アスペルガー症候群(ASD/自閉スペクトラム症)の原因は?遺伝する確率はある?【専門家監修】

ライター:発達障害のキホン
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アスペルガー症候群(ASD/自閉スペクトラム症)の原因は、実はまだくわしくは解明されておらず、不明なことが多いです。知的障害(知的発達症)がないことから「育て方が悪かったんじゃないの?」などと言われて傷つく親も多いでしょう。でも、これは親のしつけの問題でないことは判明しています。今わかっている原因と遺伝する可能性があるのかどうか、一緒に見ていきましょう。

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監修: 井上雅彦
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授
LITALICO研究所 スペシャルアドバイザー
ABA(応用行動分析学)をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のためのさまざまなプログラムを開発している。
目次

医学的にアスペルガー症候群(自閉スペクトラム症)の発現時期は分かっているの?

アスペルガー症候群という診断名は、言葉や知的の発達に遅れがない場合用いられていましたが、アメリカ精神医学会発刊の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)において自閉的特徴を持つ疾患が統合され、2022年発刊の『DSM-5-TR』では「自閉スペクトラム症」という診断名になりました。この記事では以下、アスペルガー症候群(ASD/自閉スペクトラム症)と記載しています。

アスペルガー症候群(ASD/自閉スペクトラム症)の素因は先天的な遺伝的要因と、体内環境要因や出生後に脳や心身が発達する中で様々な遺伝的要因と相互に影響し合って脳機能障害として発現すると言われています。

一般的には症状成長につれ顕著に発現するようになります。幼児期、幼稚園や保育園に入るようになり、集団参加や社会的な機能が要求される時期になると、なんらかの症状が目立ち始めると言われています。コミュニケーションと社会性の困難が、周りの子や大人と関わるようになるとそれが明らかになる場合が多いのです。一方で、知能の発達に遅れがないことなどから見過ごされがちで、学童期以降や大人になってから気づくケースも少なくありません。
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アスペルガー症候群(ASD/自閉スペクトラム症)とは?特徴と相談先【専門家監修】

アスペルガー症候群(ASD/自閉スペクトラム症)の原因は?

アスペルガー症候群(ASD/自閉スペクトラム症)の原因は1つではありません

アスペルガー症候群(ASD/自閉スペクトラム症)の原因ははっきりとわかっていません。未だ研究が進められている段階ですが、現在ではアスペルガー症候群(ASD/自閉スペクトラム症)を引き起こす原因は1つではないと考えられています。さまざまな要因が複雑に影響しあい、さまざまなみちすじを通って発現するため、一部の人に当てはまる原因があっても、すべての人に共通する原因を限定することは非常に難しいと言われています。

ですが、親のしつけや育て方の問題といった要因でアスペルガー症候群(ASD/自閉スペクトラム症)が起こっているという心因論は誤りであることがはっきりしています。以下に現在考えられている主な要因と、アスペルガー症候群(ASD/自閉スペクトラム症)の症状を引き起こす原因となる脳機能障害について詳しくご紹介します。

遺伝的要因と環境的要因

アスペルガー症候群(ASD/自閉スペクトラム症)には遺伝的な要因が大きいと考えられ、どの遺伝子が関連するかという研究が盛んに進められてきました。
最も中心的な関連遺伝子と考えられているのが、シナプスの形成とシナプスの機能にかかわるタンパク質をつくるために必要な情報にかかわる遺伝子です。
 たとえば、シナプスの形成に関与する遺伝子であるNLGN3やNLGN4、これらと機能的にかかわりの深いSHANK3などが自閉症スペクトラムとの関連が指摘されています。つまり、シナプスにおける神経伝達の軽微な異常によって、自閉症スペクトラムに見られる精神発達に障害が引き起こされると考えられています。
(飯田順三/編・著『アスペルガー症候群の子どもたち』合同出版,2014年/刊 p.95~96より引用)
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4772611444
現在アスペルガー症候群(ASD/自閉スペクトラム症)の関連遺伝子が数十報告されています。ですが、さまざまな遺伝子が複雑に関連しているため、原因となる遺伝子を特定することはできないと考えられています。

