パーテーションと付き添い。「守ってもらえる安心」が息子を支えた

4年生では、苦手なメニューの日にお弁当を持参したり、パーテーションを使ったりして過ごしました。ただ、先生は少しずつパーテーションを外していく方向で考えていらっしゃったようで、息子が「パーテーションをしたい」と言っても、かなわない日もあったようです。

5年生になって担任の先生が変わってからも、パーテーションは必要な支援でした。一方で、新しい環境では周りの子どもたちから「なんでパーテーションしてるの?」と聞かれることもありました。息子が一生懸命すき間なく立てたパーテーションを、友だちがわざと動かして見えるようにすることもありました。
私が付き添っていたときは、「ごめんね、見えちゃうとつらいみたいだから、やめてほしいな」と伝えました。そのあとも同じようなことがあり、私がいないときにもあったのかもしれないと思うと、胸が痛みました。

付き添いは毎日ではありません。学校に行きたくないくらい苦手なメニューの日だけです。息子には「付き添ってほしいときは言ってね」と伝えていたので、必要なときは自分から言ってくれました。
付き添いの時間は、息子の好きな話をしながら過ごしました。少しでも気が紛れるように、いつもの息子に戻れるようにと思っていました。息子がうまく説明できないときには、私が先生に伝えることもありました。

また、どうしても頑張る必要があるときには、息子と相談して「スペシャルボーナス」を用意することもありました。普段より少し特別なお菓子など、本人が楽しみにできるものです。ご褒美を提案すると、息子は「僕、がんばる!」と前向きな表情を見せました。
もちろん、ご褒美があるから苦手さがなくなるわけではありません。でも「嫌」でいっぱいだった気持ちが、「がんばるぞ」に少し変わる。息子にとっては支えだったのだと思います。

食べられるようになる前に、安心して過ごせることを大切にしたい

栄養面を考えると、できることなら食べられるものが増えてほしい。その気持ちは、親も先生も同じなのだと思います。でも何年も、苦手なメニューへの恐怖と戦ってきた息子の姿を、私は近くで見てきました。だからこそ、「食べられるようになる」の前に、まずは「食べなくてもいいから、食卓に並んでいても大丈夫」になってほしいと思ったのです。

それでも私は、先生に強く「絶対にやめてください」とは言えませんでした。かといって、先生の指導方法をすべて受け入れることもできませんでした。どう伝えればいいのか分からず、今も正解は分かりません。
それでも、「あなたのつらさを一緒に考えたい」「無理やりではなく、できる方法を一緒に探したい」という気持ちだけは、きっと息子にも伝わっていると信じています。給食は息子にとって本当に難しい課題だと思います。よく頑張ったね、頑張っているねと今は寄り添いたいです。

イラスト/星あかり
※エピソード参考者のお名前はご希望により非公開とさせていただきます。

専門家コメント 森しほ先生(医師・公認心理師)

学校では苦手なものは「ただのワガママ」「頑張れば食べられるようになる」と考えられがちですが、お子さんにとっては本当に勇気を振り絞る毎日だったのではないかと思います。お子さんの安心を一番に考えながら支えてこられましたね。
発達障害の傾向のあるお子さんの偏食は、単なる「好き嫌い」や「甘え」とは異なることが少なくありません。見た目やにおい、食感などの感覚刺激に対して脳が非常に敏感に反応し、強い不快感や恐怖を感じているのです。
苦手な食べ物を見たり、においを感じたり、口に入れようとしただけで、自律神経が強く刺激されることがあります。自律神経は胃や腸の動きもコントロールしているため、不安や恐怖が高まると胃の動きが乱れ、吐き気が起こります。さらに、のどの奥にある「嘔吐反射」が過敏なお子さんでは、少し口に入れただけでも脳の「嘔吐中枢」が刺激され、実際に吐いてしまうことがあります。
つまり、「食べたくないから吐く」のではなく、「脳や身体が危険だと判断し、防御反応として吐いてしまう」状態です。本人の意思や根性ではコントロールしにくく、無理を重ねることで「給食=怖い」「学校=つらい」という記憶が強まり、緊張や不安が高まるため、さらに吐き気を感じるという悪循環に陥ることもあります。
そのため、支援では「苦手なものを食べられるようにすること」を目標にしないことが大切です。スモールステップを取り入れること自体は有効ですが、その目的は「食べること」そのものではなく、「安心できる環境で、自分のペースで挑戦し、『大丈夫だった』という成功体験を積み、自信を育てること」にあります。

人間にとって「これを食べなければ生きていけない」という特定の食べ物はありません。海のない地域では魚を食べる文化がほとんどない国もありますし、納豆を食べる習慣がない国もたくさんあります。特定の食品を無理に食べられるようになること自体が、健康のゴールではないのです。
「ひと口だけ食べてみよう」という方法は、精神医学では暴露療法に近い考え方です。しかし暴露療法は、本人が「ここなら安心」と感じられる環境で、十分なサポートを受けながら、自分の意思で取り組むことが大前提です。不安が強いまま無理に挑戦すると、「やっぱり怖かった」という記憶が残り、不安や恐怖がかえって強化されてしまうことがあります。そのため、給食のように緊張しやすい場面で無理に食べる練習をすることは、慎重に考える必要があります。
もし苦手な食べ物に少しずつ親しんでいくのであれば、ご家庭など安心できる環境で取り組むほうが良いかもしれません。たとえば、その食べ物が登場する絵本やアニメを楽しんだり、家族が美味しそうに食べている様子を眺めたり、一緒の食卓で過ごしたりすることも立派なスモールステップです。「食べる」以外にも、安心してその食べ物と同じ空間にいられる経験を積み重ねることが、不安を和らげる第一歩になります。
学校生活では、「食べられるようになること」を急ぐよりも、「安心して給食の時間を過ごせること」を土台として考えることが大切です。

「合理的配慮」とは、「特別扱い」ではなく、その子が安心して学び、成長できる環境を整えるための支援です。
学校側に理解があるといいのですが、まだまだ発達障害についての理解や配慮体制が充分ではない学校も多いのではないでしょうか。そんな環境でも、保護者の方が「一緒に考えたい」「無理やりではなく、その子に合った方法を探したい」と向き合い続けてくれたら、お子さんにとっては心強いものです。
安心できる環境でこそ、新しいことに挑戦する力は少しずつ育っていきます。焦らず、お子さんのペースを尊重することが、長い目で見れば最も大きな成長につながるのではないでしょうか。
これからもお子さんがご自分のペースで成長していけるよう願っております。(監修:医師・公認心理師 森しほ先生)
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。

※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
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