不器用さと極端な疲れは「努力不足」じゃない!行事の秋、目に見えないストレスを脳科学で読み解く(杏林大学・渥美剛史先生)

ライター:渥美剛史
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秋は運動会や文化祭など学校行事が目白押しの季節です。しかし多様な感覚特性のある子どもにとって、集団での活動や運動を伴うイベントは、想像以上に大きなストレスや疲労につながることがあります。なぜ極端に疲れたり、運動に強い苦手意識を持ったりするのでしょうか?
DCD(発達性協調運動症)やASD(自閉スペクトラム症)の子どもが感じる「疲れやすさ」や「不器用さ」の背景にある脳内ネットワークの世界を、杏林大学の渥美剛史先生と一緒にのぞいてみましょう。(編集部)

監修者渥美剛史のアイコン
執筆: 渥美剛史
杏林大学 医学部 病態生理学教室 助教
ASD(自閉スペクトラム症)など発達障害の感覚や運動について、そのメカニズムや評価方法などを科学的な視点から研究しています。主に心理学的な手法や、動物、脳画像解析を用いた基礎研究に取り組んでいます。

行事の多い秋、子どもが抱える見えないストレス

「秋深き隣は何をする人ぞ」
これは、松尾芭蕉が病に伏して身動きが取れない晩年に詠んだ句とされます。秋も深まって日が落ちるのも早くなり、外の様子をうかがい知ることもままならない……そんな物悲しさを感じる一句です。
激しい気温差や長雨が続いた季節を乗り越え、ようやく秋が巡ってきました。秋は、比較的気候も安定して、さまざまなアクティビティにはもってこいの季節です。ところが、大型連休を経たり、さまざまな行事で疲れてしまったりで、なかなか学校に行けない、というお子さんもおられるのではないでしょうか。休みがちだとしても、望んでそうなっているばかりではないでしょう。本当は芭蕉のように動けないのかもしれません。

普段ないような行事が盛りだくさんだと、集団生活に不慣れな段階ともなれば、さぞ気苦労も多いことでしょう。運動会といったスポーツイベント、遠足のような人混みの中での移動、文化祭での発表会などなど……。みんなで何かをする、衆目に晒されるということは、強いストレスともなり得ます。かなり前の文献になりますが、学校における社会的・評価的な状況が不登校(登校回避)の一因となっていることが指摘されています(Kearney, 2008)。
参考文献:Kearney, C. A. (2008). School absenteeism and school refusal behavior in youth: a contemporary review. Clinical Psychology Review, 28(3), 451–471.
https://doi.org/10.1016/j.cpr.2007.07.012
評価的状況には、試験やスピーチ、合唱や演奏、スポーツ、はてはほかの人たちとの食事など、他者と交流のあるさまざまな場面が当てはまるでしょう。社会コミュニケーションに不安を感じやすい児童の場合、こうした特定の場面において特に強いストレスに晒されうることがうかがえます。

