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[第3回]

 特性を活かすだけでは、生きづらさは絶対に解消しない

社会に出てはじめて、「自分には出来ないことがある」と知った岩本さん。「ビジネスマンなら成果を出さなくては」と努力をつづけた結果、心も身体も疲れてしまい、うつと診断されました。今回は、発達障害があることを知り、自分自身にあった仕事を見つけるまでをお伺いします。

うつ病のはずが、処方されたのはADHDの薬ストラテラ

編集部:発達障害よりも先に、うつと診断されていたのですか?

岩本:ええ、最初の診断はうつでした。うつの薬を服用するのですが、あまり身体に合わなくて、落ちついたり、悪化したりを繰り返し、双極性障害との診断も受けました。

編集部:そうだったんですね。

岩本:薬も合わず、状態も良くならず、何をしたら落ち着くのかわからずに本当に辛い時期でした。

ところが数年経ち転院し、今の主治医のところへ通い始めて3回目くらいの診察で「ストラテラ」という薬を出されたんですね。聞いたことがない薬でしたから、インターネットで検索しました。薬と食事の食べ合わせが悪かったら困るじゃないですか。(笑)

すると、確かにうつへの効果もあるのですが、ADHDの薬として処方されることが多いと書いてありました。
編集部:その時はADHDがどのような障害か、ご存知だったのですか?

岩本:全く知りません、単語も初めて聞きました。
ADHDを調べた時の最初の感想は、「あ、僕のことか。」でした。ネットに書いてあるADHDの特性はそのまま僕自身の特性なんですね。どうしてそこまで知っているの、と驚いたほどです。

そこで、主治医に「ストラテラを出すということは、僕はADHDなんでしょうか」と聞きました。主治医は「そうですね」と一言。

編集部:なるほど。

岩本:その瞬間、ホッとしましたね。
今、どんなに頑張ってもできないことは、自分の努力不足だけが理由ではないのか、と。

編集部:発達障害という診断に戸惑いはなかったのでしょうか。

岩本:困っていたのは事実なので、あまり動揺はなかったです。それよりも原因がハッキリしたことで、「なるほど、だったらある程度対策がとれそうかな」と思いました。

努力して結果が出る経験を積んできたのに、一部の仕事だけはどんなに努力をしても結果につながらない。
病気のせいかと思っても、「うつだから仕事で何度も同じミスをする」というのは何か違う気がしていました。

こんなはずじゃなかったのに、とずっと不思議だったことの原因がやっとわかったのです。

障害者雇用での再スタート。自分のために迷いはなかった。

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編集部:ADHDだけじゃなくアスペルガー症候群もあるとわかり、「発達障害がある」とご家族にお伝えされたときはどのような反応だったのでしょう。

岩本:細かくああだこうだと話し合ったりはしませんでした。
妻も、特に動揺せず「あっそう、わかったからとりあえず働いて」という感じ。(笑)小さい子どもがいて手一杯だったのもありますが、うつだろうと障害があろうと、急に自分自身が大きく変わるわけではないので、そういう意味では変に暗くなることもなかったですね。
妻が変わらずにいてくれたのは、有難かったです。

編集部:素敵な奥様ですね。ADHDとわかったときに「何かしらの対策はできるなと思った」とお話がありましたが、その後働き方の変化などあったのでしょうか。

岩本:それが、あれこれ勉強をして対策を練っても、苦手なことに関するミスは減りませんでした。
「仕事で成果を出す」という生き方そのものが、自分にはあまり出来ないのかもしれない、と不安な時期が続きました。
編集部:そこで転職を考えられたのですか?

岩本:そうですね。
今後のために転職をするとしても、それなりの仕事でお給与を頂ける環境であることと、体調や特性への配慮がある環境であること、この2点はとても大事なのですが、どちらか一方を選ばざるを得ないことが多かったです。

編集部:現在勤めておられる職場はどのようにお決めになったのですか?

岩本:はい、現在の職場は障害者雇用であっても、他の社員とさほど給与に差がないのです。望む2つの環境が、有難くそろっているところに出会えました。

編集部:障害者雇用枠で面接を受けることに、抵抗はなかったのでしょうか?

岩本:うつや発達障害の特性から本当にしんどい時もあったので、使わない理由もないなと思いました。

うつの時期は、なかなか好転しきらないまま、職場復帰して悪化する、というのを何度か繰り返しました。あの時のように、一般枠で無理をしながら働いて同じような思いをするのは嫌だなと思ったのです。

転職するにも、未経験でもチャレンジできるというのは30代になるとあまり多くないですから。障害者雇用枠では、意外と「未経験」への窓口が広かったのです。

「生きづらさの解消」、そのために必要な両輪とは

編集部:そうして転職されたデータアナリストという職務はご自身にとても合っていると聞きましたが・・・

岩本:ええ、ADHD、アスペルガーと診断を受けた後、自分にはどんな仕事ができるのかじっくり考えました。すると、つじつまを合わせたり、理屈がわかる、というのが、時間を忘れて取り組めるほどすごく好きだと気が付きました。
ですから、細かい数字を分析する仕事を探しました。

編集部:自分の特性にあった場所や職業を選ぶことで、まさに「生きづらさ」が解消されたのですね。

岩本:いえ、少し曖昧なところではありますが、特性が活きる仕事に就いた時点では「生きづらさ」は解消しないと思っています。

働く上で「特性を活かせる場面」というのは、限りがあると感じます。
私の場合、働く上では、得意なデータの分析だけではなくコミュニケーションは欠かせませんし、苦手な「同時にいくつかのことをする」場面も、全くないわけではないんです。
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編集部:なるほど、確かにどんな職務であっても、働く上でコミュニケーションや事務作業は多少なりともありますよね。では、生きづらさを解消するにはどうしたらよいのでしょうか?

岩本:働く上で、特性に向かない作業をする瞬間が必ず出てきます。それを乗り越えたり、失敗してしまう自分に折り合いをつけられる背景には、自分自身の働く目的や頑張りたい理由があります。

そういった目的や理由があると、多少の生きづらさは乗り越えていけるなと感じます。

特性に無理のない業務であること、そしてその仕事の先に自分自身の「働く目的」が見えること、どちらも不可欠でその両輪が「生きづらさの解消」には大事だと思います。

次回は

最終回は「自分の苦手と限界を知った今、大切にしている「自分らしい歩み方」とは」をお届けいたします。
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