ヒロユキさん――ほかの子の「好き」に触れて、自分の世界を広げていったケース
ヒロユキさん(仮名)は、中学1年生の男の子で、小学生の頃にASD(自閉スペクトラム症)と診断されていました。学校では、自分の興味のあることを一方的に話してしまうところがあり、友人の輪にうまく入れないことが多い、と保護者から聞いていました。
ヒロユキさんが「趣味トーク」に参加したとき、最初に持ってきたのは、自分の好きな漫画の単行本でした。その作品のキャラクターやストーリーについて、とても詳しく、熱心に語ってくれましたが、自分の番以外の時間は、ほかの人の話にはあまり関心を示さず、やや退屈そうにしていました。
ただ、活動を重ねる中で少しずつ変化が見られるようになりました。ある日の活動で、中学3年生のマサヒコさん(仮名)が自分の好きなアニメのキャラクターについて、アクリルスタンドを見せながら熱く語っていたときのことです。ヒロユキさんは、そのキャラクターの絵柄が気になったようで、珍しく「それ、どんなキャラなんですか?」と質問しました。聞かれたマサヒコさんは満面の笑みで、そのキャラクターの設定や担当声優についてさらに熱く語り、ヒロユキさんは少し圧倒されながらも、その話を最後まで聞いていました。
その帰り際、マサヒコさんが「もし興味があるなら、そのアニメはレンタルでも見られるよ」とすすめると、ヒロユキさんは「見てみようかな……」と小さくつぶやきました。後日、「趣味トーク」を開催したときの休憩時間には、「この前すすめてくれたアニメ、見ました。面白かったです」と、マサヒコさんやスタッフに報告してくれました。マサヒコさんもうれしそうに、そのアニメの声優イベントに行ったときの話をヒロユキさんにしていました。
そのような経緯もあって、ヒロユキさんは、いつの頃からか、自分の発表だけでなくほかの参加者の話も楽しんで聞くようになっていました。最近では、好きな漫画がアニメ化されたことをきっかけに、その作品の関連イベントに行ってみたい、と母親に相談しているそうです。
ヒロユキさんの場合、もともと「好きだったもの」が薄れたわけではありません。むしろ、自分の「好き」を安心して話せる体験がベースにあったからこそ、ほかの参加者の「好き」にも関心を向けられるようになり、興味の範囲が自然に広がっていったのだと筆者は考えています。
ヒロユキさんが「趣味トーク」に参加したとき、最初に持ってきたのは、自分の好きな漫画の単行本でした。その作品のキャラクターやストーリーについて、とても詳しく、熱心に語ってくれましたが、自分の番以外の時間は、ほかの人の話にはあまり関心を示さず、やや退屈そうにしていました。
ただ、活動を重ねる中で少しずつ変化が見られるようになりました。ある日の活動で、中学3年生のマサヒコさん(仮名)が自分の好きなアニメのキャラクターについて、アクリルスタンドを見せながら熱く語っていたときのことです。ヒロユキさんは、そのキャラクターの絵柄が気になったようで、珍しく「それ、どんなキャラなんですか?」と質問しました。聞かれたマサヒコさんは満面の笑みで、そのキャラクターの設定や担当声優についてさらに熱く語り、ヒロユキさんは少し圧倒されながらも、その話を最後まで聞いていました。
その帰り際、マサヒコさんが「もし興味があるなら、そのアニメはレンタルでも見られるよ」とすすめると、ヒロユキさんは「見てみようかな……」と小さくつぶやきました。後日、「趣味トーク」を開催したときの休憩時間には、「この前すすめてくれたアニメ、見ました。面白かったです」と、マサヒコさんやスタッフに報告してくれました。マサヒコさんもうれしそうに、そのアニメの声優イベントに行ったときの話をヒロユキさんにしていました。
そのような経緯もあって、ヒロユキさんは、いつの頃からか、自分の発表だけでなくほかの参加者の話も楽しんで聞くようになっていました。最近では、好きな漫画がアニメ化されたことをきっかけに、その作品の関連イベントに行ってみたい、と母親に相談しているそうです。
ヒロユキさんの場合、もともと「好きだったもの」が薄れたわけではありません。むしろ、自分の「好き」を安心して話せる体験がベースにあったからこそ、ほかの参加者の「好き」にも関心を向けられるようになり、興味の範囲が自然に広がっていったのだと筆者は考えています。
