仕事を自分の意思で選ぶところから就職後のケアまで、徹底的にサポートする

知的障害者の就職に向けての実践的な取り組みも、カレッジでは充実しています。就職したとしても職場に定着できない現状について、長谷川さんはこう語ってくださいました。

「就職してすぐに離職してしまうのは、自分のやりたいという気持ちと現実の不一致も影響しているのではないでしょうか。

単に求人があったから仕事をする、という流れでは仕事に対する意欲は湧きません。仕事を自分の意思で選んだという体験を得ることで自分自身が何のために働くのかを明確にすることができます。その気持ちがあれば働くためのモチベーションを高く維持することができます。」

カレッジでは、常駐しているキャリアサポーターが学生たちに合った求人を獲得し、例えば障害者雇用経験が一度もない企業でも、学生が興味を持った職場であれば障害者雇用について説明してまわっています。学生たちが様々な職業について知ることができる、キャリアを考える授業もあります。4年間を通じて自分が何に興味を持っているのか、どんな仕事に就きたいのかを考えられるようになっているのです。

長谷川さんは、特別支援学校の教育環境と実際の社会で求められる力とのギャップが、就職格差の根本的な理由だと考えています。

「社会に出ると、それまでの環境とは全く違うところに一人で立ち向かわなくてはならなくなります。事前に心構えを習得できればいいのですが、支援学校で準備が整えられるところはほとんどありません。

いざというときのために準備できていないから、慣れない仕事や人間関係にストレスを抱え挫折してしまうんです。そして、『もう働くことはいやだ!』とネガティブになってしまい社会復帰が困難になるケースが非常に多いんですよ。」

こうした問題を解消するためカレッジでは、就職前の職場での就業体験であるインターンシップをサポートし、確実で安定した就職を促しています。

ある卒業生の声

2012年に立ちあがったカレッジ福岡では今春、卒業一期生を3名輩出しました。
業種は商社・医療・自動車販売と、それぞれ全員が希望する職場についたそうです。

その中でも物流の会社に就職したAさん(仮称)は、就職前のインターンによって仕事と自分の間のギャップが埋まり、不安なく就職することができたといいます。

「インターンが始まったばかりのときは、周りの職員の人たちの3割ほどしか仕事ができなかったんです。

それまでも授業で検品作業などを練習していたのですが、実践の場はやっぱり違うんですね。そのギャップを埋めなければ、採用されたとしてもそのあと続かなくなってしまいます。

そこで、実際の職場を摸した教室を作り、どうすれば仕事をミスなく素早くできるようになるのか特訓をしました。

就職が迫った3月頃には、周囲の人と変わりないほどに早く仕事に取り組めるようになっていき、インターンを続けていたおかげで職場の人たちにも慣れ親しんでもらえて無理のない就職ができました。」

さらにカレッジでは、就職後のケアも徹底しています。
卒業後すぐは毎週キャリアサポーターが職場を巡回し、2ヶ月に1度は同窓会を開いて近況確認を行っています。

「もし、離職をしてしまった場合も私たちは全面的にバックアップします。
それぞれにあわせた再就職トレーニングを行っていくつもりです。
カレッジを卒業した学生たちみんなに一生涯サポートを掲げていきたいと思っています。」

カレッジを運営するきっかけは、知的障害のある次女の進路を目の当たりにしたショック

長谷川さんがカレッジを運営しようと思ったきっかけはなんだったのでしょうか
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そもそも、長谷川さんがカレッジを運営しようと思ったきっかけはなんだったのでしょうか。

「私の次女には重度の知的障害があります。

特別支援学校を出たら就職をするか福祉施設に行くか…そのような現実を目の当たりにしたときに障害に関係なく人生を豊かにするための選択肢を何か用意することはできないのかと考えるようになったんです。

発達がゆっくりな彼らにとって、社会での生活があまりに早く始まることは、不安でいっぱいのことなのです。

さらに、特別支援学校への進学などの限定された進路によって、10代のうちから障害のない学生たちとの関わりがなくなってしまうことは、障害のある人たちにとっての暮らしやすい社会づくりを根本的に阻害している可能性もあります。

そうなると、一般の生活の中に障害のある人たちと関わる機会はほとんどないということになります。

関わる機会がないということは、お互いに関心を持つチャンスも失ってしまうということです。
チャンスがないということは、知的障害があるということで社会での生きづらさを抱え続ける可能性があるということです。

そこで、福祉型大学カレッジを立ち上げようと考えるようになりました。」

さらに、教育者としてカレッジに込めた思いを長谷川さんはこう語ります。

「社会に出ると、いろいろなことがあります。トラブルや意見のぶつかり合いによって悩んだりストレスを抱えたりします。

でも、どんなときでも自分で乗り越える力を持っていれば自立して生きていけると思うんです。

そのために大切な仲間や先生に囲まれ、自分は大丈夫だという強い自信をもって生きていってもらいたいと思っていますし、そのような心を育てていくことが彼らの身を助けると信じています。」

知的障害のある若者でも、自由に学びの選択ができるように

「知的障害のある若者でも自由に学びの選択ができるような土壌を作る必要があると考えていますと」語る長谷川さん
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最後に、長谷川さんに今後日本の社会で必要になることは何かを尋ねました。

知的障害のある若者でも自由に学びの選択ができるような土壌を作る必要があると考えています。

先ほども述べましたが、日本の知的障害のある若者は社会から隔離されていることが多いんですね。
一方、海外では障害の有無なしに学ぼうとする取り組みが増えてきています。

最も進んでいる海外の取り組みとして一例を挙げると、アメリカでは2008年の高等教育機会均等法の成立によって知的障害のある人たちにも平等に学びの機会を用意する流れができるようになりました。

2013年の段階で250校もの大学がすでに受け入れを行っており、全米各所で知的障害のある若者がキャンパスライフを送っているのです。」

日本でも2014年に障害者権利条約を批准し、その後もさまざまな法律整備を進めています。
条約の中には教育の機会についても触れられており、たとえ障害があってもそのことを理由に学ぶ機会がないということにはならないことが明記されています。

「最終的には、大学内に他の学生たちと交流できるようなクラスを併設するなどして連携していけたらと思っています。
そして大学にクラスが併設されているのが当たり前になれば、知的障害のある人たちに対して理解は深まっていくでしょう。」
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次ページ「これからの障害者雇用のカギを握る、「カレッジ」の取り組み」

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