【友だちトラブル】「いじり」と「いじめ」の境界線は?悪意に気づかない自閉症の息子が標的に…解決までの道のり

ライター:星あかり
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息子のスバルはASD(自閉スペクトラム症)があり、悪意の有無に気づかず言葉の通りに受け取ってしまう特性があります。直接的な暴力や暴言じゃなければ基本的に友好的に受け取ってしまい、遊びの中で行われたいじわるなども「遊び」だと思ってしまいます。そしてその日に起こった不穏な出来事は「今日の楽しかった出来事」として私に伝わります。そんなスバルが幼稚園の年長時に起こった学年を巻き込む大事件の話です。

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監修: 井上雅彦
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授
LITALICO研究所 スペシャルアドバイザー
ABA(応用行動分析学)をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のためのさまざまなプログラムを開発している。

「エイリアンごっこ」って……何?

ASD(自閉スペクトラム症)のある息子のスバルが通っていた幼稚園は保護者のお迎え時に、放課後の園庭で遊ぶことができました。私は3年間、園庭遊びを通してスバルとお友だちとの関わりを見てきました。

年少では個人で遊ぶことが多かったスバルですが、年中で気の合う友だちと出会い、少人数で穏やかに遊ぶようになりました。
年長になっても引き続き穏やかに遊んでいたのですが、ある日突然たくさんのクラスメイトから「スバルくん遊ぼう」と声をかけられるようになりました。

遊びの内容は決まって「エイリアンごっこ」でした。ルールはスバルが鬼固定の鬼ごっこのようなものでした。
キャーキャーと楽しそうに「エイリアンが来た」「逃げろ」とはしゃぐクラスメイトをニコニコと追いかけ続けるスバルを見て複雑な気持ちになりましたが、当のスバルはみんなの中心で楽しそうにしていました。

翌日には参加人数は増え、さらに翌日には乱暴な言動が目立つようになりました。「こっちに来るな」「エイリアンを倒せ」「触るな」もっとひどい言葉も言われました。そしてエイリアンを牢屋という名目の狭い場所に閉じ込めビームと言って砂をかけたり、突き飛ばす子も出てきました。
遊びの内容は決まって「エイリアンごっこ」でした
遊びの内容は決まって「エイリアンごっこ」でした
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スバルを見ていると「悪意の有無に気づきにくい」と感じることがあります。

直接的な暴言暴力でなければ基本的に友好的に受け取ります。スバルは遊びの中でこのような言葉をお友だちから言われても「ごっこ遊びの役としてのセリフ」と捉えて全く気にしていませんでしたが、私は全身の毛が逆立つような感覚になり、大急ぎで止めに入りました。

同じ現場を見ていたほかの保護者も一緒に止めてくれました。その日一度は渋々解散したものの、翌日の放課後には何事もなかったかのように「エイリアンごっこ」が行われていました。私や周りの保護者が「エイリアン役は交代にしよう」「砂をかけたり乱暴なルールは絶対にダメ」と厳しく言って聞かせました。口うるさい大人の介入が面倒になったり、良心に響いたりした子は去っていきました。

ですが、やめる気配がない子たちもいました。
一番の課題はスバル自身がこの遊びをやりたがっていることでした。不器用で運動も苦手なスバルは、遊びの仲間に入れてもらえなかったり、誘われなかったりすることが日常だったので、遊びの中心にいることや「スバルくん遊ぼう」とみんなから声をかけられることが嬉しかったのです。

それでもそのままにはできず、スバル本人にこの遊びのリスクを説明し、誘われても断るように伝えました。特に「私の大切なスバルが、ごっこ遊びの中だけであっても乱暴に扱われることが悲しい」と言ったのが響き、「お母さんが悲しむならもうしない!断る!」と言ってくれました。

こうしてスバルが断るようになり一度は収束したように見えた「エイリアンごっこ」ですが、完全には終わりませんでした。

担任の先生に相談。先生の対応は……

日中の大人が介入しない時間に悪意のある子数人に「エイリアンごっこをしないなら一生遊ばない。みんなもそう言っている。一人ぼっちになるよ」と言われ断りきれなくなる日々が続きました。

そこに「本当はダメだと分かっているのに自分がターゲットになるのが怖くて従ってしまう層」と「悪意なく純粋にごっこ遊びとして楽しんでいる層」が加わり結局大所帯での「エイリアンごっこ」が再開するのでした。もう自分の力ではどうすることもできないと感じ、担任の先生に相談することにしました。

今思えばもっと早く相談するべきでしたが、「放課後のことまで先生に相談するのは迷惑かな」とためらっていました。
しかしメインの時間帯が放課後ではなく日中になったことで決心がつきました。

