気分障害とは?うつ病・双極性障害(双極症)などの診断基準や原因など【精神科医監修】

ライター:発達障害のキホン
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気分障害は、過度に気分が落ち込んだり反対に高まったりすることが、一定の期間持続する症状が特徴です。主にうつ病や双極性障害(双極症)が含まれており、「一生のうちに、うつ病になる頻度は約15人に1人と考えられている」とも言われている決して珍しい疾患ではありません。気分障害の症状や原因、相談先や治療法を詳しく説明します。

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監修: 染村宏法
精神科医
産業医
大手企業の専属産業医として勤務後、昭和大学精神医学講座へ入局、昭和大学附属烏山病院での勤務を経て、現在は精神科外来診療と複数企業の産業医活動に従事。また北里大学大学院産業精神保健学教室において、職場のコミュニケーション、簡易型認知行動療法、睡眠衛生等に関する介入研究や教育に携わった。
目次

気分障害とは

気分障害は、過度に気分が落ち込んだり反対に高まったりすることが、一定の期間持続する症状が特徴です。

世界保健機関(WHO)が作成する『ICD-10(国際疾病分類第10版)』では、双極性障害と抑うつ障害群をまとめて「気分(感情)障害」に分類しています。

ICDにおける気分(感情)障害

世界保健機関(WHO)が作成する『ICD-10(国際疾病分類第10版)』では、気分(感情)障害には、主に以下が含まれます。

・うつ病エピソード
・躁(そう)病エピソード
・双極性感情障害<躁うつ病>
・反復性うつ病性障害
・持続性気分(感情)障害

「エピソード」とは、症状の波の状態を指し、上記の分類に当てはまらない場合として、その他の気分(感情)障害や詳細不明の気分(感情)障害があります。

人は生活を送っていると少なからずうれしいことや悲しい出来事に直面し、その際に気分が上がったり、気分が落ち込んだりしてしまうことは当たり前のことです。

しかし、気分の落ち込みや高まりが過度に強い状態が一定期間続き、典型的な症状を伴いつつ、仕事や私生活など普段の生活に支障がでている場合に、気分障害と診断されることがあります。

※ICD-10について:2019年5月、世界保健機関(WHO)の総会で、国際疾病分類の第11回改訂版(ICD-11)が承認されました。日本国内ではこれから、日本語訳や審議、周知などを経て数年以内に施行される見込みです。

ICD-10精神科診断ガイドブック
中根允文 (監修), 山内俊雄 (監修), 岡崎祐士 (編集)
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参考:国際疾病分類第11版『ICD-11』
https://icd.who.int/en/

DSMにおける気分障害

国際的な疾患の分類として、世界保健機関(WHO)が作成する『ICD-10(国際疾病分類第10版)』のほかに、アメリカ精神医学会が作成する『DSM(精神障害の診断と統計マニュアル)』があります。現在は、2022年(日本語版は2023年)に刊行された『DSM-5-TR』が最新版として使われています。

以前の版である『DSM-4-TR』では、「気分障害」の中に、大うつ病性障害と双極性障害を含むという分類でした。しかし、『DSM-5』から「気分障害」の大項目はなくなり、「双極症及び関連障害群」と「抑うつ障害群」がそれぞれ独立したカテゴリとなりました。

最新版の『DSM-5-TR』では、「双極症及び関連症群」と「抑うつ症群」という名称での分類になっています。

気分障害における『ICD-11』と『DSM-5-TR』の違い

世界保健機関(WHO)は、約30年ぶりの改訂となる2018年6月に、国際疾病分類の第11回改訂版『ICD-11』を公表しました。『ICD-11』は、2019年5月、世界保健機関(WHO)の総会で承認されており、日本国内での適用に向けて和訳作業などが進められているところです(2023年9月時点)。

日本語訳はまだないものの、『ICD-11』自体はオンライン上のサイトから閲覧することができます。
参考:国際疾病分類第11版『ICD-11』
https://icd.who.int/en
前項の通り『DSM-5-TR』では、「気分障害」というカテゴリはなくなりましたが、『ICD-11』では、臨床現場で有用であるとして「気分症群」という大枠を残しています。また「気分症群」の下位分類を大きく「抑うつ症群」と「双極症または関連症群」に2分類し、さらにそこから詳細の分類をしています(※正式な日本語訳ではありません)。

このように、ICDとDSMでは「気分障害」の分類の変遷や位置づけに少し違いがありますが、『ICD-11』は、『DSM-5』と同調されているため、大枠では共通部分が多いと考えられます。

以下では、うつ病と双極性障害(双極症)についてそれぞれ解説します。

うつ病とは?

