【実体験】新学期の「名前が覚えられない」。わかってるフリで疲労の学生時代、大人になって手に入れた「方法」
ライター:宇樹義子
ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、複雑性PTSDのある私。人の顔や風貌は覚えられるものの、名前を覚えるのがすごく苦手で、新学期などには苦労しました。今回は私の、人の名前が覚えられない困りごとについてお話しします。
監修: 鈴木直光
筑波こどものこころクリニック院長
1959年東京都生まれ。1985年秋田大学医学部卒。在学中YMCAキャンプリーダーで初めて自閉症児に出会う。同年東京医科歯科大学小児科入局。
1987〜88年、瀬川小児神経学クリニックで自閉症と神経学を学び、栃木県県南健康福祉センターの発達相談で数々の発達障がい児と出会う。2011年、茨城県つくば市に筑波こどものこころクリニック開院。
人の名前が覚えられない
いま思えば、苦手な会話をなんとか成り立たせることですべてのエネルギーを使い切ってしまい、人の名前を覚える力が残っていなかったのだと思います。
処理速度が低いから話のスピードについていけない、聴覚過敏やAPD(聴覚情報処理障害)でそもそも聴き取れていない、自閉特性により、3人以上の人たちの会話や関係性の中身をとらえきることが難しい。トラウマによる過緊張で、人の顔色だけは必死に伺っている……。
そんないくつもの困難の中でどうにか「話についていってるフリ」をするだけで精一杯で、頭は真っ白、疲労困憊。あとで話の中身を思い出すことも難しいのですから、人の名前なんて覚える余裕があるはずがありません。
処理速度が低いから話のスピードについていけない、聴覚過敏やAPD(聴覚情報処理障害)でそもそも聴き取れていない、自閉特性により、3人以上の人たちの会話や関係性の中身をとらえきることが難しい。トラウマによる過緊張で、人の顔色だけは必死に伺っている……。
そんないくつもの困難の中でどうにか「話についていってるフリ」をするだけで精一杯で、頭は真っ白、疲労困憊。あとで話の中身を思い出すことも難しいのですから、人の名前なんて覚える余裕があるはずがありません。
「感じよく名前を訊き直す」方法も知らなかった
覚えられないなら感じよく名前を訊き直せればよかったのですが、当時の私にはそういう方法も思いつきませんでした。
相手の不快感を軽減し、その後のコミュニケーションの活性化にもつながるような感じのいい訊き方は、今ならいろいろ思いつきます。たとえば
・「ごめーん何度も聞いて!何さんだっけ?」「田中だよ」「そうそう、田中さんだよね!ごめんね、私、人の名前覚えるのめっちゃ苦手でさ!もしまた訊いちゃったらジュースおごるわ!」
・「えーっと確か……お名前は……た……」「田中だよ」「そうそう、田中さんだよね!こないだも訊いたのに。やだー私ってばポンコツー!ごめんね!デコピンしていいよ!」
とか。
でも当時は、こういうときは「ごめんなさい、あなたの名前を忘れてしまったので、もう一度名前を教えて下さい」と訊くのだと思っていました。だって、私は相手の名前を忘れてしまって、名前をもう一度教えてほしかったのだから(笑)。
相手の不快感を軽減し、その後のコミュニケーションの活性化にもつながるような感じのいい訊き方は、今ならいろいろ思いつきます。たとえば
・「ごめーん何度も聞いて!何さんだっけ?」「田中だよ」「そうそう、田中さんだよね!ごめんね、私、人の名前覚えるのめっちゃ苦手でさ!もしまた訊いちゃったらジュースおごるわ!」
・「えーっと確か……お名前は……た……」「田中だよ」「そうそう、田中さんだよね!こないだも訊いたのに。やだー私ってばポンコツー!ごめんね!デコピンしていいよ!」
とか。
でも当時は、こういうときは「ごめんなさい、あなたの名前を忘れてしまったので、もう一度名前を教えて下さい」と訊くのだと思っていました。だって、私は相手の名前を忘れてしまって、名前をもう一度教えてほしかったのだから(笑)。
会話を「情報のやりとり」と考えていた
ASD(自閉スペクトラム症)の特性があると会話を「情報のやりとり」だと考えがち、というのはよく言われますが、まさに私がそうでした。実際には感情や社会的背景、前後の文脈も非常に重要な要素なのですが、そこが落ちてしまうのですね。
会話の目的が情報のやりとりであるなら、なるべく少ないターンで効率的に情報を取得して会話を終えるのが最もよい、ということになります。そういうわけで、英語文を日本語に直訳したような、あまりにストレートで「無駄のない」例文しか頭に浮かばなくなるわけです。
とはいっても、私が名前を何度も忘れていると知ったら相手が怒るかも、ぐらいは私にも分かったので、質問ができない→ほかの方法が思いつかない→「じゃあ、どうすればいいんだろう?」となって途方に暮れていました。
会話の目的が情報のやりとりであるなら、なるべく少ないターンで効率的に情報を取得して会話を終えるのが最もよい、ということになります。そういうわけで、英語文を日本語に直訳したような、あまりにストレートで「無駄のない」例文しか頭に浮かばなくなるわけです。
とはいっても、私が名前を何度も忘れていると知ったら相手が怒るかも、ぐらいは私にも分かったので、質問ができない→ほかの方法が思いつかない→「じゃあ、どうすればいいんだろう?」となって途方に暮れていました。
発達支援施設を探してみませんか?
