色の名前は言えないのに、塗り絵では正しい色を選べた太郎

そんな太郎を見ていて、不思議に思うことがありました。

太郎は、色そのものを見分けられないわけではなかったのです。
テレビで見ていたヒーローの塗り絵を渡すと、キャラクターに合った色を自分で選んで塗っていました。どの部分にどの色を使うのか、間違えることはありませんでした。

塗り方は大ざっぱで、力を入れて濃く塗り、線から大きくはみ出すこともよくありました。
それでも、選んでいる色は合っていました。

色の名前を言うことはできなくても、色の違いは分かり、正しい色を選ぶことはできていたのです。
ヒーローの塗り絵を、正しい色で塗り分けている太郎
ヒーローの塗り絵を、正しい色で塗り分けている太郎
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ワーキングメモリの弱さを知り、過去の困りごとがつながる

のちに専門機関で発達検査を受けた際、太郎は耳から聞いた情報を一時的に記憶・処理することが苦手で、ワーキングメモリ(作業記憶)に弱さがあることが分かりました。

専門書籍や医師のアドバイスなどを通じて知ったのですが、ワーキングメモリの弱さは、耳で聞いた言葉(名称)を記憶にとどめたり、必要な場面で検索して口に出したりする難しさにつながることがあるそうです。
当時、色や友だちの名前をなかなか覚えられなかったことも、こうした太郎なりの特性や言葉の処理の仕方が関係していたのかもしれない、と後になって気づきました。

太郎は、色が見えていなかったわけでも、何も分かっていなかったわけでもありません。目の前の色と耳で聞いた名前を結びつけ、それを覚えておき、尋ねられたときに名前を思い出して答えることが難しかったのではないかと思います。

けれど当時の私は、色の名前を言えないことを「色が分かっていない」と受け取っていました。そして、「言えるようにすること」ばかり考えていたのです。

周りの子と比べて焦っていた当時の私に言いたいこと

いま同じ状況になったら、いきなり色の名前を言ってもらうのではなく、

「赤いカードはどれ?」
「このキャラクターと同じ色はどれかな?」

など、まずは選べるかどうかを見てみます。

言葉で答えることが難しくても、指差しや色選びなら、理解していることを示せるかもしれないからです。
そして、できないことが続いて気になったら、その子が何を理解できていて、どこでつまずいているのかを調べ、保育園の先生方や専門家にも相談すると思います。

太郎は、色の名前を言えなくても、正しい色を選べていました。
あの頃の私は、「言えないこと」に気を取られ、太郎がすでにできていたことを見落としていました。
周りの子と比べて焦っていた自分に、いまなら「言えないことと、分かっていないことは同じではないよ」と伝えたいです。

言えないことと分かっていないことは違う……このときの気づきは、その後、太郎の「数の概念」のつまずきに向き合う際にも、私を支える大切な視点となりました。

執筆/ぴーたん

専門家コメント 藤井明子先生(小児科医)

色を「言える」ということの中にも、視覚的に色を捉える、色とその名前を結びつける、言葉を思い出して答えるなど、いくつもの段階があることが分かりますね。「言えない=分かっていない」と捉えるのではなく、どの段階でつまずいているのかを見ていく視点は、子どもの発達を理解するうえでとても大切です。できないことだけを見るのではなく、その背景にある「できていること」に目を向けることの大切さも、改めて教えていただきました。ありがとうございました。(監修:小児科医 藤井明子先生)
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https://h-navi.jp/column/article/35031137
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。

※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。

ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。

SLD(限局性学習症)
LD、学習障害、などの名称で呼ばれていましたが、現在はSLD、限局性学習症と呼ばれるようになりました。SLDはSpecific Learning Disorderの略。
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