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書くことが苦手な子のための、リボンから始める療育

小さな四角い枠の中に、文字をおさめる。大人にとっては何気ないことでも、子どもにとっては、体中を使うほど難しい挑戦になっていることがあります。「ここに書くんだよ」と言われても、手が思うように止まらない。がんばっているのに、はみ出してしまう。その瞬間に必要なのは、さらに書かせることではなく、いったん鉛筆を置くことかもしれません。

文字が枠からはみ出す子に、まず「書かせない」理由
低学年の子や、未就学の年長さんの中には、文字を枠の中に収めることがとても苦手な子がいます。
「この枠の中に書くんだよ」
そう伝えても、文字が大きくなってしまう。線から飛び出してしまう。本人もどうにかしようとしているのに、体がうまくついてこない。
そして、最後には「ギャーン」となってしまう。
これは本当によくあることです。
そして、その気持ちはとてもよくわかります。
小さな枠の中に文字を書くという行為は、見た目以上に複雑です。目で枠を捉え、手首を安定させ、指先を細かく動かし、力加減を調整し、必要なところで動きを止める。大人にとっては当たり前に見える動きの中に、いくつもの感覚と運動の働きが重なっています。
だからこそ、うまくいかないときに最初にすることは、もっと文字を書かせることではありません。
むしろ、まず書く練習をやめます。
これは大前提として、とても大切にしている考え方です。
文字が枠からはみ出すとき、もちろん目の使い方、いわゆるビジョントレーニングが関係していることもあります。けれど、それだけではありません。
指先の運動。
肩、肘、手首、指の使い分け。
そして何より、固有感覚がうまく使えていない可能性があります。
固有感覚とは、自分の体がどこにあって、どのくらい力を入れていて、どの方向に動いているのかを感じる感覚です。これがうまく働いていないと、「ここからここまで動かす」「ここで止める」「このくらいの大きさで書く」という調整が難しくなります。
つまり、枠の中に文字を書けない背景には、「わかっていない」のではなく、「体の感覚がまだ育ちきっていない」ということがあるのです。

子どもは、やる気がないからはみ出すのではありません。
体がまだ、その小さな枠に追いついていないことがあるのです。
だから、文字の練習だけを重ねても、うまくいかないことがあります。
書けば書くほど失敗が増える。
失敗が増えるほど、苦手意識が強くなる。
苦手意識が強くなるほど、鉛筆を持つこと自体が嫌になってしまう。
この悪循環に入ってしまう前に、私たちは一度、文字から離れます。
そして、もっと大きな動きから始めます。
たとえば、リボンを使います。
音楽をかけながら、リボンを大きく動かす。肩を使って大きく振る。斜めに動かす。後ろから前へ、縦に動かす。肘を使って動かす。手首を固定して、指先だけで小さく動かす。
ただ遊んでいるように見えるかもしれません。
でも、その中で子どもは、体の感覚を育てています。
大きく動かす。
なめらかに動かす。
方向を変える。
力を調整する。
そして、止める。
「トン、シュッ。トン、シュッ」
音楽に合わせて、リボンを使いながら、動きの始まりと終わりを体で覚えていく。
リボンは動きが目に見えます。自分の動かした軌跡が空間に残るように感じられるので、子どもにとっても楽しい。きれいに動くと嬉しい。遊びの中で、自然と体を使いたくなる。
そこが大事です。
文字の練習では「また失敗した」と感じてしまう子も、リボンなら「楽しい」から入れる。苦手なことを直接突きつけるのではなく、その土台になる感覚機能を、楽しみながら育てていくことができます。
そして、最初は大きな動きから始めます。
肩を使った大きな運動。
肘を使った中くらいの運動。
手首を安定させる運動。
指先を使う細かな運動。
このように、少しずつ動きを小さくしていきます。
大きな運動から、微細運動へ。
全身の感覚から、指先のコントロールへ。
遊びから、書く力へ。
その順番を大切にします。
いきなり小さな枠の中に文字を書かせるのは、子どもによってはとても難しいことです。まだ肩や肘や手首や指先の役割分担が十分でない状態で、細かい文字の調整だけを求められている場合があるからです。
肩、肘、手首、指先がそれぞれ分化して使えるようになること。
「ここからここまで」と動かせること。
「ここで止める」と体がわかること。
縦の動き、斜めの動き、なめらかな動きができること。
手首を固定しながら、指先を動かせること。
こうした力が育ってくると、文字を書くときにも変化が出てきます。
頭で一生懸命「止めなきゃ」と考えなくても、体が自然に止まれるようになってくる。力を入れすぎず、抜きすぎず、ちょうどいいところを探せるようになってくる。
その結果、枠の中に収まる経験が少しずつ増えていきます。
ここで大切なのは、「できるようにさせる」ことだけではありません。
子どもの困り感を減らすこと。
苦手意識を強めないこと。
そして、「思わずできちゃった」という成功体験へ導くことです。

療育で大切なのは、できないことを何度も確認することではなく、できる感覚に出会える道を一緒に探すことです。
子どもは、失敗を重ねるほど慎重になります。
慎重になるほど体は固くなります。
体が固くなるほど、またうまくいかなくなります。
だからこそ、楽しい動きの中で、体が自然に学べる環境をつくることが大切です。
リボンを振る。
音楽に合わせる。
大きく動く。
止まる。
また動く。
その一つひとつが、やがて鉛筆を持つ手につながっていきます。
枠の中に文字を書く力は、紙の上だけで育つものではありません。体の中で、自分の動きを感じ、調整し、止める力が育つことで、初めて紙の上に現れてきます。
だから、文字がはみ出してしまう子に出会ったとき、私たちはこう考えます。
もっと書かせる前に、体の土台を見てみよう。
苦手に向き合わせる前に、楽しくできる入口を探そう。
小さな枠に入れる前に、大きく動ける経験をつくろう。
子どもが「書けない」と感じていた場所に、少しずつ「できた」が増えていく。
それは、ただ文字が整うということではありません。自分の体を信じられるようになることです。自分の手が思ったように動くという感覚を、少しずつ取り戻していくことです。
そしてその先に、鉛筆を持つことへの安心感が生まれます。
最初の一歩は、枠の中ではなく、空間いっぱいに動くリボンかもしれません。そこから肩が動き、肘が動き、手首が安定し、指先が育っていく。大きな動きが小さな文字へとつながっていく。
子どもが枠からはみ出してしまうとき、私たちはその文字だけを見るのではなく、その奥にある体の声を見ようとします。
そして、叱るのではなく、急がせるのでもなく、まずは一緒に動いてみる。
「できない」を直接直すのではなく、「思わずできちゃった」が生まれる道をつくる。
療育の中で大切にしているのは、まさにその瞬間です。
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