うつ病の症状

うつ病の症状は、『ICD-10』においては、主に「気分(感情)障害」の下位分類にある以下の2つが該当すると考えられます。

・うつ病エピソード
・反復性うつ病性障害

◇うつ病エピソード
気分の落ち込みや、物事への興味関心・喜びが感じられないこと、疲れやすいことなどが、主な症状です。

他にも、一般的な症状として集中力や注意力が下がる、自信がなくなる、将来に悲観的な見方をするなどが挙げられます。こういった症状が基本的には2週間以上続くことが診断の基準のひとつです。

軽度の場合は、症状に悩まされつつも日常生活や仕事などはなんとか続けられる状態ですが、中度以降は、社会的な生活がかなり困難になると考えられます。

◇反復性うつ病性障害
反復性うつ病性障害は、うつ病エピソードのみが2週間以上、少なくとも2回以上、繰り返されるものです。

うつ病のサインは?セルフチェックはできる?

うつ病では心身共に症状が表れます。以下のような状態が続く場合は、早めに専門機関に相談しましょう。
1.悲しく憂うつな気分が一日中続く
2.これまで好きだったことに興味がわかない、何をしても楽しくない
3.食欲が減る、あるいは増す
4.眠れない、あるいは寝すぎる
5.イライラする、怒りっぽくなる
6.疲れやすく、何もやる気になれない
7.自分に価値がないように思える
8.集中力がなくなる、物事が決断できない
9.死にたい、消えてしまいたい、いなければよかったと思う

出典:うつ病の特徴|厚生労働省ホームページ
出典:https://www.mhlw.go.jp/kokoro/youth/stress/know/know_01.html

うつ病の原因

うつ病の原因は、正確にはまだ解明されておらず、複数の要因が重なっていると考えられています。

例えば、以下のような要因が考えられます。

◇心理・社会的要因
大切な人との死別や大切なものを失うこと、または学校や仕事などでの過度なストレスなどが発症のきっかけになることがあります。

◇性格の傾向
真面目で完璧主義、責任感が強かったり、常に相手に気を配ったりするタイプの場合、生活していくときに非常に多くのエネルギーが必要であるため、エネルギー不足になってしまうことが考えられます。

ほかにも遺伝的要因、慢性的な身体疾患なども関連している可能性のひとつとして挙げられます。

こういった要因が重なることで、脳の中で重要な情報伝達の働きをしている「セロトニン」や「ノルアドレナリン(※)」などの機能が低下し、うつ病の状態が起きているのではないかと考えられています。

(※)ノルアドレナリン:交感神経の情報伝達に関与する神経伝達物質。ノルアドレナリンが放出されると、交感神経の活動が高まり、体を活動に適した状態にする。
参考:ノルアドレナリン|e-ヘルスネット 厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-047.html

うつ病の治療

うつ病の治し方には、どのような方法があるのでしょうか。

うつ病の治療として、代表的なものに薬物療法や精神療法(心理療法)が挙げられます。どちらか一方で治療するよりも、薬物療法と精神療法(心理療法)を併用することで高い効果が得られることが分かっています。また、心身の回復のためには、治療だけではなくしっかり休養をとることも大切です。

◇薬物療法
うつ病は、さまざまな要因が重なることで「セロトニン」や「ノルアドレナリン」といった神経伝達物質の機能にトラブルが生じている状態と考えられています。そのため、それらの不調を改善し症状を和らげるために、薬物療法が行われることがあります。

例えば、抗うつ剤は、神経伝達物質が有効に機能することをサポートするお薬です。落ち込んだ気分を和らげる効果が期待されます。

不眠の症状がある場合や、強い不安感や恐怖感がある場合には、睡眠導入剤や抗不安薬が処方されることもあります。

◇精神療法(心理療法)
特に、認知行動療法や対人関係療法は急性症状を和らげたり再発の可能性を下げたりする効果があるという研究があります。

カウンセリングによりストレスを発散したり、考え方や行動パターンを見直したりすることで、再発予防につなげていくものです。

双極性障害(双極症)とは?

