【ASD体験談】「気にしすぎ」では片づけられない息子の苦しみ。嫌な記憶が消えない特性との向き合い方(専門家解説)

ライター:taeko
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小学6年生・ASD(自閉スペクトラム症)の息子、ミミ。嫌なことがあったときは、表情や態度でなんとなく分かります。何があったのかを話してくれることもありますが、その内容は、母親である私からすると、つい「気にしすぎじゃない?」と思ってしまうことが多々ありました。

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監修: 森 しほ
ゆうメンタル・スキンクリニック理事
ゆうメンタルクリニック・ゆうスキンクリニックにて勤務。産業医として一般企業のケアも行っている(産業医のご依頼を随時受付中)。 ・ゆうメンタルクリニック(上野/池袋/新宿/渋谷/秋葉原/品川/横浜/大宮/大阪/千葉/神戸三宮/京都/名古屋):https://yuik.net/ ・ゆうスキンクリニック(上野/池袋/新宿/横浜):https://yubt.net/ ・横浜ゆう訪問看護ステーション(不登校、引きこもり、子育て中の保護者のカウンセリング等お気軽に):https://yokohama.yuik.net/shinyoko-houkan/

「あの人、こっちを見ている!」悪意のない視線も気になって

わが家の長男ミミは、ASD(自閉スペクトラム症)と診断されています。ミミが小学5年生の頃、休日のランチでときどきフードコートに行っていました。2回目に行った時のことだったと思いますが、ミミが「あの人がこっちを見てくる」と突然言い出したのです。見てみると、少し立ち上がってこちら側をのぞき、すぐに座る人がいました。ずっと見ているわけではなく、待ち合わせの相手を探しているだけのようでした。

ミミが言うには、前回も同じ人がいて、その時もこちらを見ていたとのこと。同じ店で同じ時間帯なら、同じ人がいてもおかしくありません。けれど、ミミにとっては「見られている」という感覚がどうしてもぬぐえず、不快に感じられていたようです。
知らない人の視線が気になるASD(自閉スペクトラム症)の長男
知らない人の視線が気になるASD(自閉スペクトラム症)の長男
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数年前の「見られた」記憶が消えない……

ミミに残った「見られた」という記憶は、時間が経ってもなかなか消えません。4年生の時、教室の中で体操服に着替えていたら、カーテン越しに女の子が自分の下着を見てきたというのです。それ以来、ミミはその子に対して強い拒絶感を抱くようになりました。

数年経った今でも、その記憶は鮮明に残っているようです。中学の説明会に行った際、偶然その子がいたようで、「パンツ見てきた子がいる……」と言ってきました。私はつい「そんな何年も前のことを気にしてるの? たまたま見ちゃっただけだよ」と笑い飛ばしましたが、ずっと前の出来事であったとしても、ミミの中では嫌な気持ちがちっとも消えていないことに、少し驚きを感じました。
数年前のことでも、なかなか嫌な記憶が消えない
数年前のことでも、なかなか嫌な記憶が消えない
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咄嗟に出た「その場を収めるための言葉かけ」にハッとして

またある時は、塾で問題を間違えて、年下の子に笑われて嫌な気持ちになったことがありました。その日の帰りは、見たこともないほど暗い表情で「笑われたせいで授業に集中できなくなった。あんなヤツ……!」と悔しそうにつぶやきました。

私は息子の心を静めようと焦り、「いいじゃない、その子には6年生の問題は解けないんだから。大きいお兄ちゃんも間違えることがあるんだなって、安心して笑ったんじゃない?そんな良くない言い方はしないほうがいいよ」と言いました。

しかしすぐにハッとして、「でも、ミミは嫌だったんだよね」と付け加えました。マイナスの感情や記憶を引きずりやすいミミにとっては、その場しのぎの言葉ではなく、まずは「嫌だった」という感情をそのまま受け止め、寄り添うことが必要だと考えたからです。

それでも、一度芽生えた感情はミミの心の中からなかなか消えず、塾に行くたびに嫌な気持ちを思い出してしまうようです。
年下の子に笑われて嫌な気持ちに
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本人なりの「世界との折り合い」を探して