これらの遺伝的要因の関与度が高いことは、遺伝情報が一致している一卵性双生児における一致率(2人ともアスペルガー症候群(ASD/自閉スペクトラム症)がある比率)の調査からも推測されています。
2000年以降の大規模な双生児集団を対象とした調査では、遺伝要因の関与度を6~7割とした報告が多い。最新の報告はスウェーデンで実施された大規模調査で、ASDにおける遺伝要因の関与度は約50%だった。
(鷲見聡/著『発達障害の謎を解く』日本評論社、2015年/刊 p.17より引用)
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4535806586
これらの調査から、アスペルガー症候群(ASD/自閉スペクトラム症)は遺伝的要因が大きく関与する先天的な脳の機能障害であることは確かですが、完全に遺伝子情報が一致している双子間でも発現率が100%ではないということもわかります。この結果は遺伝子以外の要因も関与しているということを示します。

それらが環境的要因と呼ばれるものです。どのような環境因子が関わっているかは研究段階ですが、遺伝的要因だけでなく環境的要因も相互に関係しあって脳機能に偏りを引き起こし、症状となって現れると考えられます。

アスペルガー症候群(ASD/自閉スペクトラム症)と関連があると考えられる脳機能の偏り

アスペルガー症候群(ASD/自閉スペクトラム症)の特性を生じさせていると考えられる脳機能の偏りについても、さまざまな説が研究されています。以下の中から複数の原因を持ち合わせている場合もあれば、脳以外がアスペルガー症候群(ASD/自閉スペクトラム症)の原因となっているとも考えられます。

1.脳領域間の機能的連結低下
脳内のネットワークの連結機能がうまくいかず、定型発達の人の場合と比べて機能が低下していることからアスペルガー症候群(ASD/自閉スペクトラム症)になるのではないかという説があります。

2.社会的な活動をするための脳の部位の機能異常
人の脳には部位ごとに役割があります。その中に社会的な活動をするために使う部位もあり、以下のような部位に異常が起きたり働きが弱かったりするため、うまく人の表情や感情が理解できないのではないかと言われています。
・扁桃体(へんとうたい)…人の表情を認識し感情を読み取る部位です
・紡錘状回(ぼうすいじょうかい)…紡錘状回は人の顔を認識する部位です
・上側頭溝…人の目や口などの部位の動きを認識する部位です
・前頭葉…前頭葉にはミラーニューロンと呼ばれる神経が存在しており、人に対する「共感」の感情に関わっています
アスペルガー症候群(ASD/自閉スペクトラム症)と関連があると考えられる脳の部位をしめした図
アスペルガー症候群(ASD/自閉スペクトラム症)と関連があると考えられる脳の部位
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3.小脳の異常
小脳は、平衡感覚や協調運動などに関わっていると言われています。そのため小脳に異常が起きると、バランス感覚をあまり持てなくなると言われています。ほかにも、小脳に異常が起きると感情や認知にも影響があるのではないかと報告されていますし、アスペルガー症候群(ASD/自閉スペクトラム症)の中には実際に小脳への異常が見られた人もいます。

4.脳内物質の異常
ASD(自閉スペクトラム症)では、脳内物質に異常があるという報告があります。普通の人と比べて、血中オキシトシンが低い、セロトニンが高い、血中グルタミン酸が高いという違いが見られたという研究があります。

アスペルガー症候群(ASD/自閉スペクトラム症)は親から子どもへ遺伝するの?

アスペルガー症候群(ASD/自閉スペクトラム症)の遺伝的な要因については、すべてが解明されているわけではありません。

ですが、一つの遺伝子の変異が発症につながる障害ではないと考えられています。素因となる関連遺伝子が多数あり、その組み合わせや相互の影響による多因子遺伝であるため単純に親からの遺伝子が原因となって発現するということではありません。また、遺伝子だけではなく、そのほかの環境的な要因が複雑に重なった場合に現れるため、親にアスペルガー症候群(ASD/自閉スペクトラム症)があるからといって100%子どもに遺伝するとは言えません。また、両親ともに定型発達の場合でも、アスペルガー症候群(ASD/自閉スペクトラム症)のある子どもが生まれる場合もあるのです。

一方で双生児間や家族間研究も進み、遺伝子が近いほど、アスペルガー症候群(ASD/自閉スペクトラム症)が発現しやすいという報告もあります。あくまで可能性として考えられている段階ですが、家系としていくつかの関連遺伝子を体質として持っている場合に加え、家族で何らかの環境要因の条件が近いことが重なってその傾向を生むからではないかと推測されています。
参考書籍:飯田順三/編・著『アスペルガー症候群の子どもたち』(合同出版,2014)
https://www.amazon.co.jp/dp/4772611444
次ページ「アスペルガー症候群(ASD/自閉スペクトラム症)を検査する方法はあるの?」

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