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ご利用者様のお悩み④ 自己表現(児童発達支援ゆうり先生)

教室の毎日
隔週に渡ってお話していたご利用者様のお悩みコーナーの最終回です。

本日の主人公は年中さんのE君です。

E君は、「言葉での自己表現が苦手」「トイレトレーニングが進まない」等のお悩みを抱えていらっしゃいました。
E君は自閉症の診断を受けたお子様で、とても大人しい性格でした。
お母様と一緒に見学に来た時も、お母様の横で1時間ほど座ってお絵描きができるほど集中していました。
その1時間の間、ほとんど喋ることもなく、ひたすら静かに過ごしていたのが印象に残っています。

通い始めた当初もとても静かで、こちらから話しかけてもほとんど反応もなく、わずかに頷いたり、首を振る程度でしか意思の疎通が取れず、Q&Aが成立しないような状態でした。
ですが、全く話せないわけではなく、自分の好きな車の話や興味のあることになると、これまでの様子が嘘のように話し始めるのです。

自閉症の特性には、様々な物がありますが、E君の場合は「興味のある物事」「興味のない物事」に対する反応が全く違うという特性が強く出ていたように感じます。

親御様は、どちらかと言えばトイレトレーニングのことを気にされていましたが、私たちは「自己表現力の弱さ」の方に注目しました。
言葉やその他のコミュニケーションツールが確立されないと、人間関係の構築に時間がかかり、自己肯定感を高めることが難しくなります。

そこで、まずは普段の会話や連絡帳に書かれていることから話題を投げかけ、E君の反応を探るところから始めました。

親御様から「車が好き」と言うことは聞いていたので、まずは車の話題から投げかけました。
もちろん、すぐに言葉での反応は返ってきませんが、車の話題を耳にした瞬間目線をしっかり私たちに向けることができました。

「目を合わせることができる」

これは大きな強みです。人の話を聞く時に目を合わせるということはいつだって必要になってきます。

そこからは本人の興味のある話題や物事をどんどん投げかけていきました。

「好きな色」「好きなおもちゃ」「好きな車」

子どもだけでなく大人もそうですが、どんなに話しかけられていても、自分の興味が湧かないと話なんて入ってきません。


朝の会では、今日来ているお友達の名前を1人ずつ伝えました。

学習の運筆では「好きな色のクレヨン」を使って取り組みました。

活動ではその好きな色を探す「色探し」

車の絵合わせカードの半分を探す「宝探し」

友達と協力してボールを運ぶ運動プログラム


などなど・・・。1日の予定の中で興味のありそうな様々な要素を盛り込んで取り組みました。
するとある日、学習の時間で運筆に取り組んでいた時です。
E君が隣の席に座っているお友達の手元をのぞき込んで「○○の色使ってるね」

と言ったのです。

他人に興味を示したことも、それに対して職員に言葉で伝えてきたのも初めてのことでした。
本人の中で色々なきっかけがあったのかもしれませんが、そこからE君は周りのお友達の様子をよく観察するだけでなく、自分に関することも言葉で伝えてくれるようになりました。

「○○君、走ってるね」

「今日パトカー見たよ。また見れるかな」

「バーベキューでは、ゼリーとウインナーと焼きそば食べたんだよ」


言葉で伝えて、それに対して言葉で返ってくる会話の楽しさと、自己表現の楽しさに目覚めたようです。

親御様からも、まだ友達の名前は出てこないが、その日取り組んだことや、何人友達がいたのか。など、上手にお話ができるようになったと嬉しいお話を聞くことができました。

E君が通い始めて約3ヶ月。今では初めの頃の自分の殻に閉じこもったE君は見られず、友達と楽しそうに走り回ったり、玩具を自ら半分こにして貸し借りすることができるようになりました。
自ら進んで職員に話しかけ、こんな事があったと報告してくれるようになりました。
帰りの会の後、別の車に乗る友達に手を振って「また明日来てね!」と声をかけてくれるようにもなりました。

言葉のコミュニケーションは、長い人生の中でどうしても避けられない問題です。自分の気持ちを言葉で表現する難しさは、大人でも悩みの種となります。

「自分の気持ちを言葉にする練習」
「言葉に出して自己表現をすることの楽しさ」

これを少しずつでも感じられるように、これからも様々な角度で支援してまいります。

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