アスペルガー症候群(AS)の原因は?遺伝する確率はあるの?

2018/10/05 更新
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アスペルガー症候群の原因は、実はまだくわしくは解明されておらず、不明なことが多いです。知的障害がないことから「育て方が悪かったんじゃないの?」などと言われて傷つく親も多いでしょう。でも、これは親のしつけの問題でないことは判明しています。今わかっている原因と遺伝する可能性があるのかどうか、一緒に見ていきましょう。

発達障害のキホン
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監修: 井上 雅彦
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授
応用行動分析学
自閉症支援士エキスパート
LITALICO研究所 客員研究員
目次 医学的にアスペルガー症候群(AS)の発現時期は分かっているの? アスペルガー症候群の原因は? アスペルガー症候群は親から子どもへ遺伝するの? アスペルガー症候群を検査する方法はあるの? アスペルガー症候群の治療法はあるの? 今、困っていることの原因にも目を向けることが重要

医学的にアスペルガー症候群(AS)の発現時期は分かっているの?

アスペルガー症候群(AS)は社会性やコミュニケーションの困難を主な特性とする発達障害です。

実は、アスペルガー症候群は、2013年のアメリカ精神医学会の診断基準『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)発表以降、自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害と呼ばれることが多いと言われています。ですが世界保健機関(WHO)による『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版)による診断基準を用いる医療機関や行政などでアスペルガー症候群を用いる場合があり、すでに確定診断を受けている当事者もいることから、本記事ではアスペルガー症候群という障害名を使用していきます。

アスペルガー症候群の素因は先天的な遺伝的要因にあるのではないかと考えられています。それが胎児期や出生後に脳や心身が発達する中で様々な環境要因と相互に影響し合って脳機能障害として発現すると言われています。

一般的には症状成長につれ顕著に発現するようになります。幼児期、幼稚園や保育園に入るようになり、集団参加や社会的な機能が要求される時期になると、なんらかの症状が目立ち始めると言われています。コミュニケーションと社会性の困難が、周りの子や大人と関わるようになるとそれが明らかになる場合が多いのです。一方で、知能の発達に遅れがないことなどから見過ごされがちで、学童期以降や大人になってから気づくケースも少なくありません。
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アスペルガー症候群の原因は?

アスペルガー症候群の原因は1つではありません

アスペルガー症候群の原因ははっきりとわかっていません。未だ研究が進められている段階ですが、現在ではアスペルガー症候群を引き起こす原因は1つではないと考えられています。様々な要因が複雑に影響しあい、様々なみちすじを通って発現するため、一部の人に当てはまる原因があっても、すべての人に共通する原因を限定することは非常に難しいと言われています。

ですが、親のしつけや育て方の問題といった要因でアスペルガー症候群が起こっているという心因論は誤りであることがはっきりしています。以下に現在考えられている主な要因と、アスペルガー症候群の症状を引き起こす原因となる脳機能障害について詳しくご紹介します。

遺伝的要因と環境的要因

アスペルガー症候群には遺伝的な要因が大きいと考えられ、どの遺伝子が関連するかという研究が盛んに進められてきました。

最も中心的な関連遺伝子と考えられているのが、シナプスの形成とシナプスの機能にかかわるタンパク質をつくるために必要な情報にかかわる遺伝子です。
 たとえば、シナプスの形成に関与する遺伝子であるNLGN3やNLGN4、これらと機能的にかかわりの深いSHANK3などが自閉症スペクトラムとの関連が指摘されています。つまり、シナプスにおける神経伝達の軽微な異常によって、自閉症スペクトラムに見られる精神発達に障害が引き起こされると考えられています。
(飯田順三/編・著『アスペルガー症候群の子どもたち』合同出版,2014年/刊 p.95~96より引用)

出典:http://www.amazon.co.jp/dp/4772611444/
アスペルガー症候群単独の研究ではありませんが、上記を含め、自閉症スペクトラムの関連遺伝子が数十報告されています。ですが、さまざまな遺伝子が複雑に関連しているため、原因となる遺伝子を特定することはできないと考えられています。

これらの遺伝的要因の関与度が高いことは、遺伝情報が一致している一卵性双生児における一致率(2人とも自閉症スペクトラムである比率)の調査からも推測されています。

2000年以降の大規模な双生児集団を対象とした調査では、遺伝要因の関与度を6~7割とした報告が多い。最新の報告はスウェーデンで実施された大規模調査で、ASDにおける遺伝要因の関与度は約50%だった。
(鷲見聡/著『発達障害の謎を解く』日本評論社、2015年/刊 p.17より引用)

出典:http://www.amazon.co.jp/dp/4535806586
これらの調査から、アスペルガー症候群は遺伝的要因が大きく関与する先天的な脳の機能障害であることは確かですが、完全に遺伝子情報が一致している双子間でも発現率が100%ではないということもわかります。この結果は遺伝子以外の要因も関与しているということを示します。

それらが環境的要因と呼ばれるものです。どのような環境因子が関わっているかは研究段階ですが、遺伝的要因だけでなく環境的要因も相互に関係しあって脳機能に偏りを引き起こし、症状となって現れると考えられます。

アスペルガー症候群と関連があると考えられる脳機能の偏り

アスペルガー症候群の特性を生じさせていると考えられる脳機能の偏りについても、様々な説が研究されています。以下の中から複数の原因を持ち合わせている場合もあれば、脳以外がアスペルガー症候群の原因となっているとも考えられます。