「海洋生物」が好きなヨウコさんとの「趣味トーク」
もう一つ印象に残っているケースがあります。ヨウコさん(仮名)という、普段は無口で、アニメとゲームが好きなASD(自閉スペクトラム症)の中学生の女の子が、初めて参加した「趣味トーク」のときに、アニメかゲームの話をするかと思ったら、「この前、お母さんと水族館に行ったときに買いました」と、ウミウシのぬいぐるみを出してきたことがありました。司会をしていた筆者は、参加者の大半がアニメやゲーム好きの女の子たちだったこともあり、正直にいえば、「この話題に誰も反応しなかったらどうしよう?」と少し不安でした。
しかしながら、その心配はすぐに払拭されました。参加者のうちの一人で、ヨウコさんと同学年のASD(自閉スペクトラム症)の女の子が、「私もそのウミウシのぬいぐるみの色違いを持ってる!」と言い出したのです。さらに別の子が「私が好きなのはアオミノウミウシ。ドラゴンみたいでかっこいいよ」と話し、また別の子も「私も海の生き物が好き。今日バッグにつけているキーホルダー、実はクラゲなんだ」と続きました。こちらとしては予想外だった「海洋生物」という共通点で、場が一気に盛り上がったのです。
後日、ヨウコさんの母親から、「帰り道で『今日は私よりウミウシに詳しい人がいた』と、無表情だけれど興奮気味に話していました」という報告を受けました。自分だけの世界だと思っていた「好き」に、仲間がいた――その驚きと喜びは、ヨウコさんにとって大きな体験だったのではないかと思います。
しかしながら、その心配はすぐに払拭されました。参加者のうちの一人で、ヨウコさんと同学年のASD(自閉スペクトラム症)の女の子が、「私もそのウミウシのぬいぐるみの色違いを持ってる!」と言い出したのです。さらに別の子が「私が好きなのはアオミノウミウシ。ドラゴンみたいでかっこいいよ」と話し、また別の子も「私も海の生き物が好き。今日バッグにつけているキーホルダー、実はクラゲなんだ」と続きました。こちらとしては予想外だった「海洋生物」という共通点で、場が一気に盛り上がったのです。
後日、ヨウコさんの母親から、「帰り道で『今日は私よりウミウシに詳しい人がいた』と、無表情だけれど興奮気味に話していました」という報告を受けました。自分だけの世界だと思っていた「好き」に、仲間がいた――その驚きと喜びは、ヨウコさんにとって大きな体験だったのではないかと思います。
「好き」が増えることの意味
児童精神科医の吉川徹氏は、書籍 『発達障害の精神病理Ⅲ』(星和書店)の中で、「ASD(自閉スペクトラム症)の子どもは、好きなことが増えにくく、嫌いなものが増えやすい」といったことを述べています。筆者も、余暇活動の場で同じようなことを感じることがあります。実際、本人が安心や安全を感じにくい空間では、自分の興味・関心以外のものに心を向ける余裕そのものを持ちにくいように思います。
だからこそ、「趣味トーク」では、それぞれの子どもが自分の「好き」を安心して語れることを何より大切にしています。以前のコラムでも「趣味トーク」のルールを紹介しましたが(図参照)、ルールの中に「人の『好きなもの』を絶対否定しない」という項目を入れているのも、そのためです。
だからこそ、「趣味トーク」では、それぞれの子どもが自分の「好き」を安心して語れることを何より大切にしています。以前のコラムでも「趣味トーク」のルールを紹介しましたが(図参照)、ルールの中に「人の『好きなもの』を絶対否定しない」という項目を入れているのも、そのためです。
自分の「好き」が否定されないことが保障されているからこそ、子どもたちは安心して自分の関心を表現できます。そして、その安心があるからこそ、他者の「好き」にも少しずつ心を向けられるようになり、その結果として、「好き」が増えることがあります。これは、単に趣味が一つ増えるという話ではありません。世界の見え方や、人とのつながり方が広がっていくことでもあります。自分の「好き」を起点にしながら、これまで知らなかった世界へと一歩出てみること。その一歩を支えているのが、「好き」を否定されない場の安心感なのだと思います。