ADHDの息子が自らゲームを手放すまでに!高校生になって感謝された、母考案の「一度手を止める」スモールステップ練習法
ライター:丸山さとこ
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小学生時代の息子は、携帯ゲーム機に夢中でした。家庭で決めたゲームのルールを守ることが難しく、目の前にゲーム機があると手が伸びてしまいます。そんな息子に私が試したのは、「一度手を止めて手放す練習」でした。
監修: 室伏佑香
東京女子医科大学八千代医療センター 神経小児科
名古屋市立大学大学院 医学研究科 生殖・遺伝医学講座 新生児・小児医学 博士課程
筑波大学医学部卒。国立成育医療研究センターで小児科研修終了後、東京女子医科大学八千代医療センター、国立成育医療研究センター、島田療育センターはちおうじで小児神経診療、発達障害診療の研鑽を積む。
現在は、名古屋市立大学大学院で小児神経分野の研究を行っている。
名古屋市立大学大学院 医学研究科 生殖・遺伝医学講座 新生児・小児医学 博士課程
高校生のコウが思い出した「練習」のこと
「あの時みたいな練習、できないかな?」
神経発達症(発達障害)がある息子のコウは現在高校生です。ADHD(注意欠如多動症)の特性の1つである遅延報酬割引(将来もらえる大きなご褒美より、今すぐもらえる小さなご褒美を優先してしまうこと)によるものなのか、衝動性によるものなのか、彼は目先の利益に引っ張られやすい傾向があります。年齢とともに落ち着いてきましたが、まだまだ彼なりの苦労はあるようです。
最近、そんなコウと『我慢すること』 について話していました。
グミを食べたいけれど、お金を取っておきたいから我慢する。タブレットで絵を描きたいけれど、試験が近いから我慢して勉強する。
そういう、『目の前にやりたいことがあっても、いったん止まったり、別の行動を選んだりする力』の話です。
「どうしたら、そういうことが自然にできるようになるんだろう?」と言うコウに「うーん。自然にねぇ……」と返していると、彼は、ふと思い出したように言いました。
「昔、携帯ゲーム機でそういう練習したよね。あれ、すっごく良かった。あの時みたいな練習、できないかな?」
そうコウに言われて、「ああ、そんなことあったね」と私も思い出しました。
最近、そんなコウと『我慢すること』 について話していました。
グミを食べたいけれど、お金を取っておきたいから我慢する。タブレットで絵を描きたいけれど、試験が近いから我慢して勉強する。
そういう、『目の前にやりたいことがあっても、いったん止まったり、別の行動を選んだりする力』の話です。
「どうしたら、そういうことが自然にできるようになるんだろう?」と言うコウに「うーん。自然にねぇ……」と返していると、彼は、ふと思い出したように言いました。
「昔、携帯ゲーム機でそういう練習したよね。あれ、すっごく良かった。あの時みたいな練習、できないかな?」
そうコウに言われて、「ああ、そんなことあったね」と私も思い出しました。
携帯ゲーム機に夢中だったコウ
コウがまだ小学校中学年の頃、ゲームを途中でやめることが、とても難しかった時期がありました。
「約束の時間になっても、まだやめたくない」という程度ではありません。ゲーム機がそこにあれば、ほんの少し大人が目を離した隙にも手が伸びます。
私が庭やトイレへ行く間に手に取るくらいなら、もう珍しくありませんでした。
「約束の時間になっても、まだやめたくない」という程度ではありません。ゲーム機がそこにあれば、ほんの少し大人が目を離した隙にも手が伸びます。
私が庭やトイレへ行く間に手に取るくらいなら、もう珍しくありませんでした。
ある時は、私がキッチンへ行こうとダイニングの椅子から立ち上がり、コウに背を向けた瞬間に、もう手を出していました。
立ち上がって振り返ったら、コウが既にゲーム機を持っているんです。
立ち上がって振り返ったら、コウが既にゲーム機を持っているんです。
「いや……今!?まだ離れてもいないのに!?」
さすがに目を疑いましたし、「バレるとか取り上げられるとか、何も考えられていないのだな」ということにも驚きました。
さすがに目を疑いましたし、「バレるとか取り上げられるとか、何も考えられていないのだな」ということにも驚きました。
分かっていても、止められない