1.脳領域間の機能的連結低下
脳内のネットワークの連結機能がうまくいかず、定型発達の人の場合と比べて機能が低下していることからアスペルガー症候群になるのではないかという説があります。これはアスペルガー症候群に限らず、自閉症スペクトラム障害に含まれる全ての障害に関しての原因だと考えられています。

2.社会的な活動をするための脳の部位の機能異常
人の脳には部位ごとに役割があります。その中に社会的な活動をするために使う部位もあり、以下のような部位に異常が起きたり働きが弱かったりするため、うまく人の表情や感情が理解できないのではないかと言われています。
・扁桃体(へんとうたい)…人の表情を認識し感情を読み取る部位です
・紡錘状回(ぼうすいじょうかい)…紡錘状回は人の顔を認識する部位です
・上側頭溝…人の目や口などの部位の動きを認識する部位です
・前頭葉…前頭葉にはミラーニューロンと呼ばれる神経が存在しており、人に対する「共感」の感情に関わっています
アスペルガーと関連があると考えられる脳の部位
アスペルガーと関連があると考えられる脳の部位
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3.小脳の異常
小脳は、平衡感覚や強調運動などに関わっていると言われています。そのため小脳に異常が起きると、バランス感覚をあまり持てなくなると言われています。ほかにも、小脳に異常が起きると感情や認知にも影響があるのではないかと報告されていますし、自閉症スペクトラム障害の中には実際に小脳への異常が見られた人もいます。

4.脳内物質の異常
アスペルガー症候群が含まれる自閉症スペクトラム障害では、脳内物質に異常があるという報告があります。普通の人と比べて、血中オキシトシンが低い、セロトニンが高い、血中グルタミン酸が高いという違いが見られたという研究があります。

アスペルガー症候群は親から子どもへ遺伝するの?

アスペルガー症候群が含まれる自閉症スペクトラム障害に遺伝的な要因については、すべてが解明されているわけではありません。

ですが、一つの遺伝子の変異が発症につながる障害ではないと考えられています。素因となる関連遺伝子が多数あり、その組み合わせや相互の影響による多因子遺伝であるため単純に親からの遺伝子が原因となって発現するということではありません。また、遺伝子だけではなく、そのほかの環境的な要因が複雑に重なった場合に現れるため、親にアスペルガー症候群があるからといって100%子どもに遺伝するとは言えません。また、両親ともに定型発達の場合でも、アスペルガー症候群の子どもが生まれる場合もあるのです。

一方で双生児間や家族間研究も進み、遺伝子が近いほど、自閉症スペクトラム障害が発現しやすいという報告もあります。あくまで可能性として考えられている段階ですが、家系としていくつかの関連遺伝子を体質として持っている場合に加え、家族で何らかの環境要因の条件が近いことが重なってその傾向を生むからではないかと推測されています。

アスペルガー症候群を検査する方法はあるの?

アスペルガー症候群は先天性の発達障害ですが、出生前に検査する方法は現在ありません。また、血液検査や病理検査といった検査からでも判別はできず、出生後すぐの診察や検査では診断することができません。

成長に従い、アスペルガー症候群によくみられる性質や特性が顕著に現れると、子の成長に親が疑問を持ったり、気になる点が出てきて専門機関に相談し気づくケースが多いです。医療機関では、問診や心理検査など様々な情報を総合してアスペルガー症候群と診断を受けます。

アスペルガー症候群は知的な発達の遅れが見られない障害です。また、一人ひとりの特性は程度の違いもあり、軽度の場合やトラブルにならない場合は単に「個性」として受け取られることも少なくありません。そのため大人になっても自分の障害に気づかない人もいます。こういった状況が、アスペルガー症候群が気がつきにくく、診断も難しい障害とされているゆえんです。
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アスペルガー症候群の治療法はあるの?

アスペルガー症候群の根本的な原因をなくす治療法や、画期的な治療薬はありません。

ですが、個々にあった環境や工夫の中で療育や支援を受けることで、より生きやすい生活を送ることが可能です。

現在、心理療法やアスペルガー症候群のある人に並存しやすい易刺激性への薬物治療のほか、療育的アプローチ、保護者や周りの人が接する方法を学ぶペアレントトレーニング、過ごしやすい環境を整える環境調整などが一般的によく用いられます。

信頼できる医療機関や専門家とつながり、早期にサポートを行うことが重要です。

今、困っていることの原因にも目を向けることが重要

明確な原因が解明されていませんが、現在様々なデータに基づく実験や検証がされています。原因を探る研究は、今後の治療法を探るためにはとても重要です。

ただし、一人ひとりが「なぜアスペルガー症候群になったのか」ということにこだわって原因探しをすることは、その人が今困っていることや特性とどう付き合っていくかを考える上では、あまり意味がないのかもしれません。

その代わり、どんなことが原因で症状や困りごとが現れているのかに着目し、考えてみると良いのかもしれません。アスペルガー症候群は、早期発見すれば適切に療育や支援が受けられますし、大人になってからでも十分にトレーニングを積んで、より過ごしやすい生活を手に入れることは可能です。

一人で抱えこまずに、専門機関や医療機関と連携し、本人が生きやすい環境を作っていきましょう。
自閉症スペクトラムがよくわかる本 (健康ライブラリーイラスト版)
本田 秀夫(監修)
講談社
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