手先の不器用さや運動の苦手さ——背景にある「DCD(発達性協調運動症)」

どんなイベントでも、自分が苦手なことを求められるのは、気が重いものです。スポーツにせよ、絵を描いたり演奏をしたりにせよ、これらには巧みな身体動作の制御が要求されます。
神経発達症、いわゆる発達障害の中には、さまざまな身体部位の動きを協調して制御することに難のある、DCD(発達性協調運動症)があります。精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM-5-TR)によれば、5〜11歳の児童では、米国では5〜8%、カナダ、スウェーデン、台湾では7〜8%にDCDがみられるそうです。またDCDは、50〜70%と高い頻度で青年期にも残存するとされます。DCDの診断基準Aでは、物を掴んだり、はさみや刃物を使う、字を書く、自転車に乗る、スポーツに参加するといった運動技能の難しさや、物を落としたり、ぶつかったりするといった不器用さが挙げられています。手指での細かい動作に難がある場合があるので、DCDの当事者の中には、ボタンのついた服を持たないようにしているケースもあるそうです(笹森,2022)。
参考書籍:笹森理絵 (2022). 協調運動に関する日常の困りごと. 岩永竜一郎 (編著),発達障害のある子の感覚・運動への支援. 金子書房. 49-57.
https://www.kanekoshobo.co.jp/book/b597658.html
運動が苦手・不器用ということはそれそのものでも困りごとに直結するわけですが、心理的側面への影響も見過ごせません。DCDの児童では、自尊心や自己効力感が低下しやすく、不安やうつ、不適応の割合が大きくなることが知られています(Zwicker et al., 2012)。
参考文献:Zwicker, J. G., Missiuna, C., Harris, S. R., & Boyd, L. A. (2012). Developmental coordination disorder: A review and update. In European Journal of Paediatric Neurology (Vol. 16, Number 6, pp. 573–581).
https://doi.org/10.1016/j.ejpn.2012.05.005
ほかの児童とともに体育や図画工作、家庭科の授業を受けることは、他者と自身を比べることや失敗を見られてしまう場面になりえるため、心に深い傷を負わせる原因になりえるのでしょう。
ほかの障害がそうであるように、DCDも、ほかの神経発達症との併存が多くみられます。ASD(自閉スペクトラム症)の97名の児童・少年(平均11歳)の運動検査を試みた研究では、うち79%が明確な運動障害を示したと言います(Green et al., 2009)。
参考文献:Green, D., Charman, T., Pickles, A., Chandler, S., Loucas, T., Simonoff, E., & Baird, G. (2009). Impairment in movement skills of children with autistic spectrum disorders. Developmental Medicine and Child Neurology, 51(4), 311–316.
https://doi.org/10.1111/j.1469-8749.2008.03242.x
私たちの研究では、ASDの成人の方を対象に、DCDと関連した運動技能を評価しています(Umesawa et al., 2020)。
参考文献:Umesawa, Y., Matsushima, K., Atsumi, T., Kato, T., Fukatsu, R., Wada, M., & Ide, M. (2020). Altered GABA Concentration in Brain Motor Area Is Associated with the Severity of Motor Disabilities in Individuals with Autism Spectrum Disorder. Journal of Autism and Developmental Disorders.
https://doi.org/10.1007/s10803-020-04382-x
微細運動、粗大運動のイメージ図(AI生成)
※生成AIを使用して作成したイメージです
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この研究では、DCDの評価によく用いられるBOT-2(Bruininks-Oseretsky Test of Motor Proficiency, 2nd Ed.)という、被験者に実際に運動のテストをやってもらうツールを用いました。54の課題をおよそ1時間かけて実施するこのテストでは、運動技能について「1.正確な運動制御」「2.手元の協調」「3.筋力と機敏性」「4.全身の協調」の4つのスコアを算出します。
1は、塗り絵やはさみ使いの正確さを測る課題から成り、2の両手間のコイン継ぎや小さなペグ指しといった課題群とともに、微細運動を調べます。他方、3は片足立ち跳躍や腹筋運動などを含み、手足のタッピングや片足立ちなどを求める4とともに、粗大運動を調べることになります。
BOT-2をASD群と、診断の無い定型発達群とで比較したところ、「1.正確な運動制御」以外は、すべてASDでより技能が低い、という結果でした。大人になっても、ASDの人の運動技能には、比較的苦手さがあったわけです。

社会コミュニケーションばかりに目が向けられ、近年では感覚の問題が取り沙汰されるASDですが、運動の問題も大きな位置を占めます。第一、その診断の基準の一つには、運動の側面が含まれています。
またASDの人では、例えば、姿勢が悪いといった筋緊張の低さや、バランス運動が苦手、手先の細かい運動に困難がある、眼球運動がぎこちない、口の動きが不器用、手足を協調させた全身の運動が苦手、などが特徴として挙げられます(岩永,2015)。
参考書籍:岩永竜一郎(2015). 自閉症スペクトラムの子どもの感覚・運動の問題への対処法. 東京書籍.
https://www.tokyo-shoseki.co.jp/product/books/80875/
他者との交流に加え、運動技能や不器用さも顕著な場合、授業など、それが詳らかになる場面はかなりのストレスとなるはずです。

