一緒にいたいのに、孤独。「普通」のフリをしなくてもよい社会を考えるーーオールマイノリティプロジェクトの公開シンポジウムレポート

ライター:【編集部厳選】最旬ニュース
一緒にいたいのに、孤独。「普通」のフリをしなくてもよい社会を考えるーーオールマイノリティプロジェクトの公開シンポジウムレポートのタイトル画像
Upload By 【編集部厳選】最旬ニュース

「ちゃんとあいさつする」「空気を読む」「みんなと同じように振る舞う」。日常のなかで私たちはこうしたふるまいを当たり前のように求めているかもしれません。しかし、その“当たり前”に合わせるために、自分の感じ方や特性を隠し続けている人がいます。2026年8月8日、オールマイノリティプロジェクトの公開シンポジウムが、東京・丸の内とオンラインのハイブリッドで開かれました。社会的カモフラージュ研究の第一人者を海外から迎え、午前は研究者・支援者向け、午後は当事者・一般向けに議論が交わされました。

「普通」に合わせる前に、社会の「当たり前」を問う

オールマイノリティプロジェクトは、千葉大学子どものこころの発達教育研究センターの大島郁葉先生を代表とする、2022年度からの5か年の研究開発プロジェクトです。発達障害のある人をはじめとするマイノリティが、社会的孤立や孤独に陥らないフェアな社会の実現を目指しています。

多数派の価値観が「普通」として前提になっている社会では、マイノリティは悪気のない差別(マイクロアグレッション)を受けやすく、周囲に合わせて自分を隠す「社会的カモフラージュ」を行わざるを得ない状況に置かれることがあります。プロジェクトでは、その実態を明らかにする研究、無意識の差別に気づくツールの開発、漫画や動画による啓発を進めてきました。

大島先生は開会の言葉で、「この5年でカモフラージュという言葉の認知は日本でも広がりつつある」と振り返りました。出発点は、自閉スペクトラム症(ASD)の人がカモフラージュせざるを得ない状況を、本人の努力の問題として放置せず、社会の側が変わること。その思いです。日本の「右にならえ」の文化のなかで、努力するのが当事者だけなのはアンフェアではないか、という問題意識からこのプロジェクトは始まりました。

第1部(研究者・支援者向け)――「誰でもマスキングする」では片づけられない

第1部では、英国ブリストル大学のローラ・ハル先生と、カナダ・トロント大学のメイチャン・ライ先生が基調講演を行いました。ハル先生は、社会的カモフラージュ研究の第一人者であり、自閉スペクトラム症(ASD)の人のカモフラージュ行動を測定する質問票「CAT-Q」の開発者です。

カモフラージュとは、社会的な場面で発達特性を隠したり補ったりすることです。マスキング(本来の自分を隠す)、他者の模倣、どう振る舞うかを見極める認知的な戦略、楽に話せる場を選ぶことなど、形はさまざまです。研究からは、印象をよくしたいという一般的な動機とは別に、発達障害のある人にとっては「差別されたくない」「社会のメンバーでいたい」という自己防衛で行っている場合があることが分かっています。「誰でもマスキングする」では片づけられない負荷が、そこにあります。
第1部 研究者・支援者向け基調講演の様子
第1部 研究者・支援者向け基調講演の様子
Upload By 【編集部厳選】最旬ニュース
就職面接のような社会的プレッシャーの高い場面では、自閉スペクトラム症(ASD)の人もそうでない人も「努力する傾向が高い」と答える一方、友人との会話といったプレッシャーの低い場面では自閉スペクトラム症(ASD)の人は面接の場合と変わらず不安が高く、自分らしさを出せていないと感じやすい、という研究が紹介されました。カモフラージュでスティグマ(差別や偏見)を防げることもある一方、診断や支援の遅れ、不安・うつ、バーンアウト、自殺リスクとの関連も指摘されています。また、発達障害の診断でカモフラージュを考慮している臨床家は73%、考慮されたと認識している当事者は19%、というギャップも示されました。

また、ライ先生は、子ども同士の遊び場での観察から、特に自閉スペクトラム症(ASD)の女の子は周囲と同じような距離感で過ごしているように見えやすいこと、そしてカモフラージュが「その場その場のルールや空気を読んでとる行動」であることを示しました。また、何が受け入れられるかは、文化や環境によっても変わることが説明されました。

後半のディスカッションで、社会的カモフラージュについて大島先生は「個人的には減らしたい。リラックスできる時間が多いほうがよいと思う」と述べ、岡山大学の廣田智也先生は「個人の人生観によってカモフラージュをすべきか否か(したいかどうか)は変わるので難しい 、決められない」と慎重な立場を示しました。ハル先生は「理想は、しなくてもよいとみんなが思える世界。子どもには主導権と選択権を渡すことが大事」、ライ先生は「個人が自分らしくあることと、社会がその人らしさを認めることが、同じ重さで求められる」と応えました。

第2部(当事者・一般向け)――一緒にいたいのに、孤独。「普通」を問い直す

午後の第2部では、当事者と一般の参加者に向けて、研究と体験の両面から「普通」が問い直されました。
早稲田大学の大須理英子先生(認知神経科学)は、自閉スペクトラム症(ASD)の人は「コミュニケーションが苦手で、人と一緒にいたくないのだろう」と思われがちだが、実際には「人と一緒にいたい」と思っているのに強い孤独感を抱えている人がいる、という研究を紹介しました。