お近くの施設を発達ナビで探すことができます
日本語学習者みたいなコミュニケーションをしていた
日本語教師の資格をとった今振り返ってみると、当時の私はまるで日本語学習者(日本語が母語でない人)みたいだったと思います。私のような誤りは言語学習中に実際によくあるもので、「語用論的転移(プラグマティックトランスファー)」という名前がついています。
語用論的転移とは、「言語学習者が自分の母語の文化的ルールをそのまま対象言語に当てはめてしまった結果、対象文化の社会的場にそぐわない表現をしてしまうこと」を言います。
私は日本語が母語なのに、日本のコミュニケーションルールを理解できていなかったので、「外国人のような日本語の使い方」しかできていなかった/思いつかなかった のですね。
語用論的転移とは、「言語学習者が自分の母語の文化的ルールをそのまま対象言語に当てはめてしまった結果、対象文化の社会的場にそぐわない表現をしてしまうこと」を言います。
私は日本語が母語なのに、日本のコミュニケーションルールを理解できていなかったので、「外国人のような日本語の使い方」しかできていなかった/思いつかなかった のですね。
「質問したら怒られるかも」という緊張が強かった
私が相手の名前を訊き直せない理由のもう1つにトラウマがありました。
私は精神的に不安定だった母のケア役として育った面があります。この中で私は、「人というのは刺激すると想定外の反応をする怖い存在だ」という感覚を身に着けてしまいました。
想定外の反応をするのは母だけなのですが、“怖い対象”が他者全体に広がっていました。これはトラウマのある人によくあるもので、「過剰汎化」と呼ばれます。
このため、私は「人に対して質問する」こと自体が怖くなってしまいました。それで、会話の中で何か分からないことや聞き逃したことがあっても、「質問しない」「分かったふりをする」で無理やり乗り切ることが多かったのです。
私は精神的に不安定だった母のケア役として育った面があります。この中で私は、「人というのは刺激すると想定外の反応をする怖い存在だ」という感覚を身に着けてしまいました。
想定外の反応をするのは母だけなのですが、“怖い対象”が他者全体に広がっていました。これはトラウマのある人によくあるもので、「過剰汎化」と呼ばれます。
このため、私は「人に対して質問する」こと自体が怖くなってしまいました。それで、会話の中で何か分からないことや聞き逃したことがあっても、「質問しない」「分かったふりをする」で無理やり乗り切ることが多かったのです。
新しい人・新しいことの多い新学期はハードモード
こんな感じなので、新学期はやはり心身の負担がとても大きく、どんどん疲れがたまっていくのがいつものことでした。
大型連休でちょっと緩んだ瞬間にどっと疲れが出て体調悪化。休みが終わってまた必死に教室環境に適応しなおそうとしているうちに、クラスメートたちは何かイベントがあるごとにみんなどんどん打ち解けていっている。
そんな中、私は何ヶ月もクラスメートの名前を覚えられないまま。気がつけば初夏も後半、さすがにさすがに訊けない雰囲気……ということの繰り返しでした。
大型連休でちょっと緩んだ瞬間にどっと疲れが出て体調悪化。休みが終わってまた必死に教室環境に適応しなおそうとしているうちに、クラスメートたちは何かイベントがあるごとにみんなどんどん打ち解けていっている。
そんな中、私は何ヶ月もクラスメートの名前を覚えられないまま。気がつけば初夏も後半、さすがにさすがに訊けない雰囲気……ということの繰り返しでした。
今の「新しい環境」の乗り切り方
今は「新学期」みたいな状況自体に出合うことが少ないですが、人の名前を覚えられない傾向自体は変わりません。
今はもう、最初から自己紹介のときに、冗談めかしてこういう感じに言ってしまいます。
「私は人の名前を覚えるのがすごく苦手なポンコツです(笑)。本当に悪気はなくて、必死に覚えようとはしてるんですが、何度も訊き直してしまうかも……最初に謝っておきますね。ごめんなさい!3回訊いちゃったらコーヒーかアイス奢りますから、回数を数えておいてくださいね☆」
こうしておいたうえで、名前があやふやな人に出会ったときに、わざと自らクイズみたいなのを開催して「えーっと、待ってください、いま思い出しますからね……えー、山……山……」「いや田中」「あちゃー!すみません!(ペシッと自分のデコを叩く)」とか。
今後も頑張って乗り切っていこうと思います☆(ペシッ)
宇樹義子/文
今はもう、最初から自己紹介のときに、冗談めかしてこういう感じに言ってしまいます。
「私は人の名前を覚えるのがすごく苦手なポンコツです(笑)。本当に悪気はなくて、必死に覚えようとはしてるんですが、何度も訊き直してしまうかも……最初に謝っておきますね。ごめんなさい!3回訊いちゃったらコーヒーかアイス奢りますから、回数を数えておいてくださいね☆」
こうしておいたうえで、名前があやふやな人に出会ったときに、わざと自らクイズみたいなのを開催して「えーっと、待ってください、いま思い出しますからね……えー、山……山……」「いや田中」「あちゃー!すみません!(ペシッと自分のデコを叩く)」とか。
今後も頑張って乗り切っていこうと思います☆(ペシッ)
宇樹義子/文
専門家コメント 鈴木直光先生(小児科医)
人の名前が覚えられないなどの場合、ワーキングメモリーの低さが影響していることもあります。ADHD(注意欠如多動症)の方の場合、ADHD治療することで集中力が上昇し、ワーキングメモリ―が上がることもあります。ADHD傾向がある場合は、そういった方面から探ってみるのも一手かもしれません。仕事の場合は、できるだけ少人数であるとか、名札を付けている職場が向いているかと思われます。このような環境であれば名札を見て徐々に覚えていけるのではないでしょうか。(監修:小児科医 鈴木直光先生)
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。
発達支援施設を探してみませんか?
お近くの施設を発達ナビで探すことができます