今の塾はまだ通い続けたい場所なので、先生にやんわりと事情を伝えるべきか、もうすぐ中学生になるのだから本人に任せるべきか、まだ答えは出せません。

ミミの物事の受け止め方は、特性ゆえの独特さがあります。それは彼の個性でもありますが、社会で生きていく上では大きな負荷になることも事実です。

中学校での特別支援教室や、放課後等デイサービスといった支援の場で、自分の感じ方とどう向き合い、どう折り合いをつけていくか。息子が自分自身を「気にしすぎるのが悪いんだ」と責めるのではなく、気持ちのコントロール術を学んでいけるよう、専門家の力も借りながら見守っていきたいと思っています。

執筆/taeko

専門家コメント 森しほ先生(医師・公認心理師)

ミミくんの気持ちに寄り添って、とても温かい関わりをしてこられましたね。実際にほかの子がどんな気持ちでどんな行動をとったのかはいったん置いておいて、ミミくんの感じたことは本当で、ミミくんなりに世界を一生懸命受け取っている証でもあります。

ASD(自閉スペクトラム症)など発達の特性があるお子さんは、感覚や対人情報の受け取り方において、「出来事の意味づけ」がより強く、そして長く心に残りやすい傾向があります。

たとえば「見られている」という体験は、単なる視線ではなく「自分に向けられた意図」として強く認識されることがあります。また、過去の嫌な記憶が時間とともに薄れるのではなく、むしろ同じ強さで再生されることも少なくありません。これは「記憶の保持の仕方」と「感情の結びつきの強さ」によるものです。

さらに、一度生じた不快感や怒りが繰り返し思い出される背景には、「認知の柔軟性」の特徴も関係しています。つまり、「別の可能性(たまたま・悪意はない)」に切り替えることが難しく、一つの解釈が固定されやすいのです。このような場合、「気にしすぎ」と修正するよりも、まずは感情を事実として受け止めることが重要です。感情は正誤ではなく“体験”だからです。そのうえで少しずつ、「別の見方もあるかもしれない」と選択肢を増やしていく支援が有効です。

お母さまが途中で「嫌だったんだよね」と言い直したことは、ミミくんが安心して感情を出すためにとても大切なことだったのではないかと思います。気持ちを受け入れてくれる土台があって初めて、子どもは自分の感じ方を整理し、調整することができるようになるのではないでしょうか。

感じ方に正解はありませんから、「感じ方を変える」のではなく「いやな気持ちの扱い方を身につける」という視点がとても大切です。ミミくんの感じ方自体は個性であり、無理に消す必要はありません。感情にラベリングする習慣を身につけることが大切です。「嫌だった」「怖かった」「恥ずかしかった」など、感情に名前をつける練習を日常的に行います。言語化されることで、感情を客観視できるようになります。

また、事実と解釈を分ける練習をしてみましょう。たとえば「見られた」という出来事に対して、
  • 事実:人がこちらを見た
  • 解釈:自分を見ていた/悪意がある
と分けて書き出すだけでも、思考の柔軟性が少しずつ育ちます。紙に書くとより効果的です。

安心できる“逃げ場”を用意することも意識してみましょう。塾や学校でつらくなったときのために、「少し席を外していい場所」「先生に伝える合図」など、あらかじめ逃げ道を決めておくと、不安が軽減されます。

記憶のリセット習慣をつけておくことも大切です。嫌な出来事を思い出したとき、「上書き行動」をセットにします。深呼吸する、ストレッチをする、好きな音楽を聴くなど、脳を切り替えるパターンを持っておくといいですね。特別支援教室や放課後等デイサービスでは、こうした認知や感情の扱い方を体系的に学べます。

保護者の方の関わりのコツとしては、まずは最初に共感(「嫌だったね」)、次に整理(「どういう場面だった?」)、そして最後に解釈を一緒に考える(「こういう可能性もあるかもね」)ようにするといいでしょう。この順番を意識するだけで、お子さんの安心感は大きく変わります。

お母さまはすでに、ミミくんの気持ちをしっかり受け止めて寄り添った対応をしていらっしゃると思うので、このまま良い関わりを続けていけるといいですね。一緒に考え続けることの積み重ねが、ミミくんにとって“安心して生きられる世界”を広げていきます。(監修:医師・公認心理師 森しほ先生)
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https://h-navi.jp/column/article/35030927
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。

※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
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