【体験談】IQ78・境界知能の長男、「情緒クラスなら安心」とは限らない?進路問題で直面した壁
ライター:よいこ
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IQ78という境界知能(グレーゾーン)であることが分かった長男・あー(ASD/自閉スペクトラム症)。「わが子に合わせた学習を」と決意した母を待っていたのは、自閉症・情緒障害特別支援学級の「支援は手厚くとも、評価基準は通常学級と同じ」という思いがけない壁でした。中学進学を前に、進路への行き詰まりを感じていたある日、家族を揺るがす「転機」が訪れます。
監修: 室伏佑香
東京女子医科大学八千代医療センター 神経小児科
名古屋市立大学大学院 医学研究科 生殖・遺伝医学講座 新生児・小児医学 博士課程
筑波大学医学部卒。国立成育医療研究センターで小児科研修終了後、東京女子医科大学八千代医療センター、国立成育医療研究センター、島田療育センターはちおうじで小児神経診療、発達障害診療の研鑽を積む。
現在は、名古屋市立大学大学院で小児神経分野の研究を行っている。
名古屋市立大学大学院 医学研究科 生殖・遺伝医学講座 新生児・小児医学 博士課程
カスタマイズ学習への決意。けれど立ちはだかった「情緒クラス」の規定
自閉症・情緒障害特別支援学級(情緒クラス)に通う長男・あー(ASD/自閉スペクトラム症)は、小学3年生頃から宿題に苦戦するようになりました。わが家では宿題を巡り、まさに地獄絵図さながらの親子バトルが日々繰り広げられていました。
この状況を打開するヒントを求めて受けたWISC検査で、あーはIQ78の境界知能であることが判明。以前より数値が下がった事実にショックを受けつつも、「これからは、わが子に合わせたカスタマイズ学習を!」と気持ちを切り替えた私は、さっそく学校へ相談しました。
しかし、あーが在籍していた小学校の情緒クラスには、一つの厳然たるルールがありました。それは、少人数で手厚い環境でありながらも、授業も宿題も、そして通知表の評価基準も、原則的に「通常学級と同じ」であること。
中学進学後の内申点などを考えれば、通常学級と同じ基準で評価されることは、ある意味では「ありがたい」ことなのかもしれません。けれど、あーにとってこの状況は針のむしろのようにつらかったのだと思います。そして親にとっても……。本人のペースに合わせた「個別最適の学び」への理想は、早くも壁にぶつかりました。
この状況を打開するヒントを求めて受けたWISC検査で、あーはIQ78の境界知能であることが判明。以前より数値が下がった事実にショックを受けつつも、「これからは、わが子に合わせたカスタマイズ学習を!」と気持ちを切り替えた私は、さっそく学校へ相談しました。
しかし、あーが在籍していた小学校の情緒クラスには、一つの厳然たるルールがありました。それは、少人数で手厚い環境でありながらも、授業も宿題も、そして通知表の評価基準も、原則的に「通常学級と同じ」であること。
中学進学後の内申点などを考えれば、通常学級と同じ基準で評価されることは、ある意味では「ありがたい」ことなのかもしれません。けれど、あーにとってこの状況は針のむしろのようにつらかったのだと思います。そして親にとっても……。本人のペースに合わせた「個別最適の学び」への理想は、早くも壁にぶつかりました。
算数ドリルと向き合う夜。母のイライラと、意味を見出せない「答え」
高学年になっても、宿題には母がベッタリと張りつかない限り、やり遂げることは到底困難でした。特に算数ドリル。最初の計算部分だけでヒイヒイ言っているのに、最後の2問程度の文章題……あれ、難しくないですか?
あーにはとてもじゃないけど、自力では解けません。一から十まで説明して、私が手伝ってようやくひねり出した答え。けれど、そこに本人の理解が伴っていないのなら、一体何の意味があるんだろう……。
ダラダラとやる気のないように見える息子に、ついイライラをぶつけてしまう。そんな、出口の見えない夜が延々と続きました。
あーにはとてもじゃないけど、自力では解けません。一から十まで説明して、私が手伝ってようやくひねり出した答え。けれど、そこに本人の理解が伴っていないのなら、一体何の意味があるんだろう……。
ダラダラとやる気のないように見える息子に、ついイライラをぶつけてしまう。そんな、出口の見えない夜が延々と続きました。
散々なテストの結果に、切り替えたはずの心も揺らぎ……
「テストの点数が取れないのは仕方ない」。そう自分に言い聞かせ、理性では分かっているつもりでした。けれど、実際に散々なテストの結果を突きつけられるたび、心が沈んでいきます。
私たちが住んでいる自治体では、知的障害(知的発達症)の診断がない場合、知的障害特別支援学級(知的クラス)への転籍や特別支援学校への進学は難しいのが現状です。かといって、このまま中学校でも情緒クラスで「通常学級と同じ評価」を受け続け、進路はどうなるのか。学習面だけでなく精神的な困難も抱えたまま、定型発達の子と同じ土俵に立って、一般の高校を目指すしかないのか……。
「無理では??」
それが、母としての偽らざる本音でした。これまで特別支援学級という手厚い場所に守られてきたからこそ、「進む道の先」が見えない恐怖に、私はただ立ち尽くすしかありませんでした。
私たちが住んでいる自治体では、知的障害(知的発達症)の診断がない場合、知的障害特別支援学級(知的クラス)への転籍や特別支援学校への進学は難しいのが現状です。かといって、このまま中学校でも情緒クラスで「通常学級と同じ評価」を受け続け、進路はどうなるのか。学習面だけでなく精神的な困難も抱えたまま、定型発達の子と同じ土俵に立って、一般の高校を目指すしかないのか……。
「無理では??」
それが、母としての偽らざる本音でした。これまで特別支援学級という手厚い場所に守られてきたからこそ、「進む道の先」が見えない恐怖に、私はただ立ち尽くすしかありませんでした。
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先の見えない進路への悩み…そんな中、最大の転機が!