研究によると、自閉スペクトラム症(ASD)の人は相手の顔を見る視線の合わせ方までも学習し、周囲に合わせようとカモフラージュしている可能性があるといいます。また、自閉スペクトラム症(ASD)同士の会話は、定型発達の人同士と同じくらいスムーズに進む一方で、お互いの立場が異なるとコミュニケーションが行き違いやすくなる「二重共感問題」についても解説されました。あわせて、自閉スペクトラム症(ASD)が多数派になる世界をVRで体験する試みについても紹介されました。

国立障害者リハビリテーションセンターの和田真先生は、感覚の困りごとを取り上げました。目立つのは触覚のつらさや、特定の苦手な音、予測できない突発的な音です。パーティー会場、駅、フードコートのように音が重なると、一つひとつはつらくなくても非常に疲れます。「大きな音」への対応より、「複数の刺激が同時に入ってくること」への配慮が必要かもしれない、と研究から見えてきています。本人のニーズと自己決定が大切であることも、強調されました。

廣田先生は、オーティスティック・バーンアウト(燃え尽き)に触れ、心と体の健康が悪化しやすいこと、一方で支援者など、周囲が先回りしてケアしすぎることが重圧になり、カモフラージュを生む可能性もあると述べました。バイアスを意識して「普通」を問い直すことが、自閉スペクトラム症(ASD)の有無にかかわらず大事だといいます。

当事者の琵琶湖環さんは、発達障害がほとんど知られていなかった子ども時代から、「やればできる」と言われ、給食や掃除、座り方で注意され続けた経験を語りました。中学ではからかわれ、感情が爆発することもあったといいます。大学では、好きな音楽を通じて気の合う友人と過ごせた一方、就職はうまくいかず、発達障害の診断を受けても問題は消えませんでした。障害を告げずに勤めたパン工場では、周囲の騒がしさにパニックになり、退職しました。就労移行支援事業所に通ったあと、障害者雇用で就職し、10年以上働いています。

「これまで出会った印象のよい人のふるまいを学び、『普通に見えるように』していた」と語る琵琶湖さん。あいさつにも常に気を張り、雑談の音の大きさに耐えられなければ一人になれる場所へ移る工夫をしていると話しました。現在の職場では周囲にも自閉スペクトラム症(ASD)があることを開示し、電話対応を代わってもらうなどの配慮があるといいます。しかし、人と話すときは言葉や目線に気を使い、仕事終わりにはくたくた。家に帰っても『普通に見えるように』振る舞うのをやめられず、「寝ている間を含めて、自然な状態になっていることはほとんどない」と語りました。カモフラージュで得たものより失ったもののほうが多いと感じつつ、「必ずしも悪いわけではない。社会生活ではメリットもある」とも述べました。必要以上に周りに合わせる苦労が減っていく社会が理想だ、という言葉が残りました。

後半の研究者と当事者の対談では、カモフラージュは一般化できるのか、オフにできるのかが問われました。自閉スペクトラム症(ASD)当事者である琵琶湖さんは、人と関わりたい気持ちは強い、気が合う人の中でも自分を調整してしまう、子ども時代のように周りがじっとしているような場面で好きなように体を揺らしたりする自分には戻れない、と答えました。和田先生は、自分以外の感覚は分からないからこそ、学童期からセルフアドボカシー(自分のことを自分で伝える力)を育てる機会がほしいと述べ、廣田先生は「ほどほどのがんばり」の見つけ方は医師にも課題だと話しました。
会場からは、「自閉スペクトラム症(ASD)の人と出会ったときに、周囲の私たちにできることは?」という質問がありました。廣田先生は「まずその状況に共感すること」、和田先生は「カモフラージュせざるを得ないことへの啓発」、大須先生は「困っていることは言ってもらえる雰囲気をつくること」と答えました。障害や特性があることを開示する/しないの自由は、周囲の受けとめ方や状況によっても変わる、という認識が、登壇者の間で共有されました。
左から琵琶湖環さん、廣田智也先生(岡山大学)、ローラ・ハル先生(英国・ブリストル大学)、大島郁葉先生(千葉大学)、大須理英子先生(早稲田大学)、和田真先生(国立障害者リハビリテーションセンター)
左から琵琶湖環さん、廣田智也先生(岡山大学)、ローラ・ハル先生(英国・ブリストル大学)、大島郁葉先生(千葉大学)、大須理英子先生(早稲田大学)、和田真先生(国立障害者リハビリテーションセンター)
Upload By 【編集部厳選】最旬ニュース
児童支援最大化バナー
次ページ「「普通」のフリをしなくてもよい社会は、想像から始まる」

追加する

年齢別でコラムを探す


同じキーワードでコラムを探す



放課後等デイサービス・児童発達支援事業所をお探しの方はこちら

放課後等デイサービス・児童発達支援事業所をお探しの方はこちら

コラムに対する投稿内容については、株式会社LITALICOがその内容を保証し、また特定の施設、商品及びサービスの利用を推奨するものではありません。投稿された情報の利用により生じた損害について株式会社LITALICOは一切責任を負いません。コラムに対する投稿内容は、投稿者の主観によるもので、株式会社LITALICOの見解を示すものではありません。あくまで参考情報として利用してください。また、虚偽・誇張を用いたいわゆる「やらせ」投稿を固く禁じます。「やらせ」は発見次第厳重に対処します。