この話を聞いた先生はすぐに対応してくれました。年長さん全員を集め「鬼が交代しないルールは?」「もし自分がエイリアン役だったら?」「お父さんとお母さんはどんな気持ちになるだろう」と質問を投げかけ自分の意見を考えたり人の意見を聞く時間を作ってくれました。参加していた子も参加していない子も意見を出し合いました。

「エイリアンは怖いからかわいそう」「鬼が交代しないと面白くないよ」「私はずっとエイリアン役するの嫌だな」「ママは悲しむかも」そんな意見を聞いて、「悪意なく純粋にごっこ遊びとして楽しんでいる層」がこの遊びの残酷さに気づいてくれました。
この遊びを主導していた子たちは「私たちはエイリアンごっこなんてしていません」と言っていたそうですが、おおごとになったと感じたようでこの遊びをしなくなりました。それによって「本当はよくないと感じていたのに自分がターゲットになるのが怖くて従ってしまう層」もいなくなりました。

当のスバルは「よく分からないけど、お母さんが悲しむのでやめておきます」と言っていたと先生から聞いてずっこけました。
ここまで言っても分からんのかーい!と思いましたが家に帰ってゆっくり話をしたところ「ぼくの今の気持ちをなんて説明したらいいのか分からなかったけど、ちゃんと分かってるよ」と言っていました。本当に分かっているのかは定かではありませんが、ひとまずホッとしました。

そして気の合う友だちと少人数で穏やかに遊ぶ日々に戻りました。

小学生になりアップデートされたスバルの経験値

あとから知ったことですが、「エイリアンごっこ」を主導していた子たちは日頃から次々ターゲットを変えながら、クラスメイトに対していじわるなことをしていたそうです。そういった場合、ターゲットにされた子が泣いたり怒ったりすることで保護者や先生に伝わり、すぐに収束していたのだとか。今回の「エイリアンごっこ」は、スバルが何をされても笑って楽しそうにしていたので長引き、普段は関わりのない子たちも集まってきて大きく広がってしまいました。

この遊びは、私が気付くよりも前から始まっていたみたいです。

スバルが悪意に気づかず、私に「今日はたくさんの友だちと追いかけっこして遊んだよ」と楽しい出来事として報告していたため、私が実際に目にするまで気付くことができませんでした。

あれから数年。小学校での人間関係で荒波に揉まれたスバルの経験値は急激に上がりました。そして遊びの中だとしても嫌なことは嫌だと感じ、それを伝えることができるようになりました。以前は曖昧だった暴力とスキンシップ、暴言とジョークの区別もつくようになってきました。

余談ですがスバルが4年生の時に驚いた顔をしながら「今分かったんだけど、○年○月○日エイリアンごっこの時、あの子に言われた言葉はとてもひどかった。あれも……あれも……嫌なことをされていた」と何年も前のことを昨日の出来事のように話したことがありました。

楽しかった思い出として日付け付きでファイリングされていた出来事も、数年後のアップデートにより嫌な思い出に仕分け直されることに驚きました。成長したスバルですが、いまだに嫌味や不穏なやりとりに気づかないことも多いです。

私はスバルの「今日の楽しかった出来事」の中の不穏なワードを聞き逃さないようにアンテナを張りつつ、次のアップデートを待ちたいと思います。
「今日の楽しかった出来事」の中の不穏なワードを聞き逃さないように気を付ける日々
「今日の楽しかった出来事」の中の不穏なワードを聞き逃さないように気を付ける日々
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執筆/星あかり

専門家コメント(公認心理師 井上雅彦先生)

子どもたち同士の関わりの中で、いわゆる「いじり」からいじめに発展していくケースは少なくないと思います。ASD(自閉スペクトラム症)の特性があるお子さんの場合、その変化の段階に気づきにくかったり、関係がエスカレートしてから初めて「嫌だった」「つらかった」という感情に気づくこともあります。そのため、星さんのように、親御さんや周囲の大人が早めに気づき、連携して対応していくことが大切になります。

その後、スバルさんも少しずつ経験を積みながら、いろいろな人との関係性や、その変化を捉えられるようになってきているのだと思います。

適切な距離感は、実際の経験を通して少しずつ学んでいくものです。ただし、小さな失敗は成長の機会になる一方で、大きな傷つき体験はできるだけ防いでいく必要があります。その意味でも、日頃からお子さんとのコミュニケーションを大切にしていただければと思います。

その際のコツとしては、お子さんの不適切に見えるコミュニケーションに対して、すぐに感情的に否定しないことです。まずは、本人がそのときどう思ったのか、どう感じたのかをじっくり聞きながら、一緒に考えていくことが大切です。(監修:公認心理師 井上雅彦先生)
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https://h-navi.jp/column/article/35030958
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。

※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
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このコラムのコメント1件
南 熊彦さん
2026/05/28 07:36
スバルくん、そういう体験をして来たんですね…
でも、年々意識は変わっているようで、良かったです!!

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