学校教育における「多様性」と「インクルーシブ」のいまと未来 ~ホワイトハンドコーラスNIPPONから見えたもの~

ライター:鈴木款
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ジャーナリストでフジテレビ解説委員の鈴木款氏が、多様な子どもたちが集う合唱団「ホワイトハンドコーラスNIPPON」の取材を通して見えた、日本の学校教育における「多様性」と「インクルーシブ」の未来について語ります。

国連から分離的だと指摘される日本の特別支援教育の課題や、AI時代に必要な「学びの質」に触れながら、子どもたちが個性を認め合い共に表現する姿から「真のインクルージョン」を考察。学校教育が本来目指すべき「誰もがともに学ぶ場」のあり方を紐解きます。

新刊を通して見えた「多様性」と「インクルーシブ」のあり方

ジャーナリスト・フジテレビ解説委員の鈴木款です。私は今年5月に『音楽の見える瞬間(とき)ホワイトハンドコーラスNIPPONのきせき』(アルテスパブリッシング)という本を出版しました。この本は、ホワイトハンドコーラスNIPPONという子どもたちの合唱団の活動を通して見えた、これからの学校教育における「多様性」と「インクルーシブ」のあり方がテーマの一つになっています。

ホワイトハンドコーラスNIPPONの活動自体については、拙著やLITALICO発達ナビで今月公開された記事『すべての子どもが自分だけの輝きを持っている。音楽で「表現する力」を育む、インクルーシブな合唱団【ホワイトハンドコーラスNIPPON】に密着取材』に詳しく書かれていますので、ぜひそちらをご一読いただければと思います。
すべての子どもが自分だけの輝きを持っている。音楽で「表現する力」を育む、インクルーシブな合唱団【ホワイトハンドコーラスNIPPON】に密着取材のタイトル画像

すべての子どもが自分だけの輝きを持っている。音楽で「表現する力」を育む、インクルーシブな合唱団【ホワイトハンドコーラスNIPPON】に密着取材

私はジャーナリストとして、人権や教育問題をライフワークとして取材してきました。これまで教育分野で取材してきたのは、不登校やいじめ問題、メディアリテラシー(文部科学省・中央教育審議会の情報・技術ワーキンググループ委員も務めています)や教師の性暴力問題、インクルーシブ教育など。人権分野では難民、性的マイノリティ、障害者、被災地の問題などです。ご関心があれば、記事はFNNプライムオンラインや教育新聞のウェブサイトで公開されていますのでご覧ください。

2019年に私は『日本のパラリンピックを創った男 中村裕』(講談社)を上梓しました。この本では、1964年に東京パラリンピックを招致した大分の整形外科医、故・中村裕博士の生涯を追いました。半世紀以上前に中村氏が目指した「障害のある人、無い人、すべての人々が共に生きる社会の実現」という理念への共感が、障害者を取り巻く課題を取材する私の原点となっています。

中村裕氏は1960年に研修先のイギリスで、脊髄損傷の患者がスポーツの力で社会復帰していくことを知り、当時日本にはなかった障害者スポーツを様々な壁を乗り越えて広めました。それが東京パラリンピックの実現と(実は「パラリンピック」という名称をつくったのは日本人でした)、その後の大分国際車いすマラソンやフェスピック(現アジアパラ競技大会)の開催にもつながりました。また、障害者が働く日本初の本格的な施設「太陽の家」を創設したのも中村氏です。読者の皆さんにはぜひ日本の障害者スポーツや雇用をつくった中村氏の歩みを知ってほしいと思います。

ホワイトハンドコーラスとの出会いと「手歌」がもたらした感動

さて、私がホワイトハンドコーラスNIPPONに出会ったのは5年前です。最初に公開練習をみたとき、聞こえないはずの子どもたちが「手歌(しゅか)」で音楽を表現する姿に心を動かされ、気が付いたら目から涙があふれていました。そして多様な個性・特性のある子どもたちが歌声と手歌でひとつになる姿に未来への希望を感じたのです。