コウも、「ゲームは時間を守って遊ぶ」というルール自体は理解していました。
それでも、目の前にゲーム機がある状態で、自分の行動を止めることが難しかったようです。何度注意しても、何度約束しても、なかなかうまくいきませんでした。
それでも、目の前にゲーム機がある状態で、自分の行動を止めることが難しかったようです。何度注意しても、何度約束しても、なかなかうまくいきませんでした。
保護者用の管理アプリを使っても、遊ぶ時間をゼロにすることはできないため、物理的にロックをする以外に彼を止める方法はない状態でした。
コウからすれば、『親の了承を得る』『ルールを守る』ことで得られるものは、なかなか実感しにくかったのだと思います。
一方で、「今、ゲーム機を手に取れば遊べる」という結果は、いつもすぐに返ってきます。彼にとっては、こちらのほうがずっと、実感を伴った強い経験だったのでしょう。
コウからすれば、『親の了承を得る』『ルールを守る』ことで得られるものは、なかなか実感しにくかったのだと思います。
一方で、「今、ゲーム機を手に取れば遊べる」という結果は、いつもすぐに返ってきます。彼にとっては、こちらのほうがずっと、実感を伴った強い経験だったのでしょう。
「ゲーム時間を守る」以外の方向から、試行錯誤してみました
最初は、5分遊んで数秒預けるだけ
そこで一時期、少し変わった練習をすることにしました。『より強い実感で上書きしよう作戦』です。
やり方はシンプルでした。
まず、コウが私の近くでゲームをします。一定時間が経ったら、一度ゲーム機を私に渡します。私はそれを受け取り、また一定時間が経ったら、「はい、どうぞ」と返します。これだけです。
やり方はシンプルでした。
まず、コウが私の近くでゲームをします。一定時間が経ったら、一度ゲーム機を私に渡します。私はそれを受け取り、また一定時間が経ったら、「はい、どうぞ」と返します。これだけです。
最初の数回は、いわばチュートリアルです。5分ほど遊んだらゲーム機を渡してもらい、受け取った私は数秒ですぐ返しました。
その後は、『10分遊んで、1分預ける』ところから始めました。
その後は、『10分遊んで、1分預ける』ところから始めました。
練習したのは「時間を守ること」ではなく「手を止めること」
この方法で練習したのは、決められたゲーム時間を守ることではありません。
『遊んでいる途中でも、一度手を止める』
『自分からゲーム機を手放す』
という、小さくて確実な動作です。
10分遊んで1分預けることができるようになったら、少しずつ間隔を延ばしていきました。
20分遊んだら5分預ける。
もう少しできるようになったら、40分遊んで15分預ける。
その次は60分遊んで20分……。
そんなふうに、ゲームをする時間と、ゲームから離れる時間の両方を少しずつ伸ばしていきました。
『遊んでいる途中でも、一度手を止める』
『自分からゲーム機を手放す』
という、小さくて確実な動作です。
10分遊んで1分預けることができるようになったら、少しずつ間隔を延ばしていきました。
20分遊んだら5分預ける。
もう少しできるようになったら、40分遊んで15分預ける。
その次は60分遊んで20分……。
そんなふうに、ゲームをする時間と、ゲームから離れる時間の両方を少しずつ伸ばしていきました。
気分ではなく、「時間」で終われるようになりました
この頃から、コウは少しずつ気分ではなく時間でゲームを終えられるようになっていきました。
一日のゲーム時間も、おおむね1〜3時間ほどに収まるようになり、時間になったら終わるという約束も、それ以前よりずっと守りやすくなりました。
特に、以前あったような『振り返ったらもう手を出している』という事態は、この練習を経て落ち着いたので、ほっとしました。
一日のゲーム時間も、おおむね1〜3時間ほどに収まるようになり、時間になったら終わるという約束も、それ以前よりずっと守りやすくなりました。
特に、以前あったような『振り返ったらもう手を出している』という事態は、この練習を経て落ち着いたので、ほっとしました。
何でも「訓練」で解決するわけではないけれど
「練習してうまくいった」という経験
あの『ゲーム中断の練習』をしていた頃から、もう何年も経っています。
そのため、今回、コウ自身がこの出来事を覚えていたことに私は少し驚きました。