悩みに悩んでいた私たち家族に、ある日、最大の転機が訪れました。それは夫の転勤による引っ越しです。 そう、はからずも中学進学というタイミングで、あーは転校することになったのです。
「今の場所」での行き止まり感と、新しい環境への計り知れない不安……わが家を揺るがす「一大事」の顛末は、また別の機会にお話しさせていただきます。
「今の場所」での行き止まり感と、新しい環境への計り知れない不安……わが家を揺るがす「一大事」の顛末は、また別の機会にお話しさせていただきます。
執筆/よいこ
専門家コメント 室伏佑香先生(小児科医)
あーさんの学習や進路について悩まれる中での戸惑いやしんどさを共有してくださりありがとうございます。また、お子さんにとってよりよい学びをと決意されて特別支援学級に進学されたにもかかわわらず、制度や環境の制約もあり、お子さんにとってもご家族にとっても、おつらい時期でしたね。
まず、知的障害(知的発達症)は、一般的に知的機能(IQ)がおおよそ70以下であり、あわせて日常生活に必要な適応行動にも困難がみられる状態を指します。IQは、同年齢の集団の中での知的機能の位置を示す指標で、平均を100として設定されています。一方で、IQ70〜85程度の範囲は「境界知能」と呼ばれ、知的障害(知的発達症)の診断基準は満たさないものの、学習面や社会生活の中で困難さが生じやすいことがあります。
そのうえで、学校の特別支援学級にはいくつかの種類があり、自閉症・情緒障害特別支援学級(いわゆる情緒クラス)と、知的障害特別支援学級では支援の前提が異なります。情緒クラスは、ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如多動症)など、主に発達特性に伴うコミュニケーションや行動面の困難さに対する支援を目的としており、学習内容や評価については、通常学級と同じ基準で進められることが多いとされています。一方、知的障害のクラスでは、知的機能や理解のペースに応じて、学習内容そのものを調整しながら進めることができ、評価についても個々の到達度に応じた形がとられることが一般的です。
お子さんの支援を考える際には、発達特性に伴うコミュニケーションや行動面の困難さと、知的発達(IQ)という、2つの軸から捉えていくことが重要です。行動面での困難さが目立っていても、知的発達や学習の面では遅れがないお子さんもいれば、知的な理解のペースにも配慮が必要なお子さんもいます。そのため、「行動面への支援が中心となるのか」「学習面も含めた支援が必要なのか」は、お子さん一人ひとりの特性の組み合わせによって異なります。その中で、知的障害(知的発達症)の診断がある場合には知的障害特別支援学級で学習面の調整が受けられる一方で、境界知能のお子さんの場合にはその対象とならないこともあり、知的な理解のペースに対する支援が十分に行き届きにくいという課題があります。それぞれのお子さんの困りごとに寄り添った支援が、どの子にも届く社会になっていくことを願います。(監修:小児科医 室伏佑香先生)
まず、知的障害(知的発達症)は、一般的に知的機能(IQ)がおおよそ70以下であり、あわせて日常生活に必要な適応行動にも困難がみられる状態を指します。IQは、同年齢の集団の中での知的機能の位置を示す指標で、平均を100として設定されています。一方で、IQ70〜85程度の範囲は「境界知能」と呼ばれ、知的障害(知的発達症)の診断基準は満たさないものの、学習面や社会生活の中で困難さが生じやすいことがあります。
そのうえで、学校の特別支援学級にはいくつかの種類があり、自閉症・情緒障害特別支援学級(いわゆる情緒クラス)と、知的障害特別支援学級では支援の前提が異なります。情緒クラスは、ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如多動症)など、主に発達特性に伴うコミュニケーションや行動面の困難さに対する支援を目的としており、学習内容や評価については、通常学級と同じ基準で進められることが多いとされています。一方、知的障害のクラスでは、知的機能や理解のペースに応じて、学習内容そのものを調整しながら進めることができ、評価についても個々の到達度に応じた形がとられることが一般的です。
お子さんの支援を考える際には、発達特性に伴うコミュニケーションや行動面の困難さと、知的発達(IQ)という、2つの軸から捉えていくことが重要です。行動面での困難さが目立っていても、知的発達や学習の面では遅れがないお子さんもいれば、知的な理解のペースにも配慮が必要なお子さんもいます。そのため、「行動面への支援が中心となるのか」「学習面も含めた支援が必要なのか」は、お子さん一人ひとりの特性の組み合わせによって異なります。その中で、知的障害(知的発達症)の診断がある場合には知的障害特別支援学級で学習面の調整が受けられる一方で、境界知能のお子さんの場合にはその対象とならないこともあり、知的な理解のペースに対する支援が十分に行き届きにくいという課題があります。それぞれのお子さんの困りごとに寄り添った支援が、どの子にも届く社会になっていくことを願います。(監修:小児科医 室伏佑香先生)
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。
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