなくなる。そういう子どもに「人の話を聞くときは背すじを伸ばしなさい」と言っても、大人の期待通りにはなりません。
話を聞いてほしければ「話を聞いて」、姿勢を正してほしければ「背すじを伸ばして」と伝えましょう。

「常識」とは違うやり方で大丈夫!

私がお伝えすることは「自分の常識とは違う」と思われた方もいるでしょう。
「コツコツよりも一発勝負!」「『前もって』よりもギリギリセーフ」といったスローガンを目にして、「そんなことで大丈夫だろうか?」と不安を覚える方もいるかもしれません。

しかし、成人期にADHDの特性とうまくつき合いながら社会参加している人たちを見ていると、これらの処世術は欠かせないものだと感じざるを得ません。そして、そのような処世術を教えてくれる相談者が早くから周囲にいることで、子どもたちは自己評価を下げることなく、力強く成長していけるのです。

ADHDの子が明るさを失わないように

多くの人が考える「常識」とは異なるやり方が必要だからこそ、自分の特性を理解し、人に説明できることが重要です。そのためにも、子どもたちが自分の特性を前向きに受け止められる育て方が求められます。
子どもたちが日常では多少の失敗にくよくよせず、大切な場面では頑張れるよう、親御さんや先生方にサポートをお願いできればと思います。
そして、ADHDの子どもたちが明るさを失わず成長できることを心より願っています。
※この記事は、本田 秀夫 (著) フクチマミ(マンガ)『最新 マンガでわかるADHDの子どもたち』(バトン社)より一部抜粋・再編集しています。
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(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。

※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。
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