それから私は子どもたちの活動を追いかけ、世界のインクルーシブな取り組みを行う団体を表彰する「ゼロ・プロジェクト」アワードを受賞した彼らが、ウィーンで授賞式と公演に臨んだ際にも同行し、さらにホワイトハンドコーラスの源流である南米ベネズエラにも取材に行きました。

そして取材を通して実感したのは、多様な子どもたちがお互いの個性・特性を認め合い、励まし合いながら、歌声と手歌で音楽を表現するホワイトハンドコーラスNIPPONの姿こそが「多様性」と「インクルーシブ」の未来を具現化しているということでした。

日本の「インクルーシブ教育」の現状と国連からの勧告

私はここ数年、日本の「インクルーシブ教育」を自らの取材テーマにしてきました。ご存じの方も多いと思いますが、国連は特別支援教育が分離教育のかたちをとる日本の学校システムを「インクルーシブではない」と問題視し、2022年には障害者権利委員会が、分離された特別支援教育の中止を求める勧告を出しています。

一方、日本は国連に対し一貫して「日本独自の特別支援教育はインクルーシブ教育の理念に一致している」と主張してきました。その根拠として挙げているのは、「障害の程度や特性に応じた最適な学びを提供することこそが本人の利益である」という考え方です。

たしかに特別支援教育にはより手厚い支援ができるという利点がありますが、「最初の分離は一生の分離」という言葉があるように、分離されて育った子どもたちは「障害のある子どもを見たことがない」「あの子は“違う”から別の学校でいい」と考えるようになり、やがて障害のある方に対する無関心や差別、偏見を生み出すおそれがあると言われています。
これに対しホワイトハンドコーラスNIPPONの活動から見えるのは、支援する・されるという役割の固定から解放された関係性であり、これこそまさに「ソーシャルインクルージョン」が実現された姿といえます。
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文科省・合田局長が語る「教育における多様性」の重要性

そして、ホワイトハンドコーラスNIPPONから見える「多様性」のあり方についてお話しします。文部科学省で日本の高等教育行政を統括する合田哲雄高等教育局長は、今年8月に出版した『「多様性と学びの質は両立できない」ってほんとう?』(野口晃菜・合田哲雄編著、東洋館出版社)の中で、「同質性の高い集団の中で競争するから分断が起こる。多様性があってこそ生まれる文化的・知的価値を阻害してしまう」と、教育における多様性の重要性を語っています。

さらに私が最近行ったインタビューで合田氏は、「デジタル化や生成AIの飛躍的な進化の中で、学びの動機をもう一度捉え直さなければならないと思います。人が深く思考する前にAIが当意即妙な答えを出すと、人は学ぶ動機を失い、個人だけでなく社会全体の知識基盤が失われて知識崩壊が起こります。それを避けるためには、我々にとって知識や学びとは何なのかを考え、そして“多様性”と“学びの質”の両立を図るための、社会や教育の捉え直しが必要だと思っています」と話しました。

また、ホワイトハンドコーラスNIPPONの活動について合田氏は、「たとえばお子さんが、耳が聞こえない友だちと会話するには手話が必要だと気づいて、手話をやりたいと希望することは、これほど深い内在的な学びの動機はないと思います。そして、ベートーヴェンの『第九』をどう表現するのかを考える中で、『第九』に込められている意味を自分たちで解釈をして、表現をつくりあげていく。そこにも参加する子どもたちの内在的な学びの動機があると感じました」と評価しました。

多様性が呼び起こす学びと、学校こそが「ともに学ぶ場」であるべき未来

「多様性」は子どもたちの内在的な学びの動機を呼び起こし、それがAI時代の学びにつながる。ホワイトハンドコーラスNIPPONの取材を通じて、私は「多様性」と「インクルーシブ」が学校教育にいかに必要なのか、その答えがまさにここにあると気づきました。ホワイトハンドコーラスは学校の外にある合唱団です。しかし本来は、学校こそがこうした「誰もがともに学ぶ場」であるべきではないでしょうか。
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