双極性感情障害(双極症)の症状

双極性障害(双極症)は、一定期間にうつ状態と躁状態が交互に繰り返されるものです。

双極性感情障害は、『DSM-10』では「双極性感情障害(躁うつ病)」という分類名になっており、『DSM-5-TR』では「双極症及び関連症群」となっています。

双極症及び関連症群には、躁エピソード・軽躁エピソード・抑うつエピソードがあり、多くの場合、躁状態とうつ状態が反復して出現します。

◇躁エピソード
躁エピソードとは、気分が異常かつ持続的に高揚し、開放的、怒りやすい、活動的な状態が1週間以上続きます。自尊心の誇大、睡眠時間の減少、多弁、買いあさりなど悪影響がある活動への熱中といった面がみられるようになり、社会生活において著しい障害を引き起こします。

◇軽躁エピソード
軽躁エピソードでは、気分が異常かつ持続的に高揚し、開放的、怒りやすい、活動的な状態が4日以上続き、症状がないときとは明らかに違う様子になります。

◇抑うつエピソード
抑うつエピソードでは、抑うつ気分、または興味・喜びの喪失の症状がみられます。具体的には、2週間以上にわたって、ほぼ一日中、抑うつ気分、興味・喜びが著しく減少、有意の体重減少・体重増加、不眠・過眠、疲労感・気力の減退・思考力の低下がみられます。

なお、双極性障害(双極症)には、Ⅰ型とⅡ型があります。双極性障害(双極症)Ⅰ型では、躁エピソードが出現し、それに先行したり後続する形で、軽躁エピソード、抑うつエピソードが出現することがあります。まれに躁エピソードのみ出現する場合もあります。双極性障害(双極症)Ⅱ型は、軽躁エピソードと抑うつエピソードを繰り返します。

双極性障害(双極症)のサインは?セルフチェックはできる?

なかなか自分では気づきにくいと言われている躁状態のサインとしては、以下のようなものが挙げられます。必ずしも双極性障害(双極症)とはかぎりませんが、心配な場合は早めに専門機関に相談しましょう。

・睡眠時間がいつもより2時間以上減っても、元気に活動できる
・人に意見に耳を傾けなかったり、話し続けたりする
・なんでもできそうな自信にあふれてくる
・普段しない高い買い物やギャンブルなどを行う
・怒りっぽくなったり、やたらと説教したりする

また、うつ状態の特徴としては、以下のようなものが挙げられます。

・憂うつな気分、悲しい気持ちが続く
・今まで好きだったことにも興味がなくなる
・イライラしやすくなる
・死にたい、消えたいという気持ちになる
・眠れない、もしくは寝過ぎる
・食欲が低下する、もしくは食べ過ぎる
・疲れやすく、元気が出なくなる
・身体のだるさ、吐き気や頭痛などがある など
参考:うつ病の特徴|厚生労働省ホームページ
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/youth/stress/know/know_01.html

双極性感情障害(双極症)の原因

双極性障害(双極症)の原因は、正確には明らかになっていません。

発症には、遺伝因子や高いストレスといった心理社会的因子、またセロトニン・ノルアドレナリン・ドパミンの調節障害が関与しているのではないかという説もあります。

双極性障害(双極症)の治療

双極性障害(双極症)の治し方は、どのような方法があるのでしょうか。

双極性障害(双極症)は、躁状態あるいはうつ状態、どちらかの期間が長くなる場合が多いと言われています。躁状態の時は、本人は治療が必要な状態だと気付かず、医療につながるまでに時間がかかることがあります。あるいは、うつ状態の時に受診し、医師に躁状態のことが伝わらず、うつ病と診断される場合もあります。

双極性障害(双極症)の治療は、代表的なものとして薬物療法と心理療法が挙げられます。

◇薬物療法
双極性障害(双極症)の薬物療法は確立されており、一般に気分安定薬と呼ばれるお薬により症状が和らぎます。双極性障害では、症状がないときにも服薬を続けることで再発防止につながると言われています。

◇精神療法(心理療法)
再発を予防するためにも、双極性障害(双極症)に対する理解を深めていくことが大切です。また家族などの周囲の親しい人から支援を得ることも大切であるため、家族やパートナーと共に集団療法を受ける場合もあります。
双極性障害(躁うつ病)とは?原因・症状、治療法、周囲の関わり方についてわかりやすく解説します【精神科医監修】のタイトル画像

双極性障害(躁うつ病)とは?原因・症状、治療法、周囲の関わり方についてわかりやすく解説します【精神科医監修】

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