「努力不足」ではない!脳の「E/Iバランス」から見る運動の苦手さ

日本では、未だいわゆる「体育会系」文化が根強く残っており、運動の苦手さなどは「本人の努力不足だ」「甘えだ」などという声が聴こえてきそうです。ところが、近年の神経科学、つまり脳の研究を見ていくと、どうもそうではなさそうなことが分かってきています。
ASDの特性は、脳、すなわち中枢神経系の特性に依存していると考えられることは、下記のコラムで述べたとおりです。
【専門家解説】ASDの感覚過敏を「脳の視点」から紐解く!最新研究から迫るこれからの支援や適切な対処(杏林大学・渥美剛史先生)のタイトル画像

【専門家解説】ASDの感覚過敏を「脳の視点」から紐解く!最新研究から迫るこれからの支援や適切な対処(杏林大学・渥美剛史先生)

では、その特性はというと、有力な説として「神経の興奮/抑制(E/I)バランスの不均衡」が指摘されてきました。
私たちの脳は、電気信号によって情報を伝えているということは、ご存知かもしれません。神経細胞、いわゆるニューロンは、さまざまな特性を持つものが集まって、リレーによって情報を伝えています。脳には、860億ものニューロンがあり、それぞれの「オン」/「オフ」の状態を無限に組み合わせることにより、豊かな情報表現を実現しているのです。
あるニューロンが電気的に活性化すると、隣接するほかのニューロンにその活動を伝えます。まるでドミノ倒しのように、次から次へと情報を伝播させていくわけです。

ところで、ニューロンからニューロンへ情報が伝わる際には、電気ではなく、化学物質(神経伝達物質)がその橋渡しをします。ニューロンは、受け取る化学物質によって状態を変化させます。代表的なものとして、受け取った細胞を興奮させる、すなわち「オン」にするのがグルタミン酸です。そう、食物のうま味成分である、あれです。これが、脳の中では情報伝達を担う立役者なんですね。
ただ、ニューロンを「オン」にするだけでは不十分です。豊かな情報表現のためには、ニューロンを「オン」にする一方で「オフ」にもできなくてはならないという、メリハリが必要です。成熟した脳内で、その「オフ」にする物質の代表格が、γアミノ酪酸(GABA)なのです。自然界ではイモなどやはり食物に含まれますが、最近はチョコレートなどに添加した商品も散見されますよね。ASDの人では、ニューロンを「オフ」にする、すなわち電気的な活動を抑制する働きを持ったGABAの機能に不全がありそうなことは、実は20年以上前から、当事者の死後脳や自閉症関連遺伝子の研究から知られていました。

私たちは、先述したASDの人の運動技能の研究で、神経伝達物質を含む、脳内代謝物質の測定もしました。ここでは、MRIの技術の一つである、MRスペクトロスコピーという手法を用いました。そもそもMRI(磁気共鳴画像法)というのは、身体内部の水や脂肪の分布を、強い磁気をかけることによる電磁波の変化をキャッチすることによって可視化する技術です。同じ方法で、さまざまな物質が含まれる濃度の分布を調べることができます。
実験では、脳の中でも運動に関わる領域の代謝物質濃度を調べました。その結果、ASDの人では、定型発達の人と比べ、協調運動に関与する「補足運動野」(前頭葉にある、運動をコントロールする領域)のGABA濃度が低下していることが分かりました。さらに、GABA濃度とBOT-2で評価した運動技能との関係を見たところ、補足運動野のGABA濃度が低いASDの人ほど、「4.全身の協調」が苦手である、ということが分かりました。
先程は「メリハリが大事」だと言いましたが、異なる身体部位の動きを正確に制御するには、神経活動を抑制することも大事である、ということですね。私たちのこの実験はASDの大人を対象としていますが、脳の運動制御の仕組みを考えると非常に得心のいくものです。
こうした実験を通してみると、運動の苦手や不器用さが高度に脳の特性に依存していることが分かっていただけると思います。

運動技能の低さに関連しているE/Iバランスですが、これがASDやDCDなどの発達障害におけるさまざまな症状を説明すると考えると、こうした特性のある人たちの「疲れやすさ」も説明できるかもしれません。
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「認知疲労」とは?休んでも抜けない疲れと前頭葉のメカニズム

