知的障害(知的発達症)の原因は?遺伝との関連はあるの?【専門家監修】

ライター:発達障害のキホン
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知的障害(知的発達症)はなぜ発現するのか、その原因にはどのようなものがあるのでしょうか?また、知的障害(知的発達症)は遺伝との関連はあるのでしょうか?知的障害(知的発達症)はどのように検査するのか、また出生前診断は可能かなど、今回は知的障害(知的発達症)の検査方法と共に原因についてご説明します。

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監修: 井上雅彦
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授
LITALICO研究所 スペシャルアドバイザー
ABA(応用行動分析学)をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のためのさまざまなプログラムを開発している。
目次

医学的に知的障害(知的発達症)の発現時期は分かっているの?

知的障害(知的発達症)とは、発達期までに生じた知的機能障害により、認知能力の発達が全般的に遅れた水準にとどまっている状態を指します。単に物事を理解し考えるといった知的機能(IQ)の低下だけではなく、社会生活に関わる適応機能にも障害があることで、自立して生活していくことに困難が生じる状態です。

知的障害(知的発達症)の原因はさまざまで、遺伝的に特定されているものもあればそうでないものもあります。

※現在、『ICD-11』では「知的発達症」、『DSM-5』では「知的能力障害(知的発達症/知的発達障害)」と表記されていますが、知的障害者福祉法などの福祉的立場においては「知的障害」と使用していることが多いため、この記事では「知的障害(知的発達症)」という表記を用います。
知的能力障害(ID: Intellectual Disability)は、医学領域の精神遅滞(MR: Mental Retardation)と同じものを指し、論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、学校や経験での学習のように全般的な精神機能の支障によって特徴づけられる発達障害の一つです。発達期に発症し、概念的、社会的、実用的な領域における知的機能と適応機能両面の欠陥を含む障害のことです。すなわち「1. 知能検査によって確かめられる知的機能の欠陥」と「2. 適応機能の明らかな欠陥」が「3. 発達期(おおむね18歳まで)に生じる」と定義されるものです。中枢神経系の機能に影響を与える様々な病態で生じうるので「疾患群」とも言えます。

引用:厚生労働省|e-ヘルスネット
出典:https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-04-004.html
知的障害(知的発達症)は発達期の間に発症すると定義され、後天的な事故や認知症などの病気で知能が低下した場合は含みません。この発達期とはおおむね18歳までを指しますが、知的障害(知的発達症)は障害の状態を指すため、障害が現れる道筋は人によってさまざまで、具体的な発現時期も人により異なります。

知的障害(知的発達症)を引き起こす原因についても出生前の胎児期に発現する先天的な場合が多いと言われていますが、出産後に発現する・成長段階に後天的に発現する場合まで人によってさまざまです。症状は成長するにつれて明らかになり、だんだんと家族や周りの人が知的障害(知的発達症)の症状に気づくことが多いです。乳幼児期にはことばの発達や園での集団への参加の様子などから特性が目立つようになると言われています。ですが、軽度の知的障害(知的発達症)は見た目からは判断しにくいため、見過ごされてしまう場合もあります。

知的障害(知的発達症)の原因は?

知的障害(知的発達症)の原因は一つではありません。脳障害を引き起こす疾患や要因すべてが知的障害(知的発達症)の原因となりうると考えられ、また知的障害(知的発達症)を発症する道筋も一つではありません。以前は、原因不明といわれる知的障害(知的発達症)が多かったのですが、最近の遺伝子研究からその原因が少しずつ解明されてきています。

知的障害(知的発達症)の原因は十分には解明されていない状況ですが、主な要因は病理的要因・生理的要因・環境要因の3つの面から分類できると考えられています。しかし、それぞれが単一で起こるだけではなく複合している場合もあります。

病理的要因は病気や外傷など脳障害をきたす疾患で、これらの合併症として知的障害(知的発達症)が一緒に起きることがあります。この中にはてんかんや脳性まひなどのほか、ダウン症などの染色体異常による疾病も含まれます。
一方、特に疾病などがなくたまたま知能水準が知的障害(知的発達症)の範囲内にあるといった場合、生理的要因と呼ばれます。
環境要因は、直接の原因となるわけではありませんが、脳が発達する時期に不適切な環境であることで知的障害(知的発達症)の症状が悪化したり、脳の発達が遅れる原因になったりすると言われています。

知的障害(知的発達症)の原因となる病理的要因

知的障害(知的発達症)を引き起こす病理的要因としては、主に以下のような病気・けがが挙げられます。

・感染症によるもの(胎児期の風疹や梅毒、生後の脳炎や高熱の後遺症など)
・中毒症によるもの(胎児期の水銀中毒や生後の一酸化炭素中毒など)
・外傷によるもの(事故や出産時の酸素不足など)
・染色体異常によるもの(ダウン症候群など)
・成長や栄養障害によるもの(代謝異常や栄養不良など)
・その他(早産、未熟児、仮死など)

病理的要因を考え、もしその要因が治療可能であれば、知的障害(知的発達症)を最小限に抑えることができるかもしれません。また、その要因が及ぼす影響を予防したり、支援の方向性を検討したりできます。
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時期によって発現する原因は変わります

知的障害(知的発達症)の原因はどのように発現するのでしょうか?出生前・周産期・出生後の3つの時期ごとにご説明します。この中には、まだ詳しい原因やメカニズムが分からないものもあれば、医学の進歩で一部原因が解明されたり、発症を防げるようになったものもあります。

胎児期

胎児期に発現する遺伝子変異や染色体異常といった先天的な原因が知的障害(知的発達症)を引き起こす場合があります。知的障害(知的発達症)の素因となる遺伝子が親から子へ伝わることがないとは言い切れません。

下記は胎児期に発現する知的障害(知的発達症)の素因としてよく知られている疾病です。
・先天性代謝異常(フェニールケトン尿症・メープルシロップ尿症など)
・ダウン症
・脆弱X症候群(FXS)
・脳内タンパク質の遺伝子変異 など

ダウン症などの染色体異常が原因の場合、出生前検査などでその可能性が分かる場合もあります。

また胎児期はお母さんのおなかの中で身体や脳などの器官がつくられる大切な時期です。このころにお母さんを通じて感染症や薬物、アルコールなどの外的要因が胎児に影響したり、お母さんの代謝異常などで栄養不足になったりして脳の発育が妨げられ、知的発達症(知的障害)を引き起こす原因となる可能性もあります。

周産期

出産前後の事故などによって脳に障害が現れることがあります。母体の循環障害、へその緒がねじれるなどで赤ちゃんの脳に酸素がいかなかったり、出産時に頭蓋内出血が起こったりして脳に障害が残る場合があります。また低体重や早産などにより、脳が未発達のうちに生まれることも原因の一つとなる可能性があります。

これらの出産前後のトラブルは周産期医療の進歩や充実によって少なくなってきています。

出生後

脳が未発達なうちはけがや病気の影響を受けやく、乳幼児期の感染症や頭部の外傷などが原因になることがあります。日本脳炎や結核性髄膜炎、ポリオ、麻疹、百日咳などに感染し重篤化して脳炎になると知的障害(知的発達症)を引き起こす場合がありますが、予防接種により感染の危険を減らすことができます。また乳幼児期に栄養不足だったり、不適切な養育環境に置かれることで脳の発達が遅れることもあります。

フェニールケトン尿症は出生後すぐの新生児マススクリーニング検査の対象疾患となっており、そこで自動的に検査されます。疾患が見つかったらすぐに食事療法によって血液中のフェニルアラニンを一定の範囲にコントロールすることで、発症を予防することができます。
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