当時、「もう打つ手無しだな〜!」と思った私が思いつきでやってみた練習方法でした。
それが、コウにとって『練習してうまくいった』という経験の1つになっているのだとしたら、それは嬉しいことです。
そのため、今回、コウ自身がこの出来事を覚えていたことに私は少し驚きました。
当時、「もう打つ手無しだな〜!」と思った私が思いつきでやってみた練習方法でした。
それが、コウにとって『練習してうまくいった』という経験の1つになっているのだとしたら、それは嬉しいことです。
一筋縄ではいかないことが多いけれど……
もちろん、何でも細かく分解して「訓練」にすれば身につく、という簡単な話ではありません。
そういうことを専門的に考え、上手に組み立てられる人はいるでしょうが、少なくとも素人の一母親である私には、そう簡単にはいきません。
あの頃は、コウが困っていたことと、私が思いついた方法が、たまたまうまく噛み合ったのだと思います。
高校生になった今の困りごとは、当時よりずっと複雑です。
ゲーム機を10分預かるような簡単な練習方法は、私にはパッと思いつきそうにありません。
それでも、できないことを小さく分けた時に、思いがけないスモールステップが見えてくることは、今でもあるのだろうと感じます。
そういうことを専門的に考え、上手に組み立てられる人はいるでしょうが、少なくとも素人の一母親である私には、そう簡単にはいきません。
あの頃は、コウが困っていたことと、私が思いついた方法が、たまたまうまく噛み合ったのだと思います。
高校生になった今の困りごとは、当時よりずっと複雑です。
ゲーム機を10分預かるような簡単な練習方法は、私にはパッと思いつきそうにありません。
それでも、できないことを小さく分けた時に、思いがけないスモールステップが見えてくることは、今でもあるのだろうと感じます。
コウの困りごとに対して、「何かうまい方法が見つかるといいな」と思うとともに、「それをコウ自身が見つけて試していけるようになったらいいな」と願っています。
執筆/丸山さとこ
執筆/丸山さとこ
専門家コメント 室伏佑香先生(小児科医)
「ゲームの時間を守る」ということは、多くのお子さんやご家庭にとって悩みやすい課題の1つだと思います。
今回とても素晴らしいと感じたのは、「ゲームの時間を守る」という大きな目標をそのまま求めるのではなく、「遊んでいる途中で一度手を止める」「自分からゲーム機を手放す」という、もっと小さな行動に分けて練習したことです。ついつい最初から「10分預かる」「しばらくゲームから離れる」といった方法を考えてしまいそうですが、まずは数秒だけ預かってすぐに返し、そこから少しずつ離れる時間を延ばしていくという進め方は、とても丁寧で、お子さんにとっても取り組みやすい工夫だと感じました。手放してもまた返ってくる、少し離れても大丈夫、という経験を、無理のない範囲で少しずつ積み重ねていくことができたのですね。
できないことを小さなステップに分けて、まずはできそうなところから取り組んでいくことは、とても大切である一方、続けていくには根気も必要ですよね。お子さんの様子を見ながら少しずつ段階を進めていった関わり方はとても参考になりました。(監修:小児科医 室伏佑香先生)
今回とても素晴らしいと感じたのは、「ゲームの時間を守る」という大きな目標をそのまま求めるのではなく、「遊んでいる途中で一度手を止める」「自分からゲーム機を手放す」という、もっと小さな行動に分けて練習したことです。ついつい最初から「10分預かる」「しばらくゲームから離れる」といった方法を考えてしまいそうですが、まずは数秒だけ預かってすぐに返し、そこから少しずつ離れる時間を延ばしていくという進め方は、とても丁寧で、お子さんにとっても取り組みやすい工夫だと感じました。手放してもまた返ってくる、少し離れても大丈夫、という経験を、無理のない範囲で少しずつ積み重ねていくことができたのですね。
できないことを小さなステップに分けて、まずはできそうなところから取り組んでいくことは、とても大切である一方、続けていくには根気も必要ですよね。お子さんの様子を見ながら少しずつ段階を進めていった関わり方はとても参考になりました。(監修:小児科医 室伏佑香先生)
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。