よく「脳疲労」という言葉を聞きますが、心理社会的ストレスなどによる慢性的な精神疲労や、認知的な作業に従事することで感じる認知疲労は、筋疲労などの身体的疲労のようなものとは異なって捉えられています。もし、休息をとれば元気になるけど、何か作業や課題をこなすときに疲れやすいというのであれば、認知疲労が起きやすいのかもしれませんね。

認知疲労は、努力を要する作業を続けることによる、認知制御のコストが増大していくこととみなされています。たとえば、机に向かって何時間も小難しい論文を読んでいたり、書いていたりすると、頻繁にSNSを更新するなどどうでもいい作業に手が伸びがちです(私もこの文章を書いている間に何度SNSを見たことか……)。実際に、何時間も難しい認知課題に従事すると、低いコストで少ない報酬を得ようとする選択が増加します。利得が減っても負荷を下げる選択にシフトする、すなわち、認知疲労が蓄積している、ということなのです。

私たちと同様にMRスペクトロスコピーを用いて行われたある研究では、脳内のグルタミン酸の動態と認知疲労の関係を調べています(Pessiglione et al., 2025)。
参考文献:Pessiglione, M., Blain, B., Wiehler, A., & Naik, S. (2025). Origins and consequences of cognitive fatigue. In Trends in Cognitive Sciences (Vol. 29, Number 8, pp. 730–749). Elsevier Ltd.
https://doi.org/10.1016/j.tics.2025.02.005
実験では、グルタミン酸測定のほか、課題負荷による低コスト利得へのシフトの度合いと関連する脳領域の活動も調べました。診断のない成人での結果ですが、低コストの利得を選択するようにシフトしていく、すなわち認知疲労が増えると、前頭葉の一部である外側前頭前野の活動低下がみられました。
また、その部位のグルタミン酸が放出されて拡散していくほど、認知疲労の増大がみられたとしています。情報を伝えるグルタミン酸が過剰に拡散してしまうということは、神経の伝達効率が落ちてしまい、結果として情報を処理するための資源が枯渇していくことと捉えられます。E/Iバランスが不均衡であり、前頭前野の興奮性が増大している場合、認知疲労もより蓄積しやすいかもしれません。

こうした認知疲労と、発達障害のある人での疲れやすさやバーンアウト(燃え尽き症候群)との関係は定かではありません。休息をとっても解消されないような精神疲労は、心理社会的ストレスや睡眠不足で生じますが、感染症や神経疾患、気分障害などの精神疾患など、さまざまな要因でも生じえます。発達障害のある人が感じる疲労と、背景となる因子との関係は、今後、その生物学的な背景との関連で詳細に調べる必要があるでしょう。

生物学的な背景を理解し、適切な休息を

スポーツや芸術、およそあらゆる表現活動は、私たちの運動出力系を経て世に放たれます。アナログ出力が表現に直結する活動ばかりでは、運動制御が苦手な場合には、負担を感じやすくなるかもしれません。昨今では多様なデジタルツールや余暇活動が広がっていますから、学校のような場面でももっと広がっていくと良いですね。他方、夢中になって疲労しきってしまう前に、その活動から離れて、程よく休息を挟むことも肝要です。苦手さの背後に、単なる努力不足ではなく生物学的な要因があると分かれば、そうした理解も広がっていくことと思います。

ところで、E/Iバランスが崩れているなら、何らかの方法で、簡便に調整できないかと考えるのは、自然なことでしょう。私も、GABAを口から摂取することでバランスが整えられないかとよく質問されます。
食べたものは多くが身体活動に影響しますが、脳に到達するものは非常に限られます。食べたものは血液を介して体内を巡りますが、脳との間には、血液脳関門(blood-brain barrier:BBB)という障壁があり、グルタミン酸やGABAはこれを通過しないと考えられています。BBBを通過させる物質が、脳(中枢神経系)に効果のある薬剤として開発されていますが、これには医師の処方箋が必要となります。
近年では、GABAに働きかける薬剤が感覚過敏に与える効果の検証もなされています。私たちも、薬剤とは別の方法で、E/Iバランスを調整することが過敏性に与える効果を調べていますが……その話はまた別の機会に。
前の記事はこちら
https://h-navi.jp/column/article/35031